【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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キンジ「泣きっ面に蜂、か……」

 どうも、ふぁもにかです。連載大幅に遅れてすみません。でもって、文字数少なくてすみません。いや、ちゃんと理由はあるんですよ? リアルの方が忙しくなってきたのもあるんですけど、ついうっかり『俺ガイル』と出会ってしまったのが一番の原因です。あの小説、全体的な話がすっごく重いのになぜか妙に引き込まれちゃうんですよねぇ。読んでいく内に心がキリキリ締めつけられて苦しくなるのにそれでも読むのが止められなくなる中毒小説なんて初めて読んだでござるよ……なぁ八幡、お前いい加減幸せになってくれよ、頼むから。

P.S.この度、熱血キンジと冷静アリアの感想数がついに300の大台を突破しました! たくさんの感想ホントにありがとうございます! イェイ!




62.熱血キンジと絶滅危惧種

 

「はぁ、疲れた。今日はいつになく疲れた……」

 

 放課後。ようやく中空知から解放されたキンジは一度教室に寄った後、帰路についていた。ため息を吐きつつ吐き出された言葉のどんより加減からも、今のキンジが相当疲れていることが容易にわかる。

 

 日々遥か高みへと到達するために特訓を重ねているキンジが疲弊するのも無理もない。中空知の手によって尋問科(ダギュラ)へと連行されたキンジはその後、焼き土下座についてのあらゆる情報を洗いざらい吐かされることとなったのだ。焼き土下座の概要や理念、焼き土下座執行における時間の目安、鉄板の温度の目安などなど、それはもう事細かに暴露させられたのだ。その際、中空知が取った手法についてはキンジの精神的安寧のためにここでは伏せることとする。

 

(中空知さんとまともに話したのは今日が初めてだったけど……あそこまで怖いとは思わなかったぞ、さすがに)

 

 中空知の顔を脳裏に思い浮かべたキンジは思わずブルリと体を震わせる。別れ際の中空知さんの爛々と輝く瞳が忘れられない。死神のごとき笑みが忘れられない。「『謝罪の意があるならば、例え焼けた鉄板の上でも土下座できるはず』かぁ。そうそう、こういう思想の元に生まれた拷問方法ってホントにそそるよねぇ……」という愉悦混じりの発言が忘れられない。このままではついうっかり夢に出てきそうだ。

 

(悪いな、未来の犯罪者諸君。俺は無力だ。お前たちに何もしてやれない。だから……ホント、強く生きてくれ)

 

 キンジは死んだ魚のような瞳でのろのろと歩みを進める。その際、キンジはとりあえず近い将来中空知監修の元で焼き土下座式の尋問を受けることとなるであろう犯罪者たちの冥福を祈ることにした。ドS極まりない中空知に焼き土下座の知識を与えてしまったことに一抹の罪悪感を抱いてしまったが故の行動である。

 

 とにかく今日はもう何も考えたくない。寮に帰ってぐっすり眠りたい。キンジは己の欲求に従って男子寮への最短ルートを歩んでいく。しかし。キンジを取り巻く環境は決してキンジに休息を許さなかった。

 

「――で、お前は何の用だ? ……って、聞くまでもないだろうけどな」

 

 ふと背後から微かに見知った人物の気配を感じたキンジは独り言にしては大きめな声で虚空に向けて問いかける。姿を現す気配が感じられなかったので、キンジは後ろを振り向き数メートル先の電柱を凝視する。すると、その電柱の陰からスッと緑髪の少女――レキ――が現れた。

 

「よく私の気配に気づきましたね。今回はかなり本気で気配を消したつもりだったのですが……さすがは私の永遠のライバル、キンジさんです」

「まぁ、気配に関してはほとんど感じなかったな。けど、殺気は全然抑えきれてなかったからすぐにわかったぞ」

「ふむ、なるほど。私としてはかなり抑えた方だと思ったのですが……まだまだ改善の余地がありそうですね」

 

 レキは相変わらずの無表情で視線を下に落とすと、ふぅと息を吐く。その隙をついてさり気なくレキの視界から離脱しようとしたキンジだったが、キンジが行動に移す前にキンジを逃すまいとレキが顔を上げたためにレキからの逃亡は叶わなかった。

 

