物語館   作:むつさん

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どうも夢子です。










どうぞごゆっくり


小さなお店の大きな絆

人里の裏路地に小さなお店がある。

 

自由席の机が2つにカウンターだけ、と

 

本当に小さいお店だが。

 

毎日同じお客がくる。

 

 

 

「お兄さん。薄めの苦いやつ飲みたい。」

 

「コーヒーだね」

 

「そう、それ、」

 

客が相槌を返すと、店員はすぐに用意した。

 

ちいさな機械が動き始めると

店内に芳しい豆の匂いがする。

 

「ん…?豆変えた?」

 

客はちょっとした変化にすぐ気づいた

 

「まぁ、いつも同じだと飽きると思う。」

 

「私は飽きとか気にしないけど。」

 

「まぁ、たまにはね、」

 

マグカップに湯気の立つコーヒーが注がれ。

 

客はそれを冷まそうと息を吹く。

 

「これ…絶対熱いよ、やけどしそう。」

 

「この前自分で飲んでみたけど。普通に火傷した。」

 

「だと思った、」

 

客はしばらくはコーヒーを口にしなかった、

 

「熱くて飲めやしないって…」

 

「冷めてからでいいのか?」

 

「うー。うん。」

 

客は温まったマグカップで手を温めている

 

「今日はいつまでいるんだ?」

 

「ん…気が向くまで。」

 

「ライブ直後なんだろ?疲れてないか?」

 

「ここで十分休憩する、」

 

「寝るなよ…?」

 

「そうなったら泊まってく。」

 

「そ、そうか…」

 

客というのは実は妖怪で。

幽谷響子という、山彦妖怪。

 

鳥獣伎楽というバンドでのライブを

たまにする、

 

今日はそのライブの日の夜だ

 

「最近思うんだ。」

 

「何を?」

 

「命蓮寺の修行の付き合いもライブも苦しかったり楽しかったり色々あるんだけどさ。」

 

「うん。」

 

「ここに来ると決まって落ち着けるんだよね。」

 

「まぁ、静かだし、」

 

「いつも煩いって言われるのに、ここに来るとどうしても声が小さくなる。」

 

「疲れてたり落ち着いてるからだな。」

 

「なんていうか、私らしくないんだよね」

 

「いいじゃん、それくらい」

 

「いい…のかな。」

 

「ここには休みに来てるんだろ?」

 

「そんな感じだね。」

 

「だったらおとなしくしてたほうが疲れなくていい。」

 

「まぁね。」

 

湯気が薄くなってきたからか。

幽谷はマグカップに口をつけた、

 

ゴクリと一口飲むとすぐにマグカップを置き。顔をしかめた。

 

「薄すぎ。」

 

「ん、ほんとか?」

 

「飲んでみなよ。」

 

店主は客からマグカップを受け取ると一口飲んだ、

 

「たしかに薄いな。」

 

「でしょ?それはそうと。」

 

「ん、、?」

 

「口付けたところ同じだったね。」

 

「すまん。気にしてなかった」

 

「だと思った」

 

幽谷はマグカップを受け取るとまたひとくち飲んだ。

 

同じところから口を付けて、

 

「って、お前も気にしてないだろ。」

 

「まぁね、。」

 

空になったマグカップを置くと店主はすぐにそれを受け取り洗って仕舞った。

 

「ねぇ、ここっていつからお店開いたの?」

 

「二月前だな。」

 

「丁度私が通い始めた頃だね。」

 

「まぁ、そんな感じだな。」

 

「どうして始めよう思ったの」

 

「…元々は俺も飯屋をやってたんだ。」

 

「そうなんだ。」

 

「知り合いと男手二人で。里の大通りで店構えて、、そりゃ繁盛もしたさ。俺も相方も料理は大の得意で美味かった。行列まで作るくらいだった。」

 

「やめちゃったんだね?」

 

「やめるしかなかった…」

 

「なんで?」

 

「向かいのある飯屋が…うちに火をつけて、、、建物は跡形もなく焼け落ちて。相方は都合悪く、その中にいて…」

 

「…ごめん…もう言わなくていいから…」

 

「いいんだ…紛れもない事実だしな。」

 

「それでここに?」

 

「あぁ。飯は作らなくなっても、せめて飲み屋くらいはと思ってな。有り余った資金でしばらくここをやっていく。」

 

