やはり俺の界境防衛機関での物語は間違っている   作:つむじ

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彼女は敗北する

俺は立ち直ることができないまま那須の家に来た。

むしろ失恋してすぐに立ち直るなど無理な話だ。

は〜、気持ち切り替えられないな。

目をつぶると戸塚の綺麗な顔立ちが浮かび、戸塚のカミングアウトが谺響する。

「比企谷、いつまで引きずってんの。過去は過去よ、前を見ないと。」

そう言いますけどね、くまちゃん。

あなた笑ってるじゃないですか。

むしろあなたが過去を振り返らせているように思えるのは俺の気のせいだろうか。

俺は濁りきった瞳でクマちゃんを見た。

「比企谷、そんな目で私を見ないで。照れるじゃない。」

と、心にもないことを言い出した。

だってまだ笑ってるんだよ?

恨みしかないのだが。

よし、明日ランク戦でボッコボコのギチョンギチョンのメッタメッタにしてやる。

俺が心に強い決意を決めていると

ピーンポーン

くまちゃんがインターホンを鳴らした。

まだ女子の部屋に入る心の準備ができていないというのに・・・。

くまちゃんがインターホンを押して1分もかからず家主が出てきた。

「くまちゃん、いらっしゃ・・・って、なんで比企谷くんが居るの!?」

家主の那須玲だ。

病弱でお嬢様学校に通っている。

そんな事よりも、くまちゃん俺来る事言ってなかったんだ。

那須は慌ててドアを閉めるとドタドタと家の中を走り出した。

病弱なのに走っていいの?

少し経つとまたドタドタと音が聞こえてきた。

その時だった、ドテッと、鈍い音が聞こえてきたのだ。

「い、いらっしゃい。2人とも入って。」

おでこの赤い那須が出てきた。

こいつ転けたな。

玄関を見るとスリッパが散乱していた。

恐らくスリッパを踏んでコケたのだろう。

まぁ、それはどうでもいいのだが

「なぁ、那須。俺ここに来てよかったのか?今からでもまだ間に合うぞ、帰って欲しかったらすぐに言えよ?」

那須に確認をとった。

だって気まずい空間で話し合いとかやだもん。

那須にも気を使わせるわけにはいかないしな。

「だ、大丈夫。むしろいつでも来ていいよ?ていうか来て。」

と、オッケーが出た。

にしても随分とテンパってるな。

手とかよく分からない動きになってるし。

なんで、小南といいお嬢様学校の奴らはどこか残念な感じになるのだろうか。

「良かったじゃん比企谷。いつでも来ていいって。これからは比企谷も反省会参加ね。」

「いや、俺そんなに暇じゃないんだけど。」

「大丈夫よ比企谷くん。比企谷くんの日程にあわせるから。」

やめて、男子にとって嬉しいことばかり言わないで。

俺、成仏しちゃう。

って、俺は幽霊かよ。

いや、この世に幽霊などいないな。

いるのはスタンドだけだ!

頭の中でバカをやっていると那須たちが立ち止まった。

どうやらここが那須の部屋のようだ。

スーハー、深呼吸をした。

だって緊張するんだもん。

仕方ないじゃん、だって八幡だもの。

俺は横目で立ち止まってる那須を見た。

すると那須も深呼吸していた。

え?そんなに男子入れるのに緊張するの?

那須がドアノブに手を掛けた。

ガチャ、ドアが開いた。

俺の目に最初に飛び込んできたのはパジャマだった。

那須は顔を赤くし、急いでパジャマを布団の中に隠した。

「あ、比企谷先輩!ついにきてくれる気になったんですね!」

元気な後輩、日浦茜が俺に挨拶をしてきた。

「よっ、今日も元気だな。その元気俺にも分けてくれ。」

「先輩が元気玉作れるようになったらあげますよ。」

よし、ならば早速界王星にでも行ってくるか。

「あ、どうも比企谷先輩。」

急にパソコンが喋り出した。

別にAIなどでは無い。

第一そんなの使っていいのはうちの隊だけだ。

「よっ、志岐。相変わらず引きこもってんな。」

志岐小夜子。

那須隊オペレーターにして引きこもりで男性恐怖症。

ならなんで俺と喋ってるかって?

