【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は久々の1話丸々戦闘シーンの回だったので、いつになくハイテンションで楽しく執筆できました。にしても、戦闘回のはずなのに肝心の内容が地の文ばっかりという……うん、どうしてこうなった!?

 でもって。今回は文字数が想定よりもはるかに多くなりそうだったので(具体的には1万字超える可能性が出てきたので)ジャンヌちゃんとの戦闘シーンを前後編に分けることにしました。後編の方は、まぁ……近い内に投稿します。ハイ。




53.熱血キンジと燃える銀氷

 

「ハァァアアアアア!」

「おおおおおおおお!」

 

 地下倉庫にて。星伽白雪とジャンヌ・ダルク30世との超能力者(ステルス)同士の戦いが始まってから3分。二人の戦いは苛烈を極めていた。その凄まじさは二人がそれぞれの得物をぶつける度に空気を伝って円状に波及する衝撃の強さや周囲の状況を見てみればすぐにわかる。

 

 まず二人がそれぞれの得物を使って戦う中で何度か斬撃を受けた床は氷が覆っているにもかかわらず、それはもうボロボロになっている。これ以上何かの拍子にダメージを受けるようなことがあれば、もれなく床は崩壊し、足場を失った二人が今現在海水で満たされているであろう地下7階へと落ちてしまうことは想像に難くない。

 

 次に。二人の戦いに巻き込まれ、文字通りガラクタとなってしまった憐れなコンピュータ群。元々頑丈な作りとなっている上にジャンヌの超能力(ステルス)で氷漬けにされた影響で刀や剣で早々斬れるはずがないにもかかわらず、白雪とジャンヌはまるでバターを切るかのようにコンピュータを切断していく。しかも、その所業は二人がそれぞれ相手を攻撃するついでで為されている。もしもこの場に情報科(インフォルマ)通信科(コネクト)の人がいれば、眼前の惨状に思わず現実逃避に走っていたことだろう。

 

 さて。そんな軽く人間離れした壮絶な戦いを繰り広げている二人だが、戦況はジャンヌ優勢で動いている。少なくとも、キンジの目にはそう映った。

 

「ユッキーさんの方が劣勢みたいですね」

「やっぱりそう見えるか、アリア?」

「はい。大丈夫でしょうか、ユッキーさん……」

 

 白雪の色金殺女(イロカネアヤメ)を覆う炎とジャンヌの聖剣:デュナミス・ライド・アフェンボロス・テーゼリオス・クライダ・ヴォルテール(※以下、デュランダル)を覆う氷とが衝突の度に周囲を明るく照らす中。二人の戦いにうっかり巻き込まれないように留意しつつ、戦いを見守っていたキンジとアリアは心配そうな眼差しを白雪に向ける。

 

 少し前。ユッキーが俺たちと一緒に戦う意思を示した時。魔剣と戦うにあたって、俺たちは即席の作戦を打ち出していた。それはまず超能力者(ステルス)の魔剣を同じく超能力者(ステルス)たるユッキーと衝突させることで魔剣を消耗させて、それからユッキーの精神力が切れて超能力(ステルス)を使えなくなったタイミングでユッキーには戦闘から離脱してもらい、あとは俺とアリアで弱った魔剣を倒して逮捕するというものだ。作戦と銘打つにはかなり大雑把でテキトーな気がするが、そこは気分の問題だ。

 

 もちろん、俺とアリアがユッキーと選手交代する前にユッキーが上手く魔剣に勝利できればそれでいいし、何もユッキーが自身の精神力を使い切るまで無理して魔剣の相手をする必要はない。俺とアリアが魔剣を相手取っている最中であっても、ある程度体力が回復したのならユッキーが途中参戦してきてもいい。超能力(ステルス)なしの戦闘であってもユッキーは十分戦力になるのだから。

 

 とにかく。今回の作戦はジャンヌと俺たちとの間にそれほど実力の差がないことを前提とした、ある意味楽観的な思考の元で作られた即興の作戦なのだ。

 

 

 ――だが。今現在、魔剣ことジャンヌ・ダルク30世相手にユッキーは押されてる。一目見ただけでは互角のように見えるが、その実ユッキーは苦戦を強いられている。

 

 ユッキーはジャンヌのことを圧倒的な強さを持たないという意味で『緻密な強さ』と表現していた。しかし。今こうして眼前で縦横無尽に剣撃を繰り出すジャンヌからはとても緻密さなんて感じられない。むしろ荒々しいといった言葉が似合うぐらいだし、それにおかしい部分もある。

 

 ジャンヌの攻撃はその一つ一つのスピードに差が激しい。ある時は素人の素振りにも満たない、見てからでも余裕で避けられる速度で剣を振るったかと思えば、今度はやけに超人的な速度でユッキーに斬りかかってくる。またある時はユッキーの腰の位置くらいまで剣を勢いよく振り下ろした所で急激な方向転換とともに剣を横薙ぎに払ってユッキーの横腹をかっさばこうとしてくるし、とかく通常ではあり得ない方法での攻撃を平然とやってのけるのだ。

