物語館   作:むつさん

86 / 100
どうも、悠樹@夢子&松K.です。

令和になっちゃったなぁ。

5月だなぁ…

題名ありきたりだなぁ…!

ではごゆっくり


鬼と天狗

妖怪の山の夜。

 

群れから離れた鹿が獣道から逸れて歩いていた。キョロキョロと首を動かして視線を正面に戻したとき。

一本の矢が、鹿の首を貫いた。

鹿は息絶えその場に倒れる。

 

「よし、これで肉の確保ができた、って、ああ…矢が折れてるな。また一本無くなったか。仕方ない、肉の対価だ。」

 

矢を射ったのは、山の白狼天狗。

 

「さて、帰るか」

 

と、思った矢先、雨が振り始める

 

「まぁ…雲行きは怪しかったからな…」

 

鹿を獲物袋に入れ、担いで歩き始める。

 

「雨が降っているし家まではそう遠くない、急ぐか」

 

雨だけではなく、血の匂いに誘われて他の肉食の動物や妖怪がやってきてもおかしくはない

 

そんなときに天狗は立ち止まってしまった。

目の前に普通はありえない光景が見えたのだ

 

「こいつは…」

 

道の真中に一人の少女が寝転んでいる。

しかし単純に寝ているのではない。

呑気な表情をしており、顔が赤く手元に青紫の瓢箪がある。

 

「困ったな…こいつは俺の手に余る…が。そんなこと言ってる余裕はないな。」

 

仕方なく少女も担いで帰路を急ぐ。

雨は強くもなく弱くも無い。

 

家に帰り着くと、雨はより一層強くなっていた。

 

「全くだ…」

 

普段防雨着を使うのだが。

今は少女に着させていたため、天狗はずぶ濡れだった。

 

少女を布団に寝かせ、

天狗は濡れた服から着替える

 

狩り獲った獲物達を処理して保存庫に仕舞い込み、天狗は椅子に座って眠った。

 

 

翌日

天狗は窓から差し込む太陽の光で目が覚めた。

 

「っ…明るいな。うっ、眩しい…」

 

視界が戻ると、少女が寝ているのが見えた。

 

「気持ちよさそうに寝やがって。」

 

寝相が悪いのか、掛け布団がめくれている

 

天狗は台所に向かうと朝食の支度をする。

その匂いに釣られたのか少女が目を覚した。

 

「ふぁぁ〜っ…はぁー。良く寝たなぁ。あれ!ここどこだ?」

 

「よく眠れたなら良かったよ」

 

天狗は呆れたように返事をする

 

「まさか、拉致ではないだろうな!」

 

「外に放り出されたくないなら少し静かにしててくれ。」

 

少女は気に食わなかったがその通りにしていた。

 

天狗が机を広げ、朝食を持ってくる。

 

「ほら、朝飯だ。」

 

「お主、私が誰だか知っているよな」

 

「山でお前を知らないやつはよっぽどの世間知らずか最近の天狗達だろ。」

 

天狗は食事を進めていくなか、少女は箸すら持たずにいた。

 

「口に合わなかったか、俺は酒を飲まないからな、酒のつまみとか普段ないんだよ、今はそれで我慢してくれ」

 

「いや、もちろん用意されたからには頂くが…」

 

「んー、何かあったか」

 

「お主、私を知っていてなぜ助けたんだ」

 

「はぁ?」

 

天狗は食べ終えると理由を話した。

 

「別にお前を襲う理由はない。下心も無ければ昔の報復を今更掘り出す義理もない、単純に雨降りなのにお前が道で寝てたから保護したんだ。それ以外に理由はない。」

 

「そうか…」

 

「少し考えすぎだ、早くしないと冷めるぞ」

 

「ああ、済まないね、いただきます」

 

少女は食事を済ませた

 

「ごちそうさま。」

 

天狗は少女から食器を受け取ると台所に向かい食器の洗い物を済ませた。

 

「どこか痛むところはないか」

 

天狗は部屋に戻りながら少女に聞く

 

「いや、問題ないな。」

 

「うん、ならいい。」

 

「お主本当に何も思ってないのか?」

 

「くどい、その話題はもういい」

 