「ま、とにかくまずはその辺の特訓から始めてから出直してこいよ、レキ。俺との模擬戦はその後ってことで――」

「いえ。せっかくこうして出会ったことですし、今から早速始めましょう。それに。殺気を抑える特訓はいつでもどこでもできますが、キンジさんとの戦闘はいつでもできるモノではありませんので。――さあ。互いに死力を尽くして戦いましょう」

 

 レキは背後のドラグノフに銃剣を取りつけつつ、キンジに容赦なく殺気をぶつける。能面のような表情とは裏腹に、レキの琥珀色の瞳はこれからの戦いが楽しみ楽しみで仕方がないと言わんばかりにうずうずしている。目は口程に物を言うとは言うが、ここまで雄弁に語っている辺りはさすがのRBR(ロボットバトルジャンキーレキ)クオリティである。

 

(戦うしかないのか……)

 

 キンジは底知れぬ殺気を放ち続けるレキを前にゴクリと唾を呑む。今のキンジの体調は半日もの間中空知の相手をしていた影響で万全の状態とはとても言えない。しかし、それをレキに伝えた所でレキは決してキンジを逃がしはしないだろう。己の欲求の為すがままにキンジとの戦いを望むのみだろう。

 

 今回は防弾&防刃加工の為された制服を着てる分、前よりはマシだな。内心でそう思いつつ、キンジはレキを見据えて拳銃を取り出す。すると。レキはいい目ですねと言わんばかりにスゥと目を細める。両者の間で静かに鋭い視線が交錯する。シンと冷え切った空間内で緊張感だけが徐々に競り上がってくるのをキンジは感じた。二人の衝突はもはや時間の問題だった。

 

(――今ッ!)

 

 タイミングを見計らったキンジは自ら能動的にレキへと駆ける。それから一拍遅れてレキも前方へ駆ける。どうやらキンジもレキも接近戦で勝負を決める心積もりのようだ。

 

「「ッ!?」」

 

 しかし。互いに距離を縮めていた二人はなぜか踏み出した足で地を強く踏みつけると、そのままバックステップを取った。刹那。二人がそのまま前に進んでいたならば衝突していたであろう場所に上空から衝撃が襲った。よほど強力な衝撃だったのか、地面は上下に激しく揺れ、衝撃の中心地からは粉砕されたコンクリート片による煙幕が形成される。

 

 揺れが収まり、煙が晴れると、そこにキンジとレキとの間に割って入る形で二人の戦闘を妨害した命知らずの闖入者の姿があった。銀色の体毛。100キロは超えていそうな巨体。荒々しさ全開のオーラ。それらの特徴を兼ね備えた一匹の成獣が異様な雰囲気を伴ってその場に存在していた。

 

「ん?」

「なッ!?」

 

 レキが興味ありげに『それ』に視線を注ぐのをよそにキンジは驚愕の声を上げる。キンジは眼前の動物を知っている。ふとしたきっかけで眺めた動物図鑑でその姿を見たことがあるのだ。

 

 コーカサスハクギンオオカミ。確か絶滅危惧種に認定されている動物だ。少なくとも都会のコンクリート街では絶対に出くわすことのない動物のはずだ。というか、こんな街中で絶対に出くわしてはならない類いの動物だ。

 

 直前までこのオオカミの気配を察知できなかったことから鑑みるに、おそらく高い建物から飛び降りてきただろう。オオカミの真下のコンクリートに円状に大きく亀裂が入っていることからも、上空からオオカミが襲ってきたことが伺える。もしもとっさの判断で後退していなかったらと思うとゾッとする。

 

「グァァァァアアアアアアウッ!」

 

 と、煙が晴れたことで標的を視認できたオオカミは地を震わすような唸り声とともにレキに狙いを定めて飛びかかる。男の俺と女のレキ。レキの方が弱いと判断したが故の選択か。

 

(なんで動こうとしないんだよ、あいつ!?)

「レキッ!」

 

 攻撃を仕掛けようと迫るオオカミを前に微塵も動こうとしないレキに対してキンジは声を張り上げ、同時にオオカミに発砲する。しかし、オオカミはキンジの銃弾をあらかじめ予期していたかのように華麗にかわしてみせるとそのままレキに鋭い爪を振り下ろす。

 

 と、その時。レキはスッと自然体で歩を進める。まるで眼前の猛獣のことなど目に見えていないかのように。そうして前方へ動くという、普通に考えたら命知らず極まりない行動に打って出たレキ。だが。レキはあたかもオオカミの体をすり抜けるようにしてオオカミの攻撃を避けると、当然のようにオオカミの背後を取った。

 

(な、何だ今の……!?)

