【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は新たな性格改変キャラが登場します。といっても、これまでのぶっ飛んだ性格改変具合から鑑みると全然性格が変化していない部類に入るかもしれませんので、あしからず。ま、誰が出てくるかはサブタイトルの時点でもう大体が察しがついているかと思いますけどね。



97.熱血キンジと天才少女

 

 キンジが兄を自室へと連れこんだ、その翌日。綴先生が体調を崩したペットを病院に連れて行っただとかで休講となった2時間目の後、3時間目は屋内プールにて水泳の時間となった(※もちろん男女別である)。だが、肝心の強襲科(アサルト)教師と体育教師とを兼任している蘭豹先生が「……ランキング……ネーム……」とか「……主要メンバー、テコ入れ……」などと謎の言葉を呟きながらフラフラとどこかへと去っていったために授業は自然消滅。結果として、生徒たちは3時間目を自由時間として、思い思いの時間を過ごすこととなった。

 

(蘭豹先生……目の下の隈酷かったけど、大丈夫か? あれ、最低でも三徹した奴の目だったぞ)

 

 それぞれ自由自在にプールで泳いだり、プールサイドで友達と駄弁ったりする中、キンジはまるで覇気の感じられなかった蘭豹先生の容体をほんの少しだけ気にかけつつ、平和極まりない今という一時をプールサイドのデッキチェアに腰かけた状態で享受していた。すると、キンジの隣にごく自然な所作で武藤がストンと腰かけた。

 

「ん、武藤? どうした?」

「……オススメ……読め……」

 

 水泳の授業にもかかわらず制服姿のままの武藤はキンジにスッと一冊の小説を差し出してくる。どうやら今回も武藤は自身のオススメ小説を俺に無償で貸してくれるらしい。キンジは「お、サンキューな」と武藤一押しの小説を受け取ると、せっかく時間があるんだからと早速読み始める。見た所、今回の小説は厨二道を突き進む王道型のライトノベルのようだ。奇をてらい過ぎて何かしらおかしくなっているライトノベルが氾濫する昨今においては、逆に珍しい部類のライトノベルと言えるだろう。

 

「……ん……」

 

 文字の世界に入り込んでいくキンジの様子をしばし見つめていた武藤は満足げに一つうなずくと、自身の読みかけの小説を取り出して読み始める。プールサイドにて。リラックスした様子で読書にふけるイケメン二人が現在進行形で醸し出している雰囲気はさぞ異性にとっての癒しスポットとなったことだろう。尤も、キンジ&武藤のいる場所にはほぼ男しか存在していないのだが。

 

 

 

 そして。二人が読書を始めてから約十数分が経過した頃。

 

(何か騒がしいな……)

 

 眼前のプール周辺が何やら尋常でないほどに騒がしくなってきたために、さすがに音をシャットダウンできなくなったキンジはしぶしぶ読書を中断して音の発生源を見やる。ワンテンポ遅れて隣の武藤も「……むぅ……」と不機嫌を存分に顕わにしたしかめっ面で前を見やる。

 

「さぁさぁ皆の衆! 私の最新作をさっさとプールに投入するのだ! 5秒で投入するのだ! なのだ!」

「「「「応ッ!」」」」

 

 キンジと武藤の眼前では、一人の少女――というよりアリアに匹敵するレベルのロリ体型を引っさげた幼女がビシッとプールを指差してハイテンションで声を張り上げ、その典型的なロリボイスに追随するように男衆(1メートル半ぐらいのサイズの潜水艦の模型を数人がかりで運んでいるようだ)が返事をする光景が繰り広げられていた。

 

 その間、幼女の取り巻きの男たちが「オラァ! まだ泳いでる野郎どもォォオオオオ! さっさと陸に上がりやがれェ!!」とか「姉御の姉御による姉御のためのデモンストレーションの時間だァ!!」とか「2秒で失せなァ!!」などともはや奇声に近い怒声を上げながら、プールの水を純粋に楽しんでいた少数派の武偵たちを次々とプールサイドへと実力行使で追い出している。彼ら取り巻きの顔つきはかつてキンジが恐れをなした、ヤクザ系統のコスプレをしていた公安0課の人たちに勝るとも劣らない迫力だ。

 

(あー、平賀か……)

 

 キンジは左右の一房を耳で纏めただけの短髪を引っさげた幼女、もとい現在騒音を発生させまくっている中心人物に視線を送る。

 

