俺達は山の中を歩く、歩く。
小学生たちは地図を見ながらみんなで楽しんでる。
男子は女子にかっこいいところを見せようと、女子はそんなのを興味なさそうに進む。
「いやー、小学生マジ若いわー。俺ら高校生とかもうおっさんじゃね?」
前の方を歩いている戸部が言う。
「ちょっと、戸部やめてくんない?あーしがババァみたいじゃん。」
三浦が戸部を威嚇する。
あんたそう言いますけどね、多分実年齢より歳とってるように見えてるよ、小学生には。
「でも、僕が小学生だった頃って高校生はすごく大人に見えたなぁ。」
・・・お前のためなら俺はいろんなとこ大人にする準備は整ってるぜ!
「そうですね、私から見ても高校生は大人に見えます。・・・そこに、例外はいますが。」
戸塚の近くを歩いていた木虎が会話に参戦する。
つーか今完全に俺のこと見て言ったよな?
なに?あれか、これは俺の自意識が高いから俺が反応しただけであって、本当ははるか遠くのボーダー本部で今も仕事をしている・・・佐鳥のことかー!
「いえ、佐鳥先輩ではありません。比企谷先輩のことです。」
「・・・おい。俺の考えてることを口に出すな。そしてもう少し先輩を敬え。寧ろ俺を敬え。」
「先輩の大人らしいところを教えてくれたらいいですよ。」
ほぅ、俺はそこら辺の高校生、大学生よりも大人びていると自覚をしている男だぞ?
ふっ、木虎が俺を敬う日も近いな。
寧ろ今日がその時だ!
「いいだろう。なら、俺の仕事ぶりを説明してやる。まず、上司の愚痴に付き合わされる。次に仕事を押し付けられる。さらに・・・スポンサーに頭下げに行ってる。どうだ、これが成人を迎えてない高校生がやることか?否、そんなことは無いはずだ。よって、ここに高校生である俺がどれだけ大人びているかが、証明された。」
ふふふ、これが俺の働きぶりよ。
何度この頭を下げたかわからない、何度上司(沢村さん)をおぶったかわからない、何度タヌキとキツネに騙されて仕事を手伝わされたかわからない。
あー、こうやって思い返してみると俺の社畜メーターが振り切ってるのがわかるな・・・。
グス・・・八幡かなしい。
「悲しい大人ですね・・・。」
「・・・同情しないでくれ。」
「なんか・・・ヒッキーの大人のイメージって悲しいね!」
そんなに元気ハツラツに言わないで!
それと、由比ヶ浜会話聞いてたか?
イメージじゃねぇよ、リアルガチな物語だっつーの。
うわ・・・周りの目が同情の哀れみの目になってる・・・。
「ねぇ、八幡ってさボーダーでどれくらい強いの?」
悲しい空気を壊したのは天使。
その光は、まるで聖母マリアに包まれているかのような暖かい光だった。
「そうだな・・・例えるなら、由比ヶ浜が1000人いても勝てないな。」
「なんか例えがムカつく!」
「つってもなぁ、自分の強さは自分じゃ測れねぇんだよ。測れるやつはただの自信過剰な奴ぐらいだな。」
ほんと、自分のこと強いって言ってたあの人も、実際は大したことなかったしな。
実力ってのは自分で測るもんじゃない、他人に測られて初めてわかるものだ。
「なら私が測ってあげるわ!」
「グフっ!?」
どこで話聞いてたのか知らないが、さっきまで後方にいた小南が勢いよく俺にぶつかってきた。
もう周りの奴らは口をあんぐりとだらしなく開き、こちらを注目する。
あ、小学生と目あった。
「そうね・・・私からしたらまだまだだけど、ボーダー隊員の中では指3本に入ってるわ!」
そう言うと小南は俺の頭をぺしぺしとたたく。
っていうか、今の内容おかしいだろ。
なんでお前からしたらまだまだなのに指3本に入ってんだよ。
ボーダー内でのトップ3は天羽、迅さん、そして嬉し恥ずかしながら俺、だと思う。
ま、まぁ?俺だって個人総合1位だし?ノーマルトリガーを使う隊員には負けないし?