「すまない…」

 

「たしか、伊吹萃香だったか?」

 

「そうだ。」

 

「だよな。」

 

「お主は、あのときの天狗だろう…確か名前は」

 

「白狼天狗、葉月」

 

「やはりそうだよな…」

 

「懐かしいな、しばらく見ないと思ったが」

 

「人里や旧都、あとは霊夢の所に居たりしてたぞ。時折山の神社にも顔を出してる。」

 

「山に来てなかったわけじゃないんだな。まぁ、鬼を見て恐れるのは昔の奴らくらいだろうけど。」

 

「今でも怖がるやつがいるのだな」

 

「まぁ極少数だな。」

 

「ふむ。」

 

「あの頃は懐かしい。」

 

「ああ、お主には特に世話になった覚えがあるな。」

 

「ああ?世話になったって、少し小言言っただけだろ。」

 

「その小言が大目玉のように感じたな。」

 

「そうか。そんなつもりは無かったがな。」

 

「それにお主には悪いことをさせた。」

 

「ああ、演技のやつか」

 

「お互い力があるのにも関わらず、負けを演じさせるのはお主も気持ちがよくなかっただろうに。」

 

「ああ、まあ少しでも勝ち目があると考えた馬鹿どもにはいい薬だったろ。あの場で俺が勝っていたらお前が来た意味が無くなる」

 

「うむ。まあな。」

 

「それに、力があるって言っても、あの後結局俺は勝ってないからな?」

 

「あれは…勇儀が割り込んできたから、負けとも言えないだろう。」

 

「そうか?」

 

「あのままであれば私の負けだ。」

 

「勝てる見込みはないと思ってたのだがな」

 

「お主の技には勝てん、それははっきり言える」

 

「そんなに俺の幻術が手強いか。」

 

「視界と音を塞がれては嗅覚しか使えないからな。その状態で互角に戦えなんて無理矢理過ぎる、嗅覚なんて普通はほとんど感じ取れないからな」

 

「その状態でも俺を捉えて戦ってんだからな、感心するよ」

 

「最低限しかないが、犬っぽい匂いと後は空気の流れだけは読めた、ギリギリだったのだぞ」

 

「ま、勇儀のせいで台無しか。」

 

「うむ、割り込まれては話にならんからな、

そういえば、お主はまだ山で働いているのか?」

 

「ん?いや、天狗社会とはおさらばしたよ。たまに手伝えって呼び出し食らうときはあるけど、正規ではないからな。断っても怒られはしない。」

 

「ほう。」

 

「それに、今は人間みたいに自給自足の生活だ。動物を狩って肉を摂り、畑を作って作物を育てる、水は近場に川がある。水もきれいだ、十分に過ごせる。」

 

「自給自足か、なんとも面倒なことをするな」

 

「まぁ、働くか自給自足かって言われたらどっちもどっちだからな。面倒なのは変わりない、ただ、自給自足のほうが個人的なゆとりがもてる。」

 

「確かに仕事に追われるストレスがないからな。」

 

「ただし、失敗したときのリスクは洒落にならない。」

 

「決して簡単ではないだろう?」

 

「当然だ。作物の管理、狩り、水の確保、作物は天候のせいで駄目になることがあるし、狩りは獲物が見つからなければ終わらない、狩りの途中で妖怪に襲われたりもする、土砂が起きれば川が汚れて水も使えなくなる。案外大変なんだよ。」

 

「それをお主はやり続けているのだから尊敬に値するな。」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ。」

 

「他の天狗とは会うことが減って寂しく思うことはないのか?」

 

「親しくしてたやつは居たけど特に寂しいとかそういうふうに思うことはない、定期的に顔合わせにここまで来るやつもいるからな、その辺は気にしたことない」

 

「なるほどな、会いに来るのであれば心配もなさそうだな」

 

「呼び出し食らうときに合う事だってある。」

 

「それにお主のことであれば嫁など簡単に見つかるだろうな」

 

「それが、真逆だよ。欲しいと思った事はないが、自給自足の生活がおかしいって俺は選ばれないそうだ。」

 

「なんと、それは意外だな。」

 

「まぁ、単純に面倒だからな。」

 

