毎日残業のため、書く時間が取れず、昨夜ようやく執筆完了しました。
今回から楯無へのアンチを少々緩和します。
「う……うぅ…………っ!」
「よぉ、起きたのか?」
「あ、アンタは……!」
試合より数時間後、夕日の差し込む保健室のベッドの上で楯無は目を覚ます。
起きてすぐに目に映る憎き仇敵とも言うべき魔理沙の姿に、楯無は自身が敗北したという事実を否応無しに痛感する。
「目は、大丈夫みたいだな?咄嗟とは言え、流石に目潰しはまずかったと思ってたから安心したぜ」
「…………私、負けたの?」
「ああ、言っちゃ悪いけど私の完勝。お前は惨敗だぜ。
せめて、冷静さを欠いてなきゃ、あそこまで無様な姿は晒さなかっただろうな」
「クッ……!!」
辛辣な返答に楯無は返す言葉もなく魔理沙から顔を背け、唇を噛み締める。
そんな楯無の様子を暫し見詰め、やがて魔理沙は溜息を吐いてから口を開いた。
「試合の時に言ったけどさ、お前見てると家の親父を思い出すぜ。
私の親父は、私が今の道に進む事に大反対でな、毎日言い争いの繰り返しだった……」
「……いきなり何よ?」
唐突に始まった魔理沙の昔語りに楯無は不機嫌さを残しつつも、魔理沙を再び見詰める。
「親父は親父なりに
だけど、私が選んだ道だって私なりに真剣に考えて出した結論の結果なんだ。
私の選んだ道を、ただ頭ごなしに否定しやがる……そんな親父が嫌で嫌で堪らなかった。
それで結局、私は家出して、親父も親父で私を勘当した。
その事を後悔してるわけじゃないけど……お前と簪見てたら、どうしてもそれを思い出すんだ」
怒るわけでも、悲しむわけでもなく、ただ淡々と楯無を見詰めて魔理沙は語る。
そんな彼女の言葉に楯無はより一層表情を厳しくしていく。
「私と簪ちゃんも、いずれそうなるとでも言いたいの?」
「さぁな。けど、お前のやってる事って結局そう言う事だろ?
私達の事が信用出来なくて気に入らないから、無理矢理にでも簪を引き離そうとする。
それってさ、簪の意見を頭ごなしに否定してるのと同じだろ?」
「くっ……!」
言い返せない。
楯無とて本心では魔理沙の言う通りだと自覚はしていた。
それでも尚、認めたくなかった。自身にとって突然現れて大事な妹を掻っ攫っていく魔理沙達が……ましてや簪が自分ではなく魔理沙達を必要としている事実が楯無をより意固地にさせていた。
「頭冷やして良く考え直せ。あと、合宿の件は了承してもらうぞ」
「…………勝手にしなさい」
搾り出すような声で答えたその言葉を聴き、魔理沙は保健室から去って行く。
そして、室内には楯無ただ一人が残される。
「……………………っ!!」
魔理沙が部屋を出てから少し間を置き、楯無は唐突にベッドを殴りつけた。
「う、うぅっ……!!」
一度振るわれた拳は止まる事無く動き、二度三度とベッドに振り下ろされる。
無残な敗北、妹と分かり合えない辛さ……それらから来る悔しさと悲しみに、楯無は唇を血が出る程に噛み締め、最後の意地で声だけは押し殺しながらベッドを殴りつ続け、楯無は涙を流した。
「どうして……どうしてよ……!?
私が、簪ちゃんを……妹を守る事の何が悪いって言うの!」
無人となった室内に楯無の悲痛な声が響く。
こんな筈ではなかった……自分の手で家族や仲間を守り続ける筈だった。
自分にはそれを成す才能も覚悟もあり、そのための努力を怠たっていない……そのつもりだった。
だが、現実はどうだ?
突如として現れた織斑一夏には油断してあっさり敗北し、
挙句に霧雨魔理沙には全力で戦っても尚、完膚なきまでに敗れ、これまで持っていた自信と覚悟はあっという間に崩れてしまった。
「私、どうすれば良いの?教えてよ、晴美……」
打ちひしがれ、意気消沈しながら、楯無は嘗ての親友に無意味と解りつつも問いかけた。
「そんなモン知るか。自分で考えなさいよ
「っ!?」
そんな彼女に浴びされる罵声……その言葉に驚いて振り返った楯無の視線の先に居た人物……天野晴美の姿に楯無は目を見開き、そして……。
「ハハっ……きっとそう言うんでしょうね。晴美は……。
こんな幻覚まで見ちゃうなんて…………私もう駄目なのかなぁ?」
「……オイ」
苦笑いしながら目の前に居る晴美を幻覚と勘違いした。
「幻覚じゃないわよ!アンタ目の前の幼馴染の姿も分かんないの!?」
「でも、幻覚なら……私が作った幻覚なら、もう少し優しい言葉ぐらいかけて欲しかったな……」
「いや、だから……」
「ごめん……ごめんね晴美……。
私が不甲斐無いから、無力だから、アンタを守れなかった。そして今度は、簪ちゃんも……」
「話聞けってんだボケェッ!!」
「アガッ!?」
噛み合わない会話に業を煮やし、楯無の頭に晴美の拳骨が炸裂した。
「痛っ~~~!?は…………晴、美…………本当に、晴美なの?
本当に、ココに居るの?」
「やっと気付いた?
ったく、久々に会ったってのに何て様よ?」
漸く目の前に居る存在が実物だと認識し、楯無は呆然としながら晴美の顔を見詰め、恐る恐る手を伸ばしてその顔に触れる。
目の前の晴美がそこに存在するのを確認するために……。
「ちょっ、触りすぎでしょ?いつまでペタペタ触って……」
「晴美ぃぃっ!」
「わわっ!?」
そして堰を切ったかのように楯無は大声を上げて晴美に抱きついた。
「晴美、晴美ぃっ!!
本当に、本当に晴美なのよね?幻覚じゃないのよね!?本当にココにいるのよね!?」
「……ああ、まごう事なき本物よ。久しぶりね、刀奈」
「晴美、晴美ぃぃっ、うわあああああああああああああああああん!!」
「ったく、何年経っても泣き虫なんだから……」
自身の胸にしがみ付いて声を上げて泣き続ける楯無を、晴美は穏やかな笑顔を浮かべながら彼女の頭を優しく撫でたのだった。
次回予告
親友との再会……それは楯無にどんな影響を齎すのか?
そして、遂に始まる夏休み。
退院した一夏、箒と合流した武術部メンバーはいよいよ幻想郷へと出発する。
次回『幻想の地へ』
晴美「今度は信じてみなさいよ……」
一夏「実はもう一人、合宿に参加する事になった奴がいるんだ」
??「皆、久しぶり!」