 

 そのため、ユッキーはジャンヌの攻撃のタイミングを上手く読むことができず、優位に立てずにいる。「これならどうだ!? 氷葬蓮華(メビウス☆ダンス)!」などと技名を叫びながら、踊るように氷を纏った剣撃を連続して放つジャンヌを前にうかつに攻めに転じることができず、追い詰められている。それに加えて、いつジャンヌに予想外の攻撃をされるかわからないことが作戦立案当初に想定した以上にユッキーを心身ともに疲弊させているようだ。

 

 直線的な動きの時だけ剣を振るうスピードをやたら速めたり、遅くしたり。ジャンヌ・ダルク30世が緩急をつけた攻撃を得意としていると考えればそれまでなのだが、どうしてもあの奇怪な動きのカラクリがジャンヌの体から自然と為されているものとは思えない。ジャンヌのどこかカクカクとした機械的な動きは、まるでどこか別の場所にいる第三者に一時的に自身の体の主導権を譲って、糸か何かで操ってもらってるみたいだ。

 

(やっぱりおかしいぞ、これ……いくらなんでもあの動きは常軌を逸してる。一体、何がどうなってんだ?)

「ほらほらどうした!? この程度か!? もう精神力を使い果たしたか!? あれだけ啖呵を切っておいて情けないな、星伽ノ浜白雪奈ッ!」

「く、ぅ――」

 

 キンジがジャンヌの不可解な戦い方に頭を悩ませている間にも、戦況はジャンヌ優位のまま進んでいく。ジャンヌは己の力量を見せつけるようにして片手で軽々と剣を振り回し、その重量をもって白雪に猛攻してくる。ここまでの戦闘で既に息の荒い白雪は防ぐだけで精一杯なのか、苦しげな表情を浮かべている。と、白雪はジャンヌの攻撃の止んだ一瞬の隙をつく形で休憩を切に求める体にムチを打って攻撃に打って出る。攻撃が最大の防御であることを心得ているが故の行動だ。

 

「ハァッ!」

 

 白雪は一歩前進してジャンヌの体を自身の刀の届く範囲内に入れると、気合いの声を上げて頭上に掲げた刀を振り下ろす。それはこれまでに周囲に立ち並ぶコンピュータ群を何度も真っ二つにしてきた強力な一閃である。ゆえに。人間が生身で喰らえばまず死は免れない。にもかかわらず、ジャンヌは棒立ちで白雪の刀を見つめたまま微塵もかわそうとしなかった。

 

「ッ!?」

 

 このままじゃジャンヌを斬り殺してしまう。白雪はとっさに刀の軌道を逸らしてジャンヌに刀が当たらないようにする。白雪渾身の一撃をその身に受けた床にビシリとヒビが入る中。白雪が無理に刀の軌道をズラした際に生じた隙を逃すまいと、ジャンヌは剣を真横に振るう。体勢が体勢だったために回避が間に合わず、横腹にジャンヌの峰打ちを喰らった白雪は声にならない悲鳴とともに真横に吹っ飛ばされていった。

 

「餞別だ。くれてやる! ほとばしる三角柱(ピアシング☆デルタ)!」

「ッ! 緋火星鶴幕(ひひほかくまく)!」

 

 ジャンヌはクルリと宙で回転して危なげなく着地した白雪に追い打ちをかけるようにビュッと凍気を纏った三本の銃剣を放つ。鉛玉のように空気を切り裂いて白雪の元へと飛翔する銃剣三本。白雪は苦悶の表情を浮かべつつも、右の白小袖を振るって五羽の折り鶴を飛ばして炎を纏わせ、銃剣と接触させる。

 

 空中で火の鳥に化けた折り鶴たちはそれぞれ銃剣三本とぶつかり、次々と爆発していく。結果。爆発の影響でその場に煙が発生したことで、双方ともに攻撃を仕掛けない膠着状態が生まれた。

 

「……クククッ。甘いな、貴様は。どこまでも甘い。我にトラウマを植え付けると豪語しておきながら、我に決して刀傷を負わせようとしない。あくまで我の聖剣:デュナミス・ライド・アフェンボロス・テーゼリオス・クライダ・ヴォルテールを折ろうとするか、峰打ちだけで勝負を決めようとする」

「……ハァ、ハァ……」

「手加減は絶対強者にのみ許された特権だ。それを貴様ごときが行使しようとは、愚かだな。だから貴様は今こうして我に追い詰められているのだ。全く、峰打ち戦法はまだしも、貴様の刀ごときに我が聖剣が断ち切られることなど、万が一にもないというのに」

 

 視界を遮断する煙が徐々に晴れゆく中、キンジたちの視線の先にしみじみと剣を見つめて話すジャンヌのシルエットが映る。どうやらジャンヌはあの聖剣デュナミス何たらに並々ならぬ思い入れがあるようだ。

 

