「 はい、終わったわよ」
「凄い、本当に身体が……」
弾を始めとした8名が勇儀と萃香に見事に倒された後、8人はアリスと魔理沙による治療(回復魔法、魔法薬etc)を受け、全員無事に回復したのだった。
「さてと、全員回復したし、早速能力を発現させてみるか」
「能力って魔理沙達が使ってる魔力とかの事?」
「ああ。これからお前達にはその適性検査を受けてもらうぜ。
まぁ、早い話が気質が魔力か霊力かの違いを知る訳だぜ」
魔理沙からの説明を受け、シャルロットを除く全員の顔に緊張が走る。
やはりいざ特訓開始となると“自分に一夏や魔理沙達が持っている力があるのだろうか?” という不安が湧いてくる。
「心配ないよ。魔力や霊力みたいな力は誰でも持ってるんだ。
気質によって力の性質が霊力か魔力か分かれるだけで、生き物が内在的に持ってるって事に変わりはないんだから。ほら、こんな風に……」
皆を安心させるように一足先に幻想郷を経験し続けたシャルロットが前に出て左手の人差し指に魔力を集中させる。
集められた魔力はきれいなオレンジ色の球体となり、シャルロットはそれを上空目掛けて発射してみせた。
「凄い……修行すれば出来るようになるの?」
「勿論。もっと凄い事だって出来るよ」
鈴音からの問いにシャルロットは笑顔で答える。
その返答に鈴音達の不安は多少和らぎ、改めてこれからの基礎訓練への意欲を高めていった。
「さて、まずは全員に自分の魔(霊)力を感じ取って外に出す事から始めるぜ。
皆には俺達が魔力や霊力を放つから、それを感じ取って防御しろ」
「え?それって危険なんじゃ……」
「問題ない。精神的にキツイが、一夏達に悪意が無い限り危険は無い。
例えるなら目に見えるプレッシャーを受けて、それを防御できるようになるための訓練だ」
いきなりの攻撃宣言にも近い一夏の台詞に顔を引き攣らせる真耶。
そんな真耶に千冬は補足・説明し、彼女を落ち著かせる。
「それじゃ始めるぞ。皆、俺と早苗姉ちゃんの前に一列に並んでくれ。
シャルはもう出来るだろうけど、皆の手本役として一緒に並んでれ」
「分かった!」
一夏の言葉に従い、一列に並ぶ弾達。
8人を前に一夏と早苗は立ち、真剣な表情で向かい合う。
「皆、準備は良い?」
「じゃあ、行くぞ!!」
そして、二人が目を見開くと同時に魔力と霊力が8人目掛けて放たれた。
『ーーーーーっ!!?!?』
自分達に放たれた魔力と霊カの波動……その表現の出来ないが、巨大なプレッシャーにシャルロットを除くメンバーの表情が驚愕と戦慄に変わる。
(な、何だ?何なんだよこれ!?)
(何てプレッシャーなの……!!)
(ま、まるで全身の急所という急所を一度に見えない力で鷲掴みにされたような……)
(立っているだけで精一杯……少しでも力を抜いたら、それだけで気を失ってしまう)
(こ、これが一夏さん達の持つカ)
(に、こんなのどうやって防げばいいんですかぁ〜〜〜〜!?)
(防ぐどころか、耐える事だって出来ないわよ!)
「皆しっかりして!!」
全身に襲い掛かる波動に、弾達はただただ圧倒される事しか出来ない。
だが、そんな7人をシャルロットが一喝する。
「最初は耐えるだけで良いよ。逃げずに立ち続けることを第一に考えて!」
平然と、とはいかずとも他のメンバーより遥かにダメージの少ないシャルロットは皆に言い聞かせるような大声を上げながら、一歩前に出る。
「まず耐えて、それからゆっくりで良いからイメージするんだ。自分の身を自分の中にあるエネルギーで攻撃を防ぐ姿を!!こんな風に……」
全身に力を込めながら、シャルロットは目を閉じて魔力を自らの身体を包む様に展開し、一夏達の発する波動からその身を守る。
そして、その姿に感化され、他のメンバーも波動に耐えながら、自分なりにイメージを開始するのだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
武術部の合宿が開始される一方で、外界の日本の都内某所に存在する更識家の屋敷では……。
「お嬢様一、どこですかー?お嬢様ーー」
屋敷内を歩き回りながら、虚は主である楯無を探す。
先の魔理沙との戦いの後、楯無……いや、刀奈は災難続きだった。
まずは日本·ロシアの両政府からの叱責……仮にも国家代表ともあろうものが超が付く程の有力企業である河城重工の一員とはいえ、1年生の魔理沙相手に惨敗したという事に対する
加えて、学年別トーナメントでのエキシビションマッチにおいて、妹の簪を含む代表候補達が河城重工のメンバー相手に善戦したという事実が刀奈の立場をより一層悪くした。
『代表候補の妹があれだけ善戦して、国家代表の君がその様か?』
そう言われた時の楯無の屈辱に満ちた表情は今でもハッキリと覚えている。
そしてもう一つは更識本家からの叱責と処罰だ。
元々炎魔から釘を刺されたにも拘らず。河城重工所属の魔理沙を相手にトラブルを起こしたのだ。
それは炎魔の更識家に対する心象を悪くするには十分なものだ。
