東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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久々に一ヶ月以内に更新出来ました。


好敵手(ラウラ)の忠告

「更識刀奈……私と戦え」

 

 更識姉妹の模擬戦が3日後に控えた頃、いつも通り霊夢との修行を終えた刀奈の前に現れたラウラ・ボーデヴィッヒは突然彼女に対して試合を申し込んだ。

 

「いきなり何よ?」

 

「聞こえなかったのか?簪の前にまず私と戦えと言ったんだ」

 

 試合を間近に控えてピリピリしていた事もあり、ぶっきらぼうに返す刀奈を真っ直ぐ見据えながら、ラウラは目を鋭くして再度言い放つ。

 

「悪いけど断るわ。私にはアナタと戦う理由ないわ」

 

「それは私だって同じだ。貴様一人の問題ならいちいち口出しするつもりは無い。

だが、今の貴様をこのまま簪と戦わせるのは正直我慢ならん」

 

 簪の名前と棘のある物言いに刀奈の目がピクリと動く。

 

「どういう意味かしら?」

 

「今の思い上がった貴様では簪が勝っても負けてもマイナスにしかならない……。私にはそう思えてならないんだ」

 

「……アナタまで織斑先生と同じ台詞を言うの?」

 

 ラウラの指摘に不機嫌さを隠そうともせず刀奈は目付きを鋭くする。

だが、ラウラはそれに怯まずただただまっすぐ刀奈を見詰めている。

 

「何だ、織斑先生にも言われていたのか?なら話が早い。

貴様のそんな油断して腑抜けた状態で簪と戦おうとする、そのふざけた考えは今の内に正しておかんといかんからな!」

 

「油断してるですって?私が……」

 

「ああ。油断してるな。

簪に負けるという事が考えられない、その思い上がり……まさか、自分で気付いてないのか?」

 

「私が簪ちゃんに負けるですって?面白くない冗談ね……!!」

 

 刀奈の苛立ちが怒りに変わり始める。

その様子にラウラは口元に嘲笑を浮かべた。

 

「フン、考えられないんじゃなくて、考えないようにして思考放棄してるだけか?底の浅い暗部当主もあったものだな!それでも簪の姉か?」

 

「甘く見られたものね……!!良いわ。その見え透いた挑発に乗ってあげる」

 

「甘く見てるのはそっちの方だ、更識刀奈!私が目を覚まさせてやる……!

着いて来い、邪魔の入らん場所で勝負だ!」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 霊夢と紫に許可を取り、一時的に外界のに出た二人は河城重工のアリーナで相対していた。

 

「簪との試合に支障をきたす訳にもいかんからな。

ルールは、魔力・霊力無しのIS戦で一撃必殺。先にクリーンヒットを奪った側の勝利という事でどうだ?」

 

「えぇ、それで構わないわ」

 

『二人とも、準備は良い?それじゃ……試合開始!!』

 

 にとりのアナウンスによってスタートの合図が切られ、ラウラ・刀奈の両者は互いに武器を展開して身構える。

 

(正直、IS戦で助かったわ。霊力の扱いに慣れていないから、そっちはまだ私に不利。

でも、ISなら私に一日の長がある!!)

 

 試合のルールに内心安堵していた刀奈。だが……

 

「はあぁっ!!」

 

「っ!!」

 

 猛スピードで接近し、懐に飛び込んだラウラは、プラズマ手刀で刀奈に斬りかかった。

 

(速い!?)

 

 思わぬスピードに刀奈は思わず目を見開く、単に接近する速度の問題ではない。

接近してからの手刀を繰り出すタイミング、振り抜かれる刃の速度、隙の無さ……それら全てが合宿前より遥かに向上していたのだ。

 

「何を驚いている?やはり私を甘く見ていたか!」

 

「くっ!」

 

 苦虫を噛み潰したように表情を顰め、刀奈は蒼流旋に水を纏わせ、これに応戦。

辛うじてだが、ラウラの手刀を受け流し、距離を取る事に成功する。

 

「喰らいなさいっ!!」

 

 間髪入れずに発射されるバルカンの連射。

ばら撒くように発射されたそれはラウラを捉えたかに思われた。

 

「フン、甘いな!」

 

 しかし、ラウラは弾の軌道を見切り、身体を僅かに動かし、最小限の動作で回避して見せた。

 

「まだよ!!」

 

 続けざまに繰り出される熱き熱情(クリア・パッション)による水蒸気爆発がラウラを襲う。

 

「チィッ!!」

 

 舌打ちしながらもラウラはこれを先読みし、爆発の射程範囲から離脱してみせた!

だが、刀奈はこれにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「貰った!!」

 

 回避で出来た隙を突き、繰り出されたのは蒼流旋……牽いてはその先端にナノマシンを集中させて放つミストルテインの槍だ!!

 

(っ!体勢が悪い!避けられん!?)

 

(さぁ、AICを使いなさい。それを使って槍を止めた時こそ、アナタが負ける瞬間(とき)よ!)

