【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回の66話はテストオワタ\(^o^)/な気持ちをぶつける気分で執筆しましたので普段と比べて少々会話内容と地の文がぶっ飛んでいる可能性があります。そのような箇所を見つけた時は、「やれやれ、これだからふぁもにかの奴は……」といった心情で生暖かくも慈愛に満ちた眼差しで読み進めてくれると非常にありがたいです。

 あと、今回は思ったより文字数多めとなっちゃったので二話に分割することとなりました。なので、キリが悪い所で終わっている辺りはご了承くださいませ。




66.熱血キンジと喫茶トーク 前編

 

「「――厨二病喫茶ァ(ですか)!?」」

「ひゃう!?」

 

 秋葉原の一角に存在する喫茶店もとい厨二病喫茶、不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)。それなりに賑わいを見せる店内の奥の席からキンジとアリアの呆れたような声が響く。彼らの心情を一言で表すとすれば『何じゃそりゃ!?』といった所か。他方。いきなり大きな声を出した二人に、二人と向き合うようにして座る理子がビクッと肩を震わせつつも「う、うん」とコクコクうなずく。

 

「ここは知る人ぞ知る秋葉原の厨二病喫茶:不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)。略してPF。名前の通り、ちょっと変わった人たちが集まって楽しくお話するお店、かな?」

「ちょっと変わった人たち、ね……」

 

 キンジは理子の言葉を受けて周囲の音を拾おうと少しだけ耳をすます。すると、他の席から『フゥーワハッハッハッハッハッ!』や『クッフフフフハハハハッ!』、『腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐ッ――』などといった非常に個性的な高笑いが次々と聞こえてくる。とても少し変わってるだけの人間の笑い方とは思えない。頭のネジが5本10本欠けていなければ、決してこのような周囲に不特定多数の人々がいる環境で哄笑など上げられないことだろう。

 

「えっーと、峰さん? まさかとは思いますが、さっきのヤクザみたいな人たちも――」

「うん。ヤクザに憧れて似たような格好してるだけだから、もちろん本職の人じゃないよ?」

 

 と、ここで。先ほどのやたらガタイのいい黒スーツの連中のことに思い至ったらしいアリアの問いに理子が肯定の返事を送る。強襲科(アサルト)Sランク武偵たる自身の恐怖した相手がただコワモテなだけの一般人だということを知ったアリアは「何ですか、それ……」と敗北感にうなだれる。一方。理子は理子で「というか、もしも本物のヤクザだったらボク、怖くて話しかけられないよ……」と小声でポロッと本音を漏らす。

 

「あ、でもあの人たちの持ってた拳銃や日本刀は本物だよ? あの人たち、ああ見えて本職は公安0課の人だからね」

「ふぇッ!?」

「はッ!?」

 

 理子がサラッと口にした衝撃的事実を前に、キンジとアリアはガタッと弾かれたかのようにその場から立ち上がり、驚愕の声を上げる。

 

 公安0課。それは職務上において人を殺しても何も問題ないとされる恐るべき闇の公務員のことだ。簡単に言うなら、『殺人のライセンス』を所持している世にも恐ろしい役職のことである。その実力は日本において最強クラスであり、キンジとしても自らの命のためになるべく敵対は避けたいと心から願う存在だ。

 

(……なるほどな。道理であの三人に睨まれた時、恐怖したわけだ。全力で逃げたはずだったのにいつの間にか回り込まれてたのにも説明がつく。けど……何やってんだよ、公安0課。そんなんでいいのかよ、公安0課)

 

 そんな国内最強レベルの実力を誇る公安0課の人間が厨二病を発症し、ここ不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)でヤクザ系統のコスプレ&演技を楽しんでいるという事実を前に、キンジはつい公安0課の将来に懸念を抱くのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「それにしても、なんでわざわざこんな変わった場所なんか選んだんだよ。他にもっとマシな場所くらいあったんじゃないのか?」

 

 数分後。キンジとアリアがまさかの事実からどうにか立ち直った後、キンジはふとした疑問を理子にぶつける。その言葉には何気に不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)にたどり着くまでに思ったより時間がかかって苦労したことへの腹いせの意味合いもわずかながら含まれていたりする。

 

