東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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飛行訓練とラブコメ展開

 千冬が一夏の家で正式に暮らすようになって2週間程が経過した。

千冬の体に巻かれていた包帯はもう既に取り外され、自由に動けるほどに回復していた。

さすが元ブリュンヒルデと言うべきか、千冬の回復力はかなりのものであり、それに加え魔理沙が持ってきてくれた傷薬の効果も抜群のため、ナイフで刺された傷は一週間という速さで完治したのだ。

 

「どうだ?昨日よりだいぶ高く浮くようになったぞ」

 

「おお、本当だ!この調子ならあと一週間ぐらいで自由に飛べると思うぜ」

 

 そして今、千冬は魔理沙による指導の下、魔力のコントロールの特訓中であった。

当初は一夏だけで指導していたのだが、どこで話を聞きつけたのか魔理沙も指導に参加すると言い出し、現在は一夏と交代で千冬の指導を行う事になった。

ちなみに、一夏は現在仕事に出ているため魔理沙が指導を担当している。

 

「しかし、大分マシになったとはいえ、こんなに体力を使うとは……」

 

 休憩に入り額に汗を浮かべて千冬は地面に降りて水筒に入った水を飲んで水分を補給する。

 

「仕方ないぜ。慣れない内は魔力を余計に消費するから、体力にも負担が掛かるんだ。実際私や一夏だって最初はそうだったぜ」

 

「ああ、分かっている……しかし一夏の奴、たった一年であそこまで強くなるとはな……」

 

 千冬は思わず遠い目になる。

一夏の戦闘力は肉弾戦、弾幕戦問わず非常に高い。

元々弾幕戦には高い集中力と反射神経、そして体力が要求されるため、魔力で体を活性化させ、集中力を持続させ、反射神経を高める必要があり、それに耐えうる程度の肉体を作る必要がある(ただし、活性化と同時に回復魔法で負担を軽くするという方法もある)。

それに加えて一夏の場合、一夏の持つスペルカードのいくつかは一夏自身の生身の攻撃力に比例して威力が増えるので、それを最大限活かすための肉体鍛錬は必須事項なのである。

その上、妖怪退治やら異変解決やらで修羅場を潜ったという事もあり、一年という期間で一夏の戦闘力は生身だけでも千冬と互角以上の実力を持つ程に成長していた。

 

 それを知った千冬は数日程前に一夏と組手をしてみたがその結果は敗北。

いくら一年間も自堕落な生活を送っていたとはいえ、これでは正直言って元ブリュンヒルデの面目丸潰れも良い所である。

 

「せめて、守られるだけでなく、お互い守りあえるぐらいにはならないとな……魔理沙、続きを頼む」

 

 軽い休憩を終えて千冬は再び立ち上がって魔力を体中に循環させ、再び浮遊した。

 

「よ〜し、今度はそのまま前に進んでみろ」

 

「よし……」

 

 ISを使用していた頃を思い出してゆっくりと前に進む。

元々千冬はISで飛ぶという事に慣れていたのでこれは割と難無くこなせた。

 

「移動は問題ないか。となると魔力の消費を抑えるのに重点を置くべきだな……よし千冬、その状態を維持しろ。そうすれば魔力のコントロールにも慣れるはずだぜ」

 

「わかった」

 

 空中に浮き続けながら千冬はゆっくりとではあるが移動を続ける。

ある時は前に前進し、時折方向転換や後退を交えながら飛行を続けた。

 

 

 

「ただいま〜〜」

 

 そして日も暮れてきた頃、仕事と買い出しを済ませた一夏が帰宅する。

 

「ああ、一夏おかえ…うわっ!?」

 

 一夏に気を取られて千冬は思わずバランスを崩して落下してしまう。

死ぬほどの高さではないがそれでも十分危険だ。

 

「危ね!」

 

 急いで一夏が駆け寄って千冬を抱き止める。

 

「うぉっ!(こ、これは……)」

 

 しかし抱き止めた姿勢が幸か不幸か一夏の顔は千冬の胸の谷間にすっぽりと収まった。

 

(ち、千冬姉の胸がモロに……!)

 

「い、いい、一夏!!おお、お前、どこに顔を!?」

 

「わわ!?ゴメン!!!」

 

 慌てて赤面しながら体を離す一夏。

千冬の方も顔を真っ赤にして胸を押さえている。

 

(ち、千冬姉ってこんな顔もするんだ……)

 

 外界に居た頃は常に凛として世の女性達の憧れの的だった千冬だが、こんな風に恥じらう仕草は一夏も初めて見る。

そしてそのギャップに思わず目を奪われてしまう。

 

(い、一夏が私の胸に……私の……)

 

 千冬もアクシデントとはいえ一夏に自分の胸に顔を突っ込まれた事に戸惑い、胸が高鳴っていた。

 

「ふ〜〜ん(にやにや)」

 

 一方でラブコメさながらの展開に魔理沙は二人を眺めながらニヤニヤと笑っていた。

 

「ま、魔理沙……何で笑ってんだよ?」

 

「べっにぃ〜〜。姉弟でラブコメやってるなぁ〜〜なんて私はちぃーーっとも思ってないぜ(ニヤニヤ)」

 

「んなぁ!?」

 

 魔理沙のとんでもない言葉に一夏は茹蛸のようにより一層顔を真っ赤にさせる。

 

「でも気にする事ないと思うぜ♪ここは幻想郷だし常識に囚われる必要も無いし」

 

「テメェ、ぶっとばすぞコラァ!!」

 

「おっとそいつはゴメンだぜ!じゃあなーーー!」

 

 一夏が顔を真っ赤にして反論すると同時に魔理沙は脱兎の如く箒に跨って逃げていった。

 

「ったく、あの野郎……千冬姉、気にしなくても良いから。……千冬姉?」

 

(此処なら常識にとらわれる必要が無い?それなら一夏と……いや、ダメだ!それでも姉弟でそんな関係になるのは常識以前に道徳が……。いや、でも……)

 

 一夏と魔理沙の不毛な会話の中、千冬はモラルと感情の間で葛藤していたのだった。

 

 

 

 その後も千冬の飛行訓練は続き、千冬はISで得た感覚と高いセンスで着々と魔力コントロールのコツを掴み、訓練10日目にはかなり自由自在に空を飛べるようになった。

後に彼女は一夏と共に異変解決などに活躍するようになるが、それはまた別の話。


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