「おお、遅かったな。」
クタクタになってまで歩いてきた俺たちを称えることのない皮肉混じりの無慈悲な言葉が降り注ぐ。
「そりゃ、車と足じゃ違いますから。ま、若い者は昔から自分の足を頼れって言われてますから仕方ないんですけどね。俺たち先生と違ってピッチピッチの中高生ですから。」
俺も皮肉を皮肉で返す。
心なしか先生の表情が今にも泣きそうな顔になっている。
ちょ、皆。俺が泣かしたみたいな顔すんなよ。
昔を思い出すじゃねーか。
ほんと、どんな状況でも泣かせたやつが悪いってどうなんだろ。
いや、大抵は俺が悪いことになってんだよなー。
「早速だが、少し多いがこれを下ろして配膳の準備を頼む。なぁに、若い君たちだ、これくらいならすぐに終わるだろ。」
先生の指差すワンボックスカーから弁当、ドリンク等が入っている箱を下ろす。
・・・多いな。
見るからに配膳だけじゃ終わりそうのないものが入っていた。
梨に包丁などの調理器具が箱の中からキラリと輝きを見せる。
「・・・手分けした方が良さそうだな。」
流石の葉山もこの量を見て苦笑いをする。
ま、ここで葉山が言い出してくれたおかげでリア充グループ達は自分たちで仕事内容を分担し始めた。
俺じゃ、誰も言うこと聞いてくれないから助かった。
「っべー。俺、料理とか無理だわー。」
「あーしも無理ー。」
「うーん・・・私も無理かなー。」
答え方は三者三様に分かれたが、答案は全員一致だった。
リア充グループは全員無理なようだ。
「俺も無理だなー。梨を串刺しにするなら得意なんだけどな。」
「俺もだ。梨を蜂の巣にするのなら任せろ。」
「悪いが俺も無理だ。」
「私もパス。」
「私も無理。」
「僕も。」
米屋、出水、三輪、操、くまちゃん、戸塚も無理らしい。
まぁ、最初から宛にはしてなかったが。
むしろ、操が包丁を握らないことに喜びすら感じる。
こいつは包丁を使う時の手の動きが危なっかしくて、見ておけないレベルなのだ。
果物ぐらいならむけるだろうが、それと同時に自分の皮をむくことにもなる。
「じゃ、俺と紅覇と綺凛とさっき無理って言ったのは配膳だな。」
「じゃあ、あたし達梨やるね。」
由比ヶ浜がそう言うと雪ノ下、由比ヶ浜、綾辻、小南、那須、木虎が包丁と梨を持つ。
雪ノ下は何故か由比ヶ浜のことをじっと見つめる。
「・・・由比ヶ浜さん、やっぱり配膳をやったほうが・・・。」
ん?なんで雪ノ下は由比ヶ浜の心配なんかしてんだ?
別に配膳の方は人数は十分に足りてるし、むしろ梨の皮むきの人数の方が少ない気がするぐらいだ。
「ふふん、あたしも相当腕を上げたんだからね。」
由比ヶ浜はどこか得意気に話す。
・・・相当腕を上げた?
俺の疑問はほんの数秒後に本人によって説明されることになる。
「な、なんでー!?ママがやってるのあんなに見てたのに!」
由比ヶ浜の手に乗っていた梨はボンッ、キュッ、ボンッとなかなかのグラマラスになっていた。
ママの見てても上達しないよ?
