烏森に選ばれた少女   作:琴原

2 / 6

普通にお父さんがお弁当渡してるけど中等部給食じゃん…。


墨村真守美という少女

 5年前のあの日から、私は結界術をモノにするため、日々精進し、今日も淡々と妖を滅していく。

 

《今夜も雑魚ばかりで、つまらないねェ。せめて雪村の小娘が、もぉ少し張り合いのある奴だったら、楽しめたのかねェ》

「斑尾」

《大丈夫よォ。近くにあの小娘は居ないわ》

「だとしても、そういう事を大きな声で言うものではないわ。それに、時音さんだって決して弱いわけではないしね」

《確かに、あの小娘は上手く自分の力をコントロールする事が出来ている。でも、ソレはアンタも同じこと》

 

 斑尾は私の前に回り込み、顔を近づけ、目を合わせる。

 

《アンタの力は”大き過ぎる”せいで、結界術だけではコントロールしきれない。だけど、他の術を加えることで、力の均衡を保つことが出来ている。それは”あの御方”ですら成しえなかった事》

 

 斑尾は目を細め、楽しそうに、愉快そうに、愛おしそうに、狂おしそうに、怪しく不気味に笑う。

 

《アンタは一体、どんな最後を迎えるのかねェ》

 

 

翌日、朝―――

 

ピピピピピ――――カチッ。

 

 目覚ましを止め、布団から起き上がり、片付けてから制服に着替える。

 洗面台で身嗜みを整えていると、弟の利守が目を擦りながら現れた。

 

「おはよぉ、真守美姉ちゃん」

「おはよう、利守」

 

 利守の準備が整うまで待ち、一緒に朝食のいい匂いがする居間へ行く。

 そこには父と祖父が居た。

 

「おはよう、父さん、おじいちゃん」

「おはよう!」

「おはよう、真守美、利守」

「うむ」

 

 挨拶を終え、私達はそれぞれの位置に座る。すると、祖父が話し掛けてくる。

 

「真守美、昨夜も雪村の娘を出し抜いたそうじゃな。流石は、我が墨村家の正統なる後継者。今後も、精進するように」

「出し抜いたつもりは無いのだけれど...。これからも、墨村の名に恥じぬ働きをします」

「うむうむ」

「二人とも、ご飯が冷めてしまいますよ」

 

 

 朝食を食べ終え、鞄を持ち、玄関で靴を履く。その間に、父が見送りに来る。

 

 

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けて行くんだよ」

「うん」

 

 父と玄関で別れ、門を開けると

 

「あ」

 

 同時に、雪村 時音が出てきた。

 

「お、おはよう!」

「…おはよう」

 

 挨拶を返し、通学路に足を進めると、私の隣を時音さんが歩く。彼女はソワソワしながら歩くが、特にこちらに話し掛けてくるわけではなかった。

 そうこうしているうちに、目的地である学校につく。

 中等部と高等部では校門が違うので、彼女とはココでお別れだ。

 

「じ、じゃぁ!また、夜に!」

「ん…」

 

 わざわざ私に向き直って別れを言う彼女に、短く返事をする。彼女は校門へ歩き始めるが、チラチラとこちらを見てくるので、小さく手を振る。すると彼女は、

 

「~~~~~っ!!」

 

 何だか嬉しそうに顔を赤らめながら走って行った。

 校門を潜るのを確認して、私も自分の校舎へ足を運ぶ。

 

 

午後8時、墨村家――

 

 

「父さん、手伝うよ」

「いいよ、真守美は時間までゆっくりしていなさい」

「でも…」

 

 すると、烏森の結界に侵入する気配を感じる。

 

「真守美」

「はい、直ぐに準備します」

 

 私は急いで部屋に戻り、着替えを済ませ、外に出る。

 

「斑尾、仕事だよ」

 

 そう呼びかけると、犬小屋から斑尾が欠伸をしながら出てくる。

 

《まったく。こんな時間に侵入してくるなんて、非常識な奴が居たものだよ》

「こっちの常識が通じる相手なわけないでしょ。行くよ」

《はいよ》

 

 

烏森学園――

 

 

「どう?」

《どうやら、林の方に居るみたいだね》

「よし、行くよ」

 

 私達は妖が居る方へ向かう。

 

《――!真守美!!》

「えぇ」

 

 斑尾の声と同時に、周りに結界を張る。その直後に、妖が放ったであろう攻撃が来るが、結界のおかげで無傷だ。そして、その妖が姿を現す。

 

「まるでイモリね」

《焼いたら美味いかしら》

「お腹壊しても知らないよ」

 

 軽口をたたきながら、私はイモリもどきを観察する。すると、地面が抉れていることに気づく。

 

「成程、今のは土を弾にして連続で放ってきたのね」

《どうするんだい?雪村の小娘を待って、協力するかい?》

「そんなことをしている間に、地面どころか校舎まで抉られているでしょうね」

《なら》

「えぇ。何時もの様に、淡々と仕事をこなすだけよ」

 

 真守美は、印を結んでいる手とは逆の手で、違う印を結ぶ。

 すると、妖が踏んでいた影が、突然妖を縛り上げ、吊るされる状態になる。そんな状態の妖を結界で囲む。

 そして容赦無く、腕を下す。

 

「滅」

 

 その言葉と共に、結界は砕け散る。

 

「天穴」

 

 そして残骸は天穴に吸い込まれ、跡形もなくなった。

 

《他愛ないねェ》

「……そうね」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。