烏森に選ばれた少女   作:琴原

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男性教師

朝、通学路―――

 

 いつものように雪村時音と並んで歩いていると、覚悟を決めたように話し掛けてくる。

 

「えと、真守美!その、こ、今度よかったら、い、一緒に、料理でも...」

「…いいよ」

「!ほ、本当に?!」

「うん」

 

 時音はパァァァと笑顔になる。

 

「じ、じゃぁ、折り入ってまた連絡するわね!」

「ん...」

 

 二人はいつものごとく、校門前で別れる。

 その姿を見つめる男子生徒が一人いた。

 

 

 

教室ーーー

 

 真守美が授業の用意を終え、読書をしていると、一人の男子生徒が話し掛けてくる。

 

「墨村、ちょっといいか?」

 

 彼は田端といい、真守美のクラスメイトだ。

 

「何?田端君」

「いや、お前雪村時音と知り合いなの?」

「?どうしたの、いきなり」

「親しそうに話してたからさぁ」

「(親しそう…他人からはそう見えるのか)」

 

 あまり自覚ないことであったので、真守美にとっては新感覚であった。

 

「で?どうなの?」

「…あぁ。たいした事じゃ無いわ、家がお隣さんなの」

 

 そう答えると、田端は水を得た魚のようにウキウキとする。

 

「お隣さん!?おおっ、こんな身近に情報源が!彼女の趣味とかわかる?」

 

 田端はパカと、手帳を開く。

 

「…何、それ」

「フフ…俺の異名を知らないのか?」

 

 田端は”烏森DATA☆FILE”と書かれた手帳を突き出しながらいう。

 

「人呼んで情報の魔導士!烏森学園のデータバンク、田端ヒロムとは俺様のことさ!」

「でーたばんく…」

 

 「(自分で考えたのかな...)」と、若干かわいそうな子を見るような目で田端を見つめる真守美。

 

「しかもこいつの情報、ジャンクばっかだぜ」

 

 そう答えたのは、真守美のクラスメイトで隣の席の市ヶ谷。

 

「黙れ!!…で、彼女の趣味は?」

「めげないなぁ…」

「………そもそも、それを聞いてどうするの?」

「俺は情報を集めるのが趣味なの。まぁ、場合によっちゃ売るけどね、需要あるし」

「…え」

「彼女人気あるからな。一部の男にとっちゃ理想に近いし」

 

 田端は手帳の内容を読み上げる。

 

「清らか、かつ可憐!白百合のごとき美貌に流れる長い黒髪は、もはや東洋の神秘!しかも品行方正、成績優秀!それを鼻にもかけず、誰にでも分け隔てなく接する優しさは、まさに平成のナイチンゲール!!癒されたいという男子の声多数!」

「白百合…」

「東洋の神秘でナイチンゲール…」

「まーーーでも、だからこそ近寄り難いって意見もあるけどね。ちなみに…男性教師に隠れファンが多いらしい」

「…それ、大丈夫なの?」

「今のところはな。で、趣味はーーーレア情報持ってない?家族構成とか」

 

 その言葉に、真守美は動きを止める。

 

「母親と祖母の3人家族って話だけど…父親は亡くn「田端君」」

 

 真守美は田端の話を遮り、わざとらしく大きな音を立てながら本を閉じる。

 

「興味本位で他人の領域に土足で踏み入るのはデリカシーが無いと思うのだけれど、どうかしら」

「は、はい、思います」

「なら、あまり詮索しないことね」

「はい…」

 

 始業のチャイムが鳴り、田端は若干落ち込みながら席に戻る。

 

「(墨村も人気あるんだが…言わんでおこう)」

 

 

 

昼、高等部ーーー

 

 

「悪いな、墨村。高等部まで付き合わせて」

「いえ、自分が言い出したことなので」

 

 真守美は担任である黒須先生と共に、高等部に荷物を運んでいた。

 すると、曲がり角でぶつかりそうになる。

 

「おっと、大丈夫かい?」

「あ、すみません」

「いや、こちらこそすまなかったね。君が転ばなくてよかった」

「…どうも」

「では」

 

 そう言い、離れていく男性の後ろを見つめる真守美に、黒須先生が問いかける。

 

「どうした、墨村」

「…黒須先生。あの人、どなたですか?」

「ん?あぁ、英語教師が一人産休に入られてな。それで新しく入ってきた先生だ。名前は確かーーー三能たつみ…だったか?」

「三能、たつみ...」

 

 真守美は言い知れぬ違和感を覚えた。

 

 

 

 

 高等部からの帰り道、それは突然襲ってきた。

 

「っ(何、今の。一瞬だけだけど、すごい邪気を感じた...)」

「墨村?」

「あ...何でもないです」

「?そうか」

 

 

 同時刻、人目の付かない所で、一人の男を除いて男子生徒6人が倒れていた。

 

「適性の問題方かと思ってたけど…これだけ試してダメなんだ。人間を養分にするのは無理ってことか。そろそろ限界だな…」

 

 その男は、真守美が違和感を抱いた三能たつみであった。

 

「夜を待つか」

 

 

放課後、下駄箱ーーー

 

「おい墨村!」

 

 真守美が靴を履き替えていると、田端が話し掛けてくる。その横には市ヶ谷もいた。

 

「…何?」

「集団失神事件の現場見に行かね?」

「…集団失神?」

 

 真守美は怪訝そうな顔をする。

 