「それだけの理由となると。余程怠慢に思えてくるぞ…」

 

「怠慢なんだろ、仕事して遊んで暮らすほうが奴らの身に合うんだろう」

 

「嘆かわしいというべきか。」

 

「気にしてたらキリないからな。」

 

「そうだな。」

 

「ところで、」

 

「ん?」

 

「いつまでここにいる?昼飯晩飯くらい出せるが。」

 

「久々に話もして満足したからな。すまんな世話になったぞ。」

 

「そう大したことはしてないけどな、気が向いた頃にでも来てくれ」

 

「おう」

 

そう言って萃香は家を出た。

 

 

 

「懐かしいやつだ。」

 

そう呟いた。

 

 

 

葉月が川辺に水を汲みに来たとき。

他の天狗が川辺にいた。

 

「困ったな。あんなことされちゃ、水汲みできない。」

 

女の天狗が汗を流しに水浴びをしている。

裸でいるため下手に近づけば大変なことになる上に、離れていても音を出せば怪しまれる。

 

「家の水はまだ数日持つが…晴天が続くとは思えない。できれば早くどいてもらいたいな。」

 

数分後、視線を川に戻すと女天狗が居なくなっていた

 

「ああ、動いてくれたか、助かる」

 

「何が助かるのよ」

 

「水を汲みに来た、堂々とそんなことも言えないから、このように離れた場所で待っていた」

 

「ふーん、覗きではなかったのね」

 

「ああ、始め川辺に近づいたときは、居るとは思わなかったから、少し裸がみえてしまったな、すまない」

 

「まぁ。悪気がないならいいわ、それに私があんたの邪魔だったのも確かだし。お互い様ってことにしとくわ」

 

「そうして貰えると助かるな。」

 

葉月は川辺に行くと水壺を持ち出し、川の中に投げつけた。

 

「何投げてんの。割れるよ?」

 

「見てみろ、割れてなんかない、それに際限無く水を吸い込んでいる。」

 

「あっ、本当だ。魔法道具の類か?」

 

「そう思うか?」

 

「まぁ、普通そう思うけど。」

 

葉月が合図すると水壺は戻ってきた

 

「タネが知りたかったら来るといい。」

 

「ん、まぁ暇だし行ってみようかな」

 

葉月は家まで戻って、貯水槽に水壺を置いた、すると水壺から先程の水が溢れ出し、貯水槽から溢れるギリギリまで水が入った

 

その後水壺は破片も残さず消滅した。

 

「え?壺が無くなった…?」

 

「今の壺は幻術。幻の一種だ。水は本物だぞ。」

 

「それじゃ、幻の中に水が入ってたってこと?」

 

「そうなる。幻であれば際限無く吸い込める、ほしい分だけ出して後は消してしまえばいい。かなり便利だ」

 

「消えた水はどうなったの?」

 

「幻と一緒に消えるから、どこにも無い。壺に残った分は無駄になってしまうな」

 

「まぁ、川の水だからそんなに気にしなくてもいいか」

 

「だな。」

 

「ここ、あんたの家なの?」

 

「そうだ。川からも近いし土壌もいいから作物もよく育つ、」

 

「宿舎はどうしたのよ?」

 

「あれは、主に哨戒天狗用だろ。」

 

「そうだけど、あなた階級無しでしょ?宿舎の在籍あるはずなのに個人宅持ってるなんて何者なの?」

 

「階級無し、ああ、そうか。そんなのもあったな。」

 

「えっ?もしかしてあんた…?」

 

「俺は哨戒天狗じゃないし、山の大天狗の監視から外れてるんだよ」

 

「まさかはぐれ…?!本当に居たのね!」

 

「ちなみに俺は大天狗公認はぐれ、無意味に捕まって連行されたことが何度もあるが、お咎めは喰らったことないしその場で解放、ご帰宅だったぞ」

 

「そうなんだ。」

 

「んで、お前はどうするんだ。連行してみるか?」

 

「別に、連れて行ったところで無意味ならいいわ、それに私今日休みだし。」

 

「そりゃ、よかった。無駄な時間過ごさなくて住むよ」

 