「でも、客は私くらいしかいないね」

 

「客はいなくてもなんとでもなる。仕入れは必要なときにしかしない。そうなれば減る金も少ないから資金も残る。」

 

「本当にしばらく続くね」

 

「まぁな。それに。唯一の大切なお客もいる。」

 

「私のこと?」

 

「以外誰がいる?」

 

「だと思った」

 

「逆に質問していいか?」

 

「なに?」

 

「どうしてここに来ようと思ったんだ?」

 

「疲れたりしたときって、一人で静かに落ち着きたいでしょ、」

 

「まぁ、確かに。」

 

「多分それでなんだと思う」

 

「なら俺はいないほうがいいか。」

 

「話聞いてくれるんだからいなくなったら悲しいかな。」

 

「まぁ、そりゃな。」

 

「それに、美味しい飲み物も飲めなくなるし。」

 

「俺しかいないからな」

 

「だから、あなたにはいてほしいかな」

 

「なるほど。」

 

「落ち着きたいからここに来るっていうのが、理由かな」

 

「わかった。」

 

 

「眠たい…」

 

「ならそろそろ帰ったらどうだ?」

 

「此処からお寺って結構遠いんだよね…」

 

「そういわれても俺は行ったことないしな。」

 

「……と、」

 

「…?」

 

「泊まらせて…もう歩きたくない。」

 

「すっごいだらしない」

 

「だめなの?」

 

「…駄目じゃないが…」

 

「なら別に良いじゃん」

 

「…わかったよ。」

 

そういうと店主はカウンターの電気と店の電気を落とし、カウンターから出た。

 

「着いてこい、案内するよ」

 

何も言わずに歩く幽谷

店の裏の扉を開けると部屋があった。

 

「上がって。」

 

「おじゃまするね。」

 

店主は押入れから布団を用意する

 

座っていた幽谷は布団に入り混んだ

 

「おやすみ、、」

 

「早いな」

 

幽谷はいつまでも起きている店主が気になり話しかけた。

 

「あなたは寝ないの?」

 

「眠たくないし、どうせ座って寝るし。」

 

「おいでよ、暖かいよ」

 

「いや…流石にそれは…」

 

「お願い。一緒に寝よ、」

 

店主は戸惑っていたが…

ようやく観念して、同じ布団に入り混んだ、

幽谷はゴソゴソと動きながら店主に寄り添ってくっつくように抱きついた。

 

「こうすればもっと暖かいでしょ。」

 

「あのな…」

 

店主が何か言いかける前に、幽谷はすでに寝入っていた。

 

「はぁ…ほんとに…」

 

店主も、くっつかれたまま寝入った。

 

 

 

 

気が付くと朝になっていた。

 

店主が目を覚ますと

幽谷は部屋に寄り掛かって座っていた

 

「おはよーございます。」

 

「おう、おはよう。いつもみたいに大声で言わないんだな。」

 

「なんか。声出なかったから。」

 

「そうか、まぁ、こんなところで大声で言われても迷惑だから、別にいいけど、」

 

「うん。」

 

「どうする、帰るか?」

 

「うん。お寺戻るね。」

 

部屋を出て表の通りに出ると。

 

「響子ちゃん、ここに居たのね。」

 

聖白蓮と丁度会った。

 

「聖さん。あの。」

 

「昨日は疲れたのでしょう。」

 

「はい。」

 

「貴方も響子のお世話をありがとう。」

 

「いえいえ、大切なお客様ですから。」

 

「よっぽど好かれてるのね」

 

「…聖さん。」

 

「どうかしたのかしら?」

 

「この人、お寺に迎えてもいいかな」

 

「俺を?」

 

「構わないけど。何か理由でも?」

 

「ちょっとだけ。好きになったから。」

 

「あらあら。ほんとに好かれてるわね。」

 

「…まぁ、たまにはいいか」

 

 

 

三人は命蓮寺に向かって歩き始めた。

 

聖があることに気づき男に話しかけた、

 

「貴方。見覚えあるわ。」

 

「んー…俺ですか。」

 

「確か…ごはん屋さんやってたかしら…」

 

「あぁ、やってたな。」

 

「今度行くわね。」

 

「すまないな…もう店やってないんだ。」

 