「んー、まぁ、あるにはあるけど……でも、ここなら何を話しても大丈夫だからね。例えボクたちの話を盗み聞きされても誰も話を真に受けたりしないしね」

「まぁ。それは確かにそうだろうけど……」

 

 理子の主張にキンジは再び周囲の喧騒に耳を傾ける。すると、『忘却欠片(ルール・フラグメ)による異常現象がここの所頻繁に――』だったり、『無職……じゃなかった、無色の派閥の陰謀がまた――』だったり、『ここの所、エンテ・イスラからの干渉が――』だったり、『賢人会議に続いて今度は世界再生機構だと――』だったりと、何とも厨二チックで多彩な会話が絶え間なく聞こえてくる。

 

 確かに。非現実的な会話がそこら中で繰り広げられている環境下なら、今から俺たちが『イ・ウー』やら『リュパン』やら色々と口走ったとしても誰もそれが実際に存在するものとは夢にも思わないだろう。木を隠すなら森の中。非日常トークを隠すなら妄想トークの中。そんな所か。

 

(……何か違う気ぃするけどな)

「それで、峰さん。そろそろ貴女の依頼について教えてくれませんか?」

「あ、うん。わかった。……えっとさ。遠山くん。オリュメスさん。ボ、ボクと一緒に、ドロボーしない?」

「……え?」

「……は?」

 

 キンジが思案にふける中、隣のアリアがキリッとした眼差しで、本題に入るよう理子に求める。その結果、理子の繰り出した爆弾発言にキンジとアリアは思わずビシリと硬直した。

 

「ドロボー、ですか?」

「う、うん」

「……理子。それは何かの隠語か?」

「ううん。そのままの意味だよ。ふ、二人に盗んでもらいたいものがあるんだ。いや、ええと、取り返してほしいものがあるって言った方がいいのかな、この場合? ……でも、それはボク一人じゃまず無理そうなんだ。だから人手が欲しくてさ。報酬は弾ませるつもりだから……お願い、ボクに協力してほしい」

 

 降って湧いたような理子の『ドロボー』発言を信じようとしないキンジとアリアの心情などいざ知らず、理子は話を進めていく。そして、二人に向けて深々と頭を下げる。理子の真摯な姿勢を目の当たりにした二人は、とりあえず犯罪の共犯になってほしいとの理子の言葉を逃げずに受け入れることにした。

 

「……ちなみに、その報酬って?」

「ボクのガ●ダムコレクション一式ッ!」

「「……」」

「ふふん。ビックリしたでしょ? ここまで豪華な報酬用意してるなんて思わなかったでしょ? ……どうかな? これでボクの依頼、受ける気になって――」

「お断りします。他の人を当たってください」

「人に物を頼むならせめてもうちょっとマシな報酬持って来い」

「え、ぇぇえええええええッ!? 即答!? まさかの即答ッ!? なんでッ!?」

 

 やや自信ありげに笑みを浮かべる理子に対し、キンジとアリアは冷めきった口調で突っぱねる。どこまでも冷たい眼差しを向けてくるという二人の反応が全くの想定外だったらしい理子は困惑に満ちた声を上げた。

 

「なんで、って……理由わからないのかよ」

「いや、ちょっと待ってよ、遠山くん!? 何がダメなの!? 限定品だよ!? レアものだよ!? プレミア価格になってるモノもあるんだよ!? それこそ、ネットオークションとかで出品すればきっと一千万は軽く超える代物だよ!?」

「いやいや、ガ●ダム事情なんて知るかよ」

「むしろ私としてはどうしてそのような報酬で私とキンジが動くと思ったのかが謎なんですけど」

 

 キンジとアリアの可哀想なものを見るような視線に耐えかねたのか、理子は「あう……」と力なくうつむく。しゅん、という擬態語が今の理子にはピッタリだ。

 

「あのなぁ、理子。報酬にお前のガ●ダムコレクションなんて持ち出されてもそんなのごく一部の熱狂者にしか効果ないし、そもそも俺もアリアも金で動くような人間じゃないぞ。まぁ金しか払えない依頼者が相手ならそれでいいかもだけど、理子みたいに俺たちがいくらお金を使っても入手できない貴重な交渉材料を持ってる奴が相手なら、なおさら金で納得できるはずないだろ?」

「……えっと、じゃあ、二人は報酬として何を望むの?」

 

