竹林での飲み会から一夜明け、合宿メンバーはいつも通り個別修行へ向かい、それと同時に新たに合宿に加わった刀奈、虚、本音の三人は霊夢と白蓮監督の下、早速魔力・霊力を得る為の修行を開始した。
※なお、二日酔いは永琳の作った薬で無理矢理覚ましている
「ふぅぅぅっ……ぐ、クゥゥゥゥゥッッ!!」
修行開始から6時間半近くかけ、刀奈が霊力を覚醒させた。
霊力と魔力の違いこそあれど、その霊気は簪と同じ水色の輝きを放っていた。
「こ、これが……霊力?」
「そうよ、これで全員目覚めたわね。それにしても……」
霊夢が若干呆れた表情で一足先に覚醒を完了した布仏姉妹……正確には虚を見る。
「アンタ何者よ?魔力と霊力の両方を併せ持つなんて超が付くほど稀な適性よ」
「な、何者と言われてましても……」
ジト目で見られて萎縮する虚。
彼女の覚醒した力は霊力と魔力の両方の性質を持った物だったのだ。
ちなみに妹の本音は魔力に覚醒。色は姉妹共々桃色である。
「それでは、刀奈さんは予定通り霊夢さんの下で修行していただきましょう。
虚さんと本音さんにはそれぞれ、得意な事や適性に合わせてこちらが選抜した方の下で修行していただきます。
それでよろしいですか?」
『ハイ!』
意気揚々と返事する三人。
その後、本音はメカニックとしての腕を磨くべく、河城にとりの工房に、
虚はマジックアイテム作製に興味を持ち、紅魔館にてパチュリー指導の下、付与魔法を学ぶ事になった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そして、それから約1週間後。
「ハァ、ハァ……まだよ!
「残念だけど、もう終わりよ!!」
命蓮寺の境内広場を舞台に、ISと霊力を使用しての霊夢(カスタム型打鉄搭乗)と実戦形式で訓練する刀奈は傷だらけになりながらも挑み続けるも、その戦意も虚しく霊夢は刀奈の攻撃を悉く回避し、直後に放たれた彼女の弾幕に刀奈は撃ち落とされてしまう。
(※博霊神社ではISやSWで戦うには手狭なので訓練場から除外)
「まだ霊力の扱いが粗いわね。でも、動きは良くなってるわ。
このペースなら明日はもう少しレベルを上げても良いかもね。
とりあえず、今日はココまでよ」
「ぐ、うぅ……ま、まだやれるわ!」
「……そんな状態で?」
立ち上がって身構える刀奈だが、霊夢は冷静に返す。
既に刀奈のミステリアス・レディ(学園と更識家の許可を得て刀奈の手に戻された)のダメージは大きく、これ以上の戦闘は到底不可能だ。
「じゃあ、生身だけで構わないわ!私はまだやれ……ッ!?」
激昂するように叫ぶ刀奈だが、それを霊夢の平手打ちが遮った。
「この程度の平手打ちも避けられない程フラフラで何が出来るって言うの?
オーバーワークの危険性も分からない馬鹿じゃないでしょ、アンタは?」
「……クッ!」
霊夢に諭され、刀奈は苦虫を噛み潰しながらも、漸く構えを解いた。
「焦りすぎなのよ、アンタは。
そりゃ、他の連中より遅れて修行始めた身だから、その時間の差を埋めたいのも分かるけど、修行の時点で潰れちゃ意味無いわよ」
「そんなの解かってるわよ……だけど、無茶してでも私は強くならなきゃいけないの。
…………簪ちゃんが戦わなくてもいいぐらいにね」
「は?それ、どういう……」
刀奈の口から出た言葉に霊夢は怪訝な表情を浮かべて聞き返そうとするが……。
「今の言葉、どういう意味なの?」
「っ……簪ちゃん」
間の悪い事に、妹紅との修行から戻ってきた簪が、会話する二人と出くわし、口を挟む。
「どうしたも何も、言葉通りの意味よ。
私は簪ちゃんが戦わなくてもいいぐらい強くなるつもりよ……!」
「いい加減にしてよ!お姉ちゃん、まだそんな事言ってるの!?」
姉の言葉に激昂する簪。
だが、刀奈は一歩も引かずに簪をにらみつける
「何度だって言うわよ!
相手は
妹がそんな化け物染みた相手と戦うなんて、そんなの認められる姉がどこにいるって言うのよ!?」
「私は、私なりに覚悟してこの戦いに参加したの!
なのに、お姉ちゃんはそれを否定して私をずっと弱虫扱い……!
私を守る?誰がいつそんな事頼んだって言うの?いい加減うっとおしいんだよ!!
だったら私はお姉ちゃんより強くなる!お姉ちゃんがそんな独り善がりな台詞言えないようにね!!」
「さっきから言わせておけば……!いくら簪ちゃんでも、許さないわよ!!」
互いにヒートアップして刀奈と簪は互いの襟首に掴みかかろうとするが、それを寸での所で霊夢と妹紅が二人を羽交い絞めにして止める。
「やめなさいよ二人とも!」
「こんな所でまで姉妹喧嘩する気か!?」
「離して!もう我慢出来ない!今日という今日は一発入れてやらないと気が済まない!!」
羽交い絞めにされる二人だが、お互い昂った感情は収まらず、拘束を振り解こうとする。
「やらせてやったら?」
だが、そこに割り込む声……セシリア、ジンヤと共に修行から帰ってきた晴美だ。
「さすがに今すぐ、とは言わないけどさ、丁度来週全員実力テストで模擬戦でもしようって話だったじゃん。
それで思う存分戦えば良いわ。
酒飲んで本音ぶつけても譲れないって言うなら、言葉で駄目なら身体でぶつかりあってみろ!」
「……分かったわ」
「私も、それで良い。絶対、負けないから……!」
晴美の仲介により、一先ず矛を収める二人。
しかし、姉妹の溝は未だ埋まらぬまま……。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「…………」
夕食を終え、他のメンバーが就寝する中、刀奈は一人外に出て、霊力制御の訓練を続けていた。
オーバーワークになってしまう事は理解していたものの、彼女の中の焦りが休む事を許さず、修行を続けずに入られなかった。
「……随分、荒れているな」
「っ……誰!?」
そんな中、不意に背後からかけられる声。
振り返った先には見知った人物……千冬が立っていた。
「織斑先生?」
「立ち話もなんだ、こっちに座れ」
縁側に座りながら、隣に来るように促す千冬。
多少戸惑いながらも、刀奈はそれに応じて千冬の隣に座った。
「……何の用ですか?」
「時間外に無理な修行する生徒を注意するのは当たり前だろ?
