「いってきまーす。」
「いってくるねー。」
と操と紅覇が一緒に家を出た。
「いってらっしゃーい」
その返事に俺はいつもと変わらない返事を返した。
綺凛は今学校に向かう準備をしているようだ。
心做しか鼻歌が聞こえてくるのは気のせいだろうか。
え?そんなに学校行くの楽しみなの?
それとも歩かないで済むからなの?
前者ならばいいことだ。
友達の少ない俺に比べていい育ち方をしているようだ。
ああ、綺凛のお母様お父様お宅のお子さんは立派に育っておりますよ。
特にどことは言えませんが今の年齢では育ちすぎと言っても過言ではない程に実っております。
私の従兄弟が霞んで見えるほどでございます。
私、比企谷八幡が責任を持ち立派な子に育てるのでどうか安心し天国から見守っていてください。
「八幡お兄さん、準備できました。」
どうやら俺が天国にいる綺凛のご両親に報告している間に準備が出来たようだ。
「よし、なら少し早いけど行くか。」
はい、と元気な声で返事をした綺凛は靴を履きヘルメットをつけていた。
もしも綺凛が歩かないで済むからという怠け者のような理由でバイクに乗るのを楽しそうにしているのだとしたら俺はそこを注意すべきことなのだろうか。
答えは俺にはわからない。
何が正しい育て方で何が悪い育て方なのか判断することも出来ない。
親父はまともに育ててくれた思い出がない。
強いて言えばアタッカーとしての修行をつけてもらった程度だ。
ちなみに忍田本部長も親父の弟子だったりする。
つまり忍田本部長は俺の兄弟子に当たるのだ。
おふくろは基本、小町の面倒を見ていたためほとんど俺に構ってくれていなかった。
それでも時間のある時はシューターの手ほどきをしてくれたのだ。
え?なんでアタッカーなのにシューターの手ほどきを受けたのかって?
その理由はまた別の機会があったら話そう。
ちなみにおふくろは今ボーダー隊員を引退し普通のところで働いているそうだ。
このように俺は戦いの中で育ったと言っても過言ではないようなところで育ってきたから普通の家族の育て方など知る由もなかったのだ。
それでも今俺は正しい育て方をしていると思っている。家族全員が笑って過ごせてるなら俺はそれでいい。
「八幡お兄さん?どうしたんですか?」
おっとどうやら感傷に浸りすぎたようだ。
「よし、行くか」
「はい!」
そして俺と綺凛を乗せたバイクは走り出した。
「ほい到着。」
「八幡お兄さん、ありがとうございます。行ってきます!」
綺凛は元気よく走り出した。
あの様子を見ると学校では不自由がないらしい。
お、あれは友達か?
しかも男だと!?
サイド・エフェクト発動!
俺は綺凛とその男の口元を見た。
俺のサイド・エフェクトがあれば口の動きで何を話しているのか分かるのだ。
これが本当の『目で人の話を聞く』というやつだ。
えーと話してる内容は
『刀藤、あれって比企谷先輩?』
『三雲くん知ってるの?』
『一応僕もボーダーだから。それにこの前アドバイスも貰ったんだ。』
『ほんと!?良かったね。八幡お兄さんC級隊員にアドバイスするなんて滅多にないんだよ。』
『ならなんで僕なんかにアドバイスしたんだ?』
『きっと三雲くんに伸び代を感じたんだよ。これからも頑張ってね。』
『ああ、ありがとう。』
と、こんな感じだ。
そういやあのメガネくん見たことあるなと思ったらあの時のレイガスト使いだったか。
あの時はレイガストを使っているのが珍しくてつい話しかけちゃったんだよな〜。
しかしボッチの俺が話し掛けるだけでもかなりの勇気がいるというのに、俺は話す内容を全然考えていなかったので取り敢えずレイガストを使ってる理由を聞き扱い方を教えたのだ。
それにしても名前は教えた覚えないんだけどな。
個人総合1位だからといってもc級隊員にはあまり知られてないはずだ。
しっかし人にいい噂されるとどうしても頬の筋肉が緩むな〜。
褒められたって嬉しくねーぞ、コノヤロー。
どっかの海賊の気持ちがわかった気がする。
よし三雲くん、綺凛と近づいたのは許してやろう。
ただし、手を出したならば俺が直々に捌いてやろう。
え?何でって?
