【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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カナ(アホの子ver.)「このぎんがをとーかつするじょーほーとーごーしねんたいによってつくられたたいゆーきせーめーたいこんたくとよーひゅーまのいどいんたーふぇいす……それが、わたし」
キンジ(な、何か始まったっぽいぞ?)

 どうも、ふぁもにかです。今回は前回から引き続きカナさん回。シリアスとギャグを上手い具合に混ぜ合わせたつもりだけど……変に混沌となってなかったらいいですねー(遠い目)。あと、今回はキンジくんの心情描写がちょっと冗長な気がしますので気軽に読み飛ばすこと推奨です。



93.熱血キンジと譲れない想い

 

「悪い、カナ姉。その、情けない所見せて」

 

 キンジがカナに会えたという嬉しさからついカナを抱きしめ号泣しまくってからしばらくして。相変わらず足場的に少々心もとない風力発電機のプロペラの上にて。夕日が水平線にその姿を消そうとする中。キンジは自分がさっきまでやらかしていたことに関して唐突に恥ずかしさを覚え、カナから目を逸して謝った。

 

「謝ることないわ、キンジ。こうしてスキンシップを取ってくるキンジ、久しぶりだったから……昔に戻ったみたいで嬉しかったわ」

 

 謝罪に対してニコリと慈愛に満ちた聖母のごとき微笑みで返してきたカナにキンジは思わず「ウグッ!?」と胸を押さえ、数歩後ずさる。心の準備が整っていない内にカナの神秘的な笑顔を真正面から捉えることとなったために、今のキンジの思考回路は異常をきたしていた。

 

(そ、その笑顔は反則だろ、カナ姉ぇぇええええ!? お、おおおおお落ち着け、遠山キンジ! 衝動に飲み込まれるなッ! 実行するならせめてこんな開けた場所なんかじゃなくてもっとそれっぽい場所で――ってぇぇえええええ!? そうじゃないだろうがッ!?)

 

 キンジは18禁ルートへと傾きつつあった思考回路を元に正すために、ついでにドクドクと血液が体の芯に集まっていくヒステリアモードの前兆を妨害するために自分の顔を思いっきり殴る。しかし。一度殴ったぐらいでは全然修正も妨害もできそうになかったので、キンジはさらに数回顔を殴りつける。キンジの奇行を目の当たりにしてキョトンとするカナをよそに。

 

(ま、マズい。しばらくカナ姉と会ってなかったせいで、カナ姉の所作への耐性が弱くなってるんじゃないか、これ? これは早くカナ姉に慣れないと本格的にマズい。俺がヒスって暴走してしまう前にどうにかして全力でカナ姉に慣れないと!)

 

 キンジが内心で決意を固めていると、ふとカナの纏う雰囲気が変質した。これまでの凛と一本筋の通ったしたものからふにゃ~んとした脱力感の漂うものへと、ガラリと身に纏う雰囲気を変化させたカナはスタスタとキンジから幾ばくかの距離を取ると、「う~ん」と首を傾けた。

 

「あれ? そういえば私、どうしてこんな所(風力発電機のプロペラ部分)にいるのかしら? そもそも、何が目的でキンジに会いにきたんだったかな?」

「……いや。俺に聞かれてもわからないんだけど、カナ姉」

「うぅ、何だったかなぁ? 凄く大事な話をするはずだったんだけど……あ、そうだ。私、この前街中を歩いていたらスカウトの人に読者モデルやってみないかって誘われたからキンジの意見を聞きたかったんだった」

「ふぁッ!?」

「どう思う、キンジ? 私って読者モデルに向いてるかしら? あ、そうそう。あと私、今度大学生に成りすまして東大のミスコンに出場するつもりだから応援よろしくね」

「いや、いやいやいや! ちょっ、何言ってるの、カナ姉!? それ本気!? 本気で言ってる!?」

「? 本気に決まってるじゃない」

「やめて、カナ! お願いだから踏みとどまって! 読者モデルもミスコン出場もやめてくれ! カナがそれやると色んな意味で大変だから! 厄介なことになるから!」

 

 突如として、これまでの流れと全く関係のない話を持ち出してきたカナにキンジは慌てて止めに入る。カナ姉が読者モデルの道を歩み始めたらどうなるか。ミスコンに出場したらどうなるか。そんなの、言うまでもない。待っているのは混沌の未来だ。

 