その処罰として、刀奈には学園卒業までの間、更識家当主の権利の一時凍結処分が言い渡され、当主の名である楯無の名を名乗る事を禁じられた。
そして、当の刀奈本人は夏休みに入ってから屋敷のトレーニングルームに籠るようになり、一心不乱にトレーニングに取り組むようになった。
「お姉ちゃん、そっちに居た?」
「いえ、見つからないわ」
そんな中、突如として刀奈が訓練場から姿を消し、虚は妹の本音と共に屋敷中を探し回っていたが、今だ見つかる気配はない。
「どこに行ったのかしら?あ、もしかしたら……」
「あ、待ってよ、お姉ちゃん〜〜」
不意に何かを思い出し、虚はある場所へ向かう。
「あれ?ココって……」
唐突に走り出した姉を追い、本音がたどり着いた場所……屋敷の敷地内にある別館だった。
そこは、今でこそ殆ど使われていないが、かつては晴美を始めとした天野家が暮らしていた場所であり、幼き頃の刀奈と晴美、そして自分達の遊び場だった。
そして当時の天野家長男が自らが起こしたクーデターの末に射殺され、晴美の両親と姉がその犠牲になり、晴美自身も大怪我を負った忌まわしい場所だ。
「……お嬢様!」
「あ、虚ちゃん……」
そして、別館内のとある部屋に刀奈の姿はあった。
「うっ……この部屋って」
「そうよ。天野家の元長兄・天野伸之が死んだ場所よ」
血の染み込んだ壁や床から放たれる悪臭に本音は思わず口元を押さえ、そんな彼女に対し、顔を怒りで歪ませながら刀奈が答える。
「お嬢様は訓練で行き詰った時、いつもココに来るのよ。そうですよね?お嬢様……」
「そうよ……。ココにいるとあの時の事が頭の中に鮮明に浮かんでくるの。
そうすれば、反吐が出そうになって、また訓練に没頭できるって寸法よ」
忌まわしい記憶を思い出し、拳を堅く握り締める刀奈。
そんな彼女を虚は心配そうに見詰めている
「お嬢様、まだ霧雨さんにリベンジを……」
「勘違いしないで。別に処罰された事とかを恨んでるわけじゃないし、今更力づくで簪ちゃんを取り戻そう何て思ってないわ。
でも、簪ちゃんがアイツに傾いてるのはムカつくし、気に入らない奴に負けっぱなしなのが嫌なだけよ」
虚の言葉に刀奈は真剣な表情で返し、そのまま踵を返して扉へと歩き出す。
「心配掛けてごめんね。そろそろ訓練場に戻るわ」
「あ、あの!」
部屋を去ろうとする刀奈だったが、不意に本音が彼女を呼び止めた。
「何?本音ちゃん……」
「あの……私、やっぱりかんちゃんともう一回、ちゃんと話し合ったほうがいいと思うんです。
だから、その……河城重工に行って、かんちゃんと会う事って出来ないんですか?」
『は?』
本音からの思わぬ提案に刀奈と虚は揃って間の抜けた声を出す。
「あ、あのね本音ちゃん。炎魔から河城重工に探りを入れるなって釘を刺されてるから、接触するのは 」
「だから、探りを入れるのが駄目なんでしょ?関わる事自体は駄目って言われたわけじゃないし」
「あ……」
本音の言葉に刀奈は思わずハッとする。
「色々と言われたりはすると思うんだけど、かんちゃんとの面会ぐらいは大丈夫だと思うんです。……駄目、ですか?」
「い、いえ 確かにそうよ。接触自体が禁止されているのなら簪ちゃんだって、とっくに武術部から切り離されている訳だから」
本音の言葉に刀奈の表情は徐々に喜色が浮かび始める。
「虚ちゃん来て!すぐに手続きするわ!」
「ちょっ、待ってください!まだ溜まってる仕事があるんですから!」
刀奈と虚は急して部屋を出て屋敷の本館へと向かっていった。
主と姉が出て行く姿を見届け、本音はポケットから携帯電話を取り出し、ある人物へ電話をかける。
「あ、もしもし本音です。
はい、上手く行きました。近い内にそっちに行く事になると思います」
普段ののんびりとした様子とは打って変わり、本音は真剣な面持ちでその人物と会話する。
『そう。手間かけたわね。こっちに来たら色々と大変になるだろうけど、頼んだわよ』
「はい。……これでお嬢様とかんちゃん、仲直りできるかな?」
『後は二人次第よ。けど、お膳立てはしてやらないとね。
そうしなきゃ、いつまで経っても意地の張り合いよ。本当、変な所で似たもの姉妹なんだから……』
「それは、うん……確かに」
通話相手の言葉に本音は思わず苦笑いしてしまう。
刀奈と簪……対照的な二人だが、根本的に負けず嫌いで譲れなものに対する意地の強さはそっくりだ。
そういう所を見るとやはり二人は姉妹なんだなと思う。
『こっちに来た後は私が何とかする。それまで頼んだぞ、本音』
「うん、任せて。晴美お姉ちゃん!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ぬぐぐぐ!!」
「うぎぎぎ!!」
場面は幻想郷へと戻り、特訓開始から約5〜6時間。
7人はこれまで、ダウンを何度か繰り返しつつも、特訓を続けていた。
そして、長々と続く訓觫の中、遂に動きがあった。
(思い出せ、思い出すんだ!あの時を!!)
