【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回はカナさんとの戦闘回。でもって、今回も相変わらず『戦闘回になると無駄に地の文が増える』というふぁもにかの特性がいかんなく発揮されておりますので、前回と同じくパラパラっと読み飛ばしていくこと推奨です。……ホント、もっとスマートかつスタイリッシュに執筆できるようになれたらいいんですけどねぇ、やれやれ。

 ま、それはとにかく。キンジくんが明らかに格上なカナさん相手に何秒もつかに注目しつつ、94話を楽しんじゃってくださいませ。……え、なに? キンジくんが勝つ? 主人公補正のあるキンジくんなら誰が相手だろうと負けるわけない? (´・∀・`)ハハッ (ヾノ・∀・`)ナイナイ



94.熱血キンジと先読みの先

 

(見せてやるよ、カナ姉。将来、世界最強の武偵になる人間の実力って奴を――)

 

 空き地島にある風力発電機のプロペラ部分にて。キンジは眼前で無形の構えを見せるカナを見据えて得意げに口角を吊り上げると同時に足場を渾身の力を込めて踏みつけ、震脚を放った勢いのままに後ろへとピョーンと跳ぶ。そして。一度も後ろを確認しないままに跳んだキンジは危なげもなくANA600便の翼端に着地した。

 

 カナはまさかキンジがいきなり退却ついでに足場を揺らしてくるとは思わなかったのか、グワングワンと大きく揺れるプロペラ部分からバランスを崩して落ちそうになっている。その表情に浮かんでいるのは100%純粋な驚愕の念。

 

 

 当然だ。最初の最初で不安定な足場を不用意に揺らすなど、下手したら自分が足を滑らして落ちてしまう可能性が十分に考えられる以上、命をまるで顧みない無謀な行為と同値なのだから。実際、プロペラから下に落ちてしまえば、待っているのは約15メートル上空からの紐なしバンジー&コンクリートの地面へ容赦なく叩きつけられる未来なのだから。

 

(けど、こうでもしないとカナ姉には絶対勝てない)

 

 キンジはカナを格上の相手だと思っている。別次元の相手だと思っている。今の自分の実力では例えヒステリアモードを巧みに駆使したとしてもまず勝利はあり得ないと思っている。それほどまでに勝機の限りなく薄い戦い。けれど、キンジは勝たないといけない。アリアが殺されないために。カナにアリア殺しをさせないために。尤も、カナの姿を脳裏に思い浮かべる形でヒステリアモードになっているキンジがその手段を使ってヒステリアモードになった所でかえってカナを傷つけられなくなり、ノーマルモードの時以上に勝機が薄くなってしまうのだが。

 

 とにかく。普通に考えればまず勝利のあり得ない戦いにおいて、されど絶対に敗北の許されない戦いにおいて、勝利をあり得るようにするにはどうすればいいか。勝機をほんの1%でも増やすにはどうすればいいか。勝利を掴み取るためにはどうすればいいか。

 

 

 答えは簡単だ。普通ならまず負けしかあり得ない状況で、それでも勝利をもぎ取りたいのなら、常識的な戦いをしてはいけない。常にカナ姉の意表を突くような、カナ姉の想定を軽く凌駕するような、突拍子のない戦い方を選ばないといけない。

 

 それでは、常にカナ姉の想定を超える戦い方をするために必要となる絶対条件とは何か。その問いにキンジが瞬時に出した答えは一つだった。

 

 

(――カナ姉の行動を全て先読みしてみせろ、俺!)

 

 

 ANA600便の翼端に着地したキンジは再び、グラグラと未だ揺れているプロペラへと躊躇なく飛び乗る。その際、またしてもプロペラの揺れが大きくなったせいで、バランスを取り戻す一歩手前だったカナは再び足を踏み外しそうになる。一方。キンジはバランスを整えることなんてどうでもいいと言わんばかりにアンバランスな体勢のままカナへと足を踏み出した。そして。低姿勢のまま風のごとく駆けるキンジはグングンとカナとの距離を詰めていく。

 

「おおおおおおおおおおおおおお――!!」

 

 気迫のこもった雄叫びを上げてカナへと駆けていく一方で、キンジは考える。今現在、カナが何を考えているのかを。足場がおぼつかない中、雄叫びとともに迫ってくる弟を前に、何をしようとしているのかを。

 

 

(できるはずだ。俺はずっとカナ姉と一緒に生きてきたんだ! カナ姉の考えることのトレースぐらい、余裕だろ!?)