 キンジは理子を諭すように語りかけると、理子はコテンと首を傾けつつ、二人に自身の依頼承諾の対価について問いかける。刹那、理子を見つめるアリアの視線が一瞬にして冷たく厳しいものに変質した。

 

「それをわざわざ聞くんですね、峰さん。もう予想はつけているでしょうに」

「え、いや、まぁ確かに予想はしてるけど、でも外したら恥ずかしいし……」

「……そうですね。貴女の依頼達成の暁には、お母さんの冤罪を証言台できちんと証言してもらいましょうか。私はそれで手を打ちます。というより、それが嫌なら私は降りますよ」

「え? それでいいの? ならOKだよ」

「へ? ……ホ、ホントですか!?」

 

 理子がキョトンとした表情ながらアリアの提示した条件をあっさりと呑んだことに、アリアは思わず目を見開く。どうやらアリアは自身の申し出は拒否されるものと踏んでいたようだ。

 

 アリアはバンとテーブルを叩いて勢いよく立ち上がると、真紅の瞳を希望の光でキラキラと輝かせつつ、「ウソじゃないですよね!? ホントにホントですよね!?」と対面の理子へと身を乗り出して何度も確認を取っている。対する理子はアリアのあまりの喜びように戸惑っているようだ。

 

「じゃあ、俺からは貸し一つってことで」

「ふぇ!? ……え、ええと、その、貸し一つってのはちょっと……」

 

 その後。アリアが落ち着くまで発言を控えていたキンジが提示した条件に、理子は多分に怯えを含んだ視線をキンジに向ける。当然だろう。後にキンジからどういった類いのことを頼まれるかわからない以上、貸しという名の弱みを握られることに警戒心を抱くのは無理もない。

 

(けど、アリアと違って俺にはこれといって理子に望むモノがないんだよなぁ……。でも、だからといって無償で協力なんてしたくないし――)

「あ、そうだ! ボッ、ボクの持ってる遠山くんのお兄さんの情報、全部教えるよ! ……それじゃあ、ダメかな?」

「……おい。まだそれを引きずる気かよ、理子。いい加減にしてくれ。兄さんはアンベリール号沈没事故で死んだ。もうこの世にはいない」

「……遠山くん。そのことについてずっと気になってたんだけど、それって遠山くんのお兄さんが死んだって思い込みたいだけなんじゃ――」

「――黙れよ、理子。そろそろマジで怒るぞ?」

 

 キンジは剣呑とした口調を理子にぶつける。この時、キンジは意図せず声が1トーン低くなったのを感じていた。キンジの殺気紛いの視線をその身に受けた理子は「ひぅ!?」と小さく悲鳴を上げ、身をすくめる。

 

「ご、ごごごめんなさい! 生まれてきてごめんなさいッ!」

(……ホント、何ていうか、理子と話してると毒気抜かれるよな……)

「……ハァ。というか、そこまで言うんなら何か証拠でもあるのかよ。兄さんが今も生きてるっていうさ」

「ボクがヒステリア・サヴァン・シンドロームについて知ってる、ってのは?」

「ダメだな。兄さんのヒステリアモードのことは職場の同僚たちには周知の事実だったからな。そこから情報が漏れて、回り回って理子がその情報を手に入れたって可能性は大いにあり得るだろう?」

「うッ。むぅ……あ! だったら、遠山くんのお兄さんが全国のご当地レオぽんのぬいぐるみ全235種類をコンプリートしようと頑張ってるってのはどう!? これなら証拠になる!?」

「ちょっ、なんで理子がそのこと知って――」

「――前にも言ったけど、ボクはアンベリール沈没事故の時、遠山くんのお兄さんと接触してるんだよ。その後に少しだけど一緒に行動もしてる。その時に本人がポロッと話してくれたんだけど……どう? 信じてくれる気になったかな?」

「……」

 

 キンジは理子の問いかけに思わず押し黙る。「ん? ヒステリ、サヴァン? ヒステリアモード?」と聞きなれない単語に首を捻るアリアをよそにキンジは理子の言葉を信じるか否かについて考えを巡らせる。

 

 確かに。兄さんはご当地レオぽんのぬいぐるみの収集に執心していた。兄さんは基本的に可愛いものに目がない性質で、特にレオぽんの魅力に取りつかれていたからだ。しかし。そのことを知っているのは俺だけだ。何せ、兄さんは自身が無類のレオぽん好きだということを恥ずかしいと思って秘密にしていたのだから。

 

 いや、俺が知らないだけで他の人にも話していた可能性はあるが、果たしてあの兄さんがそのような男としての人格を疑われそうな趣向に関してそう易々と他人に話すような真似をするだろうか? だとすると、理子が兄さんのレオぽんのぬいぐるみ収集癖について知っていたのは、あくまで理子の卓越した情報収集能力の為せる技ということなのだろうか?

