【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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??「時はキタエリ! 今こそ奴を殺す時ッ!」

 どうも、ふぁもにかです。今回はもうサブタイトルの時点で「あっ…(察し)」ってなる人も多いかと思います。ええ、そうです。今回は久しぶりにあの子の登場です。ですので、あの子が荒ぶる様を生暖かい目で見守ってやってくださいませ。……結構久しぶりに登場させてるのでただでさえ崩壊しているキャラがさらにとんでもないことになってないか心配でならないですね、個人的に。



91.熱血キンジと荒ぶる少女

 

 久しぶりにアリアと二人で武偵高へと登校した、その日の昼休み。キンジは今現在、昼食を学食で済まそうと目的地へ歩を進めていた。

 

 ちなみに。アリアはももまんの特売の話を聞きつけて松本屋へと直行し、理子はキンジの後に続こうとするも『ビビりこりん真教』メンバーが数多く跋扈する2年A組教室から抜け出せなかったために今のキンジは一人である。理子の救出を早々に諦めて教室を後にする時、理子から救援を切に望む眼差しが向けられたためにそれなりに罪悪感に苛まれたのが記憶に新しい。

 

 先に学食に行ったらしい武藤や千秋辺りでも誘って一緒に食べるか、などとテキトーに今後の予定を立てていた、まさにその時。「クヒッ」という気味の悪い笑い声が鼓膜を打った気がして、キンジは後ろを振り向く。その視線の先に一人の少女が佇んでいた。当の少女はうつむいているせいで銀髪が顔にかかっており、そのためキンジは少女の表情を読み取ることができなかった。

 

(あれ? どこかで見たような――)

 

 今しがた聞こえた笑い声の発生源とはとても思えないほどに大人しそうな少女。その姿に見覚えを感じたキンジがスッと目を細めて少女に注意を向けた瞬間、少女がフルフルと肩を震わせたかと思うと「クッハハッハハハッハハハハッハハハ!!」と気が狂ったような哄笑を上げ始めた。

 

「見つけたぞ、遠山麓公キンジルバーナードォォオオオオオオオオオオオオ!!」

「なぁッ!?」

 

 クワッと見開いた眼でギンとキンジを睨んだ少女、もといジャンヌは瞬歩もかくやと言わんばかりのあり得ないスピードでキンジとの距離を詰めると、いつの間にかその両手に握った鈍色の光を放つ大剣――聖剣デュランダルではない――を振り下ろしてきた。いきなり大剣で襲いかかってきたジャンヌ相手にキンジはギリギリの所で両手を使った真剣白刃取りを発動。間一髪、自分が縦から真っ二つにされるという未来を回避した。

 

「ちょっ、いきなり何すんだよ、ジャンヌ!? つーか今、雷の超能力(ステルス)使ったろ!? 能ある不死鳥(フェニックス)は炎を隠すんじゃなかったのか!?」

 

 突如命の危機に晒されることとなったキンジは真剣白刃取りの状態のまま声を張り上げる。無理もない。ジャンヌは雷の超能力(ステルス)を利用して体の随所に軽く電気を流すことで瞬間的に己の筋力を増幅させる技術を確立している。しかし、ジャンヌは策略家。むやみに自身の能力を人目に晒したりはしない。そのジャンヌが今平然と雷の超能力(ステルス)を使っているということはつまり、それだけキンジを仕留めたいと思っていることに他ならないのである。

 

(俺、何かジャンヌに恨まれるようなことしたか!?)

「クッククッ、ククククッ! 遠山麓公キンジルバーナード。忘れたとは言わせないぞ、よくもこの我を罠にかけてくれたなぁ!」

「な、んの話だよ!?」

「この期に及んで白を切るつもりか! 貴様の言う通り、女子寮に行ってもユッキーお姉さまはいなかったではないか!? あの時我が感じた貴様への憤り、そしてユッキーお姉さまに会えるという期待を粉々に打ち砕かれた絶望……その全てを貴様にくれてやる! ついでに我はジャンヌではない、銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)だ! 地獄に落ちても忘れるなァァァアアアアアアアアアア!!」

「地獄に落とす気満々かよ!?」

 