・・・小南はどこにいんだよ。
「お前は何様だ、小南。お前じゃ俺に勝てないだろーが。」
「ふっ、あんたも随分と負けず嫌いね!」
「残念ながら俺は負けず嫌いじゃねーよ。だって・・・俺は負けねーからな。」
今の俺はかなりのドヤ顔に違いない。
なんなら、ジョジョに出ていても問題ないぐらいにな!
あ、オファー待ってまーす。
「ふふ。八幡って学校だとクールだけど、外だと明るいね。なんか以外だな〜。僕はまだ八幡のこと何も知らないんだね。」
「・・・俺はお前になら全てを晒しても、いい。」
俺が戸塚にナイスガイに親指をグッとすると
パコォン!
音がするのと同じく、俺の視界が激しく揺れた。
「あ、あんた一体どんなに道を進もうとしてんのよ!?」
「そそそそそ、そうよ!そういうのはまず家族に相談しなきゃダメでしょ!?」
小南と操の意識も揺れた。
・・・そんなに慌てること?
戸塚ならオールマイティだろ?
麻雀なら便利なんだぜ?何にでも化けるんだぜ?
「家族?もしかしてヒキタニくんと巻町さんは従兄弟なのかい?」
先程までリア充の取り巻きを従えてた男、葉山隼人が俺に近づき話しかけてくる。
「違うわよ。苗字は違っても私たちは兄妹なの。」
「ま、そういうこった。ほれ、困ってるお嬢様たちがいるぞー。助けてこいよ、みんなの葉山くん。」
俺が皮肉るを込めて葉山を送り出すと、葉山は1度驚愕な顔になったが、またすぐにいつもの顔に戻った。
いや、いつもの薄っぺらい笑顔ではなく、なにか面白いものを見つけた子供のような、そんなに純粋なものではないが、少しゾクリとさせられるような笑顔だった。
・・・トイストーリーに出てくるおもちゃの気持ちがなんとなくわかった気がする。
「お兄さん、チェックポイント教えて!」
「うーん、俺らも答えを知ってるわけじゃないから、一緒に考えようか。ただし、皆には内緒だからな?」
ったく、こういうのをやらしたら天下一品だな。
いや、やっぱり・・・三流、かな?
一つの班は五人ずつと説明を受けている。
もしも、一人でもいなくなったら報告してくれと言われていた。
そのせいか、はっきりと見えてしまう。
子供たちどうしの、壁というものが。
葉山を取り囲む少女たち4人とは距離をおき、どこか明後日な方向を見ている少女がいた。
別にひとりなのが悪いわけじゃない、そしたら俺は毎日悪いことの塊みたいになってるしな。
操はなにか懐かしむ、訳では無いのだろうが何かを思い出したのかこちらを向く。
雪ノ下もなにか思うことがあったのか、溜息をつき自分の足元を見る。
「チェックポイント、見つかった?」
そんな少女を哀れんだのか、はたまた素で接したのかわからないが、葉山隼人は声をかけた。
「・・・いいえ。」
「そっか、じゃあみんなで探そう。名前は?」
「鶴見留美」
「俺は葉山隼人、よろしくね。あっちの方とかに隠れてそうじゃない?」
はぁ、あいつはバカなのかよ。
見ろよあの絶望しきった目。
1度、暗闇にに落ちたやつには葉山の光は強すぎる。
暗闇ではわからなかった目が、光によって露わにされる。
その目には何が写っているのか、それとも何も写ってないのかもしれない。
ま、俺にそれが理解出来たとしても何もできないけどな。
今までどんなふうに扱って欲しかったか、その体験を他人に被せるわけにはいかない。
だって俺は・・・耐え抜いてきたんだから。
お、ゴールが見えてきたな。
なんやかんやで歩いてても小学生よりも早くついたな。
この林間学校、報酬以上の働きをするかもしんねぇな。
俺のサイド・エフェクトがそう言っている。