【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回はこれまでのブラド戦と比べると文字数がやたら少ないです。しかも区切りが微妙かと思われます。すみません。

 ……し、仕方ないじゃん! リアルが忙しいのはもとより、最近は動画作成や魔界戦記ディスガイア4にも楽しみを見出しちゃったんだもん! 魚に強いと書いて『魚強(いわし)』! イワシ閣下バンザイ! ……ハァ、私だけ1日72時間くらいにならないものでしょうかねぇ。



85.熱血キンジと第三章エピローグ(1)

 

 ブラドとの激戦から3日後。

 

「むむむッ……」

 

 武偵病院にて。包帯だらけの体を隠すように病院着を身に纏った一人の男――遠山キンジ――はベッドの上で頭を捻っていた。ギュインギュインと効果音がつきそうなほどに頭を回転させていた。

 

 キンジが指で掴んでいるのは一つのピース。キンジの視線の先にはテーブルの上に置かれた四角い枠と所々に置かれたピースの集合体。要するに。キンジは今現在、ジグゾーパズルに全神経を注いでいた。ちなみに。このジグゾーパズル、武藤からのお見舞い品である。これから続く長い入院生活を考えると中々に素晴らしい暇つぶし品だ。

 

 余談だが、キンジは武藤以外からもお見舞い品をもらっていたりする。不知火からは猫の写真集、陽菜からはモノポールらしき謎の物体、レキからは音響弾(カノン)、ユッキーからは『わんわんおー』の主人公ことチワワッフルの抱き枕(※星伽神社から搬送されている)といった具合に。お見舞いの品の時点でそれぞれ強烈な個性がにじみ出ている点が何とも言えないキンジであった。

 

 ついでに。キンジは知らない。ジグゾーパズルが武藤とジャンヌによる共作であることを。ジグゾーパズルを完成させた暁にはグラビアっぽいポーズをとるアリアの絵(※天使の羽根つき)が出来上がるということを。キンジへのちょっとした悪戯を企んだ万能型の武藤と卓逸した画才を持つジャンヌとの夢の共演によりこの世に生まれた無駄にクオリティの高い代物である。才能の無駄遣いとはこのことか。

 

 

「――ん。――さん」

 

 とにかく。キンジはジグゾーパズルに熱中していた。ゆえに、キンジは気づかない。一人の看護師がキンジの元に治療用具一式とともに現れたことを。何度も自分の名前を呼んでいることを。

 

 いくら名前を呼んでも無反応な患者を前に看護師は一つため息を吐くと、ゆっくりと深呼吸をしてからキンジの耳元で「――遠山さんッ!」と全力の声を上げた。結果、不意に至近距離で自分の名前を叫ばれたことでキンジは「えうッ!?」という変な悲鳴とともにビクリと肩を揺らす。その際、指からパズルのピースがベッドの下へと落下していく。

 

「――って、何かと思えば葛西さんですか。驚かせないでくださいよ」

「驚かせられたくなかったらちゃんと反応してくださいよ。もう何度も遠山さんの名前呼んだんですよ?」

 

 若干怒り気味、もといぷんすか状態の看護師こと葛西さんは床に落ちたピースを拾うとキンジに「はい」と手渡しする。一方、自分の方に全面的に非があると知ったキンジは申し訳なさそうな表情で「……すみませんでした」と謝りつつ、パーツを受け取った。

 

「ところで、今回は何の用ですか? 包帯はさっき変えましたよね?」

「はい。だから今度は神崎さんの包帯を変えるつもりだったんですけど、ここにはいなかったので、遠山さんなら神崎さんの居場所を知っているかと思いまして」

「あー、アリアならついさっき屋上の方に行きましたよ。何でも、こんなに晴れた日にただベッドに寝転がっているだけなのは性に合わない、だとか」

「……全く、またですか。しょうがない患者さんですね」

「入れ違いになったみたいですね。……すみません、葛西さん。貴女の手を煩わせるようなことをしてしまって」

「遠山さんが謝ることではありませんよ。それでは神崎さんが戻り次第、私を呼んでもらえませんか?」

「はい。わかりました」

 

 ヒラヒラと軽く手を振って病室から出ていく葛西さんにキンジはペコリと頭を軽く下げる。そして。葛西さんが病室を去ってから十数秒後。キンジは一つため息を吐くと、隣のベッドの下にありったけのジト目を注いだ。

 

「……アリア、行ったぞ」

「了解です」

 

 ジト目で隣のベッド下を見つつキンジが小さい声で言い終えた瞬間、ベッド下からそろーりといった効果音を引き連れてアリアが頭を出してきた。アリアは左右を一瞥して付近に看護師がいないことを確認するとそのままの状態でリスのごとくももまんを食べ始めた。

 

