私用により投稿が遅れました。
キャンプといえばカレー、カレーといえばキャンプ。
いつからかそんな風習が日本には染み付いていた・・・と思う。
実際に俺はキャンプをしたことはない。
まぁ、テレビとかで見るのはカレーやバーベキューなどが大半を占めていた気がする。
そんなわけで今晩の夕食はキャンプの定番、カレーだ。
まず、小学生の手本として炭に火をつけることになった。
「まずは私が手本を見せよう。」
言うが早いか、平塚先生は手元にあったトングを慣れた手つきで操る。
すると、あっという間に炭は積み上がり、その出来た隙間に着火剤やら新聞紙やらを詰め始めた。
先生はポケットに入っていたチャッカマンを取り出し、積み上がった炭に火をつける。
小さな火種が平塚先生のうちわの風で大きな火に・・・ならなかった。
はじめのうちは小学生も、お〜と歓声を上げていたが次第にその声は小さくなりついには消えて言った。
そんな退屈をしている小学生に対するアミューズメントなのか平塚先生はいきなり小さな火種にサラダ油をぶっかけた。
当然どんな火も油があれば勢いを増す。
小学生でも知っている知識だ。
大きく勢いを増した火に歓声や悲鳴でもない沢山の声が火の勢いにも負けない早さで湧き上がる。
平塚先生はそんな反応に満足したのか笑みを浮かべ、勢いのついた火でタバコに引火した。
「ざっとこんなもんだ。」
「やけに手慣れてますね。」
「ふっ、これでも大学時代はよくサークルでバーベキューをしたものさ。私が火をつけてる間にカップルたちがイチャイチャ・・・ちっ、気分が悪くなった。男子は火の準備、女子は食材を取りに行きたまえ。」
ここで男女バラバラにするのは過去の恨みも混ざってない?
まだ小学生だよ?
俺は団扇で扇ぐ、アオグ、aogu・・・
かれこれ10分ほど扇ぎ続けている。
暑い・・・誰か冷たい飲み物持ってきてくれないかなー。
そんな俺の願いを聞きつけたのか天使が俺の前に舞い降りた。
「八幡、お疲れ様。はいこれ、暑かったでしょ?」
戸塚が俺にポカリを差し出す。
俺はそれを両手で受け取る。
暑さのせいか、戸塚の頬は赤い。
戸塚のせいで俺の頬も赤い。
俺の時間は止まっている。
周りの時間は動いている。
それは一秒かもしれないし十秒かもしれない、あるいはもっと時間が経っているかもしれない。
「暇なら見回ってきたらどうかね?」
俺の時間は1人の女教師によって動かされた。
俺はこの時間を壊した張本人を半目で見ながら答える。
「鍋見てるんで。」
「いや、戸塚のこと見てただろ。」
そのとおりです。
くっ、なんでわかったんだ。
忘れてた、、先生はイチャついてるやつに敏感だ。
つまり俺と戸塚の状況を読み取って・・・。
・・・それはないか。
まず戸塚は男だし、先程の俺を見れば暇というのは事実だ。
それでも俺はこの時間を楽しみたかった、邪魔されたくなかった。
俺の願いは届かず、炎の番人は平塚先生へと変わった。
俺が初対面の人間とあがらずに話すなど出来るはずもなく、俺は遠目で小学生達の行動を観察している。
すると一人の少女が俺の目に止まった。
ここに来る際に他の小学生に省かれていた少女だ。
俺からしたらなんともない光景だが小学生達は違うのだろう。
省かれている少女のいる班と思われるところは何もないかのように、それが当たり前のように作業に当たっている。
その他の生徒達は省かれている少女をチラチラと気にかけるように見るが、何もせずに自分たちの作業へと戻ってく。
そんな無限ループに一つの終止符がうたれた。
「カレー、好き?」
葉山の声によって。
葉山もこの現状を理解しているのだろう。
いや、すべてを把握してる訳では無い。
いわゆる『知ったか』というやつだろう。
俺は葉山の軽率な行動にため息をついた。
それを狙っていたかのように同時に明らかに俺のため息とは声音の違うため息が聞こえた。
雪ノ下だ。
「・・・あまりいい行動ではないわね。」
「同感だ。あいつは良かれと思ってやってんだろうが、逆効果だな。葉山のとるべき行動は秘密裏に、密やかにやるべきだった。あれじゃさらし者だ。あいつはぼっちに対する配慮を知らなすぎだな。」
「そう、ね。」
雪ノ下はどこか遠くを見つめながら小さくつぶやく。
雪ノ下も似たようなことがあったのだろうか。
良かれと思ったことは大半は裏目に出る。
ある人は『人生の8割は厳しさで出来てる』って言ってた気がする。
だからその2割を目指して生きている。
雪ノ下はその2割すら味わえていないのかもしれない。
そう、例えば・・・葉山のようなイイヤツによっていじめの対象になったり。
イイヤツは自分からイイコトしようと行動する。
それが意識的なのか無意識なのかはわからない。
けどこれだけは分かる。
イイヤツは自分の起こす行動の結果は全部イイコトになると信じ込んでいる。
葉山もその口だろ。
ま、そんなのにも柔軟に対応していくのが真のぼっちだ。
これからあの子のぼっち力が試される。