 平賀文。平賀源内という江戸時代の有名な発明家の子孫であり、装備科(アムド)に在籍している機械工作&発明の天才児だ。本来ならSランク級の実力を持つ人物なのだが、数々の問題作を生み出しては味方だろうと犯罪者だろうと誰彼構わず提供しまくるせいでAランク止まりとなっていたりする。要するに、平賀文は生粋のトラブルメーカーなのだ。

 

 

 そんなトラブルメーカーたる平賀は、取り巻きたちの実力行使により誰もいなくなったプールに別の取り巻きたちが潜水艦の模型を浮かべたのを確認すると、その場にペタンと座り込み「さっそく発射なのだ! いっけぇぇえええええええ!! なのだ!」と操縦プロポを両手にロリ声で勢いよく叫ぶ。すると。ぷかぷかと上半分ほどが水に浮いている潜水艦の背中から小さいハッチがたくさん開いたかと思うと、そこから大量のロケット花火が飛び出してくる。

 

 ぱしゅぱしゅぱしゅという気の抜けた音とともにハッチから姿を見せたロケット花火群はそのままグングンと上昇し、天井へと突撃する。そして。当然のごとく天井を粉々に破壊した。結果、ロケット花火による天井粉砕により生まれた無数もの瓦礫が、某暗殺一家のお爺さんが使っていた龍星群(ドラゴンダイヴ)のごとく、天から雨のように降り注ぐこととなった。

 

「ちょっ!?」

「……ッ!?」

 

 まさかの出来事に驚愕の念を隠せないキンジだったが、上空から降ってくる瓦礫の一つが数秒後には自身の足に当たると気づき、慌てて足を上げる。直後、ズガンとキンジがついさっきまで足を置いていた場所に割と大きめの瓦礫が突き刺さる。

 

(あ、危なッ!?)

 

 キンジが内心で戦慄していると、ガスッという頭部を鈍器で殴られたような音とドサッという砂をつめたサンドバッグが地面に落ちたような音が響いた。自身のすぐ隣から聞こえた音へとキンジが目を向けると、そこにはうつ伏せで倒れる武藤の姿があった。どうやら瓦礫の一つが武藤の頭に直撃してしまったようだ。とはいえ、肝心の瓦礫が小さめだったのか、ちょっとした流血程度の怪我で済んでいるのが不幸中の幸いか。

 

「武藤、大丈夫か!?」

「……大丈夫だ、問題ない……」

 

 キンジはもう自身の周囲に瓦礫が降ってこないことを確認しつつ、しゃがみ込んで武藤の容体を尋ねると、当の武藤は流血部分を痛そうに手で押さえつつも「……心配無用……」と立ち上がる。フラフラと足元がおぼつかなくなっているわけでもないので、武藤の言葉がただの強がりなんてことはないだろう。

 

 

 一方。自身の軽率な行いで怪我人(※武藤以外にもチラホラいるようだ)が発生していることなど知りもしない平賀はスババババッと操縦プロポを動かしていく。平賀が女の子座りのまま一歩も動いていない所を見ると、どうやら平賀は天井破壊による瓦礫の落下地点をもあらかじめ計算に入れた上で座る位置を決めていたらしい。

 

(ホント、Aランクに留めておくのがもったいないぐらいの天才だよな……)

「行けーい! 私のボストーク号ォ! (そら)の彼方まで飛んでけーい! なのだー!」

 

 キンジが改めて平賀の凄さを再認識する中、当の平賀は迅速な指さばきで操縦プロポにコマンドを入力しつつ高らかに叫ぶ。すると、平賀の叫びに呼応するように潜水艦の既に開かれたままのハッチからファサッと、まるで高位の天使が身に纏っていそうな純白の翼が六対現れ、それらの翼の羽ばたきによって潜水艦は華麗に宙を舞うこととなった。

 

 

 ところで。平賀が確かに口にした潜水艦の名前、その名前をキンジは知っていた。超アクラ級原子力潜水艦『ボストーク』、もといボストーク号。空前絶後の巨大原潜だったのだが、進水直後に事故で早速行方不明。本来その機能性をもって縦横無尽に活躍するはずが、不幸にもいち早く歴史から姿を消すこととなってしまった悲劇の原子力潜水艦なのだ。

 

 その名前を平賀がつけていることを鑑みるに、眼前の作品は平賀がかつてのボストーク号を模型レベルで現代に復活させた、ということなのだろう。

 

(だけど、これはやりすぎだろ……)

 

 突如として船の形からロボットへと変形するとともにグルグルときりもみ回転をしながら空中を自由自在に飛んでいく、ボストーク号とは似ても似つかない変態性能を備えた謎の物体にキンジはつい言葉を失う。しかし。キンジが驚いている間にもボストーク号(?)は『エースィー♪』という、いかにも某公益社団法人のCMで流れてそうな音を時折響かせながら水上に両足で着地すると、水上を当たり前のようにダッシュで駆け抜けていく。あたかも『右足が沈む前に左足を出し、左足が沈む前に右足を出し、これを繰り返せば水上でも走れる!』とでも言わんばかりに。

 

 

(え、えーと……これって夢だったりする? いつの間にか眠ってました、なパターンだったりする?)

