【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも。ふぁもにかです。正直、今回と次回の話は省略しようかどうか割と真剣に悩みました。けれど。この2話を省略するとあの子の出番が遥か遠くに配置されてしまうではないかッ!? というか、出番自体なくなってしまうかもしれないじゃないかッ!? ……とのことで今回の話が出来上がりました。よって。いつもと比べるとクオリティが低くなってるかもしれません。ごめんなさい。ですが、すべてはあの子のためなのです。それはわかってやってください。


8.熱血キンジとバトルジャンキー

 

 数日後。いつも通り朝4時に起床。日が昇る前にキンジ特製のマル秘特訓メニューをこなしたキンジはゆったりとした足取りで東京武偵高へと向かっていた。天気は快晴。この前の土砂降りの雨が嘘だと思えてしまうような晴れっぷりだ。

 

(まぁ、肩慣らしにはなったか)

 キンジは武偵高へと歩を進めつつ手慣れた動作で拳銃をしまう。キンジの背後にはアスファルトに倒れ伏す二人の男子生徒の無残な姿があった。どうやら今日のキンジは下剋上を狙う同級生を二人返り討ちにしたようだ。Cランク武偵だと言っていた割には中々の実力だったな。この分だとBランクになるのもそう遠くない話だろう。キンジは後ろを振り返ることなく前を向く。

 

 さて。先日、雨の降りしきる中でパートナーとなったアリアのことだが、結局アリアとはキンジの部屋で同居することとなった。アリア曰く、「私とキンジはパートナーとなったのですから寝食を共にするのは当然のことです」とのことらしい。だが、その際にアリアがボソリと「……それにキンジの料理は美味しいですから」と呟いていたことを聞き逃すキンジではない。先日与えた質素極まりない朝食でいつの間にやらアリアの胃袋をガッチリ掴んでいた事実にキンジは驚くばかりであったことは記憶に新しい。

 

 ちなみに。アリアは今日は朝早くから出かけている。なんでも、今日は松本屋の創業感謝祭のセールがあるんだそうだ。きっと、今日のうちにももまんをこれでもかと買い占めるつもりなのだろう。以前お金には困っていないと言っておきながらこういうセールを逃さない辺り、アリアにもしっかり節約志向が備わっているようだ。

 

(何だろうな。アリアがいる限り、松本屋が一生安泰な気がしてきたな)

 

 ももまんを販売停止にするなんて愚行さえ冒さなければアリアが松本屋の味方であり続けることは想像にたやすい。例え松本屋に経営難の波が押し寄せてきたとしても無償で多額の寄付金を送るなりライバル会社をこっそり潰すなりしそうだ。つーか、絶対やるだろうな。アリアなら。

 

「――キンジッ!」

 

 頼むぞ、アリア。世界最強の武偵になる男のパートナーたる者がももまんなんかで犯罪に走ったりしてくれるなよ。捕まってくれるなよ。そんなことをつらつらと考えていたからだろうか。噂をすれば何とやら、前方からアリアが桃髪ツインテールを揺らして走ってくる。しかし。なぜかその両手にももまんギフトセット20個入りは抱えられていない。

 

「ん? アリア? どうした――」

「キンジ! 事件です! 武偵殺しが現れました! 今度はバスジャックです!」

「ッ、バスジャック!?」

「はい! 狙われたのは通学バス、G3号車! 武偵校域で男子寮の前を7時58分に停留したバスです!」

「なッ!?」

 

 キンジはアリアの切羽詰まった声に驚愕を顕わにする。男子寮の前を7時58分に停留するバスと言えば武藤や不知火がいつも使っているバスだ。時々理子や白雪も使ったりすることもあるバスだ。あいつらが危ない。キンジはサァーと血の気が引く思いに駆られた。

 

「わかった! 急いでバスを追うぞ!」

「――って、え!? 待ってください! どこにいくつもりですか!?」

「どこって、あそこのバイク使ってバスに向かうんだよ! 心配するな! バスの行き先くらい大体予想がつく!」

「ちょっ、武偵が自ら泥棒やってどうするんですか!?」

「泥棒じゃない! 少しレンタルするだけだ! 後で返すし、ここバイク駐輪禁止だから問題な――」

「問題アリです! 落ち着いてください、キンジ! 心配せずとも足なら私が既に手配しています! ついてきてください!」

「――って、アリアッ!?」

 

 キンジはアリアの腕を掴んですぐさまバイクの元へと駆けようとするも、アリアの引っ張る力は存外強く、逆にキンジが引っ張られてしまう。ジャックされたバスへ向かう手段を既に確保しているらしいアリアが指し示す方向は特に何の変哲もなさそうなビル。なるほど、ヘリか。即座に移動手段を予測したキンジは一直線にビルへと駆けるアリアの背中を追った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 陸上選手も真っ青なスピードでアリアは階段を駆け上る。残像みたいなものを残して走っているように見えてならないアリアを見失わないようにキンジは追随する。二人がたどり着いたのはビルの屋上だった。キンジ&アリアが屋上に到着してまもなくヘリポートに上空から一機のヘリコプターが降下してくる。だが。ヘリコプターの着地を待たずしてヘリコプターから人影が飛び降りてくる。緑髪。琥珀色の瞳。武偵高女子生徒の制服。アリアほどではないがそれでも小柄な部類の体型。背中に背負ったドラグノフ。能面のような顔。

