【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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ジャンヌ「そろそろリコリーヌのターンだと思ったか? 残念、我だ」

 どうも、ふぁもにかです。ここの所、リアルのバイトが精神的苦痛の伴うものにシフトしつつあるために情緒不安定になってる感があることに定評のあるふぁもにかです。というか、この私に巧みな接客センスを求めてくる時点でどうかしてるとしか思えませんね! (`・ω・´)キリッ

 それに情緒不安定なあまり、なぜか衝動的にPS3本体(中古、1万5千円)買っちゃいましたしね。……本体だけ買って一体何がしたかったんだ、当時の私。行動が謎過ぎて自分で自分が怖いです。はい。




69.熱血キンジと主人公補正

 

「というか、そんなにブラドが憎いならお前が倒せばいいじゃないか。誰かが倒してくれるまで律儀に待ってないでさ。お前だって、自分でブラド倒した方が憎しみも晴れるんじゃないのか?」

「不可能だ。我と奴とでは実力差があり過ぎる。ゆえに、情けないことだが他人に任せるより他はない。実際、我は一度奴に敗北したからな」

「あ、もう挑戦したのか」

「あぁ。……我の誇り、尊厳、自信。あらゆるものを完膚なきまでに叩き潰された、屈辱的な敗北だった。あの日のことは今でも鮮明に覚えている」

 

 選択教科棟の音楽室にて。ふと思いついたようにジャンヌに自力でのブラド退治を提案するキンジを前に、ピアノ椅子に腰かけているジャンヌは憎しみ混じりの暗い表情を浮かべながら、その当時のことを少しずつ話し始める。

 

 ジャンヌ曰く、理子が自力でブラドの監禁から逃れイ・ウーに落ち着いた頃、逃走した理子を追って、ブラドがイ・ウーに乗り込んできたことがあったらしい。その頃、既に理子と交友関係を持っていたジャンヌは理子をブラドの魔の手から守ろうとブラドと対面し、剣を向けた。しかし、ジャンヌは敗北した。それも戦わずして。

 

 当時のジャンヌは自信満々だった。理子の話からブラドが超能力(ステルス)を持っていないことが推測できたために、氷の超能力(ステルス)を自在に行使できる自分に負けはないと信じ切っていた。

 

 けれど。自身の前に立ち塞がるジャンヌの存在に気づいたブラドがジャンヌを見下ろした時。路傍の石ころを見るような目を向けられたジャンヌは恐怖した。恐怖のあまり、その場から動けなくなった。体の震えが止まらなくなり、持っていた剣があっさりと手から滑り落ちてしまった。ジャンヌにできたのは意識を決して手放さず、ただただブラドを見上げることだけ。

 

 結局、ジャンヌはブラドのまるでハエを払うような手を振る動作一つで派手に吹っ飛ばされて重傷を負い、負けた。身体的にはもちろん、それ以上に精神的に敗北した。

 

「格の違い、という奴だったのだろうな。……人には所詮限界というものがある。多かれ少なかれ、どう足掻こうと絶対に超えられない領域というものがある。あの時、何も知らない愚かな我はそれを身をもって知ったのだ」

「……けど、それは過去の話だろ? 今なら勝てるんじゃないか? 今のお前は雷の超能力(ステルス)も使えるし、戦闘スタイルも確立してる。ブラドのことだって知っている。過去の未熟だったお前なら無理でも、今のお前ならできるんじゃないのか?」

 

 ジャンヌがフッと過去の自分を鼻で笑う中、キンジはジャンヌに言い聞かせるようにして静かに言葉を紡ぐ。ジャンヌは強い。あの時、俺とアリアとユッキーと、三人がかりでようやく勝てたほどにジャンヌは強い。ジャンヌの攻撃で危うく死にかけた俺からすればジャンヌはかなりの脅威だ。なのに。それだけの実力を持ちながら今もなおブラド相手に自分が負けると決めつけているジャンヌが、何となく受け入れられなかった。何となく許せなかった。

 

「……」

 

 キンジの問いを受けたジャンヌは腕を組んで目を瞑り、しばし思考にふける。おそらくキンジの指摘を契機に改めて頭の中でブラドとの戦闘シミュレーションを行っているのだろう。

 

「……そうだな。もしも我が10人いれば、6人ほどの犠牲をもってようやく倒せることだろうが、一人ではまず無理だ」

「……ブラドってそこまでの奴なのかよ」

「当然だ。仮にもイ・ウーのナンバー2の大物だ、ただの一構成員の我に勝ち目などあるわけないだろう? いくら我に女神の祝福があれど、こればかりはさすがに分が悪すぎる。それに、我と奴とでは相性も最悪だ」

