東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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更識一行幻想郷珍道中(後編)

「ハァ、ハァ……!!

何アレ!?め、めめ、目が!傘に目と口が!!」

 

「ば、化け傘……本物の化け傘とそれに取り憑かれた女の子……!!」

 

「お、落ち着いて二人とも!お、お化けなんて存在する筈が……」

 

「アレを見てそんな事言えますか!?」

 

「そ、それは……」

 

 多々良小傘の持つ妖怪傘を諸に見て、慌てて逃げた刀奈、虚、本音の三人は、未だ驚愕の冷めない様子で竹に囲まれた竹林内で座り込んでいた。

 

「と、とりあえず落ち着きましょう……慌てて竹林の中(こんな所)に入っちゃったけど、改めて位置と方角を確認して……」

 

「で、でも竹林を出たらまたさっきの化け傘がいるんじゃ……」

 

「うぐ……そこはいなくなってる事を願うしかないわね……。

それにあの傘はともかく、あの女の子に敵意みたいなのは感じなかったし……」

 

 だとすれば逃げたのは失敗だったのでは……と、刀奈は思うが、今更どうなるわけでもないのでその考えを掻き消す。

 

「幸い、携帯のコンパス機能は生きてるから、それを使って……っ!?」

 

「お嬢様?」

 

「静かに……!何か近付いてくる」

 

 突如、何かに気付いた様子を見せる刀奈に虚は首を傾げるが、刀奈はそれを小声で制した。

 

 

 

 

 

「ひっく……昼間の酒はよく回るなぁ」

 

 現れたのはリボンをつけた赤髪のショートカットに赤いマントを身に着け、酒瓶を片手に持った少女だった。

酔っ払ってるのか、顔は赤くなっている。

 

「また女の子?っていうか未成年ですよねあれ」

 

「うん……まぁ、それは良いわ。見た感じ変な傘も他の道具も持ってないみたいね。

お酒もコンビニで売ってる奴(大吟醸)だし……。

一か八か、あの子にココについて聞いてみるわ」

 

 意を決して赤毛の少女に向かって踏み出す刀奈、虚と本音はそれに続く。

 

「あ、あの……すいませ~ん」

 

「ん、人間?……うわっと!?」

 

 酔ってふらついていたのが災いしたのか、少女は後ろから近付いてきた刀奈に振り向こうとするが、バランスを崩してし尻餅を突いてしまった。

 

「あ、大丈……ぶ……」

 

 尻餅をついた少女……を助け起こそうと刀奈達は彼女により近付くが、三人は先の小傘の時と同様、凍りついた。

近付いたその刹那、その赤毛の少女……赤蛮奇の首が胴体から転がり落ちたのだ。

 

「く、首、首が!?」

 

「あー、悪い悪い。転んだ拍子に外れちゃったよ。酔ってるとどうにも取れやすくてねぇ」

 

 そして何事も無かったように胴体は立ち上がり、首は宙に浮かんで再び身体と繋がってみせた。

 

「に……」

 

「ん、どうした?何か私に用があるんじゃないの?」

 

「に……」

 

「に?」

 

『ニ゛ャア゛ア゛ァァァァーーーーーーッ!!!!!』

 

 本日二度目の大絶叫と共に三人は再び全力疾走した。

 

「抜け首ぃ~~~~~~~!!」

 

「誰が抜け首だ!私はろくろ首だ、間違えんな!!

…………行っちゃったよ。何だったんだアイツら?」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

~一方、その頃~

 

「ん?」

 

「どうした、簪?」

 

 刀奈達が赤蛮奇と遭遇した地点からやや離れた位置で、簪は不意に振り向いた。

 

「なんか、聞き覚えのある声が聞こえたような……悲鳴みたいな声で」

 

「どうせ妖精か低級な妖怪が弾幕戦でもやってんだろ。

それより、修行の続きやるぞ。今日はいつもより短めだけど、その分いつもより厳しく行くぜ!」

 

「了解!」

 

 まさか自分の姉がすぐ近くにいるとは夢にも思わず、簪は妹紅との修行に集中するのだった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……な、何なのよこの人外魔境は~~~~っ!?」

 

 赤蛮奇から逃げて数時間が経った夕方、竹林中を駆け回った刀奈達はすっかり疲れ果ててその場に座り込んでいた。

ココまで逃げる途中にも彼女達は幾度と無く妖怪達に遭遇した。

蝶の羽根の生えた少女、兎の耳が生えた少女、、お面を身体の周囲に浮かべた少女と常識的に考えてありえない光景ばかりで三人の思考回路はショートしかけていた。

 

「や、やっぱり妖怪の世界に迷い込んだんじゃ……」

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

「も、もう認めるしかありません。妖怪は本当に居たんです!

きっと、他にもいる筈です……障子の付いた黒雲に乗って漫画を描くのが趣味の熱風を吐く一つ目妖怪とか、お腹から小だるまを出してくる手足の生えた巨大なだるまとか、ちょっとエッチでロリコンな鏡の中に住む爺妖怪とか……」

 

「落ち着いて虚ちゃん!」

 

 もはやそれは別のアニメの妖怪である。

 

「はぁ……お腹空いたなぁ……」

 

 そんな中、本音が呟いた一言に刀奈と虚は自分達の腹が鳴る音を聞き取る。

昼過ぎから今まで飲まず食わずで走り回ったのだ。腹も空くというものである。

 

「どうしましょうか……周りは妖怪ばっかり……いっそ覚悟決めて相手が妖怪でも助けを求めましょうか?」

 

「話せば分かる相手なら良いんだけどなぁ……ん?」

 

 途方に暮れる中、本音は突然何かに気付いたように顔を上げて立ち上がった。

 

「本音?」

 

「何か、良い匂いがするよ……」

 

「え?……本当だ、何か香ばしい匂いがする……」

 

「確かに、これは……うなぎの蒲焼みたいな……」

 

「も、もう妖怪が相手でもいいわ。ココで空腹で倒れるよりは……」

 

 三人は匂いに導かれるように竹林の奥へと歩を進めていった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「お、来た来た。おーい、こっちだ」

 

 所変わって竹林の入り口には一夏達が集まっていた。

今日は修行は早めに切り上げ、修行メンバー全員が親睦を深めるべく皆で飲みに行く予定だ。

そして今、最後のメンバーである箒と神霊廟の面々が到着し、全員が揃った。

 

「教師としては、未成年の飲酒は止めた方が良いでしょうか?」

 

「堅い事を言うな。幻想郷では十代以降は多かれ少なかれ誰でも酒を飲むんだ」

 

 やや難しい表情を浮かべる真耶に、千冬は肩に手を置いて笑い掛ける。

 

「で、竹林に飯屋なんてあるのか?」

 

「ああ、美味い飯が食える屋台がな」

 

 




次回予告

竹林を彷徨い、たどり着いた先で飢えを凌ぐ刀奈達。
そして、一路竹林を進む一夏達。

予想し得ない再開のときは近い。

次回『夜雀食堂の混沌(カオス)な飲み会』

刀奈「ヒック……何よ何よぉ!どいつもこいつもさぁ~~」

刀奈「……うわぁ~~~ん(泣)!簪ちゃんの馬鹿~~~~!霧雨のアホぉ~~~~~!!」

本音「お姉ちゃん、妖怪さんって案外友好的なんだね」

晴美「ほら、お前ら頭下げろや」







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