東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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某同人誌と被ってしまうためタイトルを若干変更しました。



夜雀居酒屋の混沌(カオス)な飲み会

竹林の中を彷徨い、空腹に苦しむ刀奈達。

そんな中、不意に漂う香ばしい蒲焼の匂いに釣られ、三人はその匂いを頼りに歩く続けた先には……

 

「いらっしゃい」

 

 翼を生やした少女が屋台(テーブル席有)を準備する姿だった。

 

「つ、翼……やっぱりあの娘も妖怪……」

 

「い、今更後戻りできないわ。一か八か交渉してみるしかないわ」

 

(何してんだろコイツら?……一夏の連れじゃないの?

……もしかして、さっきの人間が探し回っていた外の世界から来た人間?)

 

 尻込みしている刀奈達に、その少女……ミスティア・ローレライは数時間前に血眼になって竹林中を駆け回っていた“ある人”物を思い出す。

 

「アンタ達、外から来た人間?

そんなビビらなくても、取って食ったりしないわよ」

 

「ほ、本当に?」

 

「本当よ。それより、お腹空いてるなら、鰻食べていけば?

金さえ払ってくれれば料理ぐらいちゃんと出すわよ。

今日は人間達の予約も入ってるから、道はそいつらに聞いてね」

 

 思いの外友好的に接してくるミスティアに刀奈達は困惑しつつも彼女に誘われるまま席に着く。

 

「何にする?とりあえず八目鰻の蒲焼で良い?」

 

「え?……あ、うん。じゃあそれで」

 

 注文を確認し、ミスティアはいそいそと炭火で鰻を焼く。

 

「お姉ちゃん、妖怪さんって案外友好的なんだね」

 

「え、えぇ……私達が今まで必死に逃げてきた意味って……」

 

「完全に無駄……」

 

 まさか自分達の行動が事をややこしくしていたなどとは夢にも思わなかった三人は仲良く肩を落としたのだった。

 

「はい、出来たわよ」

 

「「「い、いただきます!」」」

 

 そんな三人の前に出される八目鰻の蒲焼。

三人は初めて見る八目鰻に若干訝かしみながらも、その匂いに食欲が刺激され、蒲焼を口に運んだ。

 

「うまっ!?」

 

 思わず刀奈が声を上げる。

肉厚で引き締まった身と確かな歯ごたえ、それを最大限引き立たせるタレの旨み。

加えて空きっ腹だった事もあってより美味く感じる。

三人はあっという間に出された八目鰻を平らげた。

 

「はぁ……美味しかったぁ……」

 

 空腹から開放され、刀奈は一息吐くとコップに手を伸ばして水を飲む。

 

「う゛っ!?ゲホッゲホッ!!……何コレ、お酒!?」

 

「何驚いてんのよ?屋台なんだからお酒ぐらい当たり前でしょ?」

 

「わ、私達未成年なんだけど……」

 

「え?こっちじゃ十代でも普通に飲んでるわよ?」

 

 文化の違いにお互いに戸惑う布仏姉妹とミスティア。しかし……

 

「ヒック…………もう一杯頂戴」

 

「お、お嬢様……」

 

 まさかのおかわり宣言に虚は目を点にする。

 

「あと鰻とご飯も追加!

ヒック、もう良いわ。今日は落ちる所まで落ちてやろうじゃないの!」

 

『酔い回るの早っ!?』

 

 刀奈は酒に目茶苦茶弱かった!

 

「わ、分かったわ。……さっきの人に渡された通信機ってどう使うんだっけ?」

 

 料理を続ける傍らで、ミスティアは通信機の電源を入れるのだった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

「ココだ。お~い、ミスティア!約束通り来たぞーー!」

 

「いらっしゃい!テーブル席用意してるから適当に座っといて」

 

 刀奈達がミスティアの屋台に入店してから30分後、一夏達はミスティアにやって来たのだが。

 

「ヒック……何よ何よぉ!どいつもこいつもさぁ~~」

 

 不意に屋台から聞こえてくる声。

先客かと思った一夏達だが、約一名顔を引き攣らせる。

 

「え?今の声……ま、まさかね」

 

 余りにも聞き覚えのある声に簪はまさかと思うものの、頭を振ってその創造を否定しようとする。

 

「私だって好きで暗部の当主なんかになった訳じゃないのに!

アイツの抜けた穴埋めるために必死に頑張ってきたのに!なのに河城重工なんてのが出来てから何もかも狂ったのよ!

大体何よ!霧雨の奴は!偉っそうに説教垂れてさ!あんた私より年下でしょうが!!