(忌まわしいが、あの時に一時的に得たあのカを思い出すんだ!!)
最初に動いたのは、箒とラウラだ。
この二人にはある共通点がある。それは、過去に魔力・霊力を身に纏った経験が有る事だ。
ラウラはVTシステムハッキングの際、箒は臨海学校にて彗と分裂する直前、機体の暴走があったとはいえ、その身に魔力・霊力を確かにその身に纏っていた。
二人にとっては忌まわしい記憶だが、今この状況を打破するために必要な力だと言う事を二人は理解していた。
(あの力、あのカを自分のものにする事が出来れば……いや、出来なければこの合宿を生き残る事は出来ない!!)
(ならば、あの忌むべき記憶だって乗り越えて、あの力を使いこなしてみせる!!)
「ダアァァァァ!!!!」
「グウゥゥゥゥッ!!!!」
そして、二人が全身に力を入れて叫んだ瞬間、二人の身体は光を発した。
箒は薄紅色の霊気、ラウラは銀色の魔力……それぞれが美しい光を放ち、一夏達から発せられる波動を見事に防いだ。
「で、出来た!出来たぞ!!」
「こ、これが私の
自分の内から発せられた力に驚く二人。
そして、初の成功者が出た事で、他のメンバーにもそれが伝播する。
「わ、私だって……こんのぉぉっ!!!!」
「くっ……クソがぁぁーーーーっ!!!!」
続いて覚醒したのは鈴音と弾。
鈴音は赤、弾は黄色の霊気だ。
「ぐ、ぐ……ハァァァァッ!!!!」
「グウゥゥゥゥッ!!!!」
更に簪は水色、セシリアは蒼色の魔力に覚醒してそれに続く!!
「わ、私だけまだ……くうぅぅぅぅっ!!!!」
生徒達に先を越され、焦りと悔しさが混じった唸り声を上げたと同時に、真耶の身体も他のメンバーと同様に光り輝く。
そしてその光は緑色の魔力となって彼女の身体を包み込んだ。
「で、出来た……私にも出来た!!」
そして真耶の覚醒を以って全員が魔力・霊力に目覚め、合宿第1の試練を見事全員が突破に成功したのだった。
「ゼェ、ゼェ……霊カ使うってこんなに疲れるの?」
「ど、同感だ……これで初歩なのかよ?」
一夏と早苗によるプレッシャーから開放され、7人は全員その場に精根尽き果てたように倒れ込み、息を荒げる。
「全員上手く行ったな。これからしばらくは毎朝この訓練を続けるぜ。
初歩とはいえ、最初の内はめちゃくちゃ疲れやすいから、気をつけろよ。
まぁ、でも安心しろ。何日か続けていれば身体が力の扱いに慣れて、後は簡単に出来るようになる」
「ああ、ちなみに私は4日程かかったがな」
7人を励ますように言う魔理沙と千冬。だが……
「え?ボク、3日で慣れたけど… 」
「え…………?」
シャルロットの思わぬ一言に、千冬は少し凹んでしまったのだった……。
ちなみに、一夏の記録は1日半だったりする。
「さて、今日は晩飯の時間まで基本の反復練習。明日からはそれに加えて個別訓練に入るぞ。
(俺と千冬姉も、鍛え直さないといけないからな…… )」
一夏の言葉で締めくくられ、この日の8人は再び気を引き締め、訓錬に励むのだった。
次回予告
全員が霊力・魔力に目覚め、メンバー全員はそれぞれ個別の修行に入る。
幻想郷各地において、それぞれ師匠となる者と共にマンツーマンで行われる訓練は、
どのような結果を齎すのか?
次回『修行開始!!』
簪ラウラ((し、師匠同士の因縁に巻き込まないで……))
?「私に一撃でも当てる事 それが第一関門です」
?「狙いも連射も甘過ぎんのよ!」
?「アタイの方が姉弟子だからな!」
?「最初に一つ、詫びなければいけない事があります」
?「まずは魂を安定させましょう」
真耶「えっと 私は、どこに行けば ?」