「知らない?最近高等部じゃ、校内で倒れる生徒が多発しててさー。外傷はないんだけど、全員倒れた前後の記憶が抜け落ちてるんだって」

「…全員?」

「そ。今度のは男子生徒が6人も同時に」

 

 それを聞き、真守美は田端に質問する。

 

「ねぇ、それが起きたのって、何時か分かる?」

「え?昼ぐらいだけど」

「…」

「墨村?」

「…悪いけど、急用を思い出したから、私は遠慮するわ。それに、そういう現場なら立ち入り禁止になっていると思うわよ。じゃあね」

 

 真守美は早歩きでその場を立ち去る。

 

「墨村って何考えてるかよくわかんないよな。美人なのに」

「最後の関係あるか?」

 

 

 

墨村家、真守美の部屋ーーー

 

 真守美はいつもより早く着替え、精神統一をしていた。

 その時、烏森に異変を感じる。

 

「(きた。でもこれは…)」

 

 真守美は変化の仕方に違和感を覚える。通常は段階を一つ一つ踏んでから変化するのだが、今回のはそれを飛ばしたような力の上昇だった。

 

 

 斑尾を引き連れ、烏森に向かい走っている途中、時音と白尾が合流する。

 真守美は走りながら時音に話し掛ける。

 

「時音さん、聞きたいことがあるのだけど」

「へ!?な、何?!急に!!」

「高等部の三能たつみ先生の事なんだけれど…」

「!…そう、真守美も気づいたの」

「…て、事は」

「えぇ…。あたし、ずっと目を付けてたんだけど…。今日、放課後職員室行っても会えなくて…。こんなことならもっと早く行動起こせばよかった…」

「なら、生徒の失神事件も…」

「もうちょっと裏とってからなんて言ってる場合じゃなかったわ」

 

 「ぬかったわー」と、時音は悔しそうに言う。

 

 

 

烏森学園、校舎内ーーー

 

 

「白尾!早く見つけて!」

《せかすなよ、ハニー;》

「斑尾」

《真守美、探す手間が省けたよ》

 

 真守美達の目の前に、男ーーー三能たつみが現れる。

 

「あら、そちらから現れていただけるなんて、光栄だわ。三能先生」

「蛇…斑尾達と似たような動物霊かしら」

 

 真守美は三能に巻き付く蛇達を静かに観察する。

 

「昼間、生徒を襲ってたのはあんたね。何が目的?」

 

 時音が質問すると、三能は気怠そうに答える。

 

「あぁ…。養分になると思ったんだけど…無駄だったな。人間はだめだ。でも…、君達は少し違うのかな…」

「(養分?まさか…)斑尾…」

《!》

 

 真守美は三能の言葉に引っ掛かり、小声で斑尾に指示を出す。

 

「ま、とにかく…夜を待った甲斐はあった。いいのが、まとめて来てくれた」

 

 そう言うと、蛇の一匹が襲ってくる。

 時音は自分の周りを結界で囲み、真守美は横に避ける。

 しかし蛇は真守美ではなく、斑尾に向かう。

 

「結!」

 

 すかさず真守美が結界を張り、斑尾を守る。

 

「(斑尾を狙う、ということは…)」

「へぇ、面白い術を使うな。うーん、そっちも面白そうだけど…やっぱり妖かな?人間てたいして進化しないし」

 

 三能の言葉に確信を得る真守美。

 

「(なら、直接養分を取りに来たこの蛇が本命!!)斑尾!その蛇よ!!」

《!!大当たりだよ、真守美!頭の後ろだ!》

 

 それを聞くと、真守美は蛇の頭を固定し、斑尾に言われた部分を結界で囲み、滅する。

 

 

 

校舎の外ーーー

 

 

「なるほど、傀儡虫に操られていたわけね。それにしても、よく分かったわね」

「あの蛇は三匹ともこの人の能力で出現させたものなのに、攻撃をしてきたのはあの一匹だけ。たとえ防御型だったとしても、あの一匹が攻撃している間にもう一匹が不意打ちで攻撃すればいいのに、この先生を守ってばかり。だから本体はあの蛇に憑りついていて、直接養分を吸収していたんだと思う。それに、先生の言葉にも引っ掛かったしね」

「じゃぁ、本来妖にしか寄生できない蟲だけど、この人がたまたま異能者だったから、あの蛇を介して憑りつけたのね」

《いやぁね、あたし憑りつかれるとこだったわ。美しいって罪~~~》

「あ、気付いた」

 

 無視。

 

「大丈夫ですか、先生」

「先生、もう少し気を付けた方がいいですよ」

「?」

 

 

 真守美と時音が今まであったことを説明する。

 

「僕は…なんてことを…」

 

 それを聞いた三能は、この世の終わりのような顔をし、手で覆い泣く。

 

「生徒に危害を加えるなんて…教師としてあるまじき行為…」

「いえ、正確には先生のせいでは…それにもう退治しましたし…」

 

 蛇達も申し訳なさそうに、真守美に近寄る。

 

「それで、私達の事はご内密に願えますか」

「いや、僕の方も教師を続けたいので…」

 

 お互いに約束を交わし、これにて一件落着。

 すると三能は、真守美と時音の手を取ると、

 

「でも、ありがとう。君達が、僕を悪の道から救ってくれたんだね。どうかこれからも、僕が道を誤らぬよう、見守ってほしい…」

「あ、あの…?」

「…」

 

真守美は握られた手を不愉快そうに見る。

 

「今日から君達は僕の女神だ!!」

 

 

「(面倒なのが増えた…)はぁ...」

 

 

 


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