黒歌や今回のこれは二次の定石。
「な、なんですか……それは!?」
カテレアの心からの驚愕が周囲に響き渡る。それはこの場に居る誰もが思い、考えていることであった。奇しくもカテレアが今は黎凪の味方であるはずの各勢力トップ人の思いを代弁する形になった。
反逆者、野水黎凪。この人間のことをここに集まっている各勢力のトップたちは当然知っていた。かつて最強のはぐれ狩りと呼ばれていた彼に頼ったことは一度や二度ではないからである。だが、そんな彼らでさえも、黎凪がこのような力を持っていたとは思ってもいなかった。誰しもが、簡単に腰を上げることのできない自分の代わりに仕事をする多少強いくらいの人間と認識していた。ブラッドカインというあの技自体も人間には過ぎた力であり、あれ以上はないだろうと、相手が人間であるがゆえに心のどこかで慢心していた。だが、現実はどうか。黎凪はブラッドカインなど比較にならない力を開放して、それを今振るおうとしている。確実に自分たちに届きうる力であった。
「666に無限って言ったかあの野郎……!?」
「人間が扱うには過ぎた力ですね……!」
黎凪の開放した力に押されながらも二人は協力して防御結界を張った。一方彼らと同じくして、魔王の二人であるサーゼクスとセラフォルーもミカエルとアザゼルが張った防御結界の中に重ねる形で防御結界を張り巡らせる。二重の構造にしておかなければ、黎凪の能力に魔力を吸われて、結界を維持できないからである。
「味方でもない私たちに全力を見せているとは思ってなかったが、まさかこんなものを隠し持っていたのか……!」
「本当に上層部のオジサマ達はやってくれちゃったかも……!」
自分の親が悪魔に殺されたこと、そして自分の利益のために勝手を極めた行動を繰り返す旧き家系の悪魔たちにいい印象を持っていないことを知っている魔王の両名は愚痴りあいつつ、あの力がいつか自分たちに向けられるのではないかと考え、甘さを捨てて政治に取り組む覚悟を決めた。
……このように、直接この怒りと力を向けられているわけではない各勢力のトップ陣営がこのように恐怖を覚えるほどなのだ。いくら、自分たちのトップであり、世界準最強である無限の龍神、オーフィスから力の一部を分け与えられているカテレアでも恐怖で完全に体が動かなくなっていた。力を外部から取り込んだからと言って、それにふさわしい振る舞いが身につくわけでもない。中身はセラフォルーに魔王の座を奪われたままのカテレアなのだから。
「……………」
だが、状況はカテレアが恐怖に震えることすら許さない。こうして彼女がヘタレている間も黎凪の
「に、人間如きが私を殺す?真なる魔王であるこの私を?わ、笑わせないでくださる!?」
プライドだけは無駄に高いカテレアだからこそ自分を持ち直すことができたのだろう。少々声は上ずってしまっているもののしっかりと黎凪の言葉に返事をしていた。その精神力は今だけ称賛されるべきかもしれない。……最も、そんなこと黎凪にとっては何の関係もないのだが。
カテレアの言葉を完全に無視して黎凪は一歩近づく。それだけでカテレアは一歩後ろに下がってしまい、先程まで我慢していた恐怖が爆発してしまう。彼女はひたすら黎凪を遠ざけるために自分の魔力を攻撃に転用しただひたすら目の前の恐怖を打ち払うために放出した。
オーフィスの力を吸収したカテレアの魔力量は現魔王にも劣らないものでり、かなり強力なものである。が、全開放した
「ヒィッ!?」
これを見たカテレアはもはやなりふり構わずひたすら目の前の化け物を殺すために攻撃を仕掛ける。
しかし、結果は同じすべて黎凪に届く前に霧散して消えてしまった。
「あ、……あぁ……」
自分の攻撃がすべて無意味だと思った瞬間カテレアは膝をついた。世界準最強、無限の龍神オーフィスの力を手に入れた。自分の魔力は現魔王にも劣らないものだった。にもかかわらず、自分は目の前の人間を殺せない。その事実に、彼女を支えていた自信が根本から崩れ落ち、心が折れてしまったのである。
「なんだ、もっと攻撃して来いよ。まさか、あの程度で三大勢力に喧嘩売ってきたわけじゃあねえんだろ?」