 

 カナ相手に勝利するために、頭をこれでもかとフル回転させてキンジは必死に思考する。長年カナとともに過ごしてきた経験がある以上、カナの行動を予知することは可能だと信じた上で。

 

 

 ――おそらくカナ姉はこう考えているだろう。

 

 

【まさかいきなり足場を揺らしてくるなんて思わなかったわ。……これは悠長にバランスを取っている場合ではないわね。一刻も早くキンジの動きを止めないと。体勢を立て直すのはその後でも遅くはないわ】

 

 そして。俺の動きを止めるために使う手段はまず間違いなく、カナ姉の切り札の一つである不可視の銃弾(インヴィジビレ)。カナ姉の同僚曰く『いつ銃を抜いたのか、いつ狙われたのか、いつ撃たれたのかすらわからない』らしいそれをカナ姉はここで使ってくるはずだ。カナ姉の持つ2つの切り札の内、中遠距離の間合いで使えるのは不可視の銃弾だけなのだから。

 

 その銃を見ることすら叶わない神速な銃撃を避けるには二つのやり方がある。一つ目は先の踏みつけで足場を揺らした時みたいにカナ姉の想定を超える行動を選んでカナ姉の銃撃を妨害する方法。つまり、己の命を顧みない無謀な行為を選ぶ方法である。

 

 そして二つ目、それは銃の見えない銃撃を『見て』から避ける方法だ。何も銃が見えなければ銃から射出される弾丸をかわせないなんてことはない。銃自体が見えないのならば、他の場所を見てから不可視の銃弾を使ってくるタイミングを計ればいいだけの話なのだ。

 

 キンジは知っている。カナが銃を撃つ時、わずかに、ほんのわずかにだが左の眉がピクッと動くことを。大概が初対面である犯罪者やたかが何年か同じ仕事をしている同僚には見破れないほどささいな癖なのだが、カナを脳裏に思い浮かべるだけで余裕でヒスれるほどにカナ姉大好きっ子なキンジに見抜けないカナの癖などなかったのである。

 

 そのため、キンジはカナが銃を撃つタイミングを予知することができる。しかし。ここで問題となってくるのは、銃弾の放たれる場所。カナに、今からカナがどの場所を狙ってくるかが読み取れるような都合のいい癖はない。ゆえに、こればかりは癖による判別は不可能だ。

 

 でも。カナ姉の撃ってくる場所がわからないのなら俺が誘導してやればいい。誘導自体はそこまで難しくない。カナ姉にとって俺はたった一人の弟で、カナ姉はある程度は俺に対して好意を持っている。だから、いくら何でもカナ姉は俺を銃殺しようとはしないはずだ。となると、カナ姉は防弾制服に覆われた部分しか、あるいは撃たれても命に別状のない場所しか狙わないはず。言い換えれば、カナ姉は絶対に俺の頭は狙わないだろう。……あくまで希望的観測だけど。

 

 だから。後は俺が低姿勢を保ちつつカナ姉へと迫ることで、決して見ることのできないカナ姉の銃口は自然と斜め下へと向くこととなる。これが意味することは――ただ一つ。

 

 

(カナ姉の左の眉がピクリと動いたタイミングで思いっきりジャンプすれば、不可視の銃弾を避けられる!)

 

「今ッ!」

 

 キンジはカナの左の眉がほんの少しだけ動いたのを捉えると、足場のプロペラを強く踏みしめて前方高く跳躍する。直後、キンジのジャンプにワンテンポ遅れる形でキンジが今さっきまでいた場所にガンと銃弾が黒い跡を残した。

 

(よし、やった! やったぞ! 上手くいった!)

「――ッ!?」

 

 キンジは自分の先読みが上手くハマったことにハハッと笑みを零す。一方、カナはどんな宝石よりも綺麗なエメラルドグリーンの瞳をこれでもかと見開いた状態で石のように固まっていた。不可視の銃弾を初見でかわされたことがよほど衝撃的だったのだろう。

 

 その一瞬に満たない体の硬直を見逃すつもりはない、今の内に決める。と、言いたい所なのだが、相手はカナ姉だ。いくら想定の埒外の出来事を前にショックを受けた所で、すぐさま我を取り戻すはずだ。

 

(まだだ、まだ喜ぶのは早いぞ、遠山キンジ! 次だ、次にカナが打ってくる手を考えろ!)