そりゃもちろん捌くと言ったらスコーピオンだろ。
あれは斬れ味に関しては文句ナシの一品だ。
さて、そろそろ俺も学校に向かうとするか。
そう思いアクセルを開こうとした瞬間に
「俺も乗せてくれ、八幡。」
と聞きなれた声が後ろからしてきた。
片手にぼんち揚を持ち、サングラスを首にかけてる男がいた。
ていうか世界中を探してもこんな人なかなかいないだろう。
その男の名は
「はぁ、何のようですか。迅さん」
S級隊員 迅悠一だった。
この人が俺に絡む時は基本厄介事ばかり持ってくる。
おそらく今日も俺がその厄介事に首を突っ込まないといけないようだ。
「八幡、昨日部活に勧誘されたでしょ。」
「あれを勧誘というのであれば貴方のサイド・エフェクト狂い始めてきたんじゃないですか?」
俺がジト目で見ながら言うと
「確かにあれは酷いもんだな〜」
と同情などする気もないような声音で返ってきた。
「で早く要件を言ってください。俺遅刻しそうなんで。」
「ああわかった。実を言うとな今日総武高校にイレギュラーな
「マジですか?」
「マジです。」
イレギュラーな
しかし俺はこんなことで納得しない。
「イレギュラーな
そう、この人は決して無駄なことをしない。
「実をいうと頼みごとがあってここに来た。お前が勧誘された部活に今日限定でもいいから言って欲しいんだ。」
「なんでですか?」
「そんなの・・・俺のサイド・エフェクトがそう言っているからに決まっているだろ。」
なるほど。
確かにこれを理由にされたら納得するしかない。
「わかりました。迅さん、良かったら乗っていきますか?」
「お、いいの?」
「どうせダメって言っても乗るんでしょ?」
「よくわかってるね〜。」
「何年の付き合いだと思ってんすか。」
「それもそうだな。」
「じゃ、行きますよ。」
俺はアクセルを思いっきり開き学校に向かい始めた。
ふ〜、到着。
「迅さん降りてください。」
「八幡、お疲れさん。」
迅さんはヘルメットを脱ぎながらバイクから降りた。
ここで俺はあるひとつの疑問が浮かんだ。
「迅さん、その癖毛なんでヘルメットしてたのにはねてるんですか。」
「八幡のアホ毛がたっているのと同じだよ。」
なるほど。
つまり迅さんも髪の毛でヤル気、元気が判別することが出来るのか。
「八幡、俺は職員室行くけどお前も一緒に来て説明するか?」
「しませんよ、そんなめんどくさそうなの。」
「いうと思ってたよ。じゃ、また後で。」
そう言うと迅さんは職員室に向かって歩き出した。
さて俺も行くとするかね。
キーンコーンカーンコーン
ふ〜、ようやく終わった〜。
授業が終わり教室内の生徒達は帰りの準備をし、部活に勤しむもの、談笑するもの、そそくさと帰るものと分かれていった。
「八幡、今日少し遅かったじゃない。何かあったの?」
操が話しかけてきた。
「まぁ、少し野暮用でな。」
「トイレにでも寄ってきたの?」
さすが操。
野暮用と言っただけでトイレをまっ先に出すあたり女子の風上にも置けないやつだ。
ま、取り敢えず
「くまちゃん、今日この後暇か?」
一斉に教室内視線が俺に飛んできた。
だが今はこんなのにかまってる暇はないのだ。
「一応暇だけど。用って言ったら比企谷を今日こそ玲の家に連れていこうと思ったぐらいかな。」
まだ言ってるよ。
もう1年近く言い続けてるよ。
「そうか。なら2人とも今日はこのまま教室に残っていてくれ。」
「私はいいわよ。」
「私も。あ、条件として明日、玲の家に行くこと。明日反省会するから。」
流石に背に腹は変えられないか。
「わかった。約束する。」
そう言うとくまちゃんは勝ち誇ったかのような顔をした。
さて後は
「もしもし、犬飼先輩ですか?」
3年生並びに1年生に召集をかける。
『お、比企谷ちゃんじゃ〜ん。どうしたの?電話なんて珍しいね。』
