東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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遅ればせながら明けましておめでとうございます。
今年も東方蒼天葬をよろしくお願いします。


更識一行幻想郷珍道中(前編)

「お待ちしていました、更識様。社長室までご案内いたします……」

 

 簪に面会すべく河城重工に訪れた刀奈、虚、本音。

到着と同時に、三人は案内係に出迎えられ、社長室へと案内されていた。

 

「間も無く社長が来ますので、それまで暫しお待ちください」

 

 三人を社長室へと案内し、一礼して案内係は退出した。

 

「……おかしいわ」

 

「え?どう言う事ですか?」

 

 不意に小声で呟く刀奈に虚は首を傾げる。

 

「ここまで案内されて見ただけだから、ハッキリとは言えないけど、住み込みの訓練生はともかく、簪ちゃん達がいる形跡が少しも見当たらないのよ。

それに、訓練生の動き……確かに悪くは無いけど、武術部の部員のレベルと比べると明らかに低い。

これでは武術部の合宿には適していないわ」

 

「確かに……どこか別の場所でしょうか?」

 

「恐らくね。正直、敷地内かどうかも怪しいところね」

 

 眼を細めながら小声で会話する二人。

そんな時、不意に扉が開きある女性が姿を現した。

 

「お待たせしちゃってごめんなさいね。

私が河城重工社長の八雲紫よ。ようこそ、更識刀奈さん」

 

(っ……私の本名を!?

権限を凍結されているとはいえ、外には漏らさないよう配慮してるのに……)

 

 対峙する相手の情報網に若干戦慄しつつも、刀奈は平静を装いながら紫を見詰める。

 

「この度は急な来訪に応えていただき、感謝しています。

今日は私の妹の更識簪について、お伺いしたい事があって『素直に会いに来たって言っていいのよ?』うぐっ……」

 

 早くも会話のペースを握られ、楯無は押し黙る。

楯無も会話の主導権を握るのは得意な方だが、八雲紫の醸し出す胡散臭さと掴み所の無い態度がそれをさせてくれない。

本能的に察してしまう……この女は自分より、自分の見てきたどんな大物よりも格が違うのだと言う事を。

 

「そこまで分かっているのなら、単刀直入に言います。

妹に、簪ちゃんに会わせてください!」

 

「えぇ、良いわよ。ただ……」

 

「ただ、何ですか!?」

 

「彼女に会う前に、アナタ達にも知ってもらいたいのよ幻想郷をね」

 

『ゲンソウキョウ?』

 

 聞き慣れない単語に思わず声を揃える三人。

 

「そう言う事。それじゃ、行ってらっしゃい♪」

 

 紫がにこっり笑って指を鳴らしたと同時に刀奈達の足元にスキマが開かれ、刀奈達を飲み込んでしまった。

 

「きゃあぁぁっ!?」

 

 悲鳴を上げながら、成す術無く落ちていく三人。

ISを展開して飛ぼうにも刀奈の専用機は学園に預けられてしまっているためどうしようもなかった。

 

「迎えは行かせるから、そっちで合流して頂戴」

 

 紫の暢気な声をバックに刀奈達は落ちていった……。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「はぁ~~、暇だなぁ。

おなかは空いてるけど、カモれる相手もいないし……」

 

迷いの竹林の付近。

唐傘の妖怪(九十九神)、多々良小傘は宙に浮かびながら一人呟いていた。

彼女は人を驚かす事で腹を満たす妖怪なのだが、最近は簡単に脅かせそうな人間に乏しく、くわえて本人の脅かし方が下手な為、常に腹ペコ状態だ。

 

『ど、どこよココぉぉーーーーっ!?』

 

「ふぇっ!?な、何今の声?」

 

 突然聞こえてきた叫び声に小傘は周囲を見回し、その先に見慣れない服を着た少女達が視界に入った。

 

「外から来た人?

…………ラッキー!良いカモ発見!!」

 

 思わぬ僥倖に小傘は顔をニヤつかせ、出来る限り気配を殺しながら三人の少女の背後に回った。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「どうなってるの一体?」

 

「わ、私達……社長室に居た筈ですよね?」

 

「こ、こんなの聞いてないよぉ……」

 

 一方、刀奈達は混乱の真っ只中だった。

突然足元が開いたかと思えば、ギョロギョロと動く目玉が多数見える空間に落とされ、直後に屋外の何故か竹林の傍に居たのだから混乱するのも無理からぬ事だが。

 

「と、とりあえず落ち着きましょう。まずはココがどこか調べないと……」

 

「でも、お嬢様……ココ、携帯圏外なんですが……」

 

 混乱する思考を押さえ、冷静に努める刀奈。

やはり流石は暗部の当主なだけあって切り替えは早い。

 

「う~ん、まずは周囲の様子を知りたいわ。とりあえず竹を昇って周囲を見渡しましょう。

まず私が昇ってみるから……」

 

 少しでも情報を得る為に、刀奈は身近な竹に手を掛ける。

 

「上まで上ったらカメラで周囲を撮影してみるから『うらめしやー!!』……ひゃああぁぁっ!!」

 

 よじ登ろうと、意を決して手に力を込めて地面を蹴ったその時、不意に何者かが飛び出し刀奈の眼前に現れた。

突然の不意打ちにも近い第三者の出現に驚き、刀奈は大声を上げて尻餅を突いてしまった。

 

「はぁ~~……久々に満たされる~~」

 

「だ、誰よアナタ?」

 

「いきなり脅かしてごめんね。

私、付喪神の多々良小傘。お姉さん達、外から来た人でしょ?」

 

「(つくもがみ?何言ってるのかしらこの子……)え~と、ココはどこか、出来れば教えて欲しいのだけど……。

あと、他に人はいないの?」

 

 突然現れて無邪気かつご満悦な表情を見せるオッドアイの少女……多々良小傘。

突然現れた彼女に警戒しつつも、刀奈は彼女から何か情報が引き出せないか試みる。

一方で小傘はフレンドリーな笑顔を浮かべている。

 

「え~とね、ココは幻想郷。外の世界で忘れられた存在が住む場所で……。

あ、人が居る所を探してるなら向こうに人里が……」

 

 振り返って人里を指差す小傘。しかし、それがまずかった……。

さて、読者の方々には周知の事実だろうが、多々良小傘は唐傘の付喪神である。

彼女の持つ傘は彼女と一心同体の妖怪傘である。

無論それが普通の傘な訳が無く、大きな単眼と長い舌が覗く口も付いているという、いかにもな外観だ。

先程までは小傘の身体で隠れていたが、彼女が振り向いたことでそれは刀奈達の視界に入り、それを直視した三人は一瞬にして固まった。

CGアニメなど目じゃない本物の目と口が生えた傘が刀奈達を見詰めているのだ。

そんな光景を諸に見た刀奈達は……。

 

 

『ギャアァァァ~~~~~~~~~~~~ッ!!』

 

 

 最早何番煎じか分からないリアクションと共に、三人は絶叫しながら一目散に竹林の方へと逃げ去っていった。

 

「…………あれ?」

 

 その場に首をかしげる小傘を残して……。

 

 

 

 




今年はちゃんと月一以上で更新したいなぁ……。
最近毎日遠い町の店舗へ出向させられてるから疲労が半端ない……。

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