簪ちゃんも簪ちゃんよ!私が暗部の重責を背負わせないために断腸の思いで突き放したのも知らないで……、

挙句の果てに霧雨の奴に懐いちゃって……いつから私の妹は百合に目覚めたのよ!?」

 

『…………』

 

 今度は簪だけではなくメンバーの殆どが沈黙した。

ココまで来れば嫌でも先客の正体が分かるというものだ。

一方で当の本人は簪達の存在に未だ気付かず、愚痴が徐々に悲壮感を帯び始め、やがて涙声へと変化していく。

 

「……うわぁ~~~ん(泣)!簪ちゃんの馬鹿~~~~!霧雨のアホぉ~~~~~!!」

 

「馬鹿で悪かったね」

 

「へ?……ゲェーーーーーーーッ!!!?

か、簪ちゃんなんでココに!?」

 

「こっちの台詞なんだけど?」

 

 この時、酔いが一気に冷めたと、後に刀奈は語ったとか……。

ちなみに、布仏姉妹は刀奈の隣でゲッソリとしていた……。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 その後、八雲紫とミスティアが通信機で呼んだ晴美と頭にタンコブを作った小傘と赤蛮奇も合流し、刀奈達に幻想郷とこれまでの経緯について詳しい説明が行われた。

 

「悪かったわね。本当は晴美に迎えに行ってもらう予定だったけど、送った先ですぐに妖怪に出くわすなんて運が悪かったわ」

 

「まったくだわ……。ほら、お前らも頭下げろや」

 

「「ご、ごめんなさい……」」

 

 相当絞られたらしく、小傘と赤蛮奇は大人しく晴美に従って刀奈達に謝罪する。

 

「やっぱり本当に妖怪っていたんだ……今更だけど」

 

「えぇ、」

 

「えぇ・・・でも合点が行ったわ。突然河城重工が出てきた事も、男性でも操縦する術を確立出来た事も……。

何より、実力の見合わない野心の薄さもね……。

篠ノ之束と敵対してる事までは予想できなかったけどね。

……正直、簪ちゃんを連れ戻したくてしょうがないわ。

そんなとんでもない相手と戦わなきゃいけないなんて知ったらね」

 

「お姉ちゃん!」

 

 姉の言葉に簪は思わず大声を上げる。

しかし、刀奈は険しい表情を崩さず、言葉を続ける。

 

「分かってるわよ。今更、言ったって簪ちゃんの意思が変わらないなんて事は。

だから……」

 

 一端言葉を区切り、刀奈は紫と晴美を見据える。

 

「私も合宿に参加する!私が簪ちゃんを守る!!」

 

「「はぁ!?」」

 

 まさかの宣言に簪と晴美は目を丸くし、逆に紫は笑みを浮かべた。

 

「他の子達と条件は同じよ。それで良いかしら?」

 

「えぇ、それで構わないわ」

 

 こうして、刀奈が合宿メンバーに加わった。

 

 

 

 

 

「話は纏まったか?」

 

「あ、織斑先生……」

 

 思わぬ方向に向かう話の中、千冬は刀奈達のテーブルに酒と猪鍋を持ってやって来た。

 

「お互い言いたい事も色々あるだろう。

酒の力で本音をぶつけ合うも良し、親睦を深めるも良し。

折角の飲み会だ、しっかり楽しんでいけ」

 

 微笑を浮かべながら千冬は背を向け、自分の席(一夏の隣)に戻っていった。

ついでに紫ドサクサ紛れに別の席に移った。

 

「…………」

 

 暫しの沈黙の後、簪は酒に手を伸ばしそれを一気に飲み干した。

 

「んぐっ、んぐっ……ぷはぁ~~!」

 

「か、簪ちゃん?」

 

「おぉ~~、良い飲みっぷりだな」

 

「お姉ちゃんも飲んで!こうなったら今日は朝まで言いたい事言ってやるんだから!」

 

「……あー、もう!上等よ!私だって言いたい事が山ほどあるんだから!!」

 

 妹に促され、再び酒に口を付ける刀奈。

混沌(カオス)な飲み会はまだ始まったばかりである。

 

 

 




次回予告

沢山の美味い飯と美味い酒……これが揃えば宴の始まりだ。
そしてただでさえ濃い面子が飲み、食い、騒いげばそれはもう混沌(カオス)の幕開け。

次回『夜雀居酒屋の“超”混沌(カオス)な飲み会』

レミリア「アナタがこんなに深酔いした姿は初めて見たかも」

簪「このシスコンストーカー女!」

刀奈「何よ!妬み嫉みの姉不孝者が!!」

千冬「いちかぁ~~!最近イチャイチャ出来なくて寂しいんだよぉ~~!!」



※人間友好度最悪とされるミスティアですが、本作では客商売を始めたことで軟化したという設定です。

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