 

「っ!!」

 

 刀奈の狙い通り、ラウラはAICを使用し、槍を止めた。

それを見た刀奈は勝利を確信し、再びクリア・パッションを繰り出そうとするが……。

 

「……やはり、貴様は私を甘く見過ぎだ」

 

「な!?」

 

 刀奈の笑みが凍り付く。確かにラウラはAICを使った。

だが、それは“ほんの一瞬だけ”だったのだ。

 

「一瞬だけで、十分だ!後は新武装の実験台になってもらうのみ!!」

 

 その一瞬こそが勝負の分かれ目だった。

AICで一瞬だけ槍を止めたラウラはその僅かな時間で体勢を立て直し、槍を回避すると同時にイグニッションブーストを駆使し、再び刀奈の至近距離に接近した!

 

「あ……!」

 

 接近を許し、慌てて身構え、格闘でラウラを引き離そうと構える刀奈。

だが、身構えた時点で全てが遅かった。

 

「セットアップが遅い!喰らえぇっ!!」

 

 振り上げられたのはプラズマ手刀……いや、それよりも刃は遥かに短く、しかし手元が凄まじいエネルギーの刃を生み出し、文字通り一撃必殺の威力を込めた手刀(てがたな)となって刀に振り下ろされた!!

 

「ベルリンの、赤い雨ぇーーーーっ!!」

 

「きゃあぁぁーーーーーーっ!!」

 

 まさに乾坤一擲の一撃が刀奈に打ち込まれ、彼女を地へと叩き落した!!

 

『クリーンヒットォッ!!勝者・ラウラ!!』

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「……負け、た?私が……代表候補に、負けた?」

 

 にとりのアナウンスがラウラの勝利を告げる中、起き上がった刀奈は呆然と膝を付いたまま放心する。

 

「……負けを認められないか?それとも本気を出していれば結果は違ったとでも言い訳でもするか?」

 

「っ!……ぐ、くっ!!」

 

 そんな刀奈に投げかけられるラウラの冷淡な言葉。

それに対して刀奈は悔しそうに唸る事しか出来なかった。

 

「一つ良い事を教えてやろう。私と簪は師匠同士の因縁でよく模擬戦をするんだが、私とアイツの戦績は、ほぼ互角だ」

 

「っ!?」

 

 刀奈の目が驚愕に見開かれる。自身を破ったラウラと互角……つまり、今回の戦い、もし対戦相手がラウラではなく簪だったならば……

 

「ココまで言ってもまだ簪を見下し、侮るというなら、勝手にしろ。

だが、油断した挙句に簪に負け、油断(それ)を理由に言い訳なんてしてみろ。

……もしそうなったら、簪の好敵手(友達)として、貴様を絶対に許さない!!

それは簪に対する最大の侮辱だ!!

精々気を引き締め直して、三日後の戦いに臨む事だ……」

 

 毅然とした態度でラウラは言い放ち、刀奈に背を向けて去っていく。

その場には呆然とした刀奈だけが残された。

 

「…………」

 

 ラウラに投げかけられた言葉に刀奈は暫し俯き、そして……

 

「ッ、ウアアアアアアァァァァーーーーーーッ!!!!」

 

 凄まじい咆哮と共に、刀奈はアリーナの壁に己が額を叩き付けた!

 

「やるわよ……。本気でやれば良いんでしょ?本気でやれば!!」

 

 普段の彼女から考えられない程、憤怒に目を吊り上げ、額から流れる血も気にせず刀奈は立ち上がった。

 

「やってやるわよ……!もう手加減なんてしない!するもんか!!全力で叩き潰してあげるわ!!」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

「これで、良かったのか?」

 

 アリーナを去り、ラウラは待ち合わせていた人物と合流し口を開いた

 

「ええ……悪いわね。汚れ役押し付けて」

 

「フン、別に構わん。私としてもアイツに言いたいことを言えたからな。

それに、奴を見てると以前の私を見ている気がして気分が悪いのでな。むしろ良い機会だ」

 

 その人物、晴美からの謝罪を受け流し、ラウラは彼女と共に帰路に着く。

 

「しかし、良いのか?刀奈(ヤツ)は相当追い詰められていたぞ」

 

「……良いのよ。刀奈は、背負う必要の無いものまで背負って自分を追いつめすぎてるから。

いい加減、楽にしてあげなきゃ……」

 

 悲しげな表情で虚空を見上げ、晴美はそう呟いたのだった。

 

 




次回予告

遂に始まる姉妹対決。
驕りと油断を捨て去り、全力で挑む刀奈。
そして、修行の成果は、簪と打鉄・弐式に新たな力を生み出す!

次回『簪VS刀奈 因縁の姉妹対決』

刀奈「ま、まさか……セカンドシフト!?」

簪「これが、妹紅さんや皆との修行で得た力……!!」



武装紹介

ベルリンの赤い雨
シュバルツェア・レーゲン(予備パーツを基に河城重工によって製作された性能が向上した複製機)に装備された強化型プラズマ手刀。
リーチは極端に短いものの、一撃必殺級の切れ味と威力を持つ。
懐に飛び込んでの一撃は他の追随を許さない。

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