【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回の話、特に前半部分はふぁもにか的にはギャグのつもりですけど人によってはそうは思えない不謹慎ネタが入っています。なので、サブタイトルを見た時点で嫌な予感のする人はブラウザバック推奨です。ええ、ホント。



90.熱血キンジとボヤ騒ぎ

 

 しばしの間、ソファーで休憩していたキンジは今現在、白雪の待つ女子寮へと歩を進めていた。キンジがこうして女子寮へと向かうのは久しぶりだ。というのも、ここしばらく白雪は実家の星伽神社から召還されていたため、女子寮にいなかったからだ。その白雪がつい先日、青森の星伽神社から帰ってきた。そのことをメールを介して知っていたキンジは本日から白雪の世話を再開するべく女子寮へと向かっていた。

 

 またいつものようにゴロゴロしてるんだろうなぁと床やベッドに寝そべる白雪の姿を思い浮かべて苦笑してみたり、前みたいに荷物の山に埋まってないよなと白雪の安否に不安を抱いたりしていたキンジ。彼が女子寮の全貌を何となしに視界に収めた時、頭が真っ白になった。

 

「……ゑ?」

 

 キンジの視界の先。白雪の部屋がある位置。その窓からわずかながら黒い煙が漏れ出ていた。キンジのそれなりにいい視力はスラーといった擬態語を引き連れて漏れていく黒い煙を捉え、それ故にキンジは硬直する。キンジが想定だにしなかった展開が現在進行形で発生していることにただ立ち止まる。

 

(――って、立ち止まってる場合じゃないだろ!?)

 

 そして。キンジが固まってから数秒が経った頃。ハッと我に返ったキンジは一目散に白雪の部屋へと向かう。自分のペースを無視して女子寮の階段を駆け上がり白雪の部屋のドアへとたどり着く。すると、ドアからも黒い煙が漏れ出ていた。その光景を見て、キンジの顔からサァァと血の気が引いていく。キンジの脳裏にふと、部屋を燃やす業火の中でうつ伏せに倒れる白雪の姿が鮮明に思い浮かんだ。

 

「ッ!?」

 

 キンジは脳裏に浮かんだ最悪の事態を首を勢い良く左右に振る形で振り払うと、自身の持つアンロック技術を用いて数秒でドアを開錠。それからバタンと乱暴にドアを開けると、側にあった消火器を片手に、外へと向かう大量の煙に逆らうようにして部屋の中に踏み入った。

 

「ユッキー! 無事か!? 無事なら返事してくれ!」

 

 キンジはうっかり煙を多量に吸い込まないように体位を低く保ちつつも急いで白雪の姿を探す。もしかしたら一刻も争う状況下に追い込まれているかもしれない以上、キンジの中に急がないという選択肢はなかった。

 

 見た所、部屋はキンジの考えていた以上に酷くはなかった。煙こそ台所からモクモクと上がっているものの、リビングなど他の部屋に炎は燃え広がっていない。肝心の炎も消火器一つでどうにかできる程度の勢いであったために、即座に手持ちの消火器で鎮火することのできたキンジはひとまず安堵の息を吐いた。

 

 これならボヤ騒ぎ以上火事未満といった所だろう。それなら当初自分が考えてしまったような最悪の事態はないだろう。そんな希望がキンジの中で生まれつつあった、その時。キンジはリビングでそれを見た。

 

 洋服やら本やら家具やら刀やらが天井にも届く勢いで上へ上へと積まれた荷物の山を。その重量感漂う荷物の山の一角から突き出る線の細い左手を。時折、助けを求めるようにワキャワキャとうごめく左手を。

 

「……」

 

 いつか見た光景の再来にキンジは思わず絶句する。その耳がシリアスな雰囲気が完膚なきまでに粉砕される音を捉えたような、そんな気がしたキンジだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「「……」」

 

 とりあえず窓を開けて換気扇を付けることで部屋の煙をしっかり追い払ってから、ワキワキ動く左手を掴んで引きずり出す形で白雪を救助したキンジ。その後、キンジと白雪はテーブルを介して無言のまま向かい合っていた。

 

 

「で、ユッキー。何か言い残すことはあるか?」

「……てへッ♪」

「『てへッ♪』じゃねぇよ!」

「えへへ~」

「『えへへ~』でもない!」

 

 キンジは火事を起こしかけた白雪の相変わらずな反応についテーブルを両手でバンと叩いて声を荒らげる。とはいえ、白雪の笑顔が若干引きつっていることから白雪もそれなりに罪悪感を感じていると気づいているキンジは、ハァァァと深々と溜め息をついてどうにか怒りを沈めると、火事の原因を直接聞き出すことにした。

 

