【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回はちゃっちゃと第三巻クライマックスまで向かうためにダイジェストにしている部分があります。このペースだと、紅鳴館でのお仕事の話はあと1,2話程度で終わるかもですね、ええ。



74.熱血キンジと新たな武器

 

 人材斡旋役の理子が一人紅鳴館から退出した後。紅鳴館のハウスキーパーとして働く時は制服を着ることが伝統になっているからまずは部屋で着替えてほしいとの要望を最後に小夜鳴はさっさと地下室へと閉じこもってしまった。

 

 とりあえず着替えのために一旦アリアと別れたキンジは部屋のクローゼットから燕尾服を取り出す。その少々古めかしい雰囲気を醸している燕尾服をパパッと着て執事スタイルとなったキンジは自身の部屋から出て、アリアの着替えが終わるのを待つ。

 

「お待たせしました、キンジ」

「あ、あぁ」

 

 その後。大して時間のかからない内にキンジの元に姿を現したメイド服姿のアリアだったが、その様子にキンジはわずかに違和感を覚えた。最初は着慣れないメイド服が恥ずかしいのかと思っていたが、それにしてはアリアの表情に恥じらいの色は見えない。どちらかと言うと、まるで何か見てはいけないものを見てしまったかのような、自身の手に余る何かを知ってしまったかのような表情をアリアは浮かべていた。

 

「アリア? どうかしたのか?」

「い、いえ……何でもありません」

「……本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。気にしないでください、キンジ」

「……そうか。ならいいけど」

 

 キンジの問いかけに対して、あからさまに目を逸らしながら若干上ずった声で返答するアリア。アリアを言動に疑問と一抹の好奇心を抱いたキンジだったが、現状で深く踏み込むのはよくないだろうとの考えの元、今はひとまずアリアを深く追求しないことにした。

 

「アリア、後で話がある」

「話、ですか?」

「あぁ、理子との定期連絡が終わったらちょっと俺の部屋に来てくれ。そこで話す」

「……」

 

 キンジの言葉にアリアはしばし沈黙しつつも、ごく自然な視線移動でキンジの背後の監視カメラを見やる。

 

「心配すんな。俺の部屋に監視カメラも盗聴器もないのは確認済みだ」

 

 アリアのさりげない視線から彼女の言わんとしていることを察したキンジはアリアの耳元でアリアの懸念を払拭する一言を囁く。すると、軽く安堵のため息を吐いたアリアは「わかりました。それでは、また後で」と後ろ手に手を振りつつ去っていく。紅鳴館の二階部分を掃除するためだ。

 

(さてと。まずは掃除と称した紅鳴館の地理把握といこうかな)

 

 アリアの姿が徐々に遠くなり、見えなくなった後。キンジは気持ちを切り替えるようにキッと前方を見据えた。かくして。キンジとアリアは紅鳴館の管理人たる小夜鳴の信頼を勝ち取るためにそれぞれ仕事に取りかかるのだった。

 

 ――全ては、十字架(ロザリオ)奪還作戦の成功率を上げるため。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 仕事は思っていたよりも簡単なものだった。キンジとアリアはまず無駄に広い紅鳴館の清掃に入ったのだが、以前のハウスキーパーたちが仕事をきちんとこなしていたためにあまり汚れていなく、思ったよりも全然苦労しなかった。あまりの楽さに二人して拍子抜けしてしまったぐらいだ。

 

 その後。キンジが小夜鳴に食事を提供する役割を担い、洗濯物を干したり食器を洗ったりといったその他の作業は二人で臨機応変に分担して行ったことで、紅鳴館での仕事1日目はつつがなく進行していった。小夜鳴から手際の良さを称賛され、ある程度は小夜鳴の信頼を勝ち取ったことを考えると、十字架(ロザリオ)奪還作戦は今の所、順調そのものだ。

 

 とはいえ、キンジたちにとって想定外なこともやはりあった。それを一言で言うなら、クレーム対応だ。不気味で鬱蒼で気味の悪い紅鳴館をどうにかしろとの近隣住民からの抗議の電話。何もアクションがなかったら強硬手段も辞さないとの役所の人からの脅しに近い電話。紅鳴館がこうも悪印象を持たれているとは思わなかった二人。ここでは対応に酷く苦労したとだけ記しておく。

 

 そして。時は流れて紅鳴館潜入1日目の深夜。携帯の三者間通話という機能を使って、紅鳴館周辺のホテルに十字架(ロザリオ)奪還作戦の拠点を構える理子と情報交換を終えた後、アリアはキンジの部屋を訪れていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「なるほど……」

 

 少々薄暗い照明が部屋をぼんやりと照らす中。ベッドに腰掛けているキンジから話――キンジがジャンヌから聞いたブラドの情報――を聞いたアリアは腕を組む。その手には以前ジャンヌがキンジに渡したやたら上手いけどやけに怖いブラドの絵がある。

 

