物語館   作:むつさん

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どうもむつさんです。

寝る前にちまちま進めながらなのでとても遅くなりました。


ごゆっくりどうぞ


人と河童の僅かな時間

里で建築業をやっている男が、妖怪の山の検問所まで来ていた

 

……

 

「通行証はあるか。」

 

「これでいいか?」

 

上着の内ポケットから通行証を出す

 

「いつものように河童の所まで行くのか」

 

「そうだな。」

 

「わかった、同行する。」

 

「大丈夫だ。一人で行ける」

 

「すまないが理由があって、今は外からの来訪者には同行しないといけないんだ。」

 

「わかった」

 

検問を越えて河童のところに向かう。

 

「同行を付けるということは何かあったんだな」

 

「これからある。」

 

「天狗の集会と言ったところか?」

 

「だとしたらどうする、襲うか?」

 

「興味ない」

 

「だろうな。」

 

「そんなことしたら自分で首絞めてるようなものだ、山に入れないんじゃ仕事も捗らない」

 

「まぁ、河童の機械は便利だからな」

 

そんな風景の最中、一匹の妖怪がこちらを睨んでいる、いつ襲おうかなんて気を張っているんだろう

 

「気づいてるとは思うけどさ。」

 

「わかってるよ、いつでも構える用意はしてる」

 

そんな警戒もお構いなしに。

獣の様な妖怪が飛びかかってきた、

 

「藪から棒に…」

 

「人間は下がっていろ。多分狙いはお前だ」

 

「そのほうが都合がいいんだよな」

 

背負っている大きなカバンから一つの機械を取り出す

 

「何だそれ…」

 

「電ノコ、普段は木を切り倒すのに使うんだよ」

 

「木?!お前まさか」

 

電ノコの電源を入れて構えた

 

「妖怪に襲われるときはいつもこいつを使ってる。」

 

動く刃に血のような紅い色が染みついているのがよく見える

 

「いつも?!一度や二度じゃないのか…」

 

「まぁな、襲ってくるなら反撃するしかないだろ。」

 

「そ、そんなもの使ったら…」

 

何も知らない獣の妖怪が飛びかかって来る。

 

「バカなやつだ」

 

薙ぎ払うように妖怪に向かって電ノコで斬りつけると、妖怪は異様な叫びを上げながら真っ二つに裂け地面に落ちた

 

「これが…電ノコ…」

 

「本来は木を切り倒す道具だ、頑丈かつ鋭利、力も強い上に何枚もの細かい刃で繰り返し切り込むから相当な力を持ってる、やろうと思えば鉄も斬れる、おすすめはしないけどな」

 

「皮なんて一瞬じゃないか…」

 

「取り扱い注意ってね。」

 

「こんなもの向けられたら…」

 

「あんたの剣も真っ二つだな。」

 

「やめてくれ、想像するだけでも寒気がする」

 

「安心しな、襲われない限りは使わない」

 

「ま、まぁ…」

 

そんな会話をしていると、河童の工房まで着いた

 

「おお、また来たんだね」

 

「にとり、今日はホバリングシューズと水平器とマジックアームを頼む」

 

「はいよ〜また建築だねぇ」

 

「今回のはちょっと大きくてね。」

 

「ハイハイ。向こうの椅子で待っててくれるかい」

 

「はいよ」

 

返事をするとにとりは奥まで道具を取りに行く

 

「河童とは仲がいいんだな」

 

「まぁ、この工房を建てる時も手伝ったし、いくつか河童からのお願いも聞いてるからな。」

 

「ふーん。まぁお互い様って感じか。」

 

「そんなもんかな」

 

「おまたせ〜。」

 

「おう、ありがとう。」

 

「いつもどおり。終わってから返してくれよ、一応動作確認はしたけど、調子悪かったり動かなかったら他のものに取り替えるからまた持ってきて。」

 

「いつも助かってるよ。ありがとう」

 

「礼はいいよ。こっちのほうが助かってんだから」

 

「ははは、そんじゃまた来るよ」

 

「はいよ〜、天狗さんもお疲れ様」

 

外に出て検問所まで何事もなく戻った。

 

「それじゃ、私はここまでだ」

 

「お勤めお疲れ様です。世話になった」

 

