黒い物体に名前を尋ねても、特にこれといった名前がないことが分かった。
強いて言うならば、本人?は駆逐艦というらしい。
名前ではなくて、種類といったところか。
「それじゃくーちゃんでいいかい?」
適当に考えた名前を目の前の駆逐艦に言ってみると、それでいいというような感じの思念が流れ込んでくる。
性別は不明だけど、なんとなく男という感じもしなかったので、ちゃんづけ。
「私は響、またはヴェールヌイ、あるいはデカプリスト。長いから響と呼んで」
了解、と短い足で敬礼をするような仕草をとるくーちゃんにほっこりする。
そういえば、さっきの主砲はAK-130だった。あれは1980年代に配備され始めたもので、本来わたしには積まれるはずもない兵装だった。
それに自分の艤装を見てみれば、AK-630M 30mmCIWSも載っているし、魚雷発射管の中身を見てみればおそらくシグヴァル。
とんでもない魔改造の施された武装がつまれていることに、すごく疑問を感じた。
まあ使えるのならばそれでもいいのだけれど、弾薬の補充やメンテナンスができるとは思えない。
12.7cm連装砲や長10cm砲ならば、どう扱うのかも、メンテナンスも分かる。
でもAK-130やCIWSはあの娘の知識だから、そんなに詳しいわけではない。
『オハローデス』
『オデハー』
そんなことを考えていると、2頭身の謎の生物が現れる。
彼女ら?は踊ったり、ウトウトしていたりとなかなかにマイペースだった。
「貴方たちは?」
『ヨウセー』
『ギソウノテンケンハオマカセ』
『ギソウノコントロールモバッチリ』
どうやら妖精、というらしく、艤装のあれこれについては彼女たちがやってくれるらしい。
『トイウコトデ、ギソウヲミセテチョ』
手に持っていたAK-130と、背負っていた諸々をおろすと、妖精たちの前におく。
『コレハコレハ』
『スヴァラシイ』
『ヨウセイノナカデモワタシタチシカシラナイモノ』
彼女たちはすごく興奮していることが伝わってくる。
そんな妖精たちを尻目に、私は次のことを考え始めた。
くーちゃんがいうには、艦娘、つまり私と、深海棲艦、つまりくーちゃんとは本来敵対している。
くーちゃんとはもはや双方にそういった気持ちもなく、むしろ仲間としての意識のほうが強い。
おそらくくーちゃんが襲われたらそいつらを攻撃するくらいには。
話を戻すと、くーちゃん以外の深海棲艦とは戦闘になる確率が非常に高い。
いまのところ燃料や弾薬といった必要なものは大して消費していないため、艤装に満載されている。
それでも使い続ければなくなるし、とくにシグヴァルなんかはどうやって手に入れたらいいのか分からない。
「で、どうにかなんないのかい?」
艤装を興奮しながら弄くっている妖精に聞いてみた。
『ダンヤクヲモッテクレバワタシタチガツクル。ダンヤクヤネンリョウハソコラヘンノテキカラウバエバイイ』
なるほど、なんとも単純な話。
敵から奪って来い、ということだった。
「くーちゃんのほうも頼めるかい?」
『オヤスイゴヨウ。シンカイセイカンノギソウヲイジクレルナンテ、オモシロソウ』
話がついたので、くーちゃんの砲と機銃、弾薬をおろして妖精たちの一部はくーちゃんの艤装を見始めた。
おほーっと喜んでいる妖精たちを観察していると、なにやら作り始めた。
機銃とくーちゃんの持っていた鋼材を材料にして、砲身やレーダー、弾薬ベルトを作り出していく。
それらを組み合わせれば、AK-630Mの完成。
それをくーちゃんの口の中に搭載して、妖精たちは大仕事を終えた男たちのように実にいい笑顔でこちらにサムズアップした。
すごく、自由人です。
自分のやりたいことはとことんやるような、そんな生き物たちなんだろうなあと私はそのとき思った。
ただの駆逐艦と思った?残念、対空500のすーぱー防空駆逐艦だよ!よ!