「それで、話というのはブラドと戦う際の作戦についてですか?」

「あぁ。ジャンヌの言う通りにするなら、ブラドの四つ目の魔臓を見つけるまでは深追いしないで様子見の攻撃に徹し、四つ目を見つけ次第、魔臓を一気に破壊して倒すって方針になるんだろうけど――」

「……その方針はあくまで最後の手段にした方がいいのでは?」

 

 キンジの示したブラド退治の作戦にアリアは眉を潜める形で難色を示す。アリアの反応が予想の範疇だったキンジが「やっぱりアリアもそう思うか」と言葉を零すと、アリアは「当然です」と言わんばかりの迷いのない表情で一つうなずいた。

 

「四つの魔臓を同時に破壊すればブラドは倒せる、とりあえずこの情報にウソ偽りはないと考えていいでしょう。私の直感もそう言ってますし。……ですが、そんなわかりやすい弱点を当のブラドが気にしないとは思えません。戦闘時には私たちが魔臓を破壊しようとすることを何よりも警戒するでしょうし、それ以前にそう易々と四つ目の魔臓の場所をバラすような愚かな行為はしないでしょう。仮にもイ・ウーナンバー2ですしね」

「まぁ、そう考えるのが自然だよな。それに、四つの魔臓が目玉模様の所にある保証もない。もしもブラドが臓器移植なり何なりして魔臓を模様の場所から移動させてたり、どれが本物かわからなくさせるために四か所以外にも目玉模様の刺青でもしてたら、魔臓狙いはむしろ悪手になる」

 

 キンジの意見を聞いたアリアは「……実に厄介な相手ですね」と沈鬱なため息を吐く。キンジとのやり取りでブラド討伐の難易度の高さを改めて認識したが故の反応だろう。

 

「で、さ。考えてみたんだけど……ブラドの再生能力を逆手に取ってみるってのはどうだ?」

「逆手に、ですか?」

「そ。ブラドは魔臓を壊さない限り不死身で、何度でも再生する。だからブラドを徹底的に攻撃するんだ。目や耳や首、脛や金的……後は足の指辺りを集中的に狙うのもアリかもな」

 

 一つ一つ指を立てて攻撃箇所を例示したキンジ。対するアリアはキンジの言葉をゆっくりと咀嚼した後、「……要するに、ブラドをボコるだけボコって精神的に打ち負かすってことですか?」と問いかける。

 

「そーゆーこと。ジャンヌの物言いだとブラドにも痛覚はあるみたいだし、だったらブラドが痛みに耐えられなくなるまで攻撃し続けて心を屈服させればいい。多分、イ・ウーナンバー2のとっても強い不死身のブラドくんは長時間痛みに晒され続けるなんて経験、したことないだろうからな」

「……えげつない作戦ですね。ですが、それが一番いいかもしれません。この作戦ならブラドは自身の四つの魔臓が弱点だと私たちが知らないと勘違いしてくれますし、そうすれば四つ目の魔臓の位置も探しやすくなりますしね。……となると、銃はなるべく使わない方が良さそうですね」

「ま、この作戦はまず確実に長期戦になるだろうしな。弾数はなるべく温存しておきたい」

「ですが……大丈夫ですか、キンジ? 貴方の武器はベレッタとバタフライナイフだけですよね? 銃を使わないとなると、ナイフ一本でブラドと戦うことになってしまいますよ?」

「それについては心配ない」

 

 アリアの純粋にパートナーの身を案じての言葉にキンジはニィと得意げな笑みを浮かべる。そして。キンジの反応の意味する所がわからず首を傾げるアリアをよそに、キンジは背中に両手を突っ込みそこからスッと刀を二本取り出した。

 

「ッ!? それって――」

「そ、小太刀だよ。アリアが使ってるのと同じ奴。……世界最強の武偵を目指す以上、いつまでもベレッタにバタフライナイフ、ついでに徒手空拳だけじゃあ話にならないと思ってな。三つ目の武器として密かに特訓してたんだ」

 

 キンジはしばらく小太刀をアリアに見せた後、再び背中にしまう。

 

 今までの俺が相手してきたそこらの犯罪者相手なら銃一つ、バタフライナイフ一つで十分だった。けれど、今の俺が相手しているのは銃一つじゃ決定打に欠けるようなデタラメ極まりない超人集団だ。ジャンヌとの戦いで死の一歩手前まで追い込まれた一因が手持ちの武器の不足であることを考えると、これからも拳銃とバタフライナイフだけで突き進むのはさすがに無理がある。

 

 それに。兄さんも銃を使った必殺技:不可視の弾丸(インヴィジビレ)の他にもサソリの尾(スコルピオ)という奥の手を持っていた。そのサソリの尾(スコルピオ)とやらがいかなるタイプの技なのかについては全然わかっていないが、少なくとも銃を使った類いのものではないのは確実だ。

 

 兄さんだって、神がかった銃技の他にも戦う手段を持っていた。それなら、兄さんをも超える世界最強の武偵を目指す俺も何か新しい武器を所持するべきじゃないのか。そう考えた結果がこの二本の小太刀だ。

 

