全員の訓練が終わり、最初に集合した場所に再び戻ってきた。
因みに俺は総武高校の生徒がいる場所にいない。
今回、誰をスカウトするかは、俺が決めることになっている。
審査の基準は俺が決めていいとのこと。
この記録を見た感じスカウトする基準を超えてるのは・・・結構いるな〜。
えー、まじー?
この中にいるヤツら全員スカウト対象なの?
「みんな!今日は俺達ボーダーがどんな活動しているのか理解してくれたか?」
嵐山さんが喋り始める。
まだ生徒達はほとぼりが冷めないのか静かにならない。
「最後に、ボーダーからサプライズがある!その内容を今からボーダーが誇る最高戦力に説明してもらいたいと思う!」
えー、最高戦力?
最高戦力は天羽でしょー。
俺なんて未だに風刃使う迅さんや忍田本部長、おふくろにすら勝ててない。
名目上個人総合1位となっているが、それはあくまでポイントの話だ。
ポイントなんて勝って稼げばあっという間に貯まる。
まして、ポイント制になる前から俺はいたんだ、当然ポイントはほかの隊員達より多い。
この前なんて太刀川さんに負け越した。
ポイントはあくまで基準にしかすぎない。
だから俺は決して最高戦力なんかではない!
よって俺は壇上に上らなくていい。
おーい、天羽ー。
出番だぞー。
「比企谷先輩、早く登ってください。呼ばれてますよ、最高戦力って。」
木虎、笑いながら言うなよ・・・。
「俺、最高戦力じゃないもん。この前、太刀川さんに負け越したもん。」
「そんな気持ち悪いこと言わないでさっさと行ってください。」
こいつ先輩に対して何の悪びれもなくキモチワルイって言った〜。
もう、やってける自信が無い・・・。
結局俺は壇上にしぶしぶ上がった。
「どーも、A級部隊1位の比企谷隊隊長比企谷八幡でーす。それでは早速本題に入る。これから名前を呼ばれたものは前に出てきて下さい。」
俺が言うと周りはざわめき始める。
そうですよね、こんな奴が最高戦力なんて言われてたら不満だらけですよね・・・。
知ってた・・・。
「おい、あいつこの前テニスで圧勝してたやつだぞ!」
「え、あの巻町さんとダブルス組んでた?」
「どおりで強いわけだ。」
と俺の予想外の声が飛んできた。
マジ?
まだテニス勝負のこと覚えてたの?みんな。
ちょっと八幡ウレピー。
「えー、では呼びます。1人目、雪ノ下雪乃!2人目、葉山隼人!3人目、由比ヶ浜結衣!4人目、三浦由美子!5人目、戸塚彩加!この5人にはボーダーからのスカウトさせてもらいたい!」
俺がそう言うと周りからはざわめきが。
呼ばれた5人は目を丸く。
そりゃそうか、こんなんでボーダーに入れるとは思ってないもんな。
周りからは
「えー、なら本気でやればよかったー。」
やら
「もう一回やらせてくれー。」
など、負け犬の遠吠えが聞こえてくる。
戦場にもう1回はない。
常に自分の身は戦場にあること、常住戦陣の心がまえがないやつに戦わせる義理はない。
「因みに、今回の訓練で最高得点は雪ノ下雪乃だ。だが、最後の対近界民戦闘訓練のトップは戸塚彩加だった。よって戸塚彩加が入隊した場合、他の4人よりポイントが上乗せされる。当然、他の4人もスカウトという形で入隊してくれればポイントを戸塚ほどではないが上乗せしてもらえるだろう。それでは、俺からはいじょうだ。」
俺はそのまま壇上から降り木虎達がいる場所に戻った。
「流石ですね、比企谷先輩。」
「そうでもねーよ、時枝。俺はお前達よりは広報歴長いからな。ある程度は慣れてんだ。しっかし、大勢がいる前で喋るのはやっぱ、恥ずかしいな。」
「そうですね、俺もまだ慣れてませんし。」
「俺もまだなれてないんですよー。」
「テメーは知らん、佐鳥 。」
ウザさ全開の佐鳥 。
ホントこいつは何なの?
急にツインスナイプなんかで遊び出して、遊びかと思ったらランク戦でも使い始めるし。
「比企谷先輩!何でオールラウンダーってこと黙ってたんですか!?」
木虎が怒鳴る。
静かにね?
まだ嵐山さん喋ってるから。
「別に隠してたわけじゃねーよ。俺はもうアタッカー一筋だからよ、使う機会が無かっただけだ。」
「それにしても凄いですね、比企谷先輩。あのバイパーの動き、明らかにリアルタイムで弾引きしてましたよね?」
え、時枝気づいてたの?