「そうね。無駄な時間ねぇ」

 

「飯くらい食っていくか丁度日も高いし、そろそろ昼飯にしようと思ってたんだ。」

 

「おっ、それなら、お言葉に甘えようかな。」

 

葉月は女天狗に昼飯をご馳走し。

女天狗は満足したところで葉月の家を後にした。

 

 

 

「名前聞いてなかったな。」

 

そう呟いた

 

……

 

葉月の家に一人の来客が来ていた。

 

「おーい、いるか!」

 

「はーい、少しお待ちー」

 

玄関のドアの先にいたのは…

 

「おや、こりゃ驚いたなぁ」

 

「久しぶりだな、葉月よ。」

 

「大天狗さんが、こんなところまでどうしたんですかね、まぁ上がって、お茶出しますよ」

 

「うむ、お邪魔する」

 

二人は机に面と向かって座る

 

「んで、どうしたんで」

 

「ああ、先日はぐれの報告があった。」

 

「へぇ、はぐれの報告、それが?」

 

「それがな…ある哨戒天狗が報告を寄こしたのだが…報告を寄こした天狗の同期の天狗とその上司が囚われてしまったそうなのだ。」

 

「普通は逆だな。おかしいと思うぞ」

 

「報告によれば…鬼と面と向かって戦えるほどの実力者とか。実際のところどうかわからんが、私でも鬼の実力を知らん、それ故に実際の実力がどれほどかわからぬ。」

 

「単刀直入いえば、俺に行ってほしいと」

 

「そうだ。以前鬼と戦ったと聞く、それにはぐれであるお主であれば騙しを効かせて助ける事もできると思うだろうからな。最悪、はぐれのものを殺してしまってもいい。」

 

「まぁ、あんたの直々のお願いならばいいか、それにお願いってのは断れない性格だしな。こういう面倒そうなの聞いて真面目に引き受けたくなってしまうんだよ。」

 

「おお、助けてくれるか」

 

「そういうことだ、詳しい話は?、ここでできるなら早いが」

 

「うむ、北山の中腹ほどの検問所の近くで事は起きた。はぐれは検問所を定期的に確認しに来てははぐれを増やそうとしているのだろう。検問所は新人が多いからな、厄介なのだ」

 

「んじゃ、まずは検問所までいきますか」

 

 

大天狗は他にも用事があると、そのまま別れた。

 

話をしていた検問所の近くまで着くと、

葉月の後ろから何かが追ってきていた。

 

検問所の前、獣道からそれて木陰に行くと

葉月の天狗が話しかけてきた。

 

「おっ、お前さんは新人かな?」

 

「んあ?新人だったらどうしたよ。」

 

「こっち来ないか、とっておきの訓練施設があんだよ。」

 

「んー。訓練は間に合ってんで、俺はいいや。」

 

「いやいや、あんた、階級無しだろ?天狗社会の甘ったるい訓練より、もっと身につくのがあるんだよ。」

 

「へぇ。それは鬼にも勝てるくらいのか?」

 

「そうだなぁ、本人次第でそうかも知れないぞ、」

 

「それじゃ、その話乗って見ようかな。」

 

「へへ、こっちだぜ。」

 

名も名乗らない天狗についていくと、

洞窟の中に連れて行かれ、

そこには何人もの階級無しが集まり、厳しい訓練をさせられていた、

 

「なるほど、階級無しからこの訓練なら、場合によっては宝石みたいな実力は手に入るな。」

 

「だろ?あんさんもどうだい?」

 

「ちなみにあんたも相当の実力を持ってるんだよな?」

 

「そりゃ、もちろん。」

 

「それじゃ、俺に試してくれないか。」

 

「いやぁ、階級無しだろ?それじゃ、底が知れてるぜ。」

 

「階級無しがどれだけできるか試すのもあんたら、【はぐれ訓練師】の仕事だろ。」

 

「…わかってんだな。」

 

「そりゃ、こんなの見せられたら察しもつくよ」

 

「まぁ、こっち来いよ」

 

言われた通りについていくと、大きな広間に着いた

 

「へぇ、こりゃまた立派だな」

 