「まだ山を出たわけじゃないから気を抜くなよ。まぁ大丈夫だとは思うが」

 

「まぁな。それじゃ」

 

山を降りて人里に帰り着く。

 

……

 

里の南側。大きな空き地に居た。

 

「うーん。設計図通りにやるとは言ったが、これは余るな…どうしたものか」

 

建設予定地が広いため土地の大きさに合わせて立てることもできるが。

設計図はそれより2割ほど小さい

 

「幅を余らせる理由でもあるのか。」

 

そんなことを呟いていると

一人の人間が話しかけてきた

 

「あんたが浦さんか」

 

「ええ、浦上といいます。」

 

「依頼した春宮だ。よろしく頼むよ」

 

「はい。承りますが、ひとつだけ質問をいいですかね」

 

「何かな?」

 

「予定地の広さよりも小さめな設計で、2割ほど余ってしまいますが、何か理由があるのかね?」

 

「ああそうだな、できる限り左右どちらかに寄せて建ててほしい、蔵を他にお願いするつもりだからな。」

 

「なるほどな、そういうことなら了解した。」

 

「頼んだよ」

 

河童から借りた機械を身に着けて作業に取り掛かる。

 

数日に渡り建築を済ませた

空き地だった場所に立派な戸建ての家が建ち、近くの住人達は羨ましそうに眺める人も居た

 

「流石は浦さん、評判通りの素晴らしい腕前ですな」

 

「まぁ、そう言って貰えると助かります」

 

「あとは知り合いに蔵を頼むよ。ありがとう今回の依頼費だよ。受け取ってくれ」

 

「毎度あり。また何かあったら呼んでくだい」

 

「ああ、そのときは頼むよ」

 

借りた機械を返すために、

現場をすぐ片付けて山に向かった

 

「通行証はあるか?」

 

「これでいいな」

 

「確かに確認した。だが気をつけろよ、最近妖怪共が荒れ気味だからいつもより辛辣な空気が漂ってる。」

 

「忠告ありがとう。」

 

検問所を抜け何事もなく河童の工房に着く

 

「にとり。返しに来たぞ」

 

入り口で呼んでも返事が聞こえない

 

「にとり?」

 

失礼かもしれないが上がり込んでにとりを探す。奥の襖を開けるとはだけてる状態で寝ているにとりを見つけ。襖をすぐに締めた

 

「なんというか…」

 

「あっ、ご、ごめん」

 

「いや、俺も悪かった。機械を返しに来たぞ」

 

「ちょ、ちょっとまってて…」

 

いつものように入り口近くの椅子で待っていた

 

「ごめん、受け取るよ」

 

「今回もありがとう。とりあえず不調とかは無かったからすんなり終わったよ」

 

「そりゃよかった」

 

「それじゃ…」

 

「あ、あの…さ」

 

なんとなく嫌な予感はしていたが

やはり呼び止められた

 

「きょ、今日、泊まっていかないか?」

 

「お前なぁ…」

 

「その…ちょっと疲れちゃってさ…」

 

「仕事終わってすぐ返しに来てて俺も疲れてるんだ。」

 

「その…私はお前と親しいつもりで、他に連れも居ないし。というか好意自体はずっと前からあるわけだから…」

 

「ちょっと落ち着けよ、俺も気持ち自体を否定するつもりはない。ただタイミングが悪いんだよな。」

 

「うう…」

 

「せめて支度だけしてからもう一度来させてくれ。」

 

「そ、それは構わないよ!」

 

「それじゃ、一旦帰るよ。」

 

「ちゃんと戻ってきてよ?」

 

「わかってるよ。」

 

……

 

困った…といえば少し語弊があるだろう…

少し緊張に似た感覚がある、いや、間違いなく緊張感だろう…

 

「にとり、戻ったぞ」

 

「えっと。夕飯用意したんだけど。食べるかな」

 

「ありがとう、頂くよ」

 

普通の夕飯。ちょっときゅうり料理が多いくらいだ。

 

「どう。美味しい?」

 

「うん、旨いよ。俺も料理する方だけど、これだけ上手く作れるのは羨ましい。」

 

「よかった。」

 

「ごちそうさま。」

 

食器を片付けて部屋に戻るとにとりが俯きながら机を片付けていた。

 

「どうした。」

 