あと、お前とは一度茶でも飲みながらゆっくり話してみたいと思っていたからな」
湯飲みを二つ出し、用意していた緑茶を注いで飲み、千冬は一息吐く。
「今のお前は昔の私とよく似ている……。そう思うと放っておけないんだ」
「私が、織斑先生とですか?」
「ああ、性格とかそんな事じゃなくて、考え方がな……」
疑問符を浮かべる刀奈に対し、千冬はどこか悲しく、寂しそうな表情を見せる。
「一夏が行方不明になっていた事とその経緯は知っているな?
それより以前、私がIS選手として現役だった頃……その頃の私はお前と同じ考えだった。
姉なんだから、弟を守るのは当然、弟より強くて当たり前。
一夏を守るために力を求め、ブリュンヒルデの称号を得て……今だからこそ言える。あの時の私は有頂天だった。
…………それが、私が欲していた力が、砂上の楼閣に過ぎない物とも気付かずにな」
「砂上の楼閣って……どういう意味ですか?
守るために力を欲するのは当然の事でしょう!?」
思わず大声が出てしまう。
まるで今必死に力を付けようとしている自分の努力を否定されているように感じ、刀奈は不快感を抑え切れなかった。
「別に力を求めた事は間違ったと思っていない。
ただ、私は自分だけにしか力を求めていなかった……。
自分だけの力に、権力に満足してしまっていた。
もしも、あの時一夏に護衛や武器といった身を守る術や力を持たせていれば……何度そう思った事か……」
「…………」
弱々しく呟く千冬。
刀奈はそんな千冬の言葉を無言で聞き続ける。
「結局私は力を持ちながら、守れなかった。
一番大切な者も守れず、失ってしまった悲しみに押し潰されて、どんどん落ちぶれていった。
一夏と
「ええ、まぁ……」
直接接触はしていないものの、当時の千冬の落ちぶれ様は更識家の情報網を通じて刀奈も知っていた。
弟を守れずなかった挙句に酒に溺れた堕落した英雄の姿に、内心同情と軽蔑の念を抱いていたのは今でも覚えている。
「そして、再会した一夏と
一夏は幻想郷で自分独自の力を手に入れ、私を超えていた。
正直、悔しかったさ……今まで守る対象だった弟に追い抜かれて、私も魔力を得ればすぐに追い抜き返すと思ったが、一夏との差はなかなか埋まらない。
今でもアイツとの模擬戦じゃ私の方が勝率低いからな。
でもな……一夏が強くなって、一緒に仕事で悪事を働く妖怪と戦ったりしてるとな……何と言うか、安心できるんだ」
「……安心、ですか?」
「そうだ。私の背中を一夏は守ってくれる。そして、一夏の背中は私が守る。
そう思うだけで心が軽くなった気分だった。
それまで一人だけで戦っていた頃の私には、そんな余裕なんて無かった。
何もかも自分一人で出来ると思って、周りの事なんて見なかった。
……それが、思い上がりだという事にも気付かずにな」
「その言い方だと、私が思い上がっているって言ってるように聞こえるんですが……」
刀奈の表情が曇る。
そいて、まるで自分のやり方では誰も守れないと言われたような気がして、内心苛立ちを募らせていく。
「そうだ。今のお前は思い上がっている。
お前は妹を安全な所まで遠ざけて守ってるつもりだろうが、そんな事をしてもそれが通用しない相手だっているし、人間一人に出来る事には限界がある。
それから目を背けている今のお前では私と同じ轍を踏むのが目に見えている。
教育者の端くれとして、生徒にそんな思いをして欲しくない『もう良いです!』……」
千冬の言葉を遮るように刀奈は大声を上げる。
「私にはアナタの考えなんて理解できない!するつもりもない!!
私は私の守りたい人は自分の手で守り抜く!!
アナタみたいに守るべき相手に追い抜かれた挙句、甘えて頼るような真似はしない!!
誰にも頼らない、頼れば自分が弱くなるだけだから……!!」
口調を荒げながら立ち上がり、早足で刀奈は立ち去っていく。
そんな彼女の後姿を眺めながら、千冬は残った緑茶を飲み干し一人呟いた。
「……更識、私は確かに弱くなった。だが同時に、それ以上に強くなれたと思ってる。
お前もいずれ理解出来る。孤独な強さでは、どうにもならない事もある事をな……。
弱さも誰かに頼る事も、決して罪ではない。それを強さに変える事だって出来るんだ」
刀奈と簪の試合まで、あと一週間。
次回予告
来るべき戦いに備え、特訓に励む更識姉妹。
そんな中、ラウラは刀奈に前哨戦を申し出るが……。
次回『
ラウラ「私が目を覚まさせてやる……!」
刀奈「甘く見られたものね……!!」