「さっすが発明界の才女、平賀様! 俺たち一般武偵にはできない発明を平然とやってのける!」

「ヒャア! 平賀様クオリティは健在だぜ!」

「21世紀史上最高の天才児はダテじゃないってことだ!」

「平賀様の科学力&画力は世界一ぃぃいいいいいいいいいいいい!!」

「超人気漫画の作画と発明の二足のわらじでこの出来栄え、他の追随を許さないとかマジ平賀様!」

 

 キンジがあまりに非現実的な動きをやってのけるボストーク号(?)を前に半ば現実逃避に走る中、変態的な動きを見せつけるボストーク号(?)を見つめてさらなる盛り上がりを見せる平賀の取り巻き勢。ところで、その取り巻き勢の中に「もうこれは科学なんて枠組みに収まるもんじゃねぇ! 神理(しんり)だ! 『(平賀様)の造り出した新たなる理』と書いて神理(しんり)と呼ぶべきじゃねぇか!?」などとまくし立てる不知火の姿が混じって見えるのはきっと気のせいだろう。そうに違いない。

 

「それはない」

「ないな」

「ねーよ」

「バカじゃねーの?」

「はぁ? 何言ってんのお前?」

「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」

「あはは、何か言ってら」

「……」

 

 平賀の発明を『神理』と呼ぼうと提案した不知火が他の取り巻き勢から全否定されている所を見るに、どうやら彼ら取り巻きたちは平賀の信奉のみを目的に結集しているためか、メンバー同士が完全な一枚岩としての結束を保持しているわけではなさそうだ。

 

「ニャッハハハハハッハハハハハッ!! もっと褒めるがいい、皆の衆! その褒め言葉こそが私の次なる発明の源になるのだからなー! なのだ!」

 

 不知火が同志であるはずの連中から言葉の暴力を喰らっている中、平賀は不知火のことなど欠片も気にも留めずにエッヘンと胸を張る。というか、さっきから語尾の「なのだ」の無理やり感が否めないのは俺だけだろうか。にしても――。

 

 

「……何あのオーバーテクノロジーの塊。時代先取りにも程があるだろ……」

「フッフッフッ。知らないのかね、遠山くん。悲劇の原潜ことボストーク号はさ、実は用途に応じて様々な形に変身することができてねー。グレートありがとウサギにもなれるしガン●ムにもなれるのだよ!」

「いやいやいや! ねえよ、変身とか! あってたまるかッ!」

(てか、いつの間にここまで接近されたんだ、俺!?)

 

 誰に話すでなくポツリと呟いたキンジ。刹那、キンジの言葉を拾った平賀が得意げなウインクを送ってくる。あくまで当時のボストーク号を忠実によみがえらせた風に話す平賀にキンジは思わず声を荒らげるも、平賀の耳にキンジの言葉はまるで届いておらず、「あ、これ『オラクルフォース』のネタになるかもなのだ! 後でらんらんに言ってみよう!」などと己の考えを口に出して、その考えの名案っぷりを受けてにこやかな笑みを浮かべている。

 

「さーて、君にこのクオリティの発明ができるかね、武藤くん? なのだ!」

「……余裕……」

「にゃはは。表情や声色が全然変わってない所を見るに、ホントに余裕で作れると感じてるみたいだね。なら、これを見ても同じことが言えるのかな、なのだ!」

 

 武藤の前で両手を腰に当てて勝ち誇った笑みを浮かべていた平賀だったが、武藤の言動から武藤に負けを認めさせられていないと悟り、自身の発明品のさらなる機能を見せつけるためにプール上をダッシュで走っているボストーク号(?)を指し示す。すると、ボストーク号(?)は空高くジャンプし、またしてもその形態を大幅に変えた。

 

「って、これラピ●タじゃねぇかぁぁぁあああああああああああ!?」

 