「あっ、いや…あの。」

 

俯くにとりの正面に座って声をかける

 

「まぁ。俺も慣れないことばかりだからな。気持ちはわからないでもない」

 

「普段は仕事柄での話しかしないから。いざこういう状態になるとどうすればいいのかわからないんだ。」

 

「普段と同じようにしてくれればいい、まぁ、初めは難しいかもしれないが、そのうち慣れるだろう。」

 

もっとも、今後も泊まることがあるならの話だが。

 

「なんだか…いざ近くにいると上手く話せないというか。」

 

「まぁ、ゆっくりな。」

 

布団を広げてとりあえず横になる。

少し気まずい感じはするが…

 

「にとり?」

 

軽い寝声が聞こえてくる。

目線を向けると寝入ってしまっている

 

「寝てるのか…早いな」

 

まぁ、無理に起こす用事もないから

おとなしく俺も寝ることにした。

 

……

 

翌朝、目を覚ますと

にとりは隣に居なく、

部屋の外から金属がぶつかり合うような音が聞こえてきていた

 

「もう起きてるのか…」

 

仕事疲れか、少しばかり気怠い。

まぁいつものことなんだが。

 

「あっ、おはよう。起きたね」

 

「朝は早いんだな。」

 

「まぁね。そのほうが時間が有意義に使えるし」

 

「確かに。」

 

「仕事上がりで疲れてるのに無理言ってごめん。」

 

「まぁ、少し驚いたよ。」

 

「だよね…」

 

「たまにならいい、俺も仕事してるときは人里に居ないといけないし。仕事のない日とかなら大丈夫。」

 

「うん、その時は声かける、朝ごはん用意したよ」

 

「ありがとう、いただくよ。」

 

きゅうり多めの朝食、

どこから持ってきてるんだろうか

 

「ごちそうさま。」

 

食器を片付けて部屋に戻り荷支度をしないと

 

「…ねえ。ちょっとだけ。いいかな。」

 

「どうした…?」

 

何も言わずに背中から乗っかるように抱きついてくる。

 

「心配か。」

 

「心配、というか…」

 

「大丈夫、また来るさ」

 

「うん。」

 

にとりが離れて、玄関まで向かう。

 

「それじゃ、また今度な」

 

「また仕事があるときにでも来て」

 

お互いに挨拶を済ませて

工房を後にして山を下った。

 

……

 

また今度…

その言葉がとても寂しく感じた。

 

「…またいつか別れるときが来る…一期一会ってこの事かな」

 

そう思えば少し気が楽になるだろうか…

なのに、気が付けば彼のことを思い出し。

いつ来るかなんて考えてしまう。

 

機械たちのメンテナンスをしていても、新しい機械を試作していても、何故か彼のことを思い出す。

 

 

あれから数日経っても。

何故か彼の事を考えている

 

いつからかあまり覚えがない。

また、人間に、彼に恋している…

 

「…なんでなんだろうなぁ…」

 

考えても尽きない。

 

夏の温かい陽気に当たりながら黄昏れていると工房の入り口で足音が聞こえた。

 

「にとりー」

 

聞き覚えのある。女天狗の声だ。

 

「あ、椛どうした?」

 

「暇つぶしに来た」

 

「将棋するかい?」

 

「負け越しだからねー」

 

「構わないよ」

 

「うん、でもなんか元気なさそうだね」

 

「え?そんなことないけど。」

 

「なんか悩んでる?最近機械でうまく行ってないとか」

 

「いや、機械のことは何もないけど…」

 

「その様子だと、考え事だね、」

 

「うーん。そんな感じ」

 

「よしじゃあ、今日はにとりの相談事聴いて暇潰すよ。」

 

「話聴いて暇潰すなんて、また上から目線な」

 

「でもその状態で将棋やっても上手く行かないんじゃない?」

 

「まぁ確かにそうかも」

 

「ほらほら、話してよ」

 

「なんていうかね。人間を気に掛けててさ」

 

「あの、建築の仕事熱心な男?」

 

「そう。なんか気が付いたら気に掛けるようになって。恋してるのかなって」

 

「いやもうそれは、うん。」

 

「だよね、でもなんかさ」

 

「男に欠点でもあるなら悩むのもわかるなぁ」

 

