奉仕部部室。
「おじゃまします。」
余裕を感じさせる涼し気な男の声。
本来であれば部活動としての活動が終わっている時刻。
既に帰ることを考えていた俺は帰宅時間を引き伸ばした男を恨みがま強い目で見た。
そこにいたのは本来ここにいてはいけない人間がいた。
イケメンだ。
こいつをイケメンと言わなければ誰をイケメンと言おうかというレベルのイケメンである。
そのイケメンは俺と目が合うとにこりと笑う。
この前の事根に持ってないのかな?
イケメンは器が広いですな〜。
するとイケメンは雪ノ下の方に向き直した。
「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ。」
肩にかかったエナメルを床に置くとそいつはそれが当たり前のように「ここいいかな?」と軽く断りを入れて雪ノ下の正面にある椅子に座った。
そんな仕草のひとつひとつが実に様になっている。
「いやー、なかなか部活から抜けさせてもらえなくて。試験前は部活休みになっちゃうから、どうしても今日の内にメニューをこなしておきたかったみたいなんだ。ごめん。」
必要とされてる人間はそういうものだろう。
え?なんでボッチの俺が分かるかって?
俺だって必要にされているからな!
個人総合1位で上層部の人間なんだ、当然必要とされる。
さっきだって木虎からLINE来て『学校が終わり次第、隊室に来てください。』と、簡潔なLINEが来たのだ。
後輩に頼られる、なんて嬉しいことなんだろう。
それがたとえ雑用でも・・・。
ま、こいつは俺とは違うのだろう。
戦力としてではなく葉山隼人を必要としているのだろう。
「能書きはいいわ。」
快活に話す葉山に向かって雪ノ下が遠慮なく言った。
心なしかいつもより刺がある気がする。
まあ、いつもがどれくらいなのかよく分からないが。
「何か用があったからここへ来たのでしょう?葉山隼人くん。」
雪ノ下はまるで声音に温度を付けるのなら絶対零度と言っも過言ではないほどの口調で言い放った。
そんな態度でも葉山は笑顔を崩さない。
「ああ、そうだった。平塚先生に悩み相談するならここだって言われてきたんだけど・・・。」
ああイライラする。
相手の本質を分かっていながら顔色一つ変えない顔。
自分の考えている事を悟らせない喋り方。
そして、しゃべる度に窓から風が吹き込んでくる。
何こいつ。
風を操れるの?
こいつの先祖風なの?
「遅い時間に悪い。結衣もみんなもこのあと予定とかあったらまた改めるけど。」
「や、やー。そんなの全然気を使わなくていいよ。隼人くん、サッカー部の次の部長だもんね。遅くなってもしょうがないよー」
由比ヶ浜が俺らを代表して言った。
だがそう思っているのは由比ヶ浜だけだろう。
俺は木虎に呼び出されてるし、雪ノ下なんかさっきからピリピリしてるし。
「悪いが俺はこの後用事あるから詳細はメールで送ってくれ、由比ヶ浜。」
俺は床に置いていたカバンを肩にかけ、その場から離れようとした時
「まちなさい比企谷くん。あなたに用事なんてあるのかしら。あなたがここにいるという事は今日は防衛任務もないはずよ。」
「呼び出しだ。これでも一応顔が広いんでね。」
「そう、わかったわ。帰っていいわ。」
「サンキュー、じゃ。」
俺はそのまま奉仕部部室を出て廊下を一人歩き始めた。
ボーダー本部。
俺は今木虎から呼び出されたから嵐山隊の隊室に向かっている。
嵐山隊で処理できないほどの仕事なんてやりたくないでごじゃる。
どうしよ。
バックれようかな〜、バックれてもいいよね、強制じゃないし。
よし、バックレよー!
俺はその場で周り右をするために右足を引いた時だった。
右足を踏まれた。
別に踏まれただけならいい、力ずくで払えばいいだけなのだから。
なら何故しないのか。
答えは、背中にあってはいけない感触がするからだ。
背中にある感触で形を確かめると恐らくガンナートリガーと推測される。
さらに、この形だと使う人物が絞れる。
犯人は・・・木虎 藍だ。
このワイヤーを出すことが出来るトリガーは俺の知る限り木虎しかいない。
犯人がわかると次第に腕を上に挙げ、振り返ろうとした時
「動かないでください。」
かなりご立腹な声がする。
「あ、あの藍ちゃん・・・?」
俺はいつもとは違う呼び方で呼んでみた。
それほどにまでパニクってる。
「藍ちゃんではありません。私は・・・殺し屋木虎サーティーンです。」
殺し屋木虎サーティーン・・・だと。
誰だよ!?