 ジャンヌは半ば血走った瞳でキンジを射抜くとともに憤怒の声を上げる。キンジを真っ二つにせんと大剣にギリギリと力を込めるジャンヌと真っ二つにされてたまるかと両手に力を込めて必死に抵抗するキンジ。両者の均衡、そして睨み合いに終止符が打たれる気配は、現状ではない。

 

「かっ消えろ、幻獄雷帝(アムネジア☆リミット)!」

 

 と、ここで。いつまでもキンジをズバッと斬り伏せられないことにイライラを募らせたジャンヌは自身の雷の超能力(ステルス)を最大限に開放させる。結果、ジャンヌの体から発生した緑色の雷がバチバチバチィー! との凶悪な音とともに一斉にキンジへと襲いかかった。

 

「ガァァアアア!? ッ、ちょっ、死ぬ! 洒落に、ならないぞ!? ジャンヌ!?」

「クッハハハ! 何を言うか、遠山麓公キンジルバーナード! 主人公補正を持ち、世界最強の武偵を目指すと豪語しておきながらこの程度の電撃で殺られると言うつもりか!? ハッ、笑止にも程があるぞ! 我の気が晴れるまで、くれぐれも死んでくれるなよ! 遠山麓公キンジルバーナードォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「ッ、こんの――」

 

 殺意に満ち満ちたオーラを情け容赦なくぶつけるとともに凶悪な笑みを浮かべるジャンヌ。言葉でジャンヌの戦意を喪失させることは不可能だと判断したキンジはジャンヌ無効化への一手としてまずは足払いを仕掛けようとする。

 

「あ、ダルクさん。ちょうどよかった。ちょっと話があるんやけど、時間は大丈夫?」

 

 と、その時。キンジの前方、ジャンヌの背後から落ち着いた女性の声が響いた。刹那、ジャンヌは「きゃぱう!?」と、それまでの交戦的極まりない表情を怯えに満ちたものに一変させてキンジから飛びのいた。ここでやっと声の主を見やる余裕の生まれたキンジが前方に目を向けると、寝癖一つない綺麗な黒髪を垂らした綴先生がにこやかな笑みとともに立っている姿が見えた。

 

「あ、悪霊退散悪霊退散悪霊退散――ハッ、き、貴様、一体我に何の用だ?」

「聞こえとるでー、ダルクさん。やれやれ、まさかここまで嫌われとるとはなぁ」

「な、何を言うかと思えば……あれだけのことをしておいて我が貴様を好むと本気で思っていたとは、笑い話にもならないな」

「まぁ確かにそうやけど……相変わらずダルクさんは手厳しいなぁー。あれについてはそろそろ水に流してくれてもええんやないかって思うんやけど」

(棒読みだなぁ、綴先生。絶対今の状況楽しんでるな、これは)

 

 突然の天敵の登場に最初こそ動揺しまくって「悪霊退散」を連呼していたジャンヌだが、すぐに我を取り戻すとこれまたいつの間にか大剣をどこかに収めた状態で毅然と綴先生に言葉を放つ。……と、ここだけ描写すれば聞こえはいいだろうが、今のジャンヌはキンジの背後に自身を隠した上で綴先生と会話していたりする。キンジを綴先生に対する盾にしようとキンジの背中を掴む両手がブルブル震えていることから、よほど綴先生が怖いと見える。

 

(まぁユッキー誘拐未遂事件に関して色々と情報を吐かされたみたいだし、綴先生自体がトラウマになるのも無理ないか。……にしても、何だろう。理子二号が誕生したような気がする)

「こんにちは、綴先生。ジャンヌに用ですか?」

「こんにちは、遠山くん。せや、ダルクさんと二人きりで話したいことがあるんよ。や・か・ら、後ろのダルクさん、こっちに引き渡してくれへん?」

「ッッ!?!?」

 

 先ほど自身が命の危機に晒されたせいもあってか、それとなくSっ気の感じられる笑みとともにジャンヌの引き渡しを求めてきた綴先生にキンジは躊躇なく「わかりました」と返答しようとする。と、そこで。第六感でキンジが綴先生の求めに応じることを悟ったジャンヌが一足早く「せ、せせせせ戦略的撤退だッ!」と一目散に逃げ出した。

 

「あ、ダルクさん! ちょっ、待ちぃ!」

 