「いや、非の打ち所は全く持ってないんだよ、仕事熱心で真面目で優しくて思い入れもあるし」

 

「うんうん、ならなんで悩むの?」

 

「相手は人間なんだよね…だから私は長く生きるけど彼は先に死んでしまうんだよ…」

 

「まぁそれは当たり前のことだから仕方ないよ?私は経験したことないからわからないけどさ。でもお互いいつか会えなくなるなんて人間同士でもある事なんだから。彼からすればそれは全うなことじゃない?」

 

確かにそれは間違いない。

あのときもそうだった

 

「別れが辛いって言うならそれはにとり次第だけど、お互い愛して、最期を見届けてあげたいならいいと思うな。」

 

「わかっているんだけど…」

 

「何か引っかかるの?」

 

「また辛い別れが、なんかね…」

 

「あれ、二回目?」

 

「うん、昔、人間と愛し合ったことがあるんだ、その時の彼は私が妖怪だって知ってて付き合ってて。結局彼は老衰で亡くなった。悲しかったし時が戻ればなんてことも思ってた。数年間虚無感に沈んでた」

 

「そんなことあったなんて初耳」

 

「うん、同じ河童仲間でも知ってるのは少ない」

 

「なんていうかさ、仕方ないっていい方は悪いけどさ、別れは必然だよ、でも例え彼が亡くなってもにとりが本当の意味で忘れないならそれでいいと思う。昔の彼のことだって覚えてるわけだし」

 

昔の彼だってたまに思い出す。

だから忘れてないのかな

 

「私は、応援するよ」

 

「ありがとう。」

 

「さてと、丁度いい暇つぶしになったから、私はもう行こうかな」

 

「また今度来たときは将棋の相手をするよ」

 

「今度は負けないからね。」

 

椛は工房を出て勢い良く飛んでいった。

 

「もう少し。頑張ろうかな、」

 

そう呟いて機械のメンテナンスに戻る

 

……

 

その日の仕事を終え、帰宅していたときのことだ。服装からして同じ建築の仕事関係であろう男が訪ねてきた

 

「貴方が浦上さんですかね?」

 

「ええ、そうですが貴方は?」

 

「竿丈といいます貴方と同じ建築業をやってるんです。」

 

「同業者の方でしたか。それで何用です?」

 

「一つお願いがありましてね。是非とも仕事道具を貸していただきたいんですが」

 

「俺個人の所有物なら仕事外のときであれば貸せなくはないがそれ以外はダメだ。」

 

「全部浦上さんの道具ではないのですか?」

 

「一部の道具は借り物でね、安々と他人に貸せる物じゃないんだ。」

 

「であれば直接お願いしに行きますので教えていただけないですかね」

 

「教えたところで断られると思うぞ?」

 

「なるほど…わかりました、無理なものは仕方ないですね」

 

「残念だがそういうことだ」

 

「一応お聞きしますが…河童の技術ですよね」

 

「ああ、察しがいい。間違いないよ」

 

「わかりました。」

 

「もう一つ行っておくと妖怪の山に行かなきゃいけないからな。」

 

「山に?!」

 

「通行証は必須だそれに、検問所で怪しい目で見られても通してもらえない。」

 

「なら何故浦上さんは…」

 

「信用だよ。」

 

「信用…?」

 

「俺は妖怪の山の妖怪達によく知られている。尚且つ、山の妖怪達からの信用がある。」

 

「それなら通行証なんていらないのでは?」

 

「社交辞令的なものさ、最低限のルールと言ったほうがわかりやすいかな。」

 

「最低限のルール」

 

「そう。人間の誰もが自由に立ち入れるわけではない、まぁ一部例外はあるみたいだが」

 

「浦上さんも例外なんですかね」

 

「いいや、俺は信用を得ているからってだけだ。」

 

「なら、例外とは…誰のことで」

 

「そりゃこの幻想郷の問題事に関わる者達だな。巫女とか吸血鬼とか」

 

「そうか…」

 

「まぁ、諦めてくれ」

 

「仕方ない。」

 

男は肩を落として去っていく。

ダメ元みたいな感じだったが。

もとより自分の道具も貸す気はない

 

「さて、帰るか。」

 

家に帰ってそのまま寝た。

 

その数日後。今の仕事を終えて山を登り。河童の工房の手前まで来ていた。

 