「すいません、今日荒船先輩と放課後残ってください。」
『俺はいいけど荒船は今日防衛任務でいないよ〜。』
まじかよ。
流石にスナイパーいないとしんどいかもしれないな。
「わかりました。ではお願いします。」
俺は電話を切り、紅覇に電話をかけた。
「もしもし紅覇か?」
『なになに〜、ど〜したの八兄〜。』
「悪いんだが今日歌川と菊池原と一緒に放課後学校に残っていてくれ。」
『なんで〜』
「悪いが今は言えない。頼めるか?」
『八兄の頼みだしね〜。いいよ、2人には僕から言っとくよ。』
「サンキューな、紅覇」
よし、これで大丈夫なはずだ。
「じゃ、2人とも俺ちょっと行くとこあるから。また後でな。」
俺はそのまま教室を出た。
「比企谷部活に行くぞ。」
「はい、わかっています。」
「お、やけに素直だな。入部する気になったか。」
「いえ、まだなっていません。取り敢えず今日は体験入部ということでお願いしたいんですけど宜しいでしょうか。」
「わかった。あと取り敢えず昨日のレポート再提出な。」
「あ、それならもう書いてきたのでどうぞ。」
「ほう、言われる前にやるとは流石学年主席だな。」
「学年主席関係ないでしょ。」
とたわいもない会話をしながら俺達は部室絵と向かった。
てか先生付いてくる必要なくない?
「ついたぞ。じゃ私は職員室に戻る。」
「はい」
平塚先生は白衣を翻し、その場から立ち去った。
さて入りますか。
「うす。」
取り敢えず当たり障りしかないであろう挨拶をした。
「あら、また来たのね。逃げケ谷君。」
どうやら当たり障りしかない挨拶は相手の反感を買ってしまったようだ。
「誰だよ逃げケ谷君って。確かに昨日は逃げたから言い返せないが人の名前はしっかりと言わないと社会に出て苦労するぞ。」
「あら、あなた誰に向かって口を聞いているのかしら。この私がそんなミスする分けないじゃない。」
「悪いがお前に初めて合ったんでな、今の会話だけで推測したんだ。間違っていたのなら謝る。」
まずは相手に悪印象を与えるな。
それが交渉の時の鉄則だ。
まぁ交渉でも何でもないんだけどな。
「あら、目が腐りきってる割にはまともに謝れるのね。」
言い返すな〜、耐えろ〜。
俺は自分で自分の感情を押し殺しながら雪ノ下と会話を続ける。
「まぁな、ところでここは何をする部活なんだ?というか部活なのか?」
俺は素朴な疑問を投げつけた。
「何故あなたはここが部室じゃないと思ったのかしら。」
「まぁ、理由としてはここにお前しかいないからだ。」
「あら、それだけで勝手に思い込んだのかしら。」
「いやまさか。もう一つの理由の方が大きい。まず新しい部活を始めるには三人以上集めること。次に部活を始めるにあたって、その部活動の生徒が3人を下回った人数しかいなかった場合その部活を1日休部させること。っていうルールがこの学校にはあるからな。仮にも平塚先生は生徒指導の先生だ。これを守らなければいけないからな。だから部活だったら平塚先生が俺をここに連れてくるはずがない、と思ったからだ。どうだ?結構いい推理だろ。」
きっと俺は少しドヤ顔になっていることだろう。
「驚いたは。流石は学年主席と言うべきかしら。でも残念ね。ここは平塚先生が無理言って承認させたイレギュラーな部活よ。」
まじかよ。
生徒指導の先生が思いっきりルールを破ってた。
きっとあの先生の考えは『ルールとおばあちゃんの家の障子は・・・破るためにある!』っていうタイプなんだろう。
「そうか、ならこの部活は何をする部活なんだ?」
「そうね、ならクイズをしましょう。私が今こうしていることがヒントよ。」
「雪ノ下、自分しか理解できないヒントはヒントと呼ばない。新しいクイズだ。」
仮にそんなヒントを出されるとこうなる。
『クイズのヒントを解くためのヒントを解くためのヒントを・・・』