「よくわかったな、時枝。あの短時間で見抜けるとは思ってなかったんだが。」
「ほんとにリアルタイムなんですか。」
「いや、お前が今言っただろ。」
「いえ、適当だったんですが・・・。」
ちっ、カマかけられたか・・・。
俺がリアルタイムで弾引き出来るの知ってるの、おふくろと忍田本部長と二宮さんと迅さんだけだっのに・・・。
まさかこんなところでバレるなんてな。
「比企谷先輩はシューター用トリガーは使わないんですか?」
木虎、そんなに尊敬するような目で見ても何も出ないぞ。
「今のままだったら無いな。」
「何で、オールラウンダー辞めたんですか?」
「質問だらけだな、おい。・・・まぁ、いっか。簡単に言うとついてこれなくなったからだ。」
「ついてこれなかった?」
「俺のアタッカーとしての腕にだ。遊ぶ分には何の問題もないんだが、実践となるとほんの少しのズレが命取りになる。だから、辞めた。」
「そう・・・ですか。でも、これからいろんな人に声かけられますね。」
「なんで?」
「佐鳥 先輩がボーダー隊員だけに見えるようにタイムラインに乗っけてます・・・。」
「さーとーりー!テメーなんてことしてんだ!?俺のプライバシー考えろよ!?」
「だって、みんな比企谷先輩がシューター用のトリガー使えるなんて知ったら驚くかなー、なんて?」
「もう一回現代社会学んでこい!個人情報保護法もう1度学習しやがれ!」
なんで俺の周りは口が軽いのかね・・・。
職場見学も終わり、各自解散となった。
にしても、戸塚のあの才能はかなりのもんだな・・・。
俺も抜かれる可能性がある。
そんなことを考えながら出口に向かってると。
由比ヶ浜が待ってた。
「あ、ヒッキー遅い!もうみんな行っちゃったよ!?スカウトされた記念にみんなで食べようってなったの知らないの!?」
「知らねーよ、初耳だ、んなもん。つーかお前は行かねーのか?」
「え!?・・・あ、いやー、何ていうかヒッキー待ってた、というか・・・その、置いてきぼりはかわいそーかななんて・・・。」
「別に誘われてすらいねーんだ。置いてったって気づきゃしねーだろ。」
こいつは優しい。
こんな俺に優しくするやつなんて限られてる。
でも、それが本心なら俺は嬉しい。
が、それが嘘や欺瞞、偽物の場合は俺の大嫌いなものになる。
「早く行こ?ヒッキー。」
仮にそれを本人が悟られないよう隠していても。
「何でそんなに俺に優しくする、由比ヶ浜。」
「え?そ、そんなことないよ。みんなと同じだよ。」
みんなと同じ・・・か。
いつもそうだ、みんなと言えば納得するかのような考え。
みんなって、一体誰なんだろうな・・・。
「別に同情で優しくする必要ないぞら由比ヶ浜。」
「え?」
「お前ん家の犬助けたのは偶然だし、仮に、その事故がなくても俺は一人だったと思う。」
「ヒッキー・・・覚えてたの?」
「まあな、思い出したのは最近だが。どんなに髪型を変えようが、どんなに髪の色を変えようが、どんなに化粧しようが、どんなに整形しようが、人げ変わらないところがひとつある。それは・・・耳の形だ。俺は人より目が良くてな、一度見たら無意識に覚えてたりするんだ。で、お前と初めて喋った時違和感を感じてたんだ。それが最近ようやく理解出来た。俺が意識をなくす前に見た耳の形とそっくりだってことにな。ほんと、人の事を耳の形で思い出すなんて初めてだ。」
「そっか、ミサちゃんが話したわけじゃ、ないんだ・・・。」
「だから、お前が俺に優しくする事はねーよ。・・・気にして優しくしてんならやめろ。・・・不愉快だ。」
「やー、なんだろうね。別にそういうんじゃないんだけどなー。なんていうの?・・・ほんとそんなんじゃなくて・・・。」
こいつは優しすぎる。
もしかしたらこいつは本心で俺に接触してきているのかもしれない。
それでもこいつは負い目を感じて俺に接触し続けるだろう。
自分のせいで事故にあったのだと。
俺はこいつに負い目を感じてほしくない。
実際、俺がしっかりしてれば怪我をすることもなかったしな。
ほんと、なんであの時ポッケから出てきたのがトリガーじゃないんだよ・・・。
由比ヶ浜が真っ直ぐな瞳で俺を見る。
それに対し俺も真っ直ぐに見る。
目を逸らさず。
「バカ」
由比ヶ浜はそういうと走り出した。
俺はそんな姿を見ることなく、自分の隊室に向かって足を向けた。
「バカにバカって言われたかねーよ。」
俺は誰に言うのでもなく、一人で小さくつぶやいた。
かの人喰いはこう言った。
『この世の不利益は全て当人の能力不足』
と。
ただその言葉を聞くと、その通りだ、と言う人はいるだろう。
しかし、この世は他人に罪をなすりつけるのが主流となっている。
あたかも自分は何の関係もないと・・・。
だがほんとにそうなのだろうか。
大規模侵攻で、大事な人を守れなかった者、連れ去られた者。
それらを目の当たりにした人たちはなんて言うだろう。
容易に想像できる。
『もっと早くにボーダーがあれば。』
『こんなところに来なければ。』
など、自分に原因があるとは思わない。
守れなかったのは自分に力が無かったせいだ。
それをボーダーになすり付けるな。
俺は以前、そう言われた。
迅さんも言われた。
大規模侵攻を体験したボーダー隊員達は皆言われただろう。
だから俺はもう、不利益など起きぬよう・・・力を求める。
そのためには、嘘も欺瞞も虚言偽物もいらない、ひつようない。
そんなものは・・・邪魔でしか、ない。
必要なのはお互いに本物だと思える関係だけだ。
だから、俺は偽物の関係が嫌いだ・・・。