やはり俺の界境防衛機関での物語は間違っている   作:つむじ

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彼女は理解し納得する。

「小町がボーダーに入るのに許されない理由?」

 

小町は当然『許されない』というところに着目を置く。

だめ、ではなく許されない。

この言回しに疑問を持つのは当然だ。

 

「ああ。許されない、理由だ。・・・これを話すのには小町、お前の覚悟が必要になる。心の準備はいいか?」

 

「なんで話を聞くだけなのに覚悟がいるの?」

 

小町は頭の上にクエッションマークをうかべ首を傾げる。

・・・我が妹ながら素の態度なら可愛いな。

 

「まぁ、その、なんだ。お前にとってはいい話じゃないからなんだが・・・いいか?」

 

「うん。その話をしたら小町は納得するってことだよね?」

 

小町の顔つきが変わった。

俺もその顔を見て覚悟を決めた。

向かい側の操も覚悟を決めたようだ。

 

「・・・なら話すぞ。まず一つ目、小町は大規模侵攻を覚えてるか?」

 

俺は先程の覚悟はどこに消えたの?と聞かれても仕方の無いような質問を小町に投げつける。

 

「え?もちろん覚えてるけど。」

 

小町も予想外だったのか一瞬キョトンとした。

だがこの質問が後々大切なキーになる。

 

「なら二つ目、トリオン兵って知ってるか?」

 

「お兄ちゃん、小町をバカにしてるの?大規模侵攻の時に出てきたやつでしょ。被害に遭った人で知らない人は・・・!?」

 

小町は話している途中に目を見開き信じられないような顔をする。

もう気がついたか。

思ったよりも早かったな。

・・・あと質問四つ考えてたんだけど無駄になったな。

 

「小町、これにあんたが見たトリオン兵を描いてみて。絵が無理なら特徴だけでもいいから。」

 

操は小町の前に自分のタブレットを差し出した。

だが小町はそれに触ろうとしない。

それどころか手は震え瞳孔は開き恐怖のどん底にいるかのような態度をとる。

恐怖にどん底があるかはわからんが。

 

「小町、今どんな気分だ?」

 

この質問の返答しだいでは今後の小町の運命が決まるかもしれない。

いわばここは小町の未来の分岐点。

おふくろが絶対に避けたかった分岐点。

俺らが何も言わなければ訪れることはなかったはずの分岐点。

さぁ小町、答えを言え。

 

「な、なんか気持ち悪い。別に風邪ひいたわけじゃないんだけど・・・。何かが喪失した感じがして・・・思い出そうとすると気持ち悪く、吐き気がする。」

 

「・・・そうか。小町、俺がこれからいう言葉しだいでお前の気持ち悪いが悪化するかもしれないし良くなるかもしれない。まぁそれはお前しだいたが・・・聞きたいか?」

 

「うん。ここまで来たんだもん。小町は真実を知りたい。」

 

小町は勇敢だ。

本当は投げ出したくて仕方が無いだろう。

すぐにでもここから立ち去りたいだろう。

もしかしたら予想はついているのかもしれない。

俺は覚悟を決めたのにも関わらず未だに後悔している。

少しばかり膝が笑っている。

いや、泣いていると言った方がいいのかもしれない。

本当にこの先を教えていいのか。

ことの大事さは俺もよくわかっているはずだ。

本当はもっと時間をかけた方がいいのかもしれない。

俺は自問自答の渦えと潜り込んだ。

そんな俺を救いだそうと差し出された手。

その手は一体誰の手なのかわからない。

俺はその手をつかもうと手を伸ばす。

指と指が触れるその時

ドン、と音がした。

その音が脳に伝わる前に俺に別な感情が芽生えた。

 

「いってー!な、なにすんだよ操。」

 

激痛と怒りだった。

俺はその原因の操を睨みつける。

 

「うっさいわね。あんたが何してんのよ。小町は聞く準備も出来てんのに、それをあんたはちんたらちんたらと・・・女々しいわ!」

 

・・・どうやら救いの手はあったみたいだ。

条件として少しばかりの痛みが伴うけど。

おかげで俺は小町に真実を伝える覚悟がもてた。

もう引き下がるつもりもない。

後悔するつもりもない。

なぜかって?

それは・・・俺がそうすべきだと思っているからだ。

 

「うし。じゃ話すぞ。小町、なんとなく予想はついているとは思うがお前は記憶喪失だ。」

 

「・・・だよね。でもなんでほかの記憶があるのに大規模侵攻の時だけがすっぽりと消えてるの?」

 

「聞いて驚くな・・・お前の目の前で親父は死んだ。」

 

「・・・え?お父さんが、小町の、目の前、で?」

 

小町は口に手を当て驚く。

無理もない。

自分の父親が自分の目の前で死んだのを自分は知らなかったのだから。

だがこれから言うのにはもっと驚くだろう。

 

「言ったろ?親父は比較的トリオン量が少なかった。だからあまり長期戦にはむいてないんだ。小町は覚えてないだろうが小町はおふくろと逃げてたんだ。で、退路は親父が作ってたんだが・・・トリオン切れで生身に戻ったんだ。昔は今のような技術はなかった。だから親父は生身の状態で小町を逃がそうと立ち向かったんだが、まぁご察しの通りトリオン兵相手に歯も立たずあっさりと一刀両断されたわけだ。おふくろがトリオン体になった頃には手遅れで小町はその場で泣け叫んでたわけだ。でもこの時は特に以上はなかった。いや、この時はただの助長に過ぎなかったんだ。お前は泣きながらおふくろと逃げた。当然周りのトリオン兵を倒してた奴がいなくなったんだからトリオン兵は近づいてくる。おふくろも小町がいるから思うように戦えなかった。で、目の前にトリオン兵が現れたんだ。おふくろはすかさず倒そうとした。けどそれよりも早く異常が起きちまった。」

 

「・・・異常?」

 

「ああ、異常だ。小町がその場で失神したんだ。トリオン兵を見たとたん。で、病院に連れてって検査してもらったらどこにも異常はない、と申告されてな。俺たちはなんともないと思った。けど異常はすぐにわかった。病院内のテレビで大規模侵攻の特番がやってたんだ。それには当然トリオン兵が映し出された。その時だった。異常が発生したのは。小町が突然その場で倒れたんだ。すぐに看護師たちが集まって入院の手続きやらなんやらしたんだが原因がわからなかったんだ。けど医者が言うには現状からしてトリオン兵を見たことによるショックだろうって。その後記憶の一部がその時のショックで消えてるのもわかってトリオン兵を小町の目に入れちゃならないっておふくろが言って小町とおふくろは三門市を出たわけだ。まぁ長くなったがこれが小町がボーダーに入るのが許されない理由だ。理解したか?」

 

「・・・うん。そうだったんだ。記憶は全然ないけど理解はできたし納得もした。小町はボーダーに入ると迷惑かかっちゃうんだね。」

 

「そういうこった。ま、後は自分で考えておふくろに文句なり説明なり要求しろ。俺も一部始終しか知らないわけだし。・・・じゃ、俺はもう寝る。おやすみ〜。」

 

俺は小町と操から離れると空を見上げた。

たったの1日でこれほどの疲労感はあっただろうか。

 

「もしかしたら俺もおふくろも間違ってたのかもな・・・。」

 

俺の無意識に発せられた言葉は暗闇のなかへと消えてった。

 

 

 

 

 


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