「あら。そうなの?またやってくれたら嬉しいわ。美味しかったし、」

 

「それがな…店が焼けちまってな…」

 

「そう…事故?」

 

「いや、向かいの店の野郎が…」

 

「そう…残念ね…」

 

「腕が鈍ってなきゃ、いつでも作れるんだが。作る場所がないからな。」

 

「うちの台所。貸してあげるから。何か作ってくれないかしら。」

 

「そりゃ、助かるけど。今からか?」

 

「食材は買いたしたばかりだし、」

 

「私も食べてみたいですね。」

 

「わかった。久々に腕がなるな。」

 

命蓮寺につくと寅丸とナズーリンがまた喧嘩しており。聖はその仲裁に入った。

 

幽谷が台所まで案内し。

男はすぐに準備を始めていった。

 

 

寅丸とナズーリンの喧嘩仲裁が終わった頃には料理は終わっており。

 

部屋の机には豪華に近いような食事が用意されていた。

 

「流石ね。」

 

「ちょっと雑だったかな。」

 

男は少し不満そうに答えた

 

「なんだ、誰が用意したのか?」

 

ナズーリンと寅丸は今にも飛びつきそうだった。

 

「自分の料理を食うのは久々だな。」

 

五人は机を囲んで食事を楽しんだ。

 

 

数分過ぎて。

すべての皿が空になった頃。

 

寅丸とナズーリンは満腹ですぐに寝てしまった。

 

「この二人は相変わらずだわ…」

 

「大変そうだな。」

 

「まぁ、いつものことだから。」

 

「それじゃ、片付けようか。」

 

男と幽谷は皿をまとめて洗い元の位置に仕舞っていた

 

「手伝ってくれてありがとな」

 

「いつもは私がやってるので。」

 

「そうなのか。」

 

片付けを終えると。聖は男に話しかけた。

 

 

「貴方うちに住まない?」

 

「なんとも最近はよく誘われる」

 

「嫌ならいいのよ?」

 

「嫌じゃないが断っておくよ、」

 

「そう、わかったわ」

 

男は少しして命蓮寺を後にした。

 

夕暮れるころお店を開けてまた客を待っていた。

 

お店を開けて数分する頃。

店の扉が開いた。

 

「いらっしゃい。」

 

「お兄さん。甘い飲み物が飲みたい。」

 

「はいはいお待ちを」

 

客…幽谷がカウンターの席に座るころ。飲み物が用意された。

 

「これは?」

 

「コーヒーに砂糖とミルクを混ぜた、カフェオレっていうんだ。」

 

「カフェオレ、こんなのもあるんだね」

 

幽谷は程よく暖かいカフェオレを飲むと肩を落としてゆっくりしていた、

 

「美味しいね。初めて飲んだよ」

 

「だろうと思って用意してみたんだ。」

 

「ありがとう。」

 

「礼なんていらない。いつものことだしな。」

 

 

 

「今日のさ、聖さんからのお誘い覚えてる?」

 

「お寺にっていうあれか?」

 

「うん。なんで断ったの?」

 

「俺にはここがある。」

 

「そうだね、それだけ?」

 

「それ以外にもあるけど。聞きたいか?」

 

「気になるなぁ」

 

「お前の休憩場所が無くなるから。」

 

「私のためだったの…?」

 

「俺のためでもある、」

 

「確かに。ここは…私にとっても大切だけど…」

 

「だろ?」

 

「でも。」

 

「それにな。俺は響子との二人の時間が楽しいんだ、それで。俺はここに残りたかったんだ」

 

「…ありがとう…ほんとにありがとう。」

 

「こちらこそ、うちに来てくれてありがとな」

 

幽谷は涙ぐみながらカフェオレを飲み干した。

 

「泣くなよ。俺は恩返しがしたかっただけだから。」

 

「だって…そんなふうだと思わなくて…」

 

「俺も響子が来てくれると嬉しいんだ。だからそのお返しだから。」

 

「うん!ほんとにありがとう!」

 

幽谷は涙を拭いていっぱいの笑顔で店主にお礼を言った。

 

「こちらこそ。」

 

 

人里の裏路地には小さなお店がある。

 

そのお店は、いつも、決まったあるお客と一人の店員が話語り合っていた




ご拝読ありがとうございました、











また会えたら会いましょう

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