「相性?」

「あぁ。我は敵を策略に掛け、罠にハメて、敵が全力を出せない状態へと持ち込んでから狩る戦闘スタイルを取っている。これが我の力を最大限引き出せる手法だからだ。しかし。奴は、ブラドには小手先の戦略など意味をなさない。いくら策略に掛けようと、罠にハメようと、奴には効かない。奴は己の身体能力のみで平然と策略をぶち壊す。超能力(ステルス)なしの強行突破で罠をぶち壊す。だから。奴に勝つには、それこそ奴を凌駕するだけの純然たる力が必要なのだ」

 

 そして、数分後。ブラドとの仮想戦闘を終わらせたジャンヌは一呼吸置くと、キッパリと自身の勝利を否定する。そこには自身を卑下する要素もブラドを過剰評価する要素もなく、ジャンヌがただただ現実的な結果を口にしたことが読み取れた。

 

「なるほどな……」

(俺はちょっとブラドを甘く見過ぎてたかもな。あのジャンヌがここまで言うほどの相手だ、これはブラドの性別関係なしにヒステリアモードで戦った方が良さそうだ……)

「だが、遠山麓公キンジルバーナード。貴様は例外だ。貴様なら奴に勝つことができる」

「……やけに断言するな、ジャンヌ。俺とブラドだったら相性が良かったりするのか?」

「いや。悪いな。我よりは幾分かマシだろうが、それでも相性は最悪に近い。貴様はパワーアタッカーじゃないからな。テクニック重視の人間ではブラド攻略は不可能に近い」

「じゃあ、なんで俺なら勝てるんだ?」

「なに、簡単な話だ。貴様は近い将来、『天然記念物と、絶対に敵に回してはいけない死神と、いつになくやる気な戦闘狂と、オオカミと、魔王召喚の儀式中の凄く怪しい悪魔と、紛うことなきメガネと、やたら大きい鬼と、長髪のアホ幽霊に会う』のだろう?」

「ッ!?」

 

 キンジの素朴な問いにジャンヌは実にイイ笑顔で得意げに問いかけてくる。その自分と白雪しか知らないはずの内容にキンジはつい目を丸くした。

 

「ちょっ、待て! なんでお前がユッキーの占いのこと知ってんだ!?」

「クククッ。いつから我が以前仕掛けた監視カメラと盗聴器を撤去したものと錯覚していたのだ、遠山麓公キンジルバーナード?」

「……おい。まさかお前、まだ俺やユッキーの家に監視カメラ仕掛けたままだとか言わないよな?」

「その点については安心しろ。昨日こっそり撤去しておいた」

「いやいやいや! 全然安心できねぇよ!? むしろ昨日までのことがしっかり盗聴&盗撮されてたんじゃねぇか!? 全部もれなくお前に筒抜けだったんじゃねぇか!?」

 

 キンジはビシッとジャンヌを指差して声を荒らげる。別にキンジもアリアも第三者に見られてマズいようなことは一切していないが、だからといって他人に見られていること前提で私生活を送っていたわけではない。そのため、キンジの反応も無理はない。

 

「まぁそうカリカリするな。我に盗撮した動画をテキトーに編集して(でっち上げて)ユウチュウブに投稿する意思はない。……無論、貴様と神崎・H・アリアとの秘め事についても黙秘するから安心しろ」

「安心できるか!? つーか、何!? 秘め事って何!? 俺、そんなの全然覚えないぞ!?」

「……まぁ、そういうことにしておいてやろう。我に人のプライベートを無闇に吹聴する趣味はないからな」

 

 ジャンヌの口から飛び出した不穏な言葉に、キンジは焦りのままにジャンヌに『秘め事』の詳細を問い質そうとする。だが。対するジャンヌは何を勘違いしたのか、ふぅとため息を吐きながらまるで子供の成長を見守る母親のような瞳でキンジを見つめる。

 

「なんで妥協したみたいな感じになってんの!? ねぇ、秘め事って何のこと!? お前は一体何を誤解してるんだよ!?」

「案ずるな、遠山麓公キンジルバーナード。貴様だって人間で、ある程度の性欲を持つ男だ。聖人君子ではないのだから時には道を踏み外すこともあるだろう。彼女のあのロリ体型から鑑みるに世間から厳しい目を向けられることは避けられないだろうが……無能力者の分際で銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)たる我と真正面から渡り合った貴様ならきっと乗り越えられると信じてる」

「だ・か・ら! 優しい視線を送るな! 肩をポンポンって叩くな! さっきから何なんだよ!? 頼むから答えてくれ、ジャンヌ!」

「我はジャンヌではない、銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)だ」

 

 「もう、この子ったら……」と言った感じの視線を注いでくるジャンヌを前に一刻も早く誤解を解かないといけないと危機感を抱いたキンジはジャンヌの両肩を掴んでガクガクと前後に揺らすも、ジャンヌにはまるで効果が見られない。ジャンヌは相変わらずやけに優しい眼差しと言葉をキンジに浴びせるだけだ。

 