「おい。そこのお前」

 

聞き覚えのない声だ。

ヘビの妖怪だ

 

「私に用ですか。」

 

「そうだ。貴様。名は何という。」

 

「浦上。名前がどうかしたか?」

 

「浦上…以前山に来た人間がその名をあげて盛大に罵声を叫んでいたな…」

 

「酔狂なやつがいるもんだな」

 

「貴様は悪人なのか?それともあの人間が嫉妬をしていたのか」

 

「後者だろう。私は全うな普通の人間だ、建築を営んでいるだけだが。誰かに妬まれるようなことはした覚えない」

 

「そうか。人間にも変なやつがいるものだな」

 

「結局、そいつはどうなったんだ?」

 

「聞いていて不愉快だし煩いから食ってやったよ。全く。この山は吐き溜めた感情を叫ぶところではないのだがな」

 

「食ったのか。」

 

「おや、知り合いでも?」

 

「名はなんて?」

 

「自分のこと様付けしていたな、確か竿なんたらって言ってた気がするぞ」

 

「ああ、竿丈の若い奴か」

 

「やはり知り合いか。」

 

「んや、知り合いというのには程遠いが顔と名前を知っている程度」

 

「なるほど。いまさら吐き出したところで、もう骨だけだ。」

 

「だろうね。用件ってそれだけか?」

 

「まぁ、その竿丈という人間が、河童の機械のことも言っていてな。恐らく貴様のことも指して何かあるのかと思ったのだが」

 

「ああ、以前河童の道具を貸してくれとお願いされてね断ったんだよ。」

 

「なるほど。それで嫉妬をして山にまで来ていたわけだな」

 

「多分な。検問所もよく通してもらえたもんだ。」

 

「確かに貴様は顔馴染みだからな、検問も通るだろう。それ故下手に手出しすら出来ぬが、あの様な人間がどうして検問を抜けれるものなのか」

 

「さぁ、今となってはわからないけど検問をせず抜けてきた可能性は否めないな。」

 

「やはり、食って正解だったか」

 

「かもしれないな。」

 

「ふむ、まぁそういったところだ。時間を取らせたな」

 

「まぁこっちも仕事終えたところだから構わないよ」

 

「さて、陽もまだ高いな。一眠りつくことにする。」

 

「おう、またな」

 

ヘビの妖怪は見えなくなる程遠くに行ってしまった。

「相変わらず、顔が広いんだね」

 

河童、にとりの声だ。

 

「広めた覚えはないんだけどな。」

 

「まぁいいじゃん。ここが妖怪の管轄とはいえ下手に手出しできない人間なんて少ないんだ。」

 

「そうか。道具、返しに来たぞ」

 

「受け取るよ。とりあえず工房まで行こう。」

 

 

「そういえば。なんだけどさ」

 

「うん?」

 

「今日は空いてるの?」

 

「まぁ、仕事は終わって返しに来たわけだしな」

 

「そうだよね」

 

「泊まってこうか?」

 

「うん。夕飯用意するね」

 

「ありがとう」

 

いつものようにきゅうり多めの料理。

 

「1つ、聞いていい?いや、1つじゃ収まらないかも」

 

「何だ?」

 

「あんたって人間に恋人っているの?」

 

「割と直球な質問だな、人間に限ってわざわざ聞く必要あるか?」

 

「いや、特に深い意味はないんだけど。」

 

「恋人はいない。」

 

「それなら、さ」

 

「付き合ってくれってことだな」

 

「うん、まぁね」

 

「俺は先に死んじまうし、それはいいのか?」

 

「…大丈夫だよ。慣れてる」

 

「慣れてる。そうか。」

 

「えっと…うん。」

 

「でもまぁ。仕事もあるから。休みのときくらいしか会えないけど、それでも構わないか?」

 

「仕方ないよ。大丈夫」

 

「わかった、それなら…」

 

その日以降。仕事を受ける数を減らすようにした。彼女との時間もあるし。

あとは。単純に仕事を詰めすぎて疲れているのもある。

 

「ねぇ。次の休みは?」

 

「明日から数日。また来るよ」

 

「あれ?まだ仕事残ってるんじゃないの?」

 

「次の仕事は妖怪の山なんだ」

 