 

 ……わからない。兄さんは死んでいるかもしれないし、実は今もどこかで生きているかもしれない。けれど、今の俺がそれを断定する確固とした判断材料を持たない以上、理子の所持する情報を無下にすることは得策ではないだろう。少なくともそれだけは十分に理解できた。

 

「ハァ、わかった。やればいいんだろ、やれば」

 

 なら、理子の依頼を受けるしかない。理子がどこまで知っているかは不明だが、今の理子をみすみす手放すわけにはいかない。キンジは自身の中でグルグルと渦巻く思考に終止符を打つようにして、兄の情報を対価に理子の依頼に協力する旨を伝える。すると、理子は「ホントに!? ありがとう、遠山くん!」と、キンジから肯定的な返事をもらえたことにパァと花が開いたかのような華やかな笑みを浮かべる。

 

(兄さん、兄さんは今も生きているのか? もしそうだとしたら……今、どこで何をしているんだ? なんで俺に連絡一つしてくれないんだ? 理子の言う通り、イ・ウーに所属してる……なんてことはない、よな?)

 

 その一方。キンジは期待と不安のない交ぜになった心境の中でポツリと呟きを漏らすのだった。

 




キンジ→何だかんだで理子の依頼を受けることにした熱血キャラ。兄が死んだと思いたいのは兄の生存という事実によって自身の打ち立てた覚悟が跡形もなく崩壊してしまうのを恐れているため。
アリア→主人公と第三章ヒロインとの狭間であんまり目立たなかった感のあるメインヒロイン。今はきっと雌伏の時。ちなみに。描写こそないが、この第66話で4つものももまんを食している。 
理子→紆余曲折こそあれ、どうにか強襲科Sランク武偵の協力者を二人ゲットできたビビり少女。一般に流通しているモノからプレミア価格がついているモノまで幅広くグッズを収集しているぐらいにはガ●ダム好き。

理子「――計画通り(キリッ)」

 というわけで、66話終了です。果たして何人の人が厨二病喫茶で会話していた人たちの元ネタに気づいたことでしょうね。とりあえず、『賢人会議』と『世界再生機構』で元ネタに思い至った人とは個人的に割と本気で友達になれる気がしますよ。ええ。

 それはともかく、りこりんの発言により金一さんの趣向が明らかに! ここまで来たらもう大体性格は予想できることでしょうね、金一さんに関しては。ましてや、カナバージョンの性格がアレだからもう救いようがないですね、うん。


 ~おまけ(とある日の兄弟の日常茶飯事)~

 自宅にて。

金一「レオぽんが一匹、レオぽんが二匹、レオぽんが三匹……ふふふふふッ。わーい、レオぽんがいっぱーいだぁー♪(←喜色満面でレオぽんのぬいぐるみの山にダイブする見目麗しい青年)」
キンジ「……(何この光景。兄さん可愛い。超可愛い)」
金一「――ッ!? な、何だ。帰って来ていたのか、キンジ(←平静を装いつつ)」
キンジ「あ、うん、ただいま(←不自然な返答にならないように努めつつ)」
金一「あぁ。おかえり、キンジ……その(←言いよどむ金一)」
キンジ「?」
金一「今の、もしかして聞こえてたか?(←恐る恐る)」
キンジ「今のって……何か言ってたの、兄さん?(←すっとぼけ)」
金一「ッ! そうか! ならいいんだ! 変なこと聞いて悪かったな!(←ホッとした風に)」
キンジ「(今の兄さん、色んな意味で凄かったな。さっきのはしっかり脳内フォルダに保管しておかないと。あぁ、写真撮ってればよかったなぁ……)」

 ダメだこいつら、早く何とかしないと。

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