(年齢と性別を詐称していておまけに死んだものとして扱われてたカナ姉がいきなりミスコンやら読者モデル業界やらに現れて人気をもれなく全てかっさらって行ったら、本業の人たちのショックが計り知れないだろうしな。それに、カナ姉の美貌はむやみに衆目に晒すものじゃなくて、俺を含むごく少数の人たちによって静かに楽しむものだ。世間の、それもあの手の平返しが大得意なマスコミ連中のネタにされてたまるかよ)

 

 キンジは私欲半分、ミスコンに出場する女性や読者モデル業界の女性の精神的安寧を保つ目的半分でカナから繰り出された突拍子もない話を突っぱねる。すると。カナは「……そう」といかにも残念そうに表情を暗くした。眉を悲しげに寄せるカナの表情に酷く罪悪感に駆られたキンジだったが、俺の方が正しいはずだと何度も言い聞かせることでどうにか平静を保つことに成功した。

 

(そうだった。忘れてた。すっかり忘れていた。カナ姉バージョンの時の兄さんには平常運行の真面目モードと、大脳への負荷を少しでも減らすために思考能力のほとんどを放棄する低労力モード、もといアホの子モードがあるんだった。この二つのモードを状況に応じて使い分けることでよりカナ姉状態でのヒステリアモードをより長く持続させてるんだった。……きっと、スカウトやらミスコンの話はアホの子モードの時に耳にしたんだろうなぁ)

 

 キンジは「ミスコン、出たかったなぁ」としょぼくれるカナを前につい半眼になる。今現在、キンジの脳内ではいつでも凛々しくカッコいい完璧超人なカナ姉像が木っ端微塵に砕け散っていた。憧れのカナ姉像が砕け消えていく感覚にキンジはついほぼ沈んでいる夕日を見やって目を細めつつ「思い出補正、か……」と一言呟くのだった。

 

 

「……何をたそがれているの、キンジ?」

「いや、何でもないよ、カナ姉。……でも、よかった」

「?」

「カナ姉が相変わらずで、安心した。何も変わってない、いつものカナ姉で安心した」

 

 キンジはカナを見やって優しく微笑む。確かに五体満足のカナ姉とこうして再会することはできたが、性格が全く変わっていないとは限らなかった。もしもカナ姉の性格が豹変していたら、俺のよく知るカナ姉とまるで違うものとなっていたら、俺はきっと正気ではいられなかっただろう。それだけに、相変わらずのカナ姉の姿に俺は心から安堵した。

 

「何も変わってない、ね……」

 

 しかし。キンジの言葉を契機に、その場の空気がわずかに変わった。ついさっきまでの和やかであまり緊張感の感じられない空気から、どこか不穏さの漂う空気へと。

 

「カナ姉?」

「……私は変わったわ、キンジ。それも多分、悪い方向に」

「え?」

「――あ。そうそう、やっと思い出した。ねえ、キンジ。私と一緒に、今から神崎・H・アリアをいい感じの崖から突き落としましょう」

 

 カナの口からサラッと飛び出てきた言葉に、キンジは言葉を失う。キンジにとっての正義の体現者であり、憧れだったカナが放ったまさかの言葉にキンジは一瞬声を失う。

 

「カ、カナ姉? 何、言って……」

「キンジ、この周辺でおあつらえの崖、あるかしら? できたら常に風が吹き荒れていて荒波がぶつかっているようないい感じの所からアリアを突き落としたいんだけど」

「……それはアリアを殺すってことか?」

「ええ。そうよ。キンジ、今から一緒にアリアを殺しましょう。緻密に綿密に作戦を練った上でアリアをいい感じの崖まで誘い込みさえすれば、彼女を突き落として殺すのは容易のはずよ」

「あくまで崖から突き落とすことにこだわるのかよ。って、そうじゃない。アリアを殺すってどういうことだよ!? なんで、よりによってカナ姉がそんなこと言うんだよ!?」

 

 キンジは平然とアリア殺害の協力を求めてくるカナを前に思わず悲痛な声を上げる。行方不明となる前のカナなら冗談でも絶対に言うことのなかった発言を繰り出してくる現状が理解できない、わけがわからないといった声色だ。

 

「キンジ。もしも私に結婚を前提に付き合っている彼氏がいるって言ったら――」

「――ブッ殺ス」

「つまりはそういうことよ、キンジ。あの子は、神崎・H・アリアはキンジをたぶらかす巨凶の因由。だから、アリアを殺すのを手伝ってほしいの。私一人でもできるけれど、キンジの協力があればより成功率が上がるから」

 

 仮定を使いつつアリア殺害の理由を語るカナにキンジは「なるほど」とポンと手を打つ。が、一度はアリア殺害の理由を納得したものの、ここでハッと正気に戻ったキンジは「って、なに言いくるめられてんだ、俺!」と頬をバシッと両手で強く叩いた。