 新しい武器として小太刀を選んだのは常に背中に携帯できるというのもあるが、一番の理由はやっぱり俺の身近に神崎・H・アリアというお手本がいるからだ。俺をヘンタイ扱いして襲いかかってきた時も、理子やジャンヌとの戦いの時も、アリアとの模擬戦の時も、アリアの双剣を使った戦い方はしっかりと目に焼きつけている。

 

 小太刀の振り方、体重移動の仕方、目線の向け方。それらを教材として自身とアリアとの体格差を考慮して特訓を繰り返したため、今の俺は既に小太刀を駆使した戦い方を習得済みだ。少なくとも、今ここで実戦投入しても大丈夫なレベルには様になった剣技を繰り出せるはずだ。

 

(ま、あくまで我流だけど……)

「ふふ。なら、これでお揃いですね。キンジ」

 

 自身の背中からスッと小太刀を取り出し嬉しそうに微笑むアリアに少しだけ調子に乗ったキンジは冗談半分に「フッ。いっそ双剣双銃(カドラ)のキンジと呼んでくれてもいいんだぞ?」と笑ってみる。しかし、アリアはキンジが望む反応を見せなかった。というより、キンジから少し距離を取った。

 

「……キ、キンジ。まさかとは思いますが、魔剣(デュランダル)と話したことで貴方も厨二病に感染したのですか? マズいですね、手遅れになる前にどこか実績のある精神病院に連れていかないと――」

「――ちょっ、冗談だって! 真に受けんなよ!」

「ふふッ、わかってますよ」

「お、お前なぁ……」

双剣双銃(カドラ)のキンジと呼ぶ件についてはキンジがあともう一つ銃を装備したら考えておきます。キンジはまだ銃を二つ携帯していませんしね」

「あ、そういえばそうだった」

 

 ニコリと笑みを浮かべた状態のアリアからの尤もな指摘にキンジはハッと我に返る。なんでそんな当たり前なことに気づかなかったんだ、俺!? とでも言いたげな表情だ。

 

「それはともかく。キンジも小太刀で戦うのなら弾切れの心配はありませんし、ブラドを精神的に叩きのめす方向でいきましょう。……いい機会です。私の大好きなお母さんに罪を被せた恨みを、鬱憤を、存分に晴らさせてもらいましょうか」

「やる気満々だな、アリア。ま、俺も色々と試したい戦法があるからな。折角の不死身なんだし、戦う時は実験台になってもらわないとな」

「「フフフフフフフフフフフフフフフッ」」

 

 キンジとアリアはそれぞれ肩を震わせて笑う。近い将来、不死身のブラドを二人で思う存分フルボッコにする様を脳裏に思い浮かべて愉快だと言わんばかりに笑う。悪魔のそれを軽く凌駕するほどの凶悪な笑みを浮かべる姿からは、とても母親を救おうとその身一つで奮闘する健気な少女とそのパートナーの姿には見えない。

 

 

 

(あ、あれ? おかしいな? 遠山くんとオリュメスさんの方がブラドよりもずっと怖い気がする……)

 

 ちなみに。紅鳴館周辺のホテルの一室にて。キンジとアリアにこっそり取りつけていた超小型盗聴器を通して二人の不気味な笑い声を聞いた理子が両手で自分の肩を抱きしめたまま一人ブルブルと震えていたことを当の二人は知らない。

 




キンジ→新しい武器として小太刀二本を採用した熱血キャラ。魔改造に拍車がかかっている模様。
アリア→今回はいっぱい台詞があったメインヒロイン。キンジとおそろいの武器を持っていることが嬉しい模様。
理子→うっかりキンジとアリアの恐ろしい一面を覗いてしまった子。余談だがこの日の就寝後、気味の悪い笑い声を上げるキンジとアリアにしつこく追いかけられるという悪夢を見たらしい。

 というわけで、74話終了です。それにしても、どっちが悪役かわからないですね、これ。
 とりあえず一言。――ブラド逃げて、超逃げて。


 ~おまけ(一方その頃 in 青森:温度差の素晴らしい二人)~

 星伽神社にて。

白雪「やっぱり星伽神(ここ)社は無駄に窮屈で面倒だなぁ。早く武偵高に戻りたいよ……(←グテーと寝転がりつつ)」
白雪「……ん? 何か外が騒がしい?(←ムクリと体を起こしつつ)」

 好奇心に駆られた白雪は騒ぎの発生源たる星伽神社の入り口部分へと向かう。
 そこで白雪が見たのは――倒れ伏す数人の武装巫女と、その中心に立つ銀髪オッドアイの少女。

ジャンヌ「ッ! や、やっと、やっと見つけた……我の、我だけのユッキーお姉さま! あぁ神よ、我はようやく理想郷(ユートピア)へとたどり着いたッ! クククッ、クッハハハハハハハハハハハハッ!!(←白雪の行方を探して青森までたどり着いた厨二少女)」
白雪(あれ? この子、どこかで見覚えが……えーと、誰だっけ? 何か私のこと知ってるみたいだけど……んー?)

 ジャンヌちゃん…… (´・ω・`)


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