 ちなみに。これはもちろん、自身を今の現状に追いやった原因の一端であるキンジへのジャンヌの憂さ晴らしだったりする。また、ジャンヌの言う『秘め事』とは、アリアが寝るベットの場所を間違えたせいでキンジがアリアと同じベッドで一緒に寝ることとなったあの日(※詳しくは40話参照)のことを指している。

 

 

 結局。自身の体力の限界を無視してジャンヌを前後に揺さぶりまくる形でジャンヌの言う『秘め事』の内容を聞き出そうとするも失敗したキンジは両手を膝に置いてゼェゼェと荒い息を吐く。ジャンヌに翻弄されるだけ翻弄されたキンジをよそに、ある程度スッキリしたジャンヌは「さて、そろそろ本題に戻るか……」と真剣な表情でキンジを見据える。

 

「で、だ。その占いの結果を考えると、貴様が近い内に会う愉快な連中の内、『やたら大きい鬼』がブラドで確定だろう。奴は見た目もそうだが、実際に鬼神のような力任せの野蛮で低能な戦い方をするからな。そして。貴様は『やたら大きい鬼』と出くわした後、『長髪のアホ幽霊』と出会うことになっている。つまり。貴様はあのブラドとエンカウントしておきながら、その後もきちんと生き長らえているということだ。……あのブラドが自身との勝負に負けた奴をみすみす逃すような器の持ち主とは到底考えられない。我のような例外はあれど、基本的に奴と戦って負けることは死と同義だ。ゆえに貴様がブラドに勝つという推測が成り立つのだ」

 

 順序立ててキンジの勝利を確信している根拠を述べたジャンヌは「我だって、ブラドに吹っ飛ばされた時にバカみたいに頭から血を流していたから死んだと勘違いされただけだからな」と、さらに言葉を付け加える。しかし。ジャンヌの考えにキンジは「いやいや」と反論に出る。

 

「あれはあくまで占いだぞ? 確かにユッキーの占いはよく当たるけど、絶対じゃない。だからそれは根拠にはならないんじゃないか?」

「ふむ、一理あるな。占いは予言ではない以上、貴様の考えもわからないではない。だがしかし、それを差し引いても貴様に負けはないと我は考えている。……世の中にはな、いるんだよ。いくら実力差があっても、いくら策略を巡らせても、いくら窮地に追い込んでも、絶対に勝てない人種が。最後の最後に何だかんだで稀代の逆転劇をやってのける、ふざけた人種が。それこそ、この世に生を授かった時点で勝利を宿命づけられているような稀有な人種が。そのような勝利の運命に守られた人種は何があっても絶対に負けない。いや、じゃんけんやテレビゲームなどのくだらない戦いなら負けることもあるだろうが、少なくとも大事な何かが関わるここ一番の勝負に負けることはない。そういう人種が、絶対数は少ないながら、確実に存在する」

「それが、俺だってのか?」

「そうだ。我はこれを主人公補正と呼んでいるのだがな、貴様にはそれがあると我は確信している。ゆえに、貴様は死なない。ブラドに勝利する。尤も、もしも貴様と一緒にブラドに挑む者がいるならば、その者の命は保障しないがな」

「主人公補正、ね……」

 

 主人公補正の存在自体は認めるけど、それは自分に当てはまるようなものではないといった口ぶりで、キンジはひとまずジャンヌの言葉を受け入れるのだった。

 




キンジ→ジャンヌの手のひらでいいように転がされる熱血キャラ。ジャンヌの言う『秘め事』の詳細が気になって仕方がない様子。
ジャンヌ→キンジとアリアの関係を完璧に誤解している厨二病患者。二人の恋路に変に手出しをしないで傍観する方針らしい。

 というわけで、69話終了です。ジャンヌちゃんとの会話は今回までで終わらせるつもりだったのですが、次回まで延長確定となりました。あぁ、キンジくんとジャンヌちゃんとのやり取りを書くのが楽しすぎるせいで話が全然進まない……。


 ~おまけ(ネタ:もしもジャンヌとブラドが仲良しだったら)~

ジャンヌ「我の誇り、尊厳、自信。あらゆるものを完膚なきまでに叩き潰された、屈辱的な敗北だった。あの日のことは今でも鮮明に覚えている(←暗い表情で)」
キンジ「ジャンヌ……」
ジャンヌ「……なぜだ? なぜだッ!? なぜ奴はあんなにゲームが上手いのだッ!? 大乱闘もマリオカートもピクミン2の対戦バトルも一度だって奴に勝てたことないぞッ!? 一刻も早く奴のドヤ顔を歪ませてやりたいというのにどうして勝利の女神は奴にばかり微笑むのだぁぁぁああああああああああ!?(←軽く錯乱中)」
キンジ「――って、ゲームの話かよ!? 仲良いじゃねぇか、お前ら……(←呆れまじりに)」

 ブラドがあの巨体でコントローラーを握ってるかと思うと何だか笑えてきますね、ええ。


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