俺はサイド・エフェクトを使い目だけで木虎サーティーンの顔を見た。
その顔には整った髪、眉間にシワ、そしてグラサン。
いかにもゴルゴサーティーンをイメージさせる様な格好である。
「あ、あの木虎サーティーンさん。この状況はいったい・・・。」
「口を開けないでください。そしてこれをつけてください。」
木虎サーティーンは俺にアイマスクを渡してきた。
ま、まさか・・・俺がこれをつけている間に殺るということか。
俺は言われるがままアイマスクを付け木虎サーティーンに引っ張られて行った。
まだかな〜、目をつぶると恐怖心も出てくるし、方向感覚狂うし、自分の歩幅も曖昧になるから早くアイマスク取りたいな〜。
「アイマスクを外してください。」
俺の願いがかなったのか木虎サーティーンはアイマスクをとることを許可してくれた。
辺りを見渡すとここは個人ランク戦ブースだった。
俺は木虎サーティーンの方を向くと木虎サーティーンは木虎 藍に戻っていた。
「比企谷先輩、私とランク戦してください。」
木虎が頭を下げお願いしてきた。
こんなことしてまでランク戦したいのかね。
木虎サーティーンなんてならなくてもやってあげるのに。
「別にいいぞ。今日は暇だしな。それにいいものも見れたしな。」
「え、いいんですか!?もっと手こずると思っていろいろな作を考えていたんですが・・・。」
「もしかして仕事手伝えってのも嘘?」
「いえ、それはホントです。私が勝ったら手伝ってください。」
「それじゃあ俺仕事しなくていいじゃん。」
まだルーキーの木虎には負ける事は無い。
「舐めないでください!」
「舐めてねーよ。それでも経験の差は埋められてないだろ?だからハンデをやるよ。」
「そんなのいりません。本気でやってください。」
「もちろん本気でやる。俺の言ってるハンデってのは俺の使用するトリガーをスコーピオン二本だけにする事だ。どうだ、これならお前のためにもなるだろ。」
「わかりました。ではお願いします。」
「おう。じゃ俺112にいるから。ステージは好きにしていいぞー。」
「ハイわかりました。」
ランク戦。
どうやらステージは市街地Aのようだ。
ここなら銃撃戦にはもってこいだしな。
木虎は俺のことを本気で潰すようだ。
当然、俺も本気でやるがな。
俺は両腕からスコーピオンを出した。
形状は刀の様だが短く反りがない。
忍刀といわれる刀の一種だ。
俺はスコーピオンを使う時は必ずこの形にする。
この形状には利点がある。
一つ目は大きさだ。
スコーピオンは大きくなればなるほど脆くなる。
だから短くすればある程度は相手の攻撃をしのげる。
二つ目は握りやすさだ。
握りやすさによって違和感を消すことが出来る。
俺は基本孤月を使っている。
そのせいか、孤月と同じ形じゃないと戦ってる最中違和感しかなく落としてしまうこともあった。
このふたつは恐らく弧月を使っている俺だけの悩みだろう。
弧月に慣れすぎると頑丈さ、握りやすさが大幅に違うため定期的に鍛錬を積んでおかないといざという時に使い物にならなくなる。
だから俺は木虎との個人ランク戦でスコーピオンだけといい機会だったから言ったのだ。
ま、木虎本人がどう受け取るかだけどな。
恐らくイラついているだろう。
何でわかるかって?
だって本人が鬼のような形相でこっちに迫ってるもん。
「おいおい木虎、俺に真正面から突っ込んできて勝てると思ってんのか?」
「いいえ。思っていません。正面がダメなら・・・」
木虎がそう言うと横に飛び退いた。
本来であれば地面に激突する筈だが木虎の体は宙に浮いていた。
否、立っていた。
スパイダーだ。
にゃろ〜、俺のところに来るのが遅いと思ったらスパイダー設置してやがったのか。
しかも、俺に気付かれないよう少しの音も立てずに。
木虎は俺の周囲に張り巡らされたスパイダーを次々に踏み擬似的なピンボールをし始めた。
こんな動き初めて見るな。
ほんと、こいつの成長スピードには下を巻く。
木虎は跳びながらガンナートリガーで撃ってきた。
こりゃ緑川のピンボールよりタチがわりーな。
けどな・・・
「それで勝てるほど俺は甘くないぜ。」
俺の周囲に無数の刃が生えた。
その刃は木虎の踏んでいたスパイダーを次々に切り裂き最終的には木虎はバランスを崩し落下した。
当然俺はそのスキを見逃さない。
だが、近づいて撃たれる可能性もあるから俺はモールクローで木虎に止めをさした。
『戦闘体、活動限界。ベイルアウト。』
木虎はベイルアウトし俺の勝ちが確定した。
その後29本やらせれ記録は俺が全勝で幕を閉じた。
木虎〜、勝つまでやるって言うなら早く勝って・・・。