 キンジはボストーク号(?)が天空の城ラピ●タへとその姿を変貌させたことに目をこれでもかと見開く。その隣では「知らなかったのかね、遠山くん? 実はあのラピ●タのモデルはボストーク号だったのだよ!」と平賀が腕を組んで自慢げに語り、取り巻きたちが「「「「な、なんだってー!」」」」と一斉に驚愕の声を上げる。実に息がピッタリな連中である。

 

 

「にゃはは。どうだね、武藤くん。これで私の才能を認める気に――」

「……舐めてるの?」

「にゃ?」

「……この程度で、俺を越えられるとでも……?」

「当たり前なのだ! このボストーク号は私の技術の粋を結集させた最高傑作! さすがの武藤くんでもここまでの発明はできないに決まってるのだ!」

 

 今度こそ武藤剛気に負けを認めさせられる。そう確信した平賀はどんな勝利宣言を口にしようかと考えつつ武藤の方へと振り向く。しかし、平賀の目が捉えたのは憤りの念を多分に含んだ武藤の眼差しだった。しかし、そこはさすがの平賀なだけあって、武藤から怒りの感情を向けられても一切揺るがない。

 

「……その言葉、宣戦布告と受け取った……」

 

 取り巻きたちが平賀の言葉に「そーだ、そーだ!」と援護射撃を加える中。武藤はゆらりとした足取りで平賀の元へと歩み寄る。

 

「……発明の神髄、見せてやる……。……あの程度の発明で、二度と得意げになれないように……漫画家との二足のわらじでこなせるほど、発明の世界は甘くはない……」

「面白いのだ! やれるものならやってみろ、なのだ!」

 

 互いに啖呵を切り、バチバチと激しく火花をぶつけ合う武藤と平賀。二人の身長差が激しく、また平賀が小学生を彷彿とさせるロリ体型なために、傍から見た限りだと不良高校生が金銭目的で小学生を恫喝するシーンに見えなくもない。

 

 

(武藤と平賀って、仲悪いのか?)

 

 武藤や平賀の新たな一面を知ることとなったキンジは今の二人に声をかけて下手に刺激するのはマズいなと考え、ひとまず沈黙する。どういう原理か、空中でピタリと制止しているラピ●タが異様な存在感を放つ、とある3時間目の出来事であった。

 

 




キンジ→リアクション担当と化した熱血キャラ。原作みたく、平賀を「さん」付けで呼ばない。
武藤→本編への登場はかなり久しぶりな寡黙キャラ。何かと突っかかってくる平賀のことを鬱陶しく感じている。バスジャックの時のガラス片しかり、飛来物の被害を割と被っていたりする。
不知火→平賀を信奉するエセ不良。これはジャンヌちゃん涙目ですな。
平賀→原作以上にハイテンションな天才少女。同類かつ万能男な武藤をライバル視しており、武藤を越えられるようにと日々努力を積み重ねつつ、片手間で漫画の作画も担当している。取り巻きを引き連れてふんぞり返りたいタイプ。取ってつけたような語尾の「なのだ」はキャラ作りの一環。
蘭豹→少年漫画「オラクルフォース」を連載中の教師。ペンネームはらんらん。ただいま、本業そっちのけで「オラクルフォース」の今後の展開に頭を悩ませている。

神崎千秋「俺は何も見てないぞ。荒ぶるボストーク号なんて見てないぞー」

 というわけで、97話終了です。今回は久々にはっちゃけたましたね。何がとは言いませんが、それはもう色々と。これがふぁもにかが自重という枷を外してやらかした結果だよ!


 ~おまけ(没ネタ)~

平賀「なら、これを見ても同じことが言えるのかな、なのだ!」

 ボストーク号(?)がラピ●タへと形態変化。

キンジ「って、これラピ●タじゃねぇかぁぁぁあああああああああああ!?」
キンジ(ってことは……例のあの呪文で壊れたりすんのか?)
キンジ「バルス」

 ボストーク号(?)、崩壊開始。

平賀「あぁあ!? 私のボストーク号がぁ!? じ、自爆装置起動の合言葉を唱えたのは誰なのだァァァアアアアアアアアアア!?(←絶望の表情)」
キンジ(ホントに崩壊したよ、おい……)

平賀(せ、せっかく私が4時間もの歳月をかけて作り上げた最高傑作が一瞬で粉々に……あ、でも何なのだ? 何か、深い悲しみと同時に何かゾクゾクするような感情が湧き上がって来てるのだが……何なのだ、この未知な感情は?)

 平賀さん、Mに目覚めちゃうの巻。


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