TSで行く進撃の巨人 作:ハゲ教官
閑話みたいなもの。
『ベルトルト・フーバーの場合』
ベルトルト・フーバーの朝は早い。同期に同郷と公言しているライナーと共に風呂に入り、嫌な寝汗を落とすところから一日が始まる。
このところ、毎日夢を見る。自分が奪ったも同然の数多の命が、枕元で囁きにくるのだ。聞き取りづらく、呪詛にも近いそれはベルトルトの精神を確実に蝕んでいく。だから、目が覚めて相棒の顔を見るとどうしようもなくほっとする。
使命とはいえ、五年前のウォール・マリア破壊には思うことがあった。同時に、まだ自分が戦士として未熟という現実を叩き付けられる。恐らく、壁内人類と自分達の戦いは今よりも更に激化するだろう。そうすれば、もっと多くの命を奪うことになる。そこに、ベルトルトの是非はない。
過剰なまでのストレスの捌け口は、一人の少女に注がれた。自分たちの秘密を知ったというのに、人類どころか同期の誰にも話さない不思議な少女であったが、ベルトルト達には好都合であった。隠匿のために殺そうと躍起になっていたのだろう。
ただ、それは理由の一部分でしかない。
きっと、何かに夢中になっていられなければやっていられなかったのだと思う。秘密を守るため、とかこつけて密かに弱者をいたぶる事で自分に優越感を感じていたのだ。結局彼女が死んでしまえば、今度こそ自分は壊れてしまうというのに。もっとも、それに気付いたのはずっと後だったけれど。
『ライナー・ブラウンの場合』
奴は気さくな良い奴だ。だが、妙に俺達を警戒しているフシがある。エレンやミカサ、ジャンなどには笑顔で接していく癖に、俺達を見た途端顔から笑いが消えるのだ。まるで今まで見せていたそれが演技であるように。いや、実際演技だったのだろう。同じく仮面を被っている俺だからこそわかると言ってもいい。
妙に保身的で、だが良い奴。きっと後者は打算的に動いているだけだろうが、それが攻を奏して同期からの信頼はそこそこに厚い。人の心を掴むのがうまい、とでも言えば良いのだろうか。まるで最初から性格を知っているかのように相手が嫌がることはしないし、むしろ喜ぶ事を率先してやっていた。
だからだろうか。奴にどこか妙な歪さを覚えたのは。当然の事である訓練に『これやんの!? マジで!?』だとか抜かして笑いを取っていたが、あれは打算ではなく本気だったのだと思う。どこか甘い考えの持ち主なのに、この世界が残酷な事をよく理解している。……ほら、歪だろう?
まあ、奴が急に女子になったときは素直に驚いたが。例えるなら、そうだな。クリスタの姉と言われればしっくりくる。あくまでも見た目の話だが、かなり好みの部類だった。あの少々キツめな目がまた……。
『アニ・レオンハートの場合』
あいつは、一言で言えば腐りきった壁内部と変わらない奴だ。クズだ。まず自分を大事にして、他人は後回し。そのくせ困った時は他人に救いを求める。どこまでも利己的な態度を貫いていて、逆に好感が持てるほどに清々しいまでのクズ。
だがまあ、普通の人間だろう。人間とは普通ああやってあるべきなのではないか、と最近思う。あんな人間が沢山いる社会があれば、きっとこんな世界より、きっと数倍良い世界なのだ。甘えが通用する世界。全くもって素晴らしい話じゃないかい。………まあ、この世界でそんな事になろうものならそれこそ醜い、ありのままの人間が見られるだろうが。
秘密を知られた時は焦ったが、それと同時に『あいつならいいか』という気持ちさえ沸いていた。今でもこの感情の答えは出せていない。なんだかもやもやするが、置いておいても良い問題だ。
………だが、それはそれとして。104期の皆(ライナーとベルトルトは例外)で誕生日プレゼントをあいつに送ったのだが、私の小包だけ開封すらされずにゴミ箱に投げ棄ててあったのはどうかと思う。警戒はされているのだろうな、と物悲しくもなった。
次の作戦では、きっと結果的に彼女を殺すことになるだろう。どこか胸に小さく痛みが走るが、故郷に帰るためだ。仕方がない、覚悟を決めよう。
『ユミルの場合』
確かに見た目だけはクリスタに似てるが、性格は真逆だねありゃ。あの娘は『誰かの助けになっている』という事を実感するために周りに優しくするが、あいつは『自分自身を生かすため』に行動している。まあ、私にはどうでもいいんだがな。
あいつがどっかの誰かみたいに、良家の娘だったりするなら……恩を売っておくのも悪くはないけどな。
『エレン・イェーガーの場合』
良い奴。
エレンは単純。はっきりわかんだね(偏見)