「それなら」

 

「ああ、また里の現場を取るまでは夜は工房の方に帰るよ」

 

「わかった。」

 

それから数十年は妖怪の山での建築をしていた、ただ、やはり俺は人間…いつか別れが来るだろうと思うところはあった。

 

そして、ある日。現場終わりで気を抜いてしまったのか。工房の入り口で気を失ってしまった

 

「ちょっと!大丈夫?」

 

声は聞こえるが意識は朦朧としてしまう。

 

「ねぇ!ねぇ!!」

 

次第に声は聞こえなくなった。

 

………

 

「大丈夫…?なんですか?」

 

「もう仕事は辞めるべきでしょうね」

 

「そんな…」

 

「彼も良い歳よ。人間でしょ?」

 

「歳…」

 

「彼の話は聞いてたし。人間なのに顔が広がったものよ。まぁ安心なさい、仕事で疲れきったのでしょう。暫くは手を貸して上げる必要があるでしょうけど、今の所は命に別状はないわ」

 

「それなら、私が側にいてあげないと」

 

「そうね。私はここまでよ。あとはあなたが頑張りなさい。」

 

「わかりました。」

 

竹林の医者が帰ったあとは、ただ静けさだけが広がっていた。

彼はまだ目を覚まさない…

 

「なんとなく。わかっちゃうんだ。」

 

そう。前もそうだった。突然意識を失ってそれから寝たきりだった。

目を覚した頃にはまともに生活もできず。

会話すらままならない状態でひたすら世話をしていた。

 

「でも、私は愛してるから。」

 

軽く口付けを済ませると。

工房で機械の試作の続きをしていた。

 

数時間後、襖を開ける音が聞こえて振り向くと、ぐったりした彼が座り込んでいた

 

「大丈夫?具合は?」

 

「まぁ…良くはないな。」

 

「立てる?」

 

「多分立てるだろうけど。その元気もない。」

 

「ゆっくりしてて、いま食事用意するから」

 

「すまないな。」

 

食事を済ませても彼はまだ疲れた様子だった。

 

「もう一眠りするよ」

 

「うん。」

 

私も疲れていたからか眠たさが来ていた。

布団を広げ、隣で寝ることにした。

 

余程疲れていたのだろう。

彼はまだ布団から出ていない

 

「大丈夫かな。」

 

外を覗くととっくに日は上に昇っていた。

昨日寝たのは夜中だったとはいえ、私も寝過ぎたかもしれない。

 

「結局寝ちゃってたんだ」

 

布団から出て食事の用意をする、

机に並べたあと彼の元にいく。

 

「食事の用意できたよ。まだ寝てるの?」

 

起こすのに体を揺するかおかしなことに気づいた…身体が動いていない…?

 

「あれ?」

 

おかしい。呼吸をしていない…?

 

「待って…!えっ!?」

 

急いで人工呼吸をして…

少し待っても息をしていない…

 

「そんな…」

 

脈はあるのに…

 

「ちょっと」

 

聞き覚えのある声…

 

「竹林の…」

 

「胸騒ぎがしたから来てみたけど、人工呼吸をしてるってことは…」

 

「彼…脈はあるのに息をしてなくて。」

 

「そう…」

 

竹林の医者が彼に触れると残念そうな顔をして…

 

「もう助からないかもしれないわね…」

 

「なんでですか…?」

 

「肺をやられてる…潰れている訳じゃないけど。内側から枯れてるような感じね」

 

「枯れてる…?」

 

「さっきの人工呼吸も負荷が掛かってるかもしれないわ…」

 

「え…?どういうことなんですか?」

 

「枯れてるというか…わかりやすく言えば…そうね、触れたらすぐにボロボロになる炭の様な感じ。」

 

「えっ…!?でも昨日は命に別状はないって…」

 

「確かにあの時は何も感じなかった。その後に何かあったかもしれないわ…」

 

「でも。私は何ともないし…隣で寝ていたから誰か来ていたらわかるはずなんだけど…」

 

「潜伏していた感じかしらね…どちらにせよ…ここまで肺が崩れていたら私にもどうにもできないわ。」

 

「方法はあるんですか?」

 

「ない…といえば嘘になるけど、私には判断できないわ」

 

「どうすれば…?」

 