「・・・別に、カレーに興味無いし。」
少女はその一言を残すとその場から離れる。
そのまま俺と雪ノ下のいるところを目指しているかのように歩き出した。
葉山はそんな少女の反応に困ったような、後悔してるかのような顔をする。
そんなこともつかの間、いつもの笑顔に戻りほかの班員の方を振り向いた。
「じゃあ折角だし隠し味入れるか。隠し味、何か入れたいものある人。」
葉山がそう言うと一つの餌にがっつくピラニアのごとく小学生が騒ぎ出す。
やれ唐辛子だのチョコレートだのあんこだの福神漬けだの注目を引こうとよく分からないものまでリクエストする。
・・・福神漬けは隠し味じゃなくて付け合せだ。
「はい!あたし、フルーツがいいと思う!・・・桃とか!」
由比ヶ浜の元気な声により発せられたバカなリクエストにより小学生達は注目し葉山は苦笑い。
「バカが。」
心の声が口にまで上り詰めていた。
そんな誰に言ったわけでもない言葉に
「ほんと、バカばっか。」
省かれている少女が賛同した。
その声は冷たく、それなのに響く声だった。
「ほんと、そのとおりだな。早めに気づけてよかったじゃねぇか。早期発見は大事だってCMでやってたぐらいだしな。」
「私は見つけたわ。あなたというガンを早期発見出来たもの。」
「俺はガン扱いかよ・・・あれか、俺は社会のガンって言いたいのか?」
「ごめんなさい、既に手遅れだったわね。」
こんのアマ〜。
まだ手遅れじゃねーっての。
治療する時間ぐらいあるっツーの。
大門未知子先生に治してもらうもん。
あの先生・・・失敗しないらしい。
「・・・名前。」
「・・・枝豆。」
名前が何?
主語述語修飾語を使って起承転結簡潔に伝えてくれないとわからん。
分からなすぎてしりとりで返してしまった。
「名前聞いてんの。普通はさっきので伝わるでしょ。」
「普通は自分から名乗り出るものよ。」
雪ノ下による凍てつく波動に流石の省かれ少女も耐えれなかったのか軽くビビる。
「・・・鶴見留美。」
「そう。私は雪ノ下雪乃。そこのは・・・ヒキ、ヒキコ、・・・ヒキニクくんだったかしら?」
「お前はどんだけ俺をバラバラにしたいんだよ・・・比企谷八幡だ。」
お互いの自己紹介が終わったところでまるで自分も混ぜてくれと言わんばかりの勢いで
「あ、あたし由比ヶ浜結衣。えっと、鶴見留美ちゃんだよね?よろしく。」
由比ヶ浜も自己紹介をする。
元気よく空気を読まずに突撃してきた由比ヶ浜だが流石と言うべきかこの場の空気を素早く読みおとなしくなった。
「・・・なんか2人はあの辺の人とは違う気がする。」
鶴見は葉山のいる方を指差す。
確かに俺や雪ノ下は葉山とは違う。
これに関しては断言できる。
「私もあの辺と違うの。」
「違うってどの辺が?」
由比ヶ浜はよく分かっていないからか鶴見に問う。
「周りはみんなガキなんだもん。だから・・・1人でもいいかなって。」
「で、でも、小学生の時の友達とかの思い出って結構大事だと思うなぁ。」
「別に友達とかいらない。中学入ればよそから来た人と友達になればいいから。」
甘い、実に甘い。
マックスコーヒーに練乳を追加して飲むぐらい甘い。
どれくらい甘いかというと・・・すごく甘い。
「お前、今省かれてんのによく友達できる宣言したな。それに・・・この小学校から進学する中学校は基本一つだ。他は少し離れてるところや受験して別の学校行くぐらいだな。お前がどこの中学行くのか知んないけどもう少し頭使え。」
・・・ちと言いすぎたかな?
「・・・あのさ。」
鶴見は少し悲しそうな顔をしながら下をむいていた顔を上げた。
「うちのクラス、誰かを省くの何回かあって・・・けどその内終わってまた話したりする。一種のブームみたいな感じなのがあるの。仲良かった子も理由もなく省かれて、私もちょっと距離置いてたんだ・・・そしたらいつの間にか今度は私の番になってて。」
理由もなき行動。
子供の頃は特に目立つらしい。
ま、鶴見ぐらいの年齢になったら頭を使う。
理由がなかったら作ればいい。
足が早ければフライングして体育ズルしたとか、テストの点数がよかったらカンニングしたとか、罪を被せたりするなど考えればいくらでも出てくる。
いじめっ子の頭はよくキレる。
自分の持てる力を使ってイジメをする。
単に自分の力を見せつけたがる考えだ。
今回のいじめっ子は一体どんな理由でイジめをしたいのか、またどんなタイプのいじめっ子なのか。
「中学校でも・・・こんなふうになるのかな。」
鶴見はその一言を残し先程まで作業していた場に戻った。
その距離はあまり離れていないはずなのに少し距離を感じた。
俺は鶴見くらいの年齢のときにはボーダーだったから省かれるも何も学校に行っていなかったからアイツの気持ちはよくわからない。
俺とあいつはぼっちと同じ分類でも通ってきた道は全然違う。
頭上を飛ぶカラスの鳴き声が妙に哀愁を誘うのはアイツの悩みに触れたからなのか、答えは誰にもわからない。