 

 キンジはカナの切り札たる不可視の銃弾をかわしたことによって生まれた全能感に支配されそうになる思考回路を正すと、再びカナの思考のその先を予測しようと頭をフル回転させる。

 

 

 ――今現在、カナ姉はこう考えているはずだ。

 

 

【不可視の銃弾をかわされた。まさか、見切られたの? ……いえ、あり得ない。あり得ないわ。銃弾が放たれるまで36分の1しかないこの不可視の銃弾を人間がかわせるはずがない。じゃあ、どうして、どうやってキンジは不可視の銃弾をかわしたの? ヒステリア・サヴァン・シンドロームになってすらいないのに。……キンジが不可視の銃弾をかわしたカラクリがわからない以上、不可視の銃弾を使い続けるのは得策ではないわね。ここは、別の手段でキンジを倒す必要がある】

 

 こんな感じの思考を経て、カナ姉は不可視の銃弾でない別の手段――それも切り札級の手段――を用いて俺を倒そうとするはずだ。そうなれば、残るカナ姉の切り札はサソリの尾(スコルピオ)だけだ。

 

 サソリの尾。その切り札について、キンジは名前しか知らない。しかし。キンジはサソリの尾は近接武器の類いだろうと当たりをつけていた。

 

 

(カナ姉レベルの卓逸した実力者が中遠距離攻撃の切り札――不可視の銃弾――の通じない相手のことを想定しないはずがないからな)

 

 ジャンプした状態のままのキンジの前方にて。不可視の銃弾を避けられたショックから再起動を果たしたカナは絹のように滑らかな茶髪を揺らして三つ編みに結っていた布をほどくと、髪に隠してあったいくつものパーツに分かれた金属片をジャキジャキジャキと即座に組み立てていく。

 

 一瞬にも満たない間に組み立てられた結果、出来上がったのは大きな曲刃。それにカナが懐から取り出した三節棍のような金属棒を組み合わせることで完成したものは、まるで西洋の死神が携えていそうな、濃紺に染められた大鎌だった。

 

(これがサソリの尾……!)

 

 キンジはあまりに物々しい大鎌を前にゴクリと息を呑む。今すぐにでもカナの大鎌の射程外へと逃げ出したい衝動に駆られる。しかし。カナに向けてジャンプした体は止めようにも止まらない。今のキンジは飛んで火にいる夏の虫も同然だ。

 

「これを使うことになるとはね」

 

 と、ここで。カナがしみじみといった風に呟き、大鎌の柄をまるでバトンでも持つかのように軽く掴むと大鎌を真横に振るおうとする。未だ空中にいるキンジはこのままでは為す術もなく大鎌の餌食となってしまうだろう。防刃効果もある制服のおかげで胴体が真っ二つになることこそないが、大鎌を喰らった衝撃でプロペラ部分から落下→遥か下方のコンクリートにグシャリとなる流れがキンジを待ち受けていることだろう。

 

 

(――悪い、カナ姉)

 

 まさに万事休すの状況。それを打破するために、キンジはカナの大鎌による攻撃を妨害するための一手に打って出る。できればこの手段だけは使いたくなかったとでも言いたげな、苦虫を噛み潰したような表情とともにキンジはカナの顔面に銃を向けてすぐさま銃弾を放った。カナが銃弾をかわせることに全幅の信頼を寄せつつも、キンジは本気でカナを銃殺せんと引き金を引いた。

 

「え」

 

 一方。まさかキンジが自分の顔面目がけて銃弾を放ってくるとは思ってなかったカナは信じられないといった眼差しをキンジへと向けながらも咄嗟に大鎌をグルンと回して銃弾を弾き飛ばす。この時、ほんの一瞬にも満たない時間だが、カナとキンジの間を大鎌の曲刃が通り抜ける。その間の、大鎌によってカナの視界から自分の姿が消え去る瞬間を利用しないキンジではなかった。

 

 キンジは続けざまに二連続で発砲。数寸違わずカナの手元へと飛んでいった銃弾は大鎌の持ち手部分に命中し、その強い衝撃により大鎌がカナの手元から弾き飛ばされる。そうして。カナの手から零れ落ちた大鎌はそのまま下へとクルクル落ちていき、コンクリートにズガンと突き刺さった。

 

 

(よし! これでサソリの尾も封じたぞ!)