「まぁな、古い施設だが、まだ十分に使える。それじゃ、容赦はしねえぞ」

 

「かかってこいよ。」

 

天狗は哨戒天狗用の刀を抜き襲いかかる、

一端の天狗とは比べ物にならないほど。

技などは磨かれている。

しかしどれも葉月には届かなかった

 

「ほほぉ、こりゃなかなかだね」

 

「お前…?何もんだ」

 

「俺か?あんたと同じはぐれだよ。」

 

「へぇ、」

 

天狗の攻撃の隙をついて、葉月は一発腹に拳をぶつけた

 

「うぐっ!」

 

「鬼に教わった拳骨は効いたか?」

 

「何言ってんだ、おまえ…」

 

「本当に鬼に勝ちたいならまずは俺に勝ってみろ。」

「舐めやがって…!」

 

天狗はまた襲いかかるが。

葉月は幻術を駆使して。

天狗の視界を奪い、周囲の音を消した

 

「なっ!」

 

葉月は視界を戻し、天狗の前に幻影を纏って姿を現した。

 

「お、お前!その姿は!」

 

幻影の葉月の姿はまさに鬼であった

 

「な、なんだよ…」

 

天狗は何も出来ず膝から崩れ落ちた。

 

「はぐれねぇ。」

 

葉月は幻影を振り払って、幻術を使い天狗を縛り付けた。

 

「ま、途中からわかってたと思うが俺はあんたらの存在を知っていて近寄らせてもらった。そんでこの通りだ。」

 

「鬼に、勝たなきゃいけねぇんだ。」

 

「鬼に勝ってどうする。第一、お前は山を支配していた鬼を知っているのか。」

 

「話を聞いただけだ。でも、山で好き勝手やって挙句どこかに消えた、仕返しを狙ってたやつはいたはずだ、それに、鬼と面と向かって戦って負けたやつがいるって話なら尚更なんだよ。」

 

「その、鬼と戦ったってのは俺だな」

 

「は?そんなわけ無いだろう。何年も前だ、はぐれが戦ったなんて聞いてないからな、嘘も大概に…」

 

「嘘なんかじゃないね。」

 

横槍を指してきたのは、話題になっていた鬼

 

伊吹萃香だった。

 

「お、こりゃ有名人のご登場だな」

 

「いやぁ、有名人なんかじゃないよー。ただの鬼さ」

 

天狗は唖然とした表情でただ驚いていた

 

「お前が。鬼?」

 

「そうだよ。」

 

「こいつが鬼、それで俺はこいつに負けた」

 

「そんな、こんなガキが鬼なわけ、その角も、どうせ飾りなんだろ。」

 

「まぁ、さっき俺が見せた幻影からすれば可愛らしいしな、ちっこいし、

 

「ちっこいは余分だぞ」

 

「ふざけてる…」

 

「お前、鬼に勝ちたいんだろ?やって見るか?」

 

「がおー、鬼だぞー、食べちゃうぞー。なんてな、ははははは!」

 

「どうだ?こんな可愛らしくて、ちっこくて、愛嬌たっぷりの鬼だぞ。」

 

「だから、ちっこいは余分だ」

 

「もう…いいや…」

 

「おっ、諦めた」

 

「それがいい。」

 

その後、萃香がはぐれ達を見張っているうちに葉月はほかの天狗を呼び寄せ、主犯となるはぐれ達を捉えた。

 

無理矢理連れて行かれた天狗達はそれぞれの配属先に戻り、仕事に戻ることができた。

中には厳しい訓練の末、実力をつけたものもいるが、しばらくははぐれに関わったというペナルティのせいで新人のままらしい

 

北山の検問所を訪れると助けられた天狗の中に葉月を知る天狗がいた。

 

「あっ!あんたは!」

 

「この前の天狗か」

 

以前川で会った女天狗だ。

 

「まさかあんたが助けてくれるなんて思わなかった。ありがとう。」

 

「お礼は俺じゃなくて、大天狗と、お前の部下達に言ってやれ。」

 

「なんで大天狗様?」

 

「あいつが俺にお願いしてきたんだ」

 

「はぐれに…大天狗様が…」

 