 

「待ってくれ、カナ姉。確かにカナ姉に彼氏ができたらそいつをこの世から塵も残さず消し去りたいとは思うけど、それを実際に実行しようだなんて思わない。精々、頭の中で存分にフルボッコにするぐらいだ……多分」

「そこは断定しないのね」

「ゴ、ゴホン! それに俺はアリアにたぶらかされてなんかないし、恋人関係でもない!」

「じゃあ聞くけど、キンジ。貴方はアリアのこと、どう思ってるの?」

「どう、って?」

「アリアのこと……異性として、好き?」

「そんなの……あれ?」

 

 唐突にカナ姉から投げかけられた問いにキンジは文字通り固まった。ロリコンでもロリコン紳士でもペドフィリアでもない自分がアリアのことを異性として、そういった対象として見ているわけがない。そう否定しようとして、できなかった。

 

(どういう、ことだ? アリアは俺の好みじゃない。俺はいかにも女性的な体つきをしたお姉さんキャラが好きなはず。だからアリアは完全に対象外。そのはず、だよな? なのに、なんで俺はアリアが恋愛対象外だって思えないんだ?)

「キンジ?」

「……悪い、カナ姉。アリアが好きかどうか、ちょっとわからない」

 

 キンジはロリ体型に定評のあるアリアのことを恋愛対象外だと言えない自分自身に戸惑いつつも、その戸惑いの心情をそのままカナに明かす。今までアリア相手にそんなことを考えたことがなかったせいだろうか、などと推測を立てつつ。と、ここでキンジは推測を続ける思考回路に一旦終止符を打つと、「でも」と言葉を続けた。

 

 

「これは断言できる。アリアは俺にとって大事な人間だ。兄さんの、カナ姉の汚名返上を手伝うって言ってくれた奴だ」

 

 

――お前の母親の件が終わってからでいい。兄さんの汚名返上に協力してくれないか? アリア。

 

――お安いご用です。私もお母さんのことを散々に非難したマスコミ各社には思う所があります。私たちの力を全世界に見せつけて、奴らに目に物見せてやりましょう。キンジ。

 

 

「俺のバカバカしい目標を笑わずに、しかも付き合うって言ってくれた奴だ」

 

 

――言ったな? これからお前は世界最強の武偵になる男のパートナーになるんだからな。途中でへばるようなら承知しないからな。

 

――わかっています。キンジこそ途中で挫折なんてしないでくださいね。みっともないですから。……それにしても、今まで純粋に頂点を追い求めてみたことはありませんでしたが、どうしてでしょうね。何だか少しワクワクしてきました。

 

 

「だから。アリアを死なせるわけには、いかない。もしカナ姉が本気でアリアを殺す気なら……まずは俺を殺してからにしろ」

 

 キンジはしっかりとカナを見据えて、アリア殺害に協力しない旨を伝える。そして、キンジは己が心から敬愛するカナに拳銃を向けた。対するカナはキンジの言動がよほど想定外だったのか、美術品のようなエメラルドグリーンの瞳が動揺に揺れている。

 

 

 カナ姉は正義の体現者。間違っても誰かを殺すことで何かを解決するような人じゃなかった。

 だから、今のカナ姉がアリア殺害を目論んでいる以上、行方知れずとなっている間にカナ姉に何かがあったのだろう。

 

 でも、カナ姉のことだ。アリアを殺そうとするのにはもっとちゃんとした理由があるはずだ。

 今のカナ姉はアホの子モードだからまともな理由を言ってくれないけど、きっとアリアを殺すことが数ある選択肢の中で最も正しいものなのだろう。

 アリアを殺すことが義を全うすることとなり、世界のためにもなるのだろう。

 だからこそ。カナ姉はアリアを殺そうとしている。

 

 

 けど、ダメだ。俺は、アリアを見捨てるには、あまりにアリアと仲良くなりすぎた。

 

 

 アリアと出会ってから約三か月。パートナーとして過ごす日々の中で、同じ屋根の下で一緒に生活する中で、俺はアリアの色んな一面を知った。

 

 ――神崎・H・アリア。

 

 とても高2とは思えないほどに幼い容姿に年不相応の落ち着いた雰囲気を持っていて、かと思えば、大好物のももまんをパクつく時は見目相応な笑顔を見せる。たまに殺意の波動に目覚めて修羅を纏って襲ってくることもあるし、その一方で、俺を気遣って俺をイ・ウーとの戦いに巻き込むのを躊躇する一面もある。