それは俺のことを男として見ていないらしい。

そんなこと初めて言われた時はショック過ぎて男前になる為に色々としたものだ。

因みに那須隊の隊服を作ったのはこいつだ。

胸元が見える少々セクシーなデザインだ。

恐らくボーダー内で一番男子の視線を集める隊だろう。

「比企谷先輩は、何でここに?那須先輩のパジャマでも見に来たんですか?だとしたら生憎もう着替えてますよ。」

「いや、違うから。それに、パジャマ姿俺もう見たし。」

そう言うと日浦と志岐はお〜、と感嘆な声を上げた。

それに対して那須はというと顔を赤くし枕に顔を埋めた。

「はいはい、茶番はこのへんにしてそろそろ本題に入るよ。」

くまちゃんの一声で反省会が始まった。

那須隊のランク戦での相手は鈴鳴第一と最近順位を落とした香取隊だった。

その時のムービーをみんなで見始めた。

 

 

 

30分後。

「さ、比企谷先輩アドバイスお願いします!」

開口そうそうそれかよ。

「そうだな・・・、まず那須、お前が点取れなかったのはきついな。もう少しバイパーをリアルタイムで撃てる数を増やせ。それか合成弾をもっと早く生成できるようになることだな。次にくまちゃん、くまちゃんは今回香取を落とせたのはいい仕事だった。けど、それで最期に片足落とされたのはお前の油断が原因だ。相手がベイルアウトするまでしっかりと相手を見とけ。後もっと体捌きを早くしろ。最後に日浦、今回はお前が一番良くて一番悪かった。来馬先輩、別役を落としたのは良かったがなんで最後ベイルアウトしなかった。しておけば村上先輩に落とされることは無かったんだぞ?そうすれば那須隊は12位確定だったんだ。もっとチームのために何が出来るか考えろ。」

ふ〜、言いたい事はだいたい言えたな。

「比企谷くん、どうすればもっとリアルタイムで撃てるバイパーの数増やせられるかな?」

「そうだな・・・、よし。那須、このノートに右手と左手で別々の絵をかけ。お題はオバQとエリザベスだ。2つとも似てるから簡単だろ。」

「わかったわ。」

「比企谷先輩!私は?狙撃についてアドバイスないんですか?」

「お前は奈良坂がいるだろう。奈良坂に聞け。」

「この場では比企谷先輩に聞いてるんです。早く答えてください!」

「は〜わかったよ。お前は撃つ時の体制が少し斜めっている。恐らくお前は気付いてないと思うが左肩が下がってて右肩が上がっている。そうすると撃った時の反動が大きくなる。後は奈良坂に聞け。」

「はい、ありがとうございました!」

くまちゃんは聞いてこなかった。

チョットショック。

もう少し頼ってもいいのに。

「あ、そういえば比企谷先輩なんでさっきまで元気なかったんですか?」

俺が忘れかけていたことをショベルカーで掘り起こしやがった。

やめて、また悲しくなってくるから。

「あ、茜。実はね・・・」

くまちゃんは俺が言った事を日浦たちに伝えた。

するとみるみると那須の元気もなくなっていった。

ん?何かブツブツ呟いてるな。

ナイを言ってんだ?

俺は耳を澄ませその声を聞いてみた。

「私、男の子に負けたんだ。しかも男の子に対する恋愛で。」

何のことかさっぱりわからないが何かがショックだったらしい。

そんな空気を感じてか日浦が話題を変えてきた。

「そ、そういえば比企谷先輩って比企谷小町って娘知ってますか?」

「知ってるも何も俺の妹だぞ。」

俺がそう言うと日浦はえーー!?と大声で叫んだ。

おいおいあまり大声出すなよ。

隣のお嬢さんまだ元気ないんだから。

「実は昨日引っ越してきたんですよ、私の中学校に。」

そうか、ついにここに来てしまったか。

避難していたはずなんだが。

よし、帰ったらお袋に連絡してみよう。

「悪いが俺は帰る。」

「え?もう?」

「ああ、あ、そうだ。明日放課後に俺の隊に来い。じゃあな。」

俺は那須家を出てバイクにまたがり家に向かって走り出した。


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