「はぐれっていっても、俺はあくまではぐれの肩書がある程度だ。呼び出されたら出ていくからな。」

 

「ねぇ、あんた名前は?」

 

「葉月。」

 

「葉月?葉月ってあの…鬼と戦ったって…」

 

「まぁ、そうだな。」

 

「あ、あんただったのか…」

 

「どうした?」

 

「ねぇ!あんたって鬼に勝てるの?」

 

「鬼に勝ってどうしてほしいんだ」

 

「報復よ!私の両親を痛めつけた罰を与えてやりたいの!どんな形でもいいから!」

 

「呆れた、またそれか」

 

「呆れたって何!鬼のせいで私の両親は!」

 

「両親はどうなったよ?」

 

「両親は…あれ…あのあと普通に暮らしてて…なんで…あれ?」

 

女天狗からは涙が流れ始めていた

 

「確かにあいつは横暴なことをした。それは変えられない事実だ、でも、必ずしも悪事だったかどうかといえばそうではないんだ。」

 

「でも、みんな辛い思いをしたのよ!」

 

「それくらい天狗達はだらけてたんだろ?食って遊ぶだけようなやつもいれば仕事を部下に投げつけて遊び呆けるやつもいる。当時の俺の上司は女遊びばかりだ。それでも尚腐敗に向かっていたところに鬼が来て。だらけた天狗達を支配した」

 

「…なんで…」

 

「支配しないといけない理由があったとしたら?」

 

「理由…そんなのあるわけないわ。」

 

「そうだな、あいつが誰の知り合いか知ってるか?」

 

「誰なの?」

 

「博麗霊夢だ、あの巫女だ。」

 

「なっ…!」

 

「巫女の知り合いとなれば妖怪の賢者もそこに交える。巫女と賢者が動いていたら鬼が起こしたことなんて可愛いものだ。」

 

「下手したら巫女がくる…」

 

「洒落にならないことが起こるな」

 

「でもなんで鬼が…」

 

「あの鬼はここに来てちょっとした異変を起こしたんだ、結果的に霊夢が解決したって聞いてるけど、」

 

「それで、今度は山をってことね。」

 

「いやいや、霊夢が解決したあと、鬼と霊夢は仲良くなって。山を紹介されたらしいんだ。それで、だらけている天狗を見て行動に移したんだろ。」

 

「なんで、山を」

 

「霊夢は幻想郷を護るために生きてる、それを少しでも手伝うって思ったらしい。幻想郷の中でもかなり大きな存在である山が駄目になったら、大変なことになるだろ、霊夢や賢者が動いてもいいが、天狗がどうなるか。」

 

「鬼が…私達のために?」

 

「だな。」

 

「でも…暴力振るったり、圧力かけたりしたことには変わりないわ。」

 

「あいつが無意味にそんなことするとは思えないが。まぁ何か意味があってのことだと思うぞ。そこまではわからん、それに自己防衛だってあり得るしな」

 

「もう。話聞いてたら、すっかり気が失せたわ。」

 

「萃香を悪く思わないでやってくれ。幻想郷に来るまでは独りでいることのほうが多かったらしいからな。良い印象ではなかったが名の知れた存在に慣れたのが嬉しかったんだろうと思うんだ。」

 

「そうよね…よく考えたら汚れ役みたいな感じよね…正しい方向性に戻そうとして、結果的良くなっても評価は最低みたいで。なんだか悪いことした気分だわ」

 

「まぁ、合ったときにでも仲良くしてやってくれ、可愛らしくてちっこくて愛嬌たっぷりの鬼だ、余程酔っ払ってなければ親しみやすいからな。」

 

「わかったわ、とにかく改めてありがとう」

 

女天狗は検問所を後にして、山を登っていった。

 

 

葉月は家に戻ると大天狗が軒先で待っていた

 

「おお、戻ったか」

 

「どうしました?」

 

「いや、無事はぐれの一件が終わったと椛から聞いたのでな。礼の品を持ってきたんだが。」

 

「ああ、ご丁寧にどうも。」

 

「あと、もう一つ、品ではないしあまり気のいい話しではないのだが…」

 

「なんですか?」

 