 

 レキの取った回避方法にキンジが思わず目を見開く中、レキは振り向きざまに両手に持ったドラグノフで発砲する。不安定な体位のまま射出したためか、レキは発砲の反動で数歩後ずさるもその瞳は勝利への確信に満ちていた。

 

 決まった。キンジとレキは心の中で同じことを呟いた。突如として目の前からレキが消えたことに困惑しているだろうオオカミに背後から自身の元へと迫る凶弾に気づく術はないと考えたからだ。だが。二人の推測とは裏腹に、レキの放った銃弾をすんでの所で察知したらしいオオカミは間一髪、身をひるがえす形で避ける。それからオオカミはこれ以上この場で戦うことは得策ではないと判断したのか、キンジとレキに背を向ける。そして。オオカミは力強く地を蹴って迅速な戦略的撤退を開始した。

 

「……」

 

 オオカミの奇襲未遂を経てその場に静けさが戻る中、あまりに非現実的な光景を見ることとなったキンジは思わず呆然と立ち尽くす。オオカミの圧倒的な存在感を思い浮かべて、まるで夢でも見ていたみたいだとの感想を抱く。

 

「―――さ―」

「……」

「――キンジさん。聞いていますか?」

「ッ! 悪い、レキ。聞いてなかった。もう一度頼む」

「わかりました。一時休戦です、キンジさん。あのオオカミを追いましょう。アレが野に放たれたままというのは色々とマズいです」

「あぁ、そうだな。見失わない内に追うぞ。どっちに行ったかわかるか?」

「はい、風が教えてくれますので。私についてきてください」

 

 レキはドラグノフを背中に担ぎ直すとキンジの返事を待たずにすぐさま走り出す。まさに疾風のように駆けていくレキの後をキンジも追随する。何気にバトルジャンキーたるレキから逃れられる千載一遇のチャンスだったのだが、あの巨躯のオオカミをレキ一人に任せて退散することはキンジのプライドが許さなかったのだ。

 

 キンジはレキの後を追う。なんでこんな街中にオオカミが出没したのか、なんでわざわざ俺とレキを標的として襲ってきたのかといった疑問に内心で首を傾げつつ。ひとまずレキと戦わずに済んで良かったと内心でホッと安堵のため息を零しつつ。そして。平坦な口調で「私についてきてください」と言ったレキの瞳が、あたかも大好きなおもちゃを見つけた幼子のようにキラキラと輝いていたことに言いようもない違和感を抱きつつ。

 




キンジ→中空知さんの相手をしたことで精神的に疲弊している熱血キャラ。オオカミの纏う雰囲気に圧倒されている。
レキ→結構久しぶりに本編に登場したポーカーフェイスなバトルジャンキー。それなりにオオカミに興味を持っている模様。

 というわけで、今回は原作にてレキの相棒としてそれなりの活躍をしてくれることに定評のあるハイマキさんの登場回です。もちろん、ハイマキさんも魔改造の対象となっているのである程度は強化されております。動物だからって仲間外れになんてしてやりませんよ。ええ。


 ~おまけ(逃げたオオカミを追っている間の一幕)~

キンジ「それにしても……さっきのアレ、凄かったな」
レキ「? 何のことですか?」
キンジ「ほら、オオカミの攻撃をかわした時のヤツだよ。まるでオオカミをすり抜けたみたいだったぞ。アレどうやったんだ?」
レキ「あぁ、アレですか。あれは流水制空圏と呼ばれるものですよ」
キンジ「流水制空圏?」
レキ「はい。体の表面薄皮1枚分に強く濃く気を張った上で、相手の動きを流れで読み取り攻撃の軌道を予測し、そして最小限の動きであらゆる攻撃をかわす技です。とある少年漫画で描かれていた絶技なだけあってコツを掴むのに非常に苦労しましたが、ここ最近ようやく習得することができました(←キリッとした瞳で)」
キンジ「えぇぇ……(何その軽く人間止めちゃってる技。今でも十分ヤバいのにこれ以上強くなったら……とてもレキに勝てる気しないな、うん)」

 レキさんの魔改造具合が凄すぎてキンジくんの命がマッハでヤバい。


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