「何らかの方法で彼が亡霊として目覚めるか、あるいは妖怪化するか。あとは…蓬莱の薬…」

 

「不老不死の…」

 

「あれは…本人の意志なく使うものではないから…私からはあれは提案できないわ」

 

「……そう…ですか…」

 

「残念だけれど…」

 

「…わかりました…結果は結果ですから…」

 

「あれから目は覚ましたの?」

 

「一応、食事をするのに。」

 

「そう。」

 

「もう。起きないんですね…」

 

「そうね。どうするかは貴方の判断に任せるわ。」

 

医者が帰ったあと人里に向かった。

 

「ここか。」

 

立ち寄ったのは本屋

 

「いらっしゃいま…にとりさん?」

 

「小鈴…じゃないんだったね。鈴音。本を探してるんだ。」

 

「どんな本です?」

 

「人間が生命が絶えたあと…どうすればいいか知りたい。」

 

「それって…」

 

「そういう本。ある?」

 

「あるかな…本の一角にあるくらいだと思うけど」

 

「そっか。」

 

「でも基本的には、葬儀をして巫女に祓ってもらってから火葬するって。」

 

「そうなんだ。わかったありがとう。」

 

山の工房に戻る…

 

「起きてるなんて、奇跡は…ないか」

 

布団で寝たまま目は覚まさない。

でももう脈もかなり弱くなってる

 

「私。一緒に暮らせて凄く楽しかったよ。喧嘩もしたし、でもその度仲直りもした。浦さんのご飯も大好きだし。仕事上がりに相手してくれて、本当にありがとう。」

 

「あなたが居なくなるのは寂しい、忘れたりしない。あなたに合う前の生活に戻っちゃうけど、またきっと思い出すから。」

 

「だから……おやすみ、さようなら…」

 

工房を出て博麗神社に向かった。

 

 

「あら、珍しいね。」

 

「ちょっと用事があってね。」

 

「面倒なのは嫌だよ?」

 

「ちょっとお祓いしてもらうだけだよ。」

 

「お祓いって…」

 

「着いてきて。」

 

巫女を連れて工房まで行く。

 

「ここって、あなたの工房よね。特に大した妖気とかそういうの感じないよ?」

 

「この場所じゃなくて。こっち。」

 

奥の部屋に案内すると。

もう動かない彼がやっぱりいた。

 

「葬儀は済ませてあるよね」

 

「生憎…そういうの詳しくなくて、でもしっかりお別れの挨拶は済ませたよ…」

 

「そう。それなら。まぁいいか」

 

巫女はお祓いを初めると

僅かに彼が笑顔になっているように見えた。

多分錯覚だろうとわかっていても。

彼の笑顔が見れたという事実が嬉しくて。

胸が苦しくなった…

 

程なくしてお祓いは終わる…

 

「泣かないの。お別れの挨拶はしたんでしょ。」

 

「したけどさ…どうしても…出てきちゃうもの…だからさ」

 

涙ぐんで震える声しか出なかった

 

「まぁ…あとは火葬だね、宛はあるの?」

 

「ないよ…でも火を使うなら藤原にでも頼もうと思って。」

 

「不死鳥の藤原妹紅か。手配しておくけど火葬するなら山降りたところでやってよ?山火事とか勘弁だから。」

 

「わかってる。」

 

巫女が帰り彼を木製の棺に移動させたあと

山を下って平原まで降りた。

 

「ここなら良いだろう、自分でやらなくていいのか?」

 

「火は苦手なの知ってるでしょ?河童に熱気は大敵だからさ。」

 

「まぁ、そう言うなら仕方ない。」

 

棺を中心に燃焼が始まった。

よく晴れた良い天気なのに、少しずつ炭になっていく周りの藁と棺だけが見えた

 

「燃え尽きるまで居てやれよ。」

 

恐らく妹紅はそう言って竹林に戻っていったのだろう。全く見向きできなかった。

 

「また、終わっちゃった。」

 

夕暮を過ぎて夜になってもまだ燃える炎。

何かを考えることもせず。私はただ燃える炎だけをひたすら見つめていた。

 

 

炎が燃え尽きた。

 

「ほんとに、さよなら」

 

一言だけ済ませて

工房に戻った




眠たいので寝ます

また会えたら会いましょう

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