黎凪の言葉にカテレアは反応しない。もはやその程度の気力すらも残っていなかった。唯、俯くカテレア。その様に黎凪は完全に興味をなくし、速攻で潰すことに決めた。無駄にいたぶる必要などない。勝てるときに勝っておかなければ後々面倒くさいことになるのがお約束だからだ。
彼は、自分の右腕と左腕に先ほど吸収した魔力を闇に変換したものを纏わせてカテレアの腹に突き立てた。
「ヘルズ……ファング!!」
狼の頭を象った闇に殴られて抵抗もせずに吹き飛ばされるカテレア。そのカテレアを黎凪は自分の闇を伸ばして捕まえると再び自分の前に戻した。
「まだ終わりじゃねえぞ」
そうして、カテレアを運んで来るうちに黒く禍々しいものに変形させた右手を構えて止めを刺す。
「闇に喰われろ!!」
既に瀕死になっているカテレアは抵抗せずに飲み込まれる。
黎凪が纏う闇に体中を貫かれ、段々と自分がその闇と一体化していく感覚を彼女は覚えた。自分という存在が崩れ落ちゆき、何者でもないものになる。自分というものが略奪されていくという恐怖を感じ、瀕死ながらもその恐怖にあえぎながらカテレアは死んでいった。
カテレアの叫び声を聞いた三大勢力はこの日、思い知ったのである。
龍と同じく怒らせてはいけない存在を。
触れれば、自ら科している首輪を食いちぎり、自分たちの喉元を喰らいに来る黒き獣の存在を。
―――――――――――――――
カテレアをささっと片付けた俺は解放した右手を再び抑え込む。……この仕様、中二っぽくて俺は嫌いなんだよな。ほら、どこかでネタにされてそうだし。
それに、こいつは所かまわず魔力をドカ喰いしやがるから俺の身体が持たなくなっちまう可能性も孕んでいやがるからな。力は強いが、ちっとばかし融通が利かなくて使いにくいんだよ。
何やら俺を警戒するような視線を向けている三大勢力の連中を無視しながら俺は周囲を見渡す。
残ったのは魔法使いの連中だけだし、グレモリー眷属や白龍皇だけで十分だろ。さっき魔力や生命力を吸収した感じだとそこまで大した奴は居なかった。どいつもこいつも雑魚ばかりだったからな。
俺の予想通り、カテレアを殺した後、魔法使い共はどんどんとその数を減らしていった。俺が力を抑えたことによってアザゼルが運動不足解消に魔法使い共も狩り始めたし当然の結果だろう。
だが、重要なことに限ってすんなりとはいかないものだ。
唐突に俺とアザゼルに向かって巨大な魔力弾が撃ち込まれてきた。完全に油断しているアザゼルは地面に墜ちるという無様を曝したが、これまでひたすら一人で戦ってきた俺に抜かりはない。腰に下げている大剣を素早く抜いて両断。散った魔力を右腕から分離させた闇に吸収させた。
攻撃された方に視線を向けてみれば、白龍皇が腕を組んで飛んでいた。
「おい、プリン総督。なに撃墜されてんだ」
「………はぁー。あんまり考えたくはなかったんだが、やっぱりそうか。ヴァーリよぉ……和平組むときに平和でも強者と戦えるって言ったじゃねえかよ……」
「すまんなアザゼル。こっちの方が面白そうだったんだ」
アザゼルにそう返す白龍皇。なるほどな。あの戦闘狂、自分が戦いたいがために三大勢力、その他の勢力と戦うことができるであろうテロリスト側に着いたっていうことか。まったく、力を持っている奴もしくは戦闘狂の奴の考えは本当にわからん。
「ったく、戦闘狂が問題起こしてそれを解決したと思ったら今度は裏切り者か。散々だな」
「総督が遊んですごしてるからじゃねえのか。人んち上がり込んで勝手にものを食ったりよ」
「まだ根に持ってんのかよ!いい加減女々しいぞ!?………ま、それは今おいておくとして……なぁ、ヴァーリ。一つだけ聞いていいか?あの無限の龍神オーフィスがテロリスト集団を作るなんてどう考えてもおかしいと思うんだわ。そこんところどうよ?」
「あぁ、そのことか。恐らくアザゼル。あんたが考えている通りだろう。俺もアイツも世界の変革なんかに興味はない。アイツの力を利用しようと、カテレアをはじめとする連中が勝手にくっついてきただけだ」
情けねえ。