「近日、よく鬼を見かける、その鬼がどうも昔暴れていた鬼だそうで。お前さんにとってあの鬼は…」

 

「その話はしないって約束したでしょ。別にもう恨んでなんかないですよ、親離れはいつかしなきゃいけなかったんですし。」

 

「うむ、しかし…」

 

「今になってあいつと会って解ったんですけどね。俺はあいつのこと別に嫌いじゃないんですよ。恨みとか憎しみとかそういうの不思議とないですし。割と可愛らしいやつだと思ってますから」

 

「お主がそう言うなら。まぁ、水に流せておるのだな。いらぬ心配だったようだ。」

 

「それに、両親が亡くなったのも見届けたし、悔いはないですよ。」

 

「うむ、わかった!また何か手に負えないことでも起きたらそのときはよろしく頼むぞ。」

 

「まぁ、その時があればですけどね。」

 

大天狗は家をあとにして帰っていった。

その数分にも満たないくらいに、一人の少女が家に来た。

 

「ずっと隠れてたんだろ?」

 

「まぁ…出るタイミングは見計らうよ。」

 

「酒でも飲んでくか?時間もあるしツマミくらい用意してやるよ。」

 

「それなら、少しお邪魔するよ。」

 

二人は家に入ると萃香は机に向かって座って待っていた。

 

「ほら、煮付けと干し魚。」

 

「おお。すまないね」

 

「俺は酒は飲まないからなぁ、」

 

「飲めないの間違いだろう?」

 

「そうとも言う。昔っから弱いんだ。弱い酒でもすぐ倒れるくらいに弱い。」

 

「うむ、弱いなら無理に飲むものでもないからな」

 

「それにしても今日はやけに大人しいじゃないか」

 

「いやまぁ…あんな話聞いたあとに呑気にするのもバチが当たると思ってな」

 

「ああいいよそういうのは、俺はお前のことは好きだし、ここに来ることは拒まないからな。好きにしてくれていい」

 

「その好きってのは…」

 

「単純に異性としてだな」

 

「しれっとそういうことを言うな!恥ずかしいだろう…」

 

「久々に会ったからだろうな、お前とこうして話していると楽しかったりするんだ。」

 

「お主なぁ…」

 

「まぁ、単に好きって伝えても、そりゃ迷惑だよな。」

 

「もうちょぅとなんか前振りはないのか。」

 

「不器用だからな。」

 

「嘘を言うな、演技も幻術も仕事も一人前のくせに何をいうか。」

 

「それとこれとは別だろう?」

 

「そうだが…ああもう…酔が覚めるわ!」

 

「ありゃ、それはすまなかったな。」

 

「本当に私のことが好きなのか?」

 

「まだ表面的にしか見れてない状態だけど、今はそう思ってる。」

 

「なんだ、えっと…どうすればいいのかわからないぞ…」

 

「気にしなくてもいい、会いたくなったときに来てくれればいい。俺も無理は言わない」

 

「なんでだ?たまにでいいのか?」

 

「ああ、勿論俺は一緒にいたいと思う、けどな、俺は天狗でお前は鬼だ、種族のことや昔の山のこともある。」

 

「それはそうだが。」

 

「それに、萃香は他の身内の事もあるだろう。」

 

「そんなのは、どうにでもなるが」

 

「その時が来たら。でいい、俺もいきなりは困るから。」

 

「わかった。」

 

「あっ、ツマミ、上手くできてるか?」

 

「ああ、味も濃くて風味良しだからな。酒によく合う。」

 

「そりゃよかった」

 

「お前の作る飯は本当にうまいよ」

 

「おう、ありがとうな」

 

「その…なんだ。私もいつかお返ししないとな」

 

「無理にしなくてもいい、俺が好きにやっていることだ、」

 

「いつか、私もここに住ませてもらおうかな」

 

「構わないが、大変だぞ?」

 

「お主と同じ暮らしをするんだ。それくらいの覚悟はあるさ。」

 

「そうなれば、少しは楽になりそうだ。」

 

二人はその後も談笑を続けていた。

 

 

その数日後、山に鬼が住んでいるという噂を広がったそうだ。

 




元号変わってもどんどん書きます!


また会えたら会いましょう

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。