 

(あぁ。レキか……)

 キンジは眼前の人物に見覚えがあった。悲しいことに、キンジができることなら会いたくない人物の特徴と合致していた。今すぐにでも逃げ出したい感情に駆られるキンジ。だが、眼前の少女と相対した以上、もう手遅れなのは明らかだった。

 

「――フッ!」

「ッ!?」

 

 シュタッという擬音とともに屋上に着地した緑髪の少女――レキ――は一瞬でキンジとの間合いを詰めると、背中から取り出したドラグノフ狙撃銃(銃剣装着済み)を一切の躊躇なしに突き出してくる。狙いはキンジの首。刺されば確実に死に至るだろう。生き残る余地などありはしない。キンジは咄嗟に取り出した拳銃で銃剣の軌道をずらすことでどうにか事なきを得た。

 

「ご無沙汰してます、キンジさん。一週間ぶりですね。会いたかったですよ。相変わらずの実力のようで何よりです」

 

 自身の攻撃が防がれたことを認識したレキはスッとドラグノフ(銃剣装着済み)を背負い直すと無表情のまま挨拶に移る。あたかも先の攻防がなかったかのごとく。レキの無機質な声はとても会いたかった相手に放つものとは思えない。

 

「ああ、そうだな。俺はできることなら会いたくなかったけどな、レキ」

「……なるほど。永遠のライバルたる私とは不必要に顔を合わせる必要はない。そんなことをしている暇があるなら互いを意識して己を研磨しろ、そういうことですね?」

「いや、そういう意味で言ったんじゃ――」

「さすがは私のライバルです、キンジさん。心構えから立派ですね」

「……あぁ。もういいや、それで」

 

 キンジはレキから視線を外し、レキを突き放すように言葉を放つ。だが。当のレキはキンジの言葉を無意識のうちに自分の都合のいいように独自解釈していく。レキから誤解を解くのがどれだけ困難なのかを身を以て知っているキンジは「はぁ……」と陰鬱なため息を吐いた。

 

「? 二人は知り合いなのですか?(というか、どうしてレキさんはキンジに攻撃を? 二人の間では恒例なのでしょうか?)」

「あ、あぁ。同じSランクのよしみでな」

「はい。私とキンジさんは互いの実力を認め合った永遠のライバルですから。よく模擬戦闘を行う仲です。キンジさんにはいつもお世話になっています」

「ライバル認定なんてした覚えはないけどな」

 

 二人の様子を傍から見ていたアリアの問いにほぼ同時にキンジとレキは返答する。嫌そうに少々顔を歪めつつよそよそしい言葉を返すキンジ。ほんの少しだけ嬉しそうにキンジとの関係を説明するレキ。二人の反応の温度差に「ん?」とアリアは首をコテンと傾げた。

 

 先のやり取りで一目瞭然なのだが、キンジはレキを苦手としている。決して嫌いなわけではない。だが、少なくとも自ら進んで会いたい人物だとは思っていない。それは別にレキが事あるごとに話に『風』を持ち出してくるからではない。別にレキが常に無表情でいるからではない。レキの謎発言や鉄仮面程度のことでレキに苦手意識を持つほどキンジは狭量ではない。でなければキンジが武藤や白雪といった個性の強すぎるメンバーと平然と仲良くやっていけるわけがない。理由は他の所にある。

 

 ロボットバトルジャンキーレキ、略してRBR。それが強襲科(アサルト)でまことしやかに囁かれているレキのあだ名だ。そう。レキはバトルジャンキーなのだ。それも死ね死ね団と名高い強襲科の面々が思わず引くレベルの重度のバトルジャンキーだ。感情を表情に出さないものの、戦闘が大好きで大好きで仕方がないような奴なのだ。

 

 その性格ゆえか、レキは東京武偵高入学当初から突発的に強襲科のメンバーに攻撃を仕掛けてきた。誰彼構わず一方的に勝負を仕掛けるレキの標的が自身と同じSランク武偵――遠山キンジ――に向けられるまで、そう時間は掛からなかった。

 

 レキの強襲に遭った当初。キンジは辛くもレキを返り討ちにすることができた。レキ相手に勝利する。思えばそれがキンジにとっての悪手だったのだろう。初めて同年代の武偵相手に敗北を喫したレキはその日以降、武器を片手に度々キンジを襲うようになった。

 