これは酷いとかそういう次元じゃねえわ。最強の力を借りてあの程度、最強の力を借りて真なる魔王とか片腹痛すぎる。そして何より、それだけのバックアップがありながらまるで使いこなせていない。あれは確かに人の上に立つ者の器じゃないな。今の魔王の方がまだましだぜ。
そこから白龍皇の正体やらなにやらの話になったんだが、果てしなく興味がなかったのでカット。というより、もう俺は帰っていい気がする。というか帰る。
カテレアを始末してある程度すっきりもしたし、元々俺は三大勢力のモノでもない。アイツらに見下されている哀れな人間様だからな。帰ろう。
俺の使う闇っているのは便利なもんで、逃走にも一役買ってくれるのだ。
というわけで俺はデッドスパイク先輩に乗って静かに駒王学園を後にするのだった。
「―――――――さぁ、戦おう反逆者!あの圧倒的な力を俺にも見せてくれ!………ん?居ない?」
後ろからそんな声が聞こえるのはこの際スルーするとした。
―――――――――――――
校舎が壊れたのでしばらくの間は休校になるだろうと考えながらも帰宅路に着く。すると、校舎で渦巻いていた殺気が可愛く思えるくらいの嫌な予感を感じ取り、すぐにその場を跳び退く。
その直後、先程まで俺のいた場所に隕石でも落ちてきたのかという衝撃と轟音が響き渡った。これまで感じたことのない危機感をビンビン感じる。ったく、さっきまで面倒事に巻き込まれたばっかだってーのに、またもややってきやがったか。
クレーターができたことにより発生した砂煙が張れて、俺を攻撃した奴の正体があらわになる。俺を襲撃してきたのは十代に届くか届かないかという感じの少女、いや幼女。胸の部分を✖型のテープのみで止め、それ以外は上半身を全露出という痴女ロリが底に居た。外見に反して業が深すぎる幼女だった。
だが、俺が培ってきた勘と目の前の痴女ロリから発せられる威圧感が唯の変態ではないことを伝えている。この痴女ロリは自分が今まで会って来た誰よりも強いと確信できた。
ここでことを構えるにしても、住宅街であるここで暴れたら周囲の人は堪ったもんじゃない。先程のクレーターの件で既に若干アウト気味だ。そういうことで、俺はひとまず場所を変えるために、ブラッドカインを使って右腕の制限を一部解除し、自分の出せる全力でその場から遠ざかった。すると痴女ロリも黒い翼を生やして追いかけてくる。
被害が少なく済みそうな場所を探しつつ、俺を追ってきている痴女ロリを観察する。生えている翼は黒いが悪魔のモノではない。どちらかと言えば龍のモノににてい――――――あっ(察し)
大まかな正体に気づいたところで人気の少ない今は使われてなさそうな教会跡地を発見した。とりあえずそこで足を止める。
速度は向こうの方が上で、この街から離れるまでには確実に追いつかれる。むしろこうして攻撃されることなく教会跡地までついて来てくれたことが奇跡と言ってもいい。
「………お前、一体何者だ」
「お前の力、我、知らない。けど、面白い」
質問には答えず、むしろ逆に俺への疑問をぶつけてくる痴女ロリ。その眼は虚空を見つめているように暗くハイライトが仕事を放棄していた。ぶっちゃけ、正体の方はわかっている。恐らく無限の龍神オーフィスだろう。目的は俺の力ってところか。
「お前、連れて帰る……力づくで」
「手段は択ばねえってか。くっそメンドクセェ」
カテレアみたいな連中に力を貸していることから戦力を必要とすることをやろうとしているのはわかる。しかしそれは世界の変革や各勢力に喧嘩を売ることではないらしい。……いや、今はいいか。重要なのは、ここでなんとかしねえと俺が大変なことになるっていうことだけだ。
「第666拘束機関開放、無限状態制限全解除。―――――
制限をかけたばかりの右腕を再び開放する。コイツが無限の龍神オーフィスじゃなくてもこの状態じゃないとどちらにせよ対抗できない。
「往くぞ、この痴女ロリ!!!」
「そう、その力。……もっと、見せろ」
態々アンリミ状態にならなくても勝てるカテレアにアンリミを開放した結果、とんでもないものを釣ってしまった模様。