と無限ループしてしまう。
「学年主席にはこれくらいが丁度いいと思ったのよ。」
「なぁお前学年主席に恨みでもあるの?」
流石にそんなに学年主席、学年主席と言われたらこちらも気にせざるを得ない。
「私は今までどんな事でも一番だったわ。容姿、勉強、運動、家柄。どれも完璧だったわ。でも、入試が終わり電話が掛かったのよ。『おめでとうございます。次席入学です』って。私は今まで一番だったが故に苛められてきたわ。だから一時期は一番じゃなくなればイジメはなくなるのではないかと考えたこともあったわ。でも結果は同じだった。確かに今はイジメなんてないわ。でも私は家族から非難されたわ。だからいつも学年主席を取り続けている人が気になっていたの。それがまさか貴方のような人だなんて平塚先生から聞かされるまで思いもしなかったわ。」
「そ〜ですか。そりゃ大変でしたね。」
俺は今少しイラッときた。
まるで自分は恵まれている悲劇のヒロインよ〜、と言わんばかりだったからだ。
俺ら比企谷家に比べたらイジメなんて小さな悲劇でしかない。
それを私は不幸だと言うのだ。
こいつは世の中を知らなすぎる。
「ええ、大変だったわ。だから私がこの世界を人ごと変えるのよ。」
俺はこの言葉に少し期待した。
だがそれを覆いかぶせるほどの憤りを感じた。
「なぁ、それはどんな世界に変えるんだ?今生きている人達は確かに現状に満足していないと思う。それでも自分の足でたって前を見ているんだ。そんな生活を急に変えてみろ。その人達が今まで培ってきたことが水の泡になっちまう。お前が世界を変えようとしても賛成するもの賛同するものなんてたかが知られている。だからお前も我慢して生きてみろよ。お前だけが悲劇のヒロイン演じてんじゃねぇよ。」
あ〜、言っちゃった〜。
相手に不快感を与えないなんてまず無理なことなのだろう。
でも、俺は反省はしているけど後悔はしていない。
俺は俺が正しいと思ったことを言っただけだ。
「それじゃ何も解決しないし・・・誰も救えないじゃない。」
どうやらこいつは人を救うために世界を変えたいらしい。
でもな
「雪ノ下、この世には正義っつーまげられないもんを一人一人が持っている。だから争い合う。その一人一人を救うのはほぼ不可能だ。」
「それでも私はやるのよ。必ず成功させてみせるわ。」
「仮に成功したとしてもそこにはもう感情なんて存在しなくなる。全員一つの思考を持った人形となる。」
キッとまるで敵に牙を向けた獣のような様子で睨みつけてきた。
下唇を噛み拳に力がはいってるところを見ると頭で理解はできてるものの納得はしたくないというところだろう。
「あなたは一体・・・」
雪ノ下が言いかけたその時だった、
「し、しつれ〜しま〜す、って!な、なんでヒッキーがこんなところにいるの!?」
や、やばい。
続きが気になる。
雪ノ下今なんて言おうとしたのー!!
きーにーなーるーー!
っていうか
「ヒッキーって誰?あとお前誰?」
「は、はー!?ヒッキー私のこと知らないの!?マジありえないし!サイテー!本気キモイ!」
おう、悪口のオンパレードだな。
「2年F組の由比ヶ浜結衣さんね。」
「え?私のこと知ってるんだ。」
「お前全校生徒の名前知ってんじゃねーの。」
「いいえ、あなたのことなんて全く知らなかったもの。」
「そ〜かよ。」
「ところで由比ヶ浜さん。依頼内容は?」
「あ、うん。えっと、その〜」
あ、これはアレですね。
俺をチラチラ見ながら言うということは『マジであのキモ男に聞かれたくないんだけど〜』という状況だ。
さすが俺。
相手の目線だけで言いたいことがわかるなんて
「飲みもん買ってく・・・」
俺が席を立ち言いかけてる時だった。
空が黒く染まり出した。
ついに迅さんの言っていたことが起き始めた。
イレギュラーな
次回、戦闘