普通にお父さんがお弁当渡してるけど中等部給食じゃん…。
5年前のあの日から、私は結界術をモノにするため、日々精進し、今日も淡々と妖を滅していく。
《今夜も雑魚ばかりで、つまらないねェ。せめて雪村の小娘が、もぉ少し張り合いのある奴だったら、楽しめたのかねェ》
「斑尾」
《大丈夫よォ。近くにあの小娘は居ないわ》
「だとしても、そういう事を大きな声で言うものではないわ。それに、時音さんだって決して弱いわけではないしね」
《確かに、あの小娘は上手く自分の力をコントロールする事が出来ている。でも、ソレはアンタも同じこと》
斑尾は私の前に回り込み、顔を近づけ、目を合わせる。
《アンタの力は”大き過ぎる”せいで、結界術だけではコントロールしきれない。だけど、他の術を加えることで、力の均衡を保つことが出来ている。それは”あの御方”ですら成しえなかった事》
斑尾は目を細め、楽しそうに、愉快そうに、愛おしそうに、狂おしそうに、怪しく不気味に笑う。
《アンタは一体、どんな最後を迎えるのかねェ》
翌日、朝―――
ピピピピピ――――カチッ。
目覚ましを止め、布団から起き上がり、片付けてから制服に着替える。
洗面台で身嗜みを整えていると、弟の利守が目を擦りながら現れた。
「おはよぉ、真守美姉ちゃん」
「おはよう、利守」
利守の準備が整うまで待ち、一緒に朝食のいい匂いがする居間へ行く。
そこには父と祖父が居た。
「おはよう、父さん、おじいちゃん」
「おはよう!」
「おはよう、真守美、利守」
「うむ」
挨拶を終え、私達はそれぞれの位置に座る。すると、祖父が話し掛けてくる。
「真守美、昨夜も雪村の娘を出し抜いたそうじゃな。流石は、我が墨村家の正統なる後継者。今後も、精進するように」
「出し抜いたつもりは無いのだけれど...。これからも、墨村の名に恥じぬ働きをします」
「うむうむ」
「二人とも、ご飯が冷めてしまいますよ」
朝食を食べ終え、鞄を持ち、玄関で靴を履く。その間に、父が見送りに来る。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けて行くんだよ」
「うん」
父と玄関で別れ、門を開けると
「あ」
同時に、雪村 時音が出てきた。
「お、おはよう!」
「…おはよう」
挨拶を返し、通学路に足を進めると、私の隣を時音さんが歩く。彼女はソワソワしながら歩くが、特にこちらに話し掛けてくるわけではなかった。
そうこうしているうちに、目的地である学校につく。
中等部と高等部では校門が違うので、彼女とはココでお別れだ。
「じ、じゃぁ!また、夜に!」
「ん…」
わざわざ私に向き直って別れを言う彼女に、短く返事をする。彼女は校門へ歩き始めるが、チラチラとこちらを見てくるので、小さく手を振る。すると彼女は、
「~~~~~っ!!」
何だか嬉しそうに顔を赤らめながら走って行った。
校門を潜るのを確認して、私も自分の校舎へ足を運ぶ。
午後8時、墨村家――
「父さん、手伝うよ」
「いいよ、真守美は時間までゆっくりしていなさい」
「でも…」
すると、烏森の結界に侵入する気配を感じる。
「真守美」
「はい、直ぐに準備します」
私は急いで部屋に戻り、着替えを済ませ、外に出る。
「斑尾、仕事だよ」
そう呼びかけると、犬小屋から斑尾が欠伸をしながら出てくる。
《まったく。こんな時間に侵入してくるなんて、非常識な奴が居たものだよ》
「こっちの常識が通じる相手なわけないでしょ。行くよ」
《はいよ》
烏森学園――
「どう?」
《どうやら、林の方に居るみたいだね》
「よし、行くよ」
私達は妖が居る方へ向かう。
《――!真守美!!》
「えぇ」
斑尾の声と同時に、周りに結界を張る。その直後に、妖が放ったであろう攻撃が来るが、結界のおかげで無傷だ。そして、その妖が姿を現す。
「まるでイモリね」
《焼いたら美味いかしら》
「お腹壊しても知らないよ」
軽口をたたきながら、私はイモリもどきを観察する。すると、地面が抉れていることに気づく。
「成程、今のは土を弾にして連続で放ってきたのね」
《どうするんだい?雪村の小娘を待って、協力するかい?》
「そんなことをしている間に、地面どころか校舎まで抉られているでしょうね」
《なら》
「えぇ。何時もの様に、淡々と仕事をこなすだけよ」
真守美は、印を結んでいる手とは逆の手で、違う印を結ぶ。
すると、妖が踏んでいた影が、突然妖を縛り上げ、吊るされる状態になる。そんな状態の妖を結界で囲む。
そして容赦無く、腕を下す。
「滅」
その言葉と共に、結界は砕け散る。
「天穴」
そして残骸は天穴に吸い込まれ、跡形もなくなった。
《他愛ないねェ》
「……そうね」