「はむッはむむッ――」

「……なぁアリア。何もベッドの下でももまん頬張ることないんじゃないか? 俺が連絡するまで葛西さんも戻ってこないみたいだしさ」

「甘いですね、キンジ。例え葛西さんが来なくとも、いつ第二第三の看護師(エネミー)が現れるかわからない以上、常に看護師(エネミー)を警戒して行動するのは当然の理です。Sランク武偵に油断などあってはならないのです」

「……とりあえず看護師のことをエネミーって言うのは止めてくれ。俺たち怪我人をきちんと手当てしてくれてるんだからさ」

 

 キンジの呆れに満ちた声色でのお願いにアリアは渋顔で「……善処します」と言葉少なに受け入れる。尤も、眉間にしわを寄せるアリアの表情もももまんを食べれば瞬く間に満面の笑みに切り替わるのだが。

 

 アリアは以前、理子との戦いでの負傷が原因で入院した際に大好物のももまんを食べられない状況にさせられている、もといももまんを看護師に取り上げられている。もはやアリアにとっての命の源といっても過言ではないももまんを容赦なく没収された過去があるためにアリアが看護師をやたら敵視している気持ちはわからなくはないが、日々仕事に忙殺されている看護師の手をさらに煩わせるのはどうかとも思うキンジである。

 

「ま、あんまり葛西さんに迷惑かけてないでさっさと包帯取り替えてもらっとけよ。怪我の治りが遅くなっても知らないぞ?」

「……手持ちのももまんを全て消化したらそうしてもらいます」

「了解。つーか、それもう何個目だよ」

「ん? 25個目ぐらいですかね?」

「おいおい、それ明らかに食い過ぎじゃねぇか。お前の胃どうなってんだよ?」

「その辺は心配いりません。ももまんは別腹ですから」

「……別腹でごまかせる量じゃないだろって思うのは俺だけか?」

「まぁいいじゃないですか。ここ最近は全然ももまんを食べてなかったせいか、私の体がももまんを欲してやまないのです。この衝動に逆らうことなんてできませんよ」

 

 二人だけが存在する病室にて。「やれやれ」とため息を吐くキンジ。キンジとの会話の最中に残るももまんを全て堪能し終えたアリア。と、ここで。会話の途切れた二人の髪を開け放たれている窓からの優しいそよ風が軽く撫でていく。

 

「……にしても、今回ばかりは本気で死ぬかと思ったな」

「ええ。さすがにイ・ウーナンバー2。ブラドがあまり頭のよろしくない上に沸点の低いタイプでしたから助かりましたけど、ブラドに知略も一人前に備わっていたらと思うとゾッとしますね」

「そうでなくても色々危なかったしな」

 

 キンジとアリアはブラドとの戦いを振り返ってブルリと身を震わせる。結果的にブラドに勝てたから良かったものの、よくよく考えてみれば綱渡りの連続だった。下手したら死んでいたかもしれない場面なんて何度もあった。

 

「ホントに運が良かったんだな、俺たち」

「……全くです」

 

 客観的に過去を見据えた後、キンジがしみじみと放ったブラド戦への感想にアリアがコクコクうなずく。と、その時。バンと、病室の扉が勢いよく開かれた。そして。松本屋の袋を引っさげた金髪少女こと理子が迷いのない足取りで病室に足を踏み入れてきた。

 

「オリュメスさん! ももまん、買ってきたよ!」

「ナイスタイミングです、峰さん!」

 

 理子がにこやかな笑みを浮かべつつ袋からももまんギフトセット20個入りを取り出して頭上に掲げた瞬間、アリアはすぐさまベッド下から這い出て理子との距離を一息に詰めると同時にももまんギフトセット20個入りを奪取する。それからアリアは軽く残像を残せるほどのスピードでベッド下へと戻ってももまんを頬張り始める。ここまでの時間はわずかに2.5秒である。ことももまんに関しては軽く人間を止めていることに定評のあるアリアだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「本当にすみません、峰さん。こんなパシリみたいな扱いをさせてしまって」

「だ、大丈夫大丈夫。オリュメスさんが気に病むことないよ! 二人はボクの大恩人だし、困ってる人は助けなきゃだしね! ほ、他にも何かしてほしいことがあったら遠慮なく言ってよ! ボクにできることなら何でもするから!」

 

 通算30個目のももまんを食べてようやくももまん食べたい衝動がある程度収まってきたらしいアリアはももまん調達のために理子をパシらせていることに申し訳なさそうな表情を浮かべるも、当の理子は嫌な顔一つせずに輝かしい笑顔でポンと胸を叩く。結果。アリアは理子の反応に感極まったらしく「峰さん……!」と喜色に満ちた声を上げる。おそらく今のアリアは理子の背後から差してくる後光を感じていることだろう。

 

「え、えと、遠山くんも何かないかな? ボクにやってほしいこと」

「いや、やってほしいことって言われても……もう色々と事後処理任せちゃってるしなぁ」

 