 綴先生の制止の声を振り切り、ジャンヌは駆ける。さながら一陣の疾風のように。綴梅子から1ミリでも遠くへと逃げたい。そうして前方もロクに確認せずにただただ必死に駆け抜けるジャンヌは直後、前方を歩く一人の人物と真正面から衝突し、尻餅をついた。

 

「わッ!?」

「ッ!? あっぶねぇな、どこ見て歩いてんだ――って、何だ、テメェか。どうした、ジャンヌ? 急いでたみたいだが、何かあったか?」

「あ、制限なき破壊者(アンリミテッド・デストロイヤー)!? いや、これはそのー、だな! 何というか、その、えと――」

「??」

 

 ジャンヌはバッタリ会った不知火を見上げて何だかワタワタしている。両手を使って身振り手振りで上手く表現しようとしているが、まるで言葉になっていない。案の定、ジャンヌの言葉が通じていないようだった不知火だったが、いつまでもジャンヌを廊下に座らせるのはどうかと考え「ほら、立てよ」と手を差し伸べる。しかし。ジャンヌは一向に不知火の手を取ろうとせず、ただ不知火の手と顔とを交互に見やってボンと顔を真っ赤にさせるだけだった。

 

(え、なに、この反応? これってまさか……いや、ないない。ジャンヌに限ってそれはない)

 

 いかにも純朴な乙女っぽい反応を見せるジャンヌについジャンヌが不知火のことを異性として好いている可能性を考えたキンジだったが、普段の厨二感あふれる言動とのギャップの凄まじさから反射的に自身の予測を否定した。

 

「あぅ……」

「おい、ジャンヌ。テメェ大丈夫か? 何か様子おかしいし、熱でもあんのか?」

「ッ! だ、だだだだ大丈夫だッ、制限なき破壊者(アンリミテッド・デストロイヤー)! 我は無病息災、サーチ&デストロイ&デリヘル&デリバリーだからな!」

「悪ぃ。何言ってるかさっぱりわからん」

 

 ジャンヌの額に手を当てて熱を測ろうと不知火が伸ばした手をジャンヌはパシッと払いのけつつ弾かれたかのように立ち上がると、ドンと胸を叩いて自分は大丈夫だぞアピールをする。わけのわからない言動を続けるジャンヌを前に「これ、暑さで頭やられたんじゃねぇか?」と不知火が本格的にジャンヌの熱中症を疑いつつあった、その時。ジャンヌのオッドアイの瞳が偶然、いかにもダルそうにどこかへと歩く白雪の姿を捉えた。

 

「ッ! ユッ――」

「ゆ?」

「ユッキーお姉さまぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

 

 愛しの白雪を見つけたジャンヌは脇目もふらずに白雪へと跳躍。不知火のことなどすっかり忘れてそのまま白雪に抱きついていった。当の抱きつかれた白雪は「おー、デュラちゃん。どうしたの?」と甘えん坊な妹をあやすような優しい口調でジャンヌに声をかける。

 

 憤りの為すがままに俺に襲いかかってきたかと思えば綴先生にビビって逃亡を図り、偶然出くわした不知火の前でワタワタと挙動不審っぷりを見せつけたかと思えば嬉々としてユッキーに抱きつくジャンヌ。

 

(……何というか)

「忙しい奴だなぁ、色々と」

「せやなぁ」

 

 キンジは白雪とともに瞬く間に仲睦まじい姉妹のような雰囲気を構築するジャンヌを眺めてしみじみといった調子で感想を零す。すると、いつの間にやらキンジの隣にやって来ていた綴先生もまた、キンジの零した感想にうんうんと同意するのだった。

 




キンジ→70話の一件が原因でジャンヌに襲われた熱血キャラ。似たような感想を抱いたことでちょっとだけ綴先生と仲良くなったような気がしないでもないらしい。
白雪→16文字しかセリフのなかった怠惰少女。チョイ役なユッキーは割とレアかもしれない。
ジャンヌ→怒ったり逃げ出したり赤面したり抱きついたりとやたら忙しない厨二病患者。ちなみにジャンヌがキンジに対して怒っていたのは理子と同居を始めたことも理由の一端だったりする。
不知火→かなり久々に本編に登場した不良キャラ(笑)。どこぞの鈍感主人公を彷彿とさせる言動を無意識の内に実行している。
綴先生→ビクビク震えるジャンヌの反応を見て楽しむ教師のクズ――コホン、お茶目な一面を持っているエセ関西弁の教師。決して敵に回してはいけない数少ない一人である。

