ほうれんそうは大切に!
場所は駒王学園の生徒会室。
そこでは、一人の少女と男性が真面目な表情で語り合っていた。彼らから発せられる雰囲気は実に刺々しく、憧れと多大なる情愛を少女に抱く少年も男性の方に嫉妬すら抱かせさせないほどのものだった。
「支取」
「なんでしょう。野水先生」
「俺は常に思うんだわ………。厄介事を丸投げするなら、せめてほうれんそうくらいはしっかりやってほしいと、常々」
「申し訳ありません……!」
支取と黎凪に呼ばれた少女はそうして頭を下げる。傍から見れば、問題を起こし教師に説教されている生徒のようにも見えるが、彼女はこの街と学校を管理するもう一人の管理者なのである。
ここの街は何がどうしてそうなったのかは定かではないが、悪魔が(勝手に)管理することとなっており、年齢のことから言ってもリアス・グレモリーだけでは難しいということで彼女と同じく魔王を姉に持つ支取、改めソーナ・シトリーも管理者を任されているのだ。
そんな彼女は今、目の前の先生兼協力者に頭を下げている。それは彼がどれほど自分たちのフォローに回ってくれているのか知っているからだ。
オカルト研究部なる活動目的がいまいち定まっていない彼らのシャワーをはじめとする部室の設備の必要性、そして旧校舎を使うという理由までも、考えたのは彼と悪魔の息がかかった理事長なのである。支取からすれば、黎凪は本当に頭が上がらない人物なのである。
彼女自身も生徒会という役柄上、ある程度のことは回ってくるものの、悪魔の魔法などを使って強引に物事を進めた際のしわ寄せは普通に大人である彼に回ってきてしまうのだ。
だからこそ、彼女は今こうして謝っている。
常日頃からそういった苦労をしてもらっているにも関わらず、急な転校生。しかも元教会の人間で学力が微妙に足りていないし、転校前に通っていた学校もないと来た。
彼女の転入を認めさせるのに苦労したのは想像に難くなかった。
「あぁ、わりぃ。別に支取を責めてるわけじゃねえ。グレモリー……というか、お前ら悪魔の無茶振りには慣れてきたからな。そこは諦めているんだが……周りを誤魔化すにも準備ってもんが必要でだな。唐突に話を振られて、それが三日以内にっていうのは流石に……」
「分かっています。分かっていますから……!リアスの方には私からも言っておきますから……!」
人間……いや、どんな生物であれ、力があれば、大体それで解決しようとするものだ。特に魔法や魔術なんていうものを使える者達はそれが顕著に表れる。別に戦闘時ならそれでもかまわないのだが……こういった様々な手続きや段階を踏まなければいけない案件だと辻褄合わせに苦労することとなる。
「……こんなこと生徒に頼むのはアレなんだが、マジで頼むわ。最近、顧問でも担任でもないのにグレモリーに関する問いかけが俺に来るようになってるし。二年の覗きん坊たちの処理も俺に来るしさぁ……」
「………野水先生。お茶でも一杯飲んでいってください。普段から苦労を掛けているので、愚痴くらいはいつまでも聞きますから」
「すまねぇな」
ソーナの言葉に甘えて、いつの間にか生徒会副会長にしてソーナの女王である真羅椿姫が入れてくれたお茶を口に含みつつ、ソーナとの雑談に興じた。
ちなみに、教師という立場からかそれとも本心からか、黎凪は先程述べた文句以外の愚痴は一切吐かなかったという。
だがしかし。
現実というのは非常であり、この二日後には旧校舎のオカルト研究部の部室にフェニックスが転移してきて、炎{と・の}魔力をまき散らして帰っていくというトラブルが発生し、事後処理に追われることとなる。
この時、彼は本気で転職を考え、それを聞いたソーナに全力で止められることとなった。
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「別に成績が悪いわけでも、普段の素行が悪いわけでもない(若干一名を除く)……にも拘わらず、どうしてこうも面倒なことばかり起こすんだ……」
つい先程発生した転移魔法。そこから現れたフェニックスによって発生した面倒事に俺は頭を抱えていた。
「どうして転移魔法を発動するだけで炎をまき散らす必要があるんだ……いくら旧校舎で普通の人間が入れないような結界を張っているからと言っても目撃される可能性はゼロじゃないんだぞ……。しかも、フェニックスの魔力が結界をはみ出てある程度校舎の方にも流れてきたし……!生徒に当たったら気絶くらいはするんだぞ」
気絶してしまったら当然騒ぎになる。最悪学校の何かが生徒に悪影響を及ぼしたといううわさが流れかねない。実際の原因が魔力なんて世間に認知されていないものなのだからこうなってしまうと対処の仕様がないのだ。本気で勘弁してほしい。
一応今回、あぶれた魔力の方は俺の右腕が喰らったから問題なかったもののもう少しこちらに配慮してくれないものかね。
支取には止められたけど、本気で転職したい。もう昔みたいな段ボール暮らしでもいいから別の街に行きたい。
そんなことを考えつつ、今日の事後処理をする。
今回は幸い、目撃者などは居なかった。これをグレモリー達に言ったら「結界が貼ってあるから当然よ」とか言いそうだが、こちとらそれを完全に信用していないのである。とりあえず、よかった。
次に魔力の方だが、そちらも問題はない。どうやら俺が喰ったので全てだったらしく当時残っていた生徒に悪影響から体調を崩した生徒はいないと保健室の方からもお墨付きをもらった。
確認事項をすべて終えた俺は体をほぐす。
そろそろ特別手当的なものを要求しても文句は言われないくらい働いていると思うわ。
空もすっかり暗くなり、全校生徒がくまなく下校したであろう時間帯にそんなことを考えた。
「すみません野水先生」
「?」
更に更に後日。
いつも通りの時間に学校へと行き、授業の準備をしていると複数の教師たちが俺の方へとやってきていた。
どういうことだかまるで分らない俺は首を傾げる。
それを見て教師たちの代表というか、俺に問いかけた教師が皆の思いを代弁するかのように口を開いた。
「グレモリーさんや姫島さんが唐突に十日間休学するそうですが、何か理由は聞いてますか?」
「木場くんもです」
「兵藤とアルジェントさんも」
「」
問われた俺は固まった。
何、オカルト研究部が揃って休学だと?これは明らかにおかしい。どう考えても悪魔がらみの案件なのだろう。この街に厄介な奴でも入り込んだかと一瞬だけ思ったが、そんな気配はないのでこれは除外する。
とにかく、さぼりたいからさぼるという連中でないのは確かだから、何かしらの理由があるんだろうけど……。
「(ほうれんそう……!)」
せめて、誰かに理由を言ってほしい。
尋ねてくる教師たちにこちらで連絡を取っておきますと答えた後、俺は職員室を出て生徒会室へと向かった。
ちなみに、これはさらに後で分かったことなのだが、グレモリーはしっかりと理事長に連絡だけは入れていたらしく、俺達への連絡をおろそかにしたのは理事長だということが判明した。
それを知っていて、他の教師に伝えず「忘れてたよHAHAHA!!」と笑っていた理事長を全力で殴り飛ばした俺と支取は悪くないと思う。
似たようなポジションに収まっているため、黎凪とソーナの相性は悪くないです。
苦労人コンビですから。