 キンジは真っ直ぐな視線を向けてくる理子から視線を逸らして頬をかく。どうやらキンジは理子に用事を頼むことを躊躇しているようだ。

 

 当然だ。何せ、俺とアリアが全治3週間もの大怪我を負ったせいで病室から身動きが取れないために今現在、紅鳴館での窃盗行為やブラド戦、そして戦闘の影響で色々とボロボロとなった横浜ランドマークタワーの事後処理を全てもれなく理子に任せてしまっているのだ。

 

 それだけでも十分忙しいはずなのに、理子は暇を見つけては能動的にかなえさんの弁護士と接触してかなえさんの冤罪をいかに証明するかについての作戦を練ってくれてまでいる。

 

 いくら俺たちと比べて比較的軽い怪我だったおかげで入院せずに済んだとはいえ、まだ怪我が完全に癒えていない状態の理子を右へ左へと奔走させている。当の理子は「もっとボクを頼ってくれていいのに……これじゃあ全然恩返しにならないよぉ」としょんぼりとしているが、これ以上理子に負担をかけるわけにはいかないだろう。ということで、しょんぼり理子のことは華麗にスルーすることにしたキンジだった。

 

「で、今日はどうしたんだ、理子?」

「え、どうしたって?」

「その様子だと、今日ここに来たのはアリアにももまんを渡すためだけじゃないんだろ?」

「ふぇ!? え、ええと、ど、どどどどどうしてわかったの?」

 

 図星を言われて動揺しまくる理子の問いにキンジはただ一言「Sランク武偵の勘だ」と答える。一方。何か明確な根拠の元に自分の目的を見抜かれたものと考えていた理子は「そ、そっか」と言葉を返す。内心で「えぇぇー」と声を上げつつ。

 

「遠山くん。神崎さん。えっと、二人に聞いてほしい話があるんだ。ボクのことなんだけど……いい、かな?」

 

 理子は動揺する心を落ち着かせるように深呼吸を何回か繰り返した後に、神妙な顔つきで尋ねてくる。キンジもアリアもこれといって理子の申し出を断る理由はない。そのため。キンジは作りかけのジグゾーパズルを片づける形で、アリアは今まさに食べようとしていた31個目のももまんをしまう形で居住まいを正してから理子に了承の意を返すのだった。

 




キンジ→ジグゾーパズルにハマった熱血キャラ。全治3週間の大怪我を治すために入院中。チワワッフルの抱き枕を見たせいでこれでもかと不機嫌な表情を顕わにしたアリアのご機嫌取りに神経を費やしたりしつつ入院生活をエンジョイしている。
アリア→巧みに理子をパシらせることで入院中もきちんとももまんを補給することに成功しているメインヒロイン。全治3週間の大怪我を治すために入院中。ももまんを見たら例外なく取り上げようとしてくるであろう看護師をエネミー扱いしている。
理子→キンジとアリアへの恩返しに日々勤しむ献身系ビビり少女。事後処理などに忙殺される日々を送っている。
葛西さん→神崎千秋くんのごとく、名前のあるオリキャラ。看護師稼業に勤しんでいる。とはいえ、出番はもう二度とないと思われる。葛西の名を聞いて「火火火」と笑える人とは仲良くなれると思うの。

 というわけで、85話終了です。すっかり敵対関係といった雰囲気の消え去ったキンジくんたち。ふふふ、やっぱりみんな仲良しって書いてて楽しいですね、ええ。

 にしても、ここ最近……武藤や不知火たちを地の文やおまけでしか登場させてない件について。彼らも偶には本編の方で出してあげたいけど、ネタの方が全然思い浮かばないんですよねぇ。
……やれやれ、どうしたものか。


 ~おまけ(後日談)~

 綴ハウスにて。

綴「ほな、エサの時間やでぇ~(←すっかりオオカミの虜と化している綴先生)」
綴家の番犬オオカミ「わん!」
オオカミその1「……わふぅ」
オオカミその2「わふッ」
綴「あ、あれ? えっーと、何か……三匹に増えてるんやけど。なに、どういうこと?」
綴家の番犬オオカミ「くぅぅぅーん(←期待に満ちた眼差し)」
綴「いや、けどさすがに三匹もうちで預かるのはちょっと無理やないか? 武偵犬ってごまかすのも大変やし――」
オオカミその1「くぅん……(←すがるような眼差し)」
綴「食費やってバカにならへんし――」
オオカミその2「……わふぅぅ(←母性をくすぐるような眼差し)」
綴「あぁぁぁああああああああ! もう! わかった! 一匹も三匹もそんな違いあらへんしな! 皆うちで世話したる! それでええな!?」
オオカミ三匹「「「わんッ!」」」

 かくして。レキから命からがら逃げきった二匹のオオカミも綴家の番犬という新たな居場所を確保したのだった。

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