 ユッキーの所々要領の得ない言葉を要約すると、ユッキーは今日、いつも自分の世話をしてくれている俺を労うために朝食を振舞おうと考えたのだそうだ。それも俺をビックリさせるためにあくまで俺には内緒の形で。

 

 そして。シチュー作りにチャレンジしてみようと奮い立ったものの、長いこと星伽神社に帰っていた影響で包丁をどこにしまったかをすっかり忘れていたユッキーはまず、じゃがいもやニンジンなどの材料を宙に放り投げて居合切りで切り刻み、一口サイズにカットされた材料たちをあらかじめ下に配置してあった水入りの鍋へとボトボトと落としていったらしい。

 

 ここまでは順調(※あくまでユッキーの言い分)だったのだが、ここでユッキーがコンロの使い方をド忘れするという事態が発生したのだそうだ。どうすれば火を出せるのか。考えあぐねたユッキーはあろうことか、己の超能力(ステルス)を使って炎を出すことにしたのだ。コンロが使えないなら禁制鬼道を使えばいいじゃないと言わんばかりに。

 

『緋焔・焦壁!』

 

 そういった経緯の元。白の封じ布を外したユッキーは刀を真横に振るって目の前に炎の壁を出現させた。結果、火の威力が強すぎたためにあっという間に鍋から火が巻き上がり黒煙を生み出し始めたのだ。加えて台所に火の手が広がっていくという、想定だにしなかった突発的事態に慌てたユッキーが「わッ!?」と思いっきり後方へとジャンプしたのが最後。背中を背後の本棚にぶつけてしまい、その衝撃で本棚の上にやたらと積まれていた様々な荷物がユッキーへとなだれ込んでいったのだ。そして生まれたのが火事寸前の部屋と荷物の山に埋もれたユッキーとの両立という状況なわけだ。

 

(あれだけ料理に刀と禁制鬼道は使うなと言ったのに……)

 

 事の一部始終を知ったキンジは思わず手で顔を覆う。俺を労うためにユッキーが料理を振舞おうとしてくれた。おそらくここ最近ボチボチとだが料理に手を出し始めていた目的の一端はきっと俺に料理を振舞うためだったのだろう。俺自身、兄さんのために料理を頑張っていた過去があるからその恩返しの気持ちはよくわかるし、凄く嬉しい。嬉しいが、色々と常識を超えたやり方で料理を続けるユッキーをこのまま放置するわけにはいかないだろう。

 

「ユッキー」

「あい」

「とりあえず、これからしばらく一緒に住まないか? 今回はギリギリボヤ騒ぎで済んだから良かったけど、次も今日みたいに対応できるとは限らないしさ」

「……うん」

 

 キンジが簡潔に提案した『ユッキー移住計画』を前に、白雪は沈み気味にうなずく。いつになく落ち込んでいる白雪の姿に多大な違和感を感じて仕方のないキンジは、場の雰囲気が気まずいものに変わりつつある中、白雪の元気を取り戻そうと声を上げた。

 

「まぁ、何だ。料理を始めたのはつい最近なんだし、今日みたいな失敗もあるって。大事なのはその失敗から何を学ぶかだ」

「……」

「今度からは同じ失敗しないように料理頑張ろうってことでいいんじゃないか? 折角これから一緒に住むんだし、俺も教えるからさ。色々と」

「……うん」

「あと、ユッキーの気持ち、凄く嬉しかった。ありがとな」

「うん!」

 

 キンジは探り探りといった風に白雪を励ましにかかる。キンジの言葉を受けて徐々にいつもの姿を取り戻していく白雪。やっぱりこれがユッキーだよなと頭を撫でてみると、当の白雪はニヘラとだらけきった笑みを返してきた。

 

 

 かくして。白雪の起こしたボヤ騒ぎを経て、白雪の男子寮への移住が決定したのだった。

 

 

 

 

「じゃあ、今の内に引っ越し準備するぞ。まだ学校までに時間あるしな」

「あーい。お休み、キンちゃん」

「待て。さりげなく俺に全部任せて寝ようとするな。二人でやるぞ。そっちの方が早い」

「……えー」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「――ということがあったんだよ」

「それは、何というか……災難でしたね」

「あぁ、全くだ」

 

 路上にて。今朝の騒動の一部始終を聞いて、憐憫と同情の混ざった眼差しとともに背中にポンポンと手を当ててくるアリアの心遣いを受けて、キンジはふぅとため息を吐いた。

 

 あれから。ある程度白雪の荷物まとめを手伝ったキンジは武偵高へと向かい、その道中に偶然登校中のアリアと出くわしたために、今現在、二人一緒に武偵高に向かっているというわけである。

 

(よくよく考えるとアリアと二人で登校したことってあんまりなかったような……?)