「……そんなの、やってみないと、わからないじゃん」

「無理だな。我が聖剣に斬れぬものはない。まして、折れることなど例え天地がひっくり返ろうともあり得ない。火を見るよりも明らかな、自明の理だ」

 

 白雪は煙が晴れて戦闘が再開される前にハァハァと肩で呼吸して荒い息をどうにか整えようとする。ジャンヌと会話を続ける形で少しでも体力回復ための時間稼ぎを試みる。だが、白雪の思惑をジャンヌがむざむざ見過ごすことはなかった。ジャンヌは自身の愛用する剣が折れる可能性をキッパリと否定すると、「さて。無駄話はここまでだ」と白雪の元へと駆ける。

 

「これで終わりだ。しばらく眠っていろ、星伽ノ浜白雪奈。あとで回収させてもらうのでな」

「わッ!?」

 

 煙が薄くなったことで大体の白雪の位置を把握したジャンヌは白雪へと一気に接敵すると、手に持った剣で上段からの一撃を放つ。重力を多大に利用した振り下ろしを白雪は横っ飛びでどうにか避ける。あとほんの少しでも反応が遅ければ、今頃白雪は確実にジャンヌの剣の餌食になっていたことだろう。

 

(ん~……そろそろ頃合いかな? これ以上は、ちょっと厳しいしね。下手に大怪我負っちゃってデットエンドコースはゴメンだし……ここらでチェンジしてもらおう。うん、そうしよう)

「行くよ、キンちゃん! アーちゃん!」

「む? 何を企んでいる?」

 

 白雪はキンジとアリアに合図を送ると、一直線にジャンヌへと突撃を決行する。それと同時に今まで白雪とジャンヌとの戦いを観戦していただけのキンジとアリアが行動を開始した様を視界の端で捉えたジャンヌは疑問に眉を潜めつつ、白雪の逆袈裟を剣で難なく受け止める。

 

「えへへ~♪ ナ・イ・ショ♪」

(あとは任せたからね。キンちゃん、アーちゃん)

 

 ジャンヌとの鍔迫り合い。白雪にとっての理想的な状況に持ちこめたことに白雪はニコーリと笑う。それはまるで何の変哲もない壺を高額で売りつけようとする悪徳詐欺師のような笑みだった。白雪は詐欺師の微笑みのままウインクをすると、巫女装束の裾からジャンヌの目の前へと黒くて丸い物体をポイッと放り投げる。

 

「なッ!?」

(スタングレネードだとォ!?)

 

 ゆっくりと放物線を描いて自身の元へと飛来してくる黒くて丸い物体。ジャンヌがその正体に気づいた刹那、目を焦がさんばかりの閃光と爆音が地下倉庫に炸裂した。

 




キンジ→傍観者Aな熱血キャラ。
アリア→傍観者Bな子。さすがにももまんを食べながら観戦する気はない模様。
白雪→せっかく覚☆醒したのに縦横無尽な活躍ができていない怠惰巫女。なぜスタングレネードを持っていたかについては次回で説明する予定。
ジャンヌ→ある程度魔改造が施されている厨二病患者。原作同様、聖剣デュランダルに絶対の自信を寄せている。技名叫びながら攻撃しないと死んじゃう病の患者でもある。

 うん。ということで、ユッキー無双回と見せかけたジャンヌちゃんTUEEEEEEEEEE!!!回が終了しました。……何だか思った以上に魔改造が為されてしまったジャンヌちゃん。果たしてキンジくん一行は彼女に打ち勝つことができるのか!?(キリッ 


 ~おまけ(その1:ジャンヌの使った技説明)~

・氷葬蓮華(メビウス☆ダンス)
→踊るように氷を纏った剣撃を連続して放つ技。その華麗さは見る者に蝶の舞いを錯覚させる、こともある。『蝶のように舞い、狂戦士(バーサーカー)のように斬り殺す』がコンセプト。状況に応じて3連撃、7連撃、10連撃、16連撃と剣を振るう回数を変更することができるため、中々に汎用性に優れている。


 ~おまけ(その2:もしもジャンヌちゃんとユッキーがチート染みた実力の持ち主だったら)~

白雪「火炎中枢(アトミックブラスト)!」
ジャンヌ「こおるせかい!」
白雪「炎熱劇場(ラジカルクーデター)!」
ジャンヌ「ぜったいれいど!」
白雪「超重炎皇斬!」
ジャンヌ「エターナルコフィン!」
白雪「紅蓮爆炎刃!」
ジャンヌ「絶対氷結(アイスドシェル)!」
白雪「獅子王炎陣大爆破!」
ジャンヌ「顕現せよ。氷の精霊、セルシウス!」
白雪「哀炎気炎!」
ジャンヌ「エターナルフォースブリザードッ!」
白雪「爆炎波動ッ!」

キンジ&アリア「「……(←呆然とした表情で戦う二人を見つめるSランク武偵コンビ)」」
キンジ「……アリア」
アリア「……はい」
キンジ「逃げるぞ。ここにいたら命がいくつあっても足りない」
アリア「……ですね。ここはもう持ちそうになさそうですしね」

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