 というわけで、91話終了です。今回は久しぶりにキャラをたくさん出した気がしますね。あと、今回のジャンヌちゃんの行動を執筆してたらふと日常の中村先生を思い出した件について。そして改めて考えてみると、ジャンヌちゃんって雰囲気というかノリが中村先生とそっくりなんですよね。……別に狙ったわけじゃないんですけどねぇ。偶然って怖い。

 閑話休題。さて。次回はついにカナさん登場回。ギャグにしようかシリアスにしようか迷ってましたけど、どうせなら両方を取り入れた折衷案で行こうと思います。


 ~おまけ(その1 ジャンヌの使った技説明)~

・幻獄雷帝(アムネジア☆リミット)
→自身の体で生成した緑色の雷をただそのまま相手にぶつけるだけの荒技。単純だがそれゆえに強力で、常人の意識を3秒も経たない内にブラックアウトさせるほどの威力を持っている。しかし、精神力の消耗が割と激しい上にどこか対象の身体に触れていないと技を発動できない仕様となっているため、ジャンヌはこの技をほとんど使わない。今回ジャンヌがわざわざこの技を使ったのは、キンジ相手に怒りを覚えたことで判断能力が大幅に低下したのが原因である。


 ~おまけ(その2 とある日の出来事:ディスガイアネタ)~

キンジ「……(んー、襲撃者がいるっぽいな。しかも今日はたくさんいるみたいだな。いい訓練になればいいけど)」
赤タイツに覆面をした男「邪悪な闇が迫るとき――」
青タイツに覆面をした男「呼ばれてないのに現れる!」
黄タイツに覆面をした男「使命に萌える7つの光が――」
緑タイツに覆面をした女「ゆ、ゆゆゆ勇気と希望でッ、世界を救う!」
オレンジタイツに覆面をした男「フジヤマ! ゲイシャ! ファンタスティック、ネー!」
群青タイツに覆面をした男「いや、ぼ、ぼくは、その、あれですよ……」
紫タイツに覆面をした女「我ら! 正真正銘7人そろって――」
全員『虹色戦隊! ニジレンジャー!(←各々カッコいいポーズを取りつつ)』

キンジ「……まぁ、確かに今回はきちんと7色そろってるけど。つーか、その緑と紫、理子とジャンヌか? 理子とジャンヌだよな? 何やってんだよ、二人して?」
紫タイツ「クククッ、何を言っている? 我は決してジャンヌ・ダルク30世などという名前ではない。我の真名は銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)……じゃない、今の我はニジパープルだ。理解できたか、遠山麓公キンジルバーナード?」
緑タイツ「ボ、ボボボボクは峰理子リュパン四世じゃないよ! ニジグリーンだよ! 何おかしなことを言ってるのかな、キンジくん!?」
キンジ「うん。明らかに理子とジャンヌだな。お前らがしっかりと墓穴を掘ってくれたおかげで確信が持てたよ。で、そのオレンジと群青は何だ?」
オレンジタイツ「オー!? ミーガナァニカ? ユーハモンク、アルデスカー? ハラキリセップク、ネー!」
群青タイツ「いや……、ぼくは、ほら、無理やり勧誘されてこう、しゃべれって、こう、今、い、いきなり言われてるだけなんで……お金もくれるって、い、言ってたし……」
キンジ「……お前ら、誰でもいいのかよ」
赤タイツ「仕方あるまい! 他に隊員になってくれる有志がいなかったし! 言っておくが、友達が少ないわけじゃないぞ! こっちには7人もいるんだからな!」
キンジ「そ、そうか。何だか、お前らを見てるとあまりに哀れで、目頭が熱くなってきたよ。……まぁ、ちゃんと7人そろえてきた努力は認めてやってもいいけどさ」
赤タイツ「ならば、覚悟はいいな! 正義の味方の誇りと使命を取り戻すため! お前を倒してやるぞ、遠山キンジ! この熱き想い、燃え尽きるまで! ニジレンジャー、ヒィィィーーート・アァァァァァーーーーッップ!!」
キンジ「……(今のうちに逃げとくか。律儀にこいつらの相手してると精神的に凄く疲れるし。それに他の奴らはともかく、理子とジャンヌを同時に相手したら多分無傷じゃ済まないしな)」

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