「ハァ。随分と暑くなってきましたね。まだ朝だというのに、熱気にやられてしまいそうです」

 

 アリアはさんさんと降り注ぐ日光によって生まれている自分の影を見つめながら弱々しい声を吐く。時折ふらついていたり目が若干死んでいることから、アリアが割と暑さに参っていることが如実にわかるというものだ。

 

「まぁ7月だしな。けど今の時点でそんなへばってるとこれから先苦労するぞ?」

「……まだ暑くなるというのですか、キンジ?」

「あぁ、東京の暑さはここからが本番だ。むしろ今までの暑さはほんの前哨戦と言っていい」

「……どこが温帯ですか。思いっきり亜熱帯に突入してるじゃないですか、日本」

「否定はしない。実際、今の日本って温帯(笑)だからな」

 

 自身が感じている暑さが夏のピークでないことにその童顔を絶望へと染めるアリア。光の消えた瞳で日本の気候に文句を垂れるアリアにキンジは同調する。と、ここで。「……そうですね、まだ7月なんですね」とアリアがボソリと呟いたかと思うと、フフッと微笑みを零した。

 

「? どうした、アリア?」

「いえ、私がキンジと出会ってからまだ3か月程度なんだと思ったら、何だかおかしくて」

「そっか。そういや、まだ3か月なんだな」

 

 キンジとアリアはお互いの顔を見合わせて、同時に笑う。アリアの言う通り、俺とアリアが出会ったのは4月上旬。確かに、まだ3か月しか経っていない。なのに、俺はもうアリアとは1年以上の付き合いだと錯覚していた。きっと、あまりに濃かったここ最近の日々が俺にそう思わせていたのだろう。

 

「……幸先いいですよね、ホント。キンジと出会ってから、あっという間に三人もお母さんに濡れ衣を着せた犯人を見つけて倒すことができました。この調子ならお母さんの無実を証明できる時も案外すぐになるかもしれません。今まではいくら必死に犯人を捜しても尻尾一つすら捕まえられなかったんですけどね」

 

 アリアは目線を下に傾けて一瞬自嘲的な笑いを浮かべるも、すぐに和やかな笑みとともに「それもこれも、全部貴方のおかげです。ありがとうございます、キンジ。まるでキンジは幸せを運ぶ青い鳥みたいですね」と柔らかな口調でキンジにお礼を口にする。

 

「……どういたしまして。でも、あんまり気を抜くなよ、アリア。何もかも順調って時が実は何気に一番危なかったりするんだからな。勝って兜の緒を締めよ、だ」

 

 アリアの幸せそうな笑み。だけど、その笑みはどこか儚くて、今にもアリアが消えてしまいそうな気がしたキンジはアリアに気を引き締めてもらおうと言葉をかける。しかし、順調に事が進んでいる現状にどうしても気が緩み気味のアリアはキンジの前にタタタッと移動すると「わかってますよ。ダテにSランク武偵やってませんからね」と勝気な表情を見せる。

 

「ならいいけど」

 

 どうしても何かのフラグにしか聞こえないアリアの言葉を受けて、キンジは雲一つない晴れ渡った空を見上げるのだった。何か胸騒ぎがするんだよなと、内心で心情を吐露しつつ。

 




キンジ→後半でしっかりとフラグを立てた熱血キャラ。ボヤ騒ぎの件を経て、改めて白雪にしっかりと料理の常識を教えようと決意していたりする。
アリア→暑さにあまり強くないメインヒロイン。消えてしまいそうだとキンジが感じたのは存在感の問題ではないのかとか言ってはいけない。
白雪→ボヤ騒ぎを引き起こした張本人。本人も今回ばかりはさすがに反省している模様。あくまでそれなりにだけど。

 というわけで、90話終了です。ユッキーがやらかしちゃった話と着実にフラグを積み立てる話の二本立てでお送りしました。とりあえず、カナさんの登場は92話からになりそうですので「カナさんまだかなー?」とwktkしてる方々はもう少しだけ気長にお待ちくださいませ。


 ~おまけ(ネタ:早すぎるフラグ回収)~

キンジ(何か胸騒ぎがするんだよな……)

??「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱぁーっ!」
??「石! 賢者の石ぃ! よこせぇぇええええッ!!」
??「さあ、イ・ウーの連中を倒して調子に乗ってる子は、どんどんしまっちゃおうねぇ」

キンジ&アリア((何か前からヤバそうなのが来たぁ!?))

 思わずヤバそうな連中に背を向けて全力ダッシュで逃げようとする強襲科Sランク武偵二人。

??「さあ、逃げようとする子は、どんどん埋めちゃおうねぇ」
??「ウッドキューブを……返せ……」
??「さて。この不快感、どうしてくれよう」

キンジ&アリア((囲まれたッ!?))

 二人の明日はどっちだ!?

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