 

 キンジはあらかじめサソリの尾を近接武器の類いだろうと予測し、サソリの尾を攻略するにはカナ自身にサソリの尾を手放してもらうしかないと考えていた。ゆえに。キンジはサソリの尾とカナとを引き離すためにわざとカナの頭を狙って発砲し、カナの動揺を誘ったのだ。もしもカナがこれで動揺していなければ、自分の振るう大鎌の軌跡で一瞬でも自分の視界を遮るようなうかつ極まりない真似はしなかっただろう。というか、迫りくる銃弾を「残像だ」と言わんばかりに紙一重で避けつつキンジに大鎌の斬撃を浴びせていたことだろう。

 

 自分が先ほど、カナ姉が弟である自分の頭目がけて発砲するはずがないとの希望的観測を胸に抱いていたのと同様に、カナ姉も同じようなことを考えているはず。そんな想定の元に、カナの抱く希望的観測を敢えて打ち砕くキンジの行為はカナの心に動揺を生じさせ、迫りくる弾丸に対するカナの対処を狂わせるには十分過ぎるものだった。そして。そのカナのミスのおかげで、キンジは実にあっさりとサソリの尾をカナの手の届かない所まで弾き飛ばすことができたのである。

 

 尤も、カナのミスを誘発したキンジはキンジで、自分がカナの顔を狙って発砲したという事実に現在進行形で罪悪感を感じまくっているのだが。

 

 

(――これで終わらせる)

 

 かくして。己の心に重くのしかかってくる罪悪感を甘んじて受け入れる代わりにどうにかサソリの尾の無力化に成功したキンジはカナのすぐ目の前にトタンと着地する。続いて。キンジは間髪入れずに体をねじるようにして渾身の裏拳をカナに放つ。カナが他に何も切り札を持っていないと断定できない以上、キンジに攻撃の手を緩めるという選択肢はなかった。

 

 一連の流麗な動作とともに繰り出されるキンジの裏拳。不可視の銃弾にサソリの尾と、己が絶大な信頼を寄せる二つの切り札を初見で攻略されたことに呆然と立ち尽くしていたカナが迫りくるキンジの拳に気づいた時には時すでに遅し。キンジのスナップの利いた裏拳で頬を思いっきり殴られたカナは脳が激しく揺さぶられる感覚とともに派手に真横へと吹っ飛ばされていく。

 

 

 

 今、ここにおいて。わずか7秒にも満たない攻防はキンジの勝利という形で終結したのだった。

 

 

 




キンジ→ヒステリアモードなしでカナを倒しちゃう辺り、ついに人間をやめたっぽい熱血キャラ。カナが好きすぎるあまりにカナの癖を全て把握しており、カナ限定でなら条理予知っぽいことも出来ちゃう模様。何このヘンタイ。
カナ→愛しの弟に顔面目がけて発砲されたり顔を裏拳で殴り飛ばされたりと散々な男の娘。発砲時に左の眉がピクッと動く癖がある。ちょっぴり想定外の出来事に弱かったりする。

キンジ「当たらなければどうということはない」

 というわけで、94話終了です。ノーマルキンジくんが男女平等パンチでカナさんを倒してジャイアントキリングを達成するというまさかの展開、これをあらかじめ予測した人はいないのではないのでしょうか。あと、ブラド戦は無駄に長くしてしまったので今回はさっくり終わらせました。1話で戦闘回が終わるって素晴らしいですね。にしても……あぁ、第四章の最大の見せ場が終わってしまいましたねぇ(←え?)


 ~おまけ(その1 カナが負けた原因を端的にまとめるとこうなる)~

・戦闘開始早々、不安定な足場を思いっきり揺らされてビックリ。
・今まで攻略されたことのない不可視の銃弾をあっさり避けられてショック。
・サソリの尾を放とうとした瞬間、愛しのキンジにヘッドショットされかけて絶望。
・ついでにサソリの尾をキンジの銃弾の衝撃で手から弾き飛ばされて呆然。

 とまぁ、こんな感じです。要するにブラコンが裏目に出たということです。


 ~おまけ(その2 ネタ:自由気ままな観戦者たち)~

 風力発電機のプロペラ部分にて対峙するキンジとカナ。

レキ「……(←ドラグノフで二人を観察する戦闘狂)」
武藤「……(←自作の超高性能双眼鏡で二人を観察する万能男)」
中空知「……(←武藤の超高性能双眼鏡を借りて二人を観察するドS少女)」
風魔「……(←武藤の超高性能双眼鏡を借りて二人を観察する忍者)」
風魔「師匠の勝利に1垓ペンゲーにござる」
レキ「私の永遠のライバルの勝利に200万ジンバブエ・ドル」
武藤「……あのリア充男の勝利に100万パピエルマルク……」
中空知「う~ん、見事に遠山くんの勝ちに傾いちゃったね。これじゃあ賭けにならないよ。ま、私もあの何気に耐久性のある実験体の勝利に100万ディナールにするんだけどね」

 実に平和な連中であった。

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