東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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幻想の地へ(後編)

「あ痛っ!?痛た……尾骶骨打っちゃった。……ココは、神社?」

 

 隙間を抜けた鈴音は盛大に尻餅を突きながら周囲を見回す。

直後に弾や簪といった他のメンバーも続々と隙間を抜け鈴音と同様に幻想郷の土を踏んだ。

 

「皆来たな?ココは博麗神社。

幻想郷を覆う結界を管理する博麗の巫女、博麗霊夢が管理する神社で、幻想郷の入口だ」

 

 一夏の説明に鈴音達はキョロキョロと周囲を見回す。

まず感したのは空気の違い。

外界の機械やコンクリートの臭いが混じったそれと違い、自然そのままの澄んだ空気だ。

この空気を吸うだけで今自分達が先程まで居たものとは別の世界に来たのだと実感出来る。

 

「本当に別の世界に来たのか?」

 

「ああ。それじゃ今から下宿先に向かう。

大丈夫だと思うが、道中で妖怪とかに出くわす事もあるかもしれないから気をつけろよ」

 

「え?ココの巫女さんに挨拶してか無くて大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫。霊夢の奴は今(金欠で)バイト行ってて留守だから」

 

【巫女なのにバイト?】

 

 仮にも管理者である霊夢の現状に、鈴音達の心の声が見事にハモった。

ちなみに、霊夢のバイトの中には一夏が経営するよろず屋の仕事も含まれていたりする。

 

「では行くぞ。ココからは飛んでいくから、全員ISを展開しろ」

 

 そして、千冬の指示を受け、弾達はISを展開。

それを確認し、一夏達は宙へ浮き上がった。

 

「こんなこと言うのもあれだがよ、本当に生身で飛ぶんだな ……」

 

「先に見てきた者として言わせて貰えば、生身で飛ぶだけなら可愛いものだ。生身で弾幕をぶっ放したりするのに比べればな……」

 

 若干唖然とする武術部員達と諦めたように溜息を吐く箒を尻目に、一行は飛び立つのだった。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 太平洋の真ん中、その海の奥底にそれはあった。

周囲を深海魚や海草が漂う中それとは不釣合いな機械的な建造物……篠ノ之束の移動式ラボだ。

そのラボの一室……その室内に禍々しい気配が立ち込めている。

 

「…………これが、霊力……これが、魔力……これが、私の新しい力……!!」

 

「おぉ~~。こんなに早く力に目覚めるなんて、束さんもびっくりだよ、箒ちゃん」

 

 その人物、分離した箒のもう片割れ……白髪の篠ノ之箒を見詰めながら束は手を叩いて喜ぶ。

臨海学校にて回収された彼女は、束とクロエからの手解きを受け、たった今霊力及び魔力に目覚めたのだ。

 

「箒ちゃん、今の気分はどう?」

 

 力そのものはまだ小さいものの、禍々しい光を放つ己の掌を見詰める箒(白髪)に、問いかける束。

その問いに対し、箒は静かに束へと振り返り、口の端を吊り上げて笑みを浮かべた。

 

「感謝します、姉さん。これであの化け物や裏切り者達を殺せる。

そのためにも、もっと……もっと力を!」

 

 狂気を孕んだ瞳で箒(白髪)は力を渇望する。

ただ憎しみに身を委ね、その対象を潰す為の破滅の力を……。

 

「あぁ、そうだ」

 

やがて、彼女はふと思いついたように束に向き直った。

 

「ん、何?」

 

「私に新しい名前をつけてくれないか?

私はもう以前のような中途半端な甘い私ではない。言わば生まれ変わった別の存在だ。

だからこそ新しい名前が欲しいんだ」

 

「ふ〜〜む、なるほど。新しい名前ねぇ……」

 

 妹からの要望に束は顎に手を当てて暫し考える。

そして十数秒程経った頃、何かを思いついたように笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、元の名前をベースにして箒星……つまり彗星だね。

そこから取って『(すい)』 なんてどうかな?」

 

「彗か、悪くないな。

たった今から私の名は彗……篠ノ之彗だ!」

 

 この日、一夏達にとって新たな敵、篠ノ之彗が誕生した。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「見えたぞ。あそこが今回の合宿で世話になる命蓮寺だ」

 

 博麗神社を飛び立って数十分後、道中何度か妖精や妖怪を目撃してその都度驚きはしたものの、is学園のメンバーは一夏達に先導され、人里の近くへと辿り着いていた。

 

「皆さん、お待ちしておりました。ようこそ、命蓮寺へ」

 

境内に降り立った一夏達を白蓮を始めとした命蓮寺の面々が出迎える。

 

「これからお世話になリます。

それと、白蓮さん 腕の方は?」

 

 一行を代表して頭を下げる千冬。

それと同時に、先の戦いで束に折られ、今も痛々しく三角巾で吊り下げられている白蓮の右腕へと視線を向ける。

 

「えぇ、大丈夫です。

永遠亭で治療して頂いたので、後5日もあれば治るかと」

 

「良かった……後は、アイツを待つだけか」

 

 一先ず安堵の息を漏らす千冬達。

しかし、千冬の言ったある言葉に弾達は怪訝な表情(かお)を浮かべる。

 

「『アイツ』って、誰だ?」

 

「ああ、実はもう一人、合宿に参加する事になった奴がいるんだ」

 

 弾からの問いに一夏が代わって笑みを浮かべて答える。

そして、それと同時に人里の方向からある人物が飛んでくるのが見えてきた。

 

「おーい!」

 

「お!噂をすれば、だな」

 

声を上げて近付くその人物に弾達の視線が集まる。

 

「ん?」

 

「んん!?」

 

「へ?えぇ〜〜〜〜っ!?」

 

 そして徐々に明らかになってしくその人物を確認し、弾達は一斉に固まった。

 

「皆、久しぶり!」

 そして、その少女……シャルロット・ビュセールは満面の笑顔を浮かべて皆の前に降り立った。

 

『……………………』

 

 そんな彼女に対し、弾達7人は暫し固まったまま動かない。

さて、賢明な読者の皆様は覚えているだろうが、シャルロットは外界において自殺したと

言う事になっている。

と、なればこの後の7人の反応は……

 

 

 

 

 

『ギャアアァァ〜〜〜〜ッ!!!!』

 

 

 

 

 

 当然、悲鳴である。

 

 

 

「しゃ、しゃしゃしゃ、シャル!?お、お前死んだんじゃ!?」

 

「ななな、何故死んだ人間がココに!?」

 

「お、おば、お化け!お化けが目の前に!?」

 

「成仏して!成仏して!!お願いだから!!」

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏!!」

 

「…………」←気絶した

 

「取り憑かないで呪わないで!まだやりたい事たくさんあるんだから!」

 

 弾達は完全にパニクってしまった。

(ちなみに、上から弾·ラウラ·真耶·鈴音·箒·セシリア·簪である)

 

 

 

「一夏、ボクの事説明してなかったの?」

 

「悪い。良い洗礼になると思ったんだけどな……」

 

 始まった矢先にこの始末……前途多難な合宿がいよいよ始まる。

 

 




次回予告
 シャルロットも合流し、いよいよ始まる幻想郷での大合宿。
そこで待ち受けていたのは強烈な洗礼……実力テストとして行われた実戦で、弾達はその力を目の当たりにする。

次回『幻想郷の洗礼』

勇儀「鈍ってないか見てやるよ。かかってきな!!」

弾「なぁ、勇儀姐さんと萃香さんって……」

一夏「ああ、鬼だ」

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