杯を片手に威風堂々と仁王立ちする女 星熊勇儀。
そんな嘗ての教官を目の前にしながら、弾は手に持った訓練用の槍を構えて身構える。
そんな二人の様子に、セシリアは訝しげな表情を浮かべながら、首を傾げていた。
「それにしても、杯の9割近い量のお酒を一滴だけでも、だなんて……。
いくら何でも、私達を侮りすぎでは?」
「そうでもないさ。弾が訓練生だった頃はあれ以上の量で表面張力ギリギリの状態でも微動だにしなかったんだ。
ま、見てれば分かる……」
セシリアの疑問に一夏が答える。
その回答に少し驚いたものの、セシリア達は視線を戻し、弾達を見守るのだった。
「最初から全力だ。行くぞ!!」
気合の掛け声と共に槍を強く握り、突貫する弾。
「オラァッ!!」
速攻で繰り出される刺突の連打。
その一撃一撃がそれぞれ勇儀の顔面や喉といった急所を狙って放たれる。
「前より狙いが上手くなったな。だが、まだ遅いぞ!」
だが、勇儀は繰り出される連打を次々と避け、遂には槍を軽々と掴んで受け止めてしまった。
「まだだ!」
だが、彼女の強さを知る弾にとってこの程度は想定内だった。
槍をつかまれるや否や、手刀で槍をへし折って拘束を解いてみせた。
「喰らえっ!」
更に地面を蹴り、砂を勇儀の顔面に砂を浴びせる。
「うぉっと!?」
間一髪で首を傾げ、勇儀は砂を避ける。
だが、そこに生じた一瞬の隙を弾は見逃さなかった。
「今だあっ!!」
「うぉっと!?」
大声と共に弾は折れた槍の取っ手を勇儀の持つ杯目掛けて投げ付けた。
投げ付けられた柄は杯に直撃し、杯は大きく揺らされそうになるが、勇儀は杯を握るカを強めてバランスを取る。
「まだまだぁっ!!」
だが、弾はこの時を待っていたとばかりに右拳を振り上げ、渾身の力を込めた正拳突きを勇儀の鳩尾へ打ち込んだ!!
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「ぐあぁぁぁっ!?て、手が……」
だが、苦悶の声を上げたのは弾の方だった。
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「な、何故ですの!?弾さんのパンチは確実に入った筈なのに……」
「簡単だ。勇儀の身体の方が五反田のパンチが効かない程に頑丈なだけだ」
驚きの余り疑問の声を上げたセシリアに千冬が回答する。
「そんな……いくら弾が武器主体の戦闘スタイルといっても、あいつのパワーは相当の筈。それを腹筋だけで……」
ラウラが呆然と言葉を漏らす。
『とんでもない強さ』…… 弾の言っていたこの言葉に偽りや誇張など無かった。
いや、恐らく当の弾さえも、勇儀がこれほどまでに強靭な肉体を持っていた事など想像してなかったであろう……。
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「ハッハッハッ!!随分器用になったじゃないか!!
……だが、まだ力不足だ。言った筈だ、『外の世界の時みたく甘くない』ってな。
その程度じゃ、私の身体に傷一つづけるどころか、仰け反らす事も出来ないよ!」
「ち、畜生……まだだぁっ!!」
痛めた手を押さえながら、弾は再び身構え勇儀に飛び掛る。
「まだやる気かい?」
「当たり前だ!俺だって腹括ってこの合宿に参加したんだ!どこまでだって足掻いてやらぁっ!!」
ダメージを受けても尚、弾の目は闘志に燃えていた。
最後の足掻きとばかりに杯を直接狙って攻撃を繰り返す。
しかし、その攻撃も全て見切られ、やがて受け止められてしまう。
「その意気と覚悟は及第点だ。成長したな、弹。
これからお前が更に成長する事を期待しての餞別だ。しっかり受け止めな!!」
「うぉぉぉっ!?」
ニヤリと笑みを浮かべ、勇儀は掴んだ弾の腕を大きく振り上げ、弾の身体を軽々と放り投げた。
そして、腰を落として左腕を構え、落下してきた弾目掛けて一気に振るう!!
「ガアアッ!!?」
勇儀からの
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「う、嘘でしょう?こ、これが……」
「鬼の、力なのか?」
「ちょ、ちょっと弾、大丈夫!?」
ぶっ飛ばされ、ピクピクと痙攣する弾に戦慄する代償候補生たち。
そんな彼女達を見ながら勇儀と萃香は余裕綽々といった笑みをうかべている。
「さーて、次は私だよ。誰が相手になる?」
「わ、私が行きます!」
「なら、その次は私だ!私も弾に負けてられない!!」
だが、戦慄こそすれど、彼女達の目に諦めの色など無かった。
死力を尽くした弾に続くべく、簪が萃香の対戦相手に名乗り出る。
そして、そこから他のメンバーも次々と闘志を燃やしたのだった。
これより数十分後、簪達8人が満身創痍となって地面に転がる事になるのは言うまでもない。
だが、8人の誰一人として、勇儀と萃香を失望させる事はなかった。
「全員見込み有りだ。今日は美味い酒が飲めそうだよ!」
次回予告
基礎実力テストを終え、武術部メンバーは早速基礎訓練の初歩となる魔力・霊力こ手解きを受ける事になる。
一方、外界の更識家にて、楯無は晴美に言われた言葉を思い返しつつも、魔理沙への雪辱を果たすべく、ひたすら特訓に明け暮れていた。
次回「魔力を感じ取れ!」
魔理沙「初歩とはいえ、最初の内はめちゃくちゃ疲れやすいから、気をつけろよ」
千冬「私は4日程かかったがな」
楯無「ココにいると、あの時の事が頭の中に鮮明に浮かんでくるのよ」