 ただ。それもキンジがレキを苦手とする理由にはなり得ない。世界最強の武偵を目指すキンジにとって暇さえあれば襲撃してくるSランク武偵のレキは本来なら己の技量を向上させることに貢献してくれるありがたい相手となるからだ。それにレキはキンジが寝入っている時に遥か遠くからドラグノフで狙撃、といった形での狙撃科(スナイプ)らしい襲撃は行っていない。あくまで白兵戦。あくまで近接戦闘で挑んでくるレキと対峙することはキンジにレキへの苦手意識を芽生えさせる要因にはならないはずなのだ。

 

 では、何がダメなのか。何が、キンジがレキを避ける要因となっているのか。答えは単純明快、レキとの戦いに終わりという概念がないということに帰結する。キンジはレキとの対戦において苦戦を強いられるものの負けたことはない。しかし。いくらキンジがレキを倒しても数秒後にはさも当然のごとく起き上がって再戦へと移行するレキがいるのだ。無尽蔵にしか思えない体力を持ち、なおかつ負けず嫌いな一面をも持つレキは何度キンジが倒してもムクリと起き上がって襲撃してくる。もはや軽くホラーだ。レキが不死身に思えてならないのも宜なるかなであろう。

 

 さらにレキが狙ってくるのは総じて防弾制服の範囲外。特に首より上の部分。一撃必殺と言わんばかりにそこしか狙わない。つまり、殺す気満々。レキ曰く、相手が避けられるギリギリの所を狙っているから何も心配ないんだそうだが、命の危機に晒され続けているキンジの身からしたらたまったものではない。「いざとなったらきちんと寸止めしますので安心してください。……少しは当たるかもしれませんが」などと、無表情かつあふれんばかりの殺気を纏った状態で言われても何一つ安心できない。

 

 そのため、レキの襲撃から始まるキンジVS.レキのバトルは最終的にいつもキンジの逃亡によって幕を下ろすのだ。視力が凄まじいほどによく、『風』とやらを味方につけている負けず嫌いなレキを撒くことがどれだけの苦労を費やすものなのかは想像にたやすいだろう。

 

 命がいくつあっても足りない。それこそがキンジが戦闘大大大大好きっ子、レキに苦手意識を抱く理由である。何せ、今レキとこうして話している間にも彼女が戦闘モードに移行する可能性だってないとは言い切れない。以前にも武偵高でのレキとの何気ない会話からいきなり奇襲を仕掛けられた前例だってあるのだから。

 

「……キンジ? どうかしましたか? 様子が変ですが?」

「だ、大丈夫だ。気にするな。それより状況はどうなってる?」

「現時点ではこれといった被害は出ていません。怪我人もいません。とりあえずヘリに乗ってください。バスを追いましょう」

 

 キング・オブ・バトルジャンキー、レキの一挙手一投足に最大限注意を払うキンジ。どこか緊迫した雰囲気を纏うキンジを怪訝そうに眺めるアリア。二人をよそにレキは背後のヘリにスタスタと向かっていく。どうやら今のレキに戦意はないようだ。

 

 さすがに警戒し過ぎだったか? まぁさすがのレキも今の緊急事態で空気を読まずに――レキ風にいうなら『風』を読まずに――襲撃なんてしないか。遠ざかっていくレキの背中をアリアと追いつつ、キンジは人知れず肩の緊張を抜いた。

 

「私たち3人の愛と勇気と実力を持ってすれば、卑劣なバスジャック犯など相手になりません。見せつけてやりましょう。この世の理はいつだって、『友情』『努力』『勝利』で構成されているということを」

 

 と、そこで。レキはクルリとキンジとアリアの方へと向き直り、相変わらずの無表情のままで緩く拳を握りガッツポーズを見せる。この時。あくまで無機質でいかなる感情も見せないことでお馴染みのレキの瞳が熱く燃えたぎる炎を宿しているようにキンジとアリアには見えて仕方なかった。かくして。強襲学科(アサルト)Sランク武偵3人はバスジャック現場へと空から急行するのであった。

 




キンジ→レキに苦手意識を抱く熱血キャラ。悪夢でうなされる時に見る夢はほとんどレキ関連。
アリア→割と節約志向。キンジとレキとの関係がイマイチ掴めていない。
レキ→ロボットバトルジャンキーレキ、略してRBR。バトル大好きっ娘。熱血キャラ2号。無表情ながら心に闘志の炎を灯している。負けず嫌い。色んな武器を使える。ご都合解釈能力Sランク。無感情ではない。座右の銘は『友情』『努力』『勝利』。寮内に達筆で飾られている。以前キンジに敗れてからはキンジを永遠のライバル視している。また常に少年誌を携帯している。レキ曰く、「少年誌は心のバイブルです。風が読めと教えてくれました」

 ということで、皆さんお察しの通り、あの子=レキです。彼女は見事に危ない子にクラスチェンジしてしまいました。ホント、どうしてこうなった!?

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