 

 ホームズの血を継ぐ貴族の割には貴族にいかにもありそうな横柄な態度は見せないし、一人で孤独を抱え込んで、母親を助けるために無謀極まりない戦いに単騎で挑む無茶な所も見受けられる。強襲科(アサルト)Sランクの地位を持っていながら雷が苦手で加えて泳げないし、あだ名一つで赤面する可愛らしい部分も存在する。

 

 そんな、安定しているようで実にアンバランスな神崎・H・アリア。

 

 

 そんなアリアがたとえ近い未来に悪の化身になるのだとしても。

 誰もが恐れる犯罪者の中の犯罪者へと変貌するのだとしても。

 たとえアリアが悪堕ちしなくとも、アリアの存在自体が世界を破滅に導くのだとしても。

 カナ姉がそれを未然に防ごうとしているのだとしても。

 

 

 それでも俺は、アリアの死を許容できない。

 アリアの血でその手を汚すカナ姉を許容できない。

 

 

 私情まみれの醜い感情。義に生きる遠山家の人間として考えるなら、俺は確実に失格だろう。でも、それでも。こればかりは仕方がない。何せ、俺は理不尽な展開が許せない性質なのだ。無罪のかなえさんが投獄されている理不尽も許せなければ、まだ何もやらかしていないアリアが殺される理不尽も許せない人間なのだ。

 

 

 ……別に、俺だって巨凶の因由を放置していいだなんて思っていない。世界の破滅とアリアの死を天秤にかけて世界の破滅を選んだわけじゃない。ただ、アリアが死なないと世界が平和にならないのだとしても。それを知った世界の誰もがアリアの死を望んだとしても。誰か一人ぐらい、アリアが生きることを望み、アリアのために武器を取る人間がいなければ不公平じゃないか。

 

 それに。これからの人生でアリアが何か世界を混沌に貶めるようなことをやらかしてしまうのだとしても。その時は、パートナーとしてアリアの側にいる俺がしっかりアリアの暴走を止めればいい。それだけの話だしな。

 

 

「キンジ、本気で言っているの?」

「ああ。本気だ。大マジだ」

「キンジは私よりアリアを選ぶの?」

「選ぶ選ばないの問題じゃないだろ、こーゆーのは。アリアは俺のパートナーだ。いくつかの死線を一緒にくぐり抜けてきた大切な仲間だ。だから。パートナーを殺そうとする相手がいたら、たとえそれがカナ姉だろうと見逃すわけにはいかないし、協力なんて論外だ」

「……キンジ、わかってる? さっきも言ったけれど、アリアは巨凶の因由。巨悪を討つのは義に生きる遠山家の天命なのよ?」

「ま、そうだろうな」

 

 キンジはいつの間にやら真面目モードに戻っているらしいカナに向けていた銃口を一旦下へと逸らす。そして、スゥとごく自然に目を閉じる。

 

「でもさ、カナ姉は自ら行方を眩ませた方だからわからないだろうけど……残されるってかなり心にくるんだよ、これが。昨日まで確かに生きていたはずの存在が急にいなくなったって現実が上手く受け止められなくて、心にポッカリ穴が開くんだ。もういないって理屈じゃわかってるはずなのに、たまにうっかり名前呼んじゃったり、夢をみたり、幻覚を見たり幻聴が聞こえたりするんだよ。……俺はもう、あんな辛い思いはゴメンだ。そういった意味でも、アリアの殺害を認めるわけにはいかない」

 

 あの時はユッキーが側にいてくれたからどうにか立ち直れた。ユッキーが側にいて、いつも以上のだらけっぷりを見せつけて、全部俺に世話させて、そうして俺の頭の中から一時的に兄さんの存在を忘れさせてくれたおかげでどうにか壊れずに済んだ。

 

 だけど、もしもアリアがカナ姉に殺されて、もう一度あの感覚に襲われたら。……俺は今度こそ、きっと壊れる。だからこれは、カナ姉の持ちかけたアリア殺害の誘いを拒否し、しかもカナ姉のやろうとしていることを阻止するという俺の行動は、自衛行動でもあるというわけだ。

 

 

「もう一度言うぞ、カナ姉。もしカナ姉が本気でアリアを殺す気なら……まずは俺を殺してからにしろ」

 

 キンジはカッと見開いた目でカナを凝視する。その、キンジの目に宿る覚悟の炎を読み取ったカナの眼差しが哀れな子羊を見るようなものへと切り替わっていった。

 