俺と同じサイド・エフェクトがない限り。
雪ノ下はため息をつき、由比ヶ浜に見せるように梨を剥き始めた。
由比ヶ浜もそれにならい見よう見まねで梨を剥く。
「由比ヶ浜さん、包丁は固定して梨だけを回転させるのよ。」
「こ、こう?」
「違う、切り口は梨に対して水平に。・・・遅い。素早くやらないと手の熱で梨が温かくなるでしょ。」
知らないうちに雪ノ下による由比ヶ浜のための雪ノ下お料理教室が開かれた。
「おい、お料理教室は今度にしてくれ。生憎、今日は時間も材料も限られてるんで。・・・操、梨と包丁取ってくれ。」
「りょーかい。」
操は水に浸かってる梨を1つ鷲掴みにすると、本来なら手渡しがいいのだろうが投げてくる。
またその投げ方がおかしい。
普通、人にものを投げる際は優しく投げるために下から投げるだろう。
だがこいつは違う。
上から手加減なんてものは存在しないと豪語するかのように投げてきた。
俺はそんな威力の高い梨を包丁の持ってない方の手でキャッチする。
「ナイスキャッチ!」
「もっと優しく投げろ!梨の数限られてんだぞ!」
俺はなんだかんだ文句を言いながらすぐに一つ目の梨に取りかかる。
由比ヶ浜と交代する以上、下手なところは見せられない。
スピーディかつセーフティに俺は梨を回す。
「流石ね、八幡!けど、私の方が上ね!」
「さっすが八兄。そこらの女とはレベルが違うね。」
「・・・流石です、比企谷先輩。」
「げ、本当だ!ヒッキー無駄に上手い!」
「・・・確かに男子にしては上手ね。けどまだまだね。」
小南と雪ノ下は俺の梨を見るとすぐに間違いなく別なものを作り出した。
2人とも似たような正確だからなのか、全く同じ作品を作り出した。
そう、それは・・・うっさぴょーん。
俺の前に2人のうさぴょんが出される。
その時、バチバチと音が聞こえた気がした。
俺は小南と雪ノ下に梨の皮は硬いからちゃんと剥けと文句を言おうとした、そのとき
「あら、小南さんもなかなかね。けど、私の方が上かしら。」
「なによ!あんたのなんか私の足元にも及ばないわよ!」
「寝言は寝てからにしなさい。自分の梨と私の梨を見比べてもそんなことが言えるのかしら?」
「その言葉そのまま返してあげるわ!」
2人の論争が火花を散らす。
誰だよこんなめんどくさい状況作ったの。
俺が周りの連中に目を向けると『お前が原因だろ』とでも言いたそうな視線が全員から感じられた。
「ちょっと八幡!この女と私の梨、どっちがいいか決めなさい!ま、当然私のだと思うけど。」
「比企谷くん。誠に遺憾なのだけれどあなたに頼むわ。当然、私のよね?」
2人とも俺を自分たちが持っている包丁で刺そうとする勢いで迫り来る。
考えろ俺。
この状況を打破し、尚且2人に不満を与えないような結果にする方法を。
ぽくぽくぽくチーン!
閃いた!
「一つだけじゃ見極めれないから、たくさん剥いてくれ、そしたらその中から一番のやつ選んだら俺に見せてくれ。」
おれが考えに考え抜いた案を話すと2人は先程までのスピードは嘘だったの?というほどの速さで梨の皮を剥き続ける。
すると、みるみると水に浸かってる梨はほとんど二人の手によって終わらされた。
目論見通り!
これで俺の仕事は2人によって終了した。
サボってだろってか?
違う!これはたまたま2人が大半の梨をやっただけであって、俺がサボろうと思っていたわけじゃない。
嘘じゃないよ?
え?何に誓うかって?
うーん・・・お天気お姉さんにでも誓うかな。
「さぁどっち!」
「早く選びなさい。」
最後の大仕事が残っていた。
ま、結果は決まってる。
「はいはい。では発表します。結果は・・・木虎!」
は?コイツ馬鹿なの?とでも言いたそうな顔で俺を見る。
2人は勝負に気を取られすぎたせいか、周りが見えていなかった。
それが二人の敗因だろう。
「な、なんで木虎ちゃんの勝ちなのよ!?説明しなさいよ!」
「2人が大量の梨を剥いてた時、木虎も梨を剥いていてなそれが2人よりも丁寧な作りだったからだ。・・・で、これがその作品だ。」
俺は木虎の剥いた梨を2人に渡し、その場をそそくさと離れた。
その後、結果に不満しかない2人にどっちのがいいか問いただされ続けたのは言うまでもない。