「キンジ。貴方の覚悟は認めるわ。だけど、私とキンジとの戦力差は大人と子供、ううん。それ以上はある。それでも戦う気?」

「あぁ。そんなの百も承知だ。でも、お互い譲れないんだからしょうがないだろ。だったら格下の俺は格下なりのやり方で下剋上するしかない。……今回ばかりはパートナーの命がかかってるんだ。今ここでカナ姉を倒して、絶対にアリアの殺害を阻止してみせる」

 

 キンジは手に持つ拳銃を強く握りつつ、己の強固な意志を顕わにする。すると。キンジの覚悟に満ちた発言を真正面から受け止めたカナは「まさか、キンジが私の言うことにこうも逆らうなんて思わなかった。こんなに力強い目をするなんて思わなかった」と、どこか嬉しそうにスッと目を細める。その姿はまるで反抗期へと到達した子供の今後の成長を見守る母親のようだった。

 

「キンジ。私にアリアを殺してほしくない?」

「あぁ、当たり前だ」

「その選択が、どのような未来を招くとしても?」

「あぁ」

「そう。……キンジ、私は義のためにアリアを殺すのが最善と考えているわ」

「……」

「でも、もしもキンジが私を倒せたのなら、その時は考え直そうと思う」

「ッ! それって――」

「――アリアを殺されたくなかったら、私を倒しなさい。キンジ」

 

 カナはキリッと表情を引き締めてキンジを鋭く見据えた状態でそう言い放つ。カナの言葉はキンジにとって願ってもないものだった。というのも、もしもこの場でキンジが奇跡的にカナを倒せたとしても、キンジにはまだアリア殺害を考えているだけで実行に移していない人間を逮捕することはできないし、ましてアリアが殺されないよう今の内にカナを殺すこともできないからだ。そうなると。カナのアリア殺害への意思が揺るがぬ限り、アリアは常にカナの脅威にさらされ続けることになってしまう。しかし今、カナの言葉によってその可能性は消滅したため、キンジはとにかくカナに勝てさえすればよくなった。それはキンジにとって間違いなく僥倖だった。

 

「わかった」

(見せてやるよ、カナ姉。将来、世界最強の武偵になる人間の実力って奴を――)

 

 爪先をわずかに動かして無形の構えを取るカナに、キンジはせめて気持ちでカナに負けないようにとニィと口角を吊り上げて勝気な笑みを形作る。かくして。約半年ぶりに再開した兄弟(?)による、それぞれの譲れない思いを賭けた戦いが幕を開けるのだった。

 

 




キンジ→時折カナの何気ない所作でついヒスってしまいそうになっていた熱血キャラ。カナに対してある程度の独占欲を持っているため、カナが芸能界に進出することに関しては否定的。
カナ→アホの子モードと真面目モードの時の落差が激しい男の娘。ミスコンに出る許可をキンジから貰えなかったことに地味に落ち込んでいたりする。何この可愛い生き物。

 というわけで、93話終了です。原作の完全シリアスな雰囲気とは一線を画した感じになりましたね。やっぱアホの子モードのカナさんのギャグ要員としての力は凄まじいですね、ええ。そして。次回はついにカナさんとのバトル回に突入します。原作では瞬☆殺されてたキンジくんだけど……さて、ここでは何秒もつことやら。


 ついでに。

カナ「キンジ。もしも私に結婚を前提に付き合っている彼氏がいるって言ったら――」
キンジ「――ブッ殺ス」
カナ「つまりはそういうことよ」

 このやり取りが個人的に一番のお気に入りだったりします。


 ~おまけ(ネタ:アリアの殺し方)~

カナ「キンジ、今から一緒にアリアを殺しましょう」
キンジ「カナ、何、言って……」
カナ「そうね、まずは松本屋はももまんの原材料の産地偽装をしているとのうわさを流しましょう。桃の名産地:山形産と見せかけて中国産、って感じに。あとは他の商品に農薬が多量に混ざっていたってうわさもいいかもしれないわね。それで松本屋の信頼を大幅に落とした所で松本屋の近くに大手量販店を展開して松本屋の顧客を根こそぎ奪いつつ、同時に松本屋の経営陣が脱税・粉飾決算・インサイダー取引をしていたとの情報も流すの。ここまですればもう松本屋は破滅の一途を辿るのみよ。フフフッ、いい考えだと思わない?(←悪い笑み)」
キンジ「や、やめたげてよぉ! アリアからももまんを取り上げないであげて! あいつ、末期のももまん中毒だから! ももまんないと生きていけない奴だから!」

 カナ、エグい手段でアリアを殺そうとするの巻。

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