【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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キンジ「見稽古、だと……!?」

 どうも、ふぁもにかです。この『熱血キンジと冷静アリア』もついに50話突破しました! 50話ですよ、50話! 何てキリがよくて気持ちのいい話数なんでしょうか!? ヒャッホーイ!ヾ(* ̄▽ ̄)ノ



50.熱血キンジと集う役者

 

「喰らえッ! ほとばしる閃光(ピアシング☆スロー)!」

 

 東京武偵高の地下倉庫最下層にて。手足を床ごと凍らされ、四つん這いの状態のまま身動きのとれないキンジに魔剣によって投擲された銃剣が襲いかかる。氷に動きを封じられたキンジはそれをかわすこともバタフライナイフで弾くこともかなわない。結果、ガンという鈍い音とともにキンジの頭が弾かれたように後ろにのけぞった。

 

「ウ、ウソ……キンちゃん? キンちゃん!?」

「フン。呆気ないものだな、遠山麓公キンジルバーナード。いくら強襲科(アサルト)Sランク武偵といえど所詮は平和ボケ国家の住人。我の障害にもなりえなかったか。二人掛かりとはいえリコリーヌ・ヴィ・ガルランディア・ロゴス・ゼルベスドール・ウィルフィン・アークスウィッドを倒すだけの実力を備えているようだから少しは期待していたのだが、この程度で死ぬとは……実に残念だ」

 

 魔剣とキンジとの戦闘の一部始終を見ていた白雪は思わず呆然と立ち尽くすも、徐々に現状を認識できてきたのか、悲鳴に近い声を上げる。一方の魔剣はついさっき落とした銃剣を拾いながらつまらなそうに息を吐く。そして。魔剣は当初の予定通り白雪をイ・ウーへと連れていこうと彼女の手を掴んで引っ張ろうとする。――刹那。地下倉庫にカランと乾いた音が響いた。

 

「なに勝手に俺が死んだって決めつけてんだよ、二人とも」

「……は?」

「……え?」

 

 本来なら聞こえるはずのない声を聞いた魔剣と白雪は自分の耳を疑った。二人がギギギとブリキ人形のごとくぎこちなく体を動かして視線をキンジの方へ向けると、その先に相変わらず手足を凍らされた状況下にありながら全く無傷の遠山キンジがいた。

 

「キンちゃんッ!」

「バカな!? あの状況下で、どうやって……!?」

「歯で噛んで止めた。それだけだ」

 

 キンジが生きている。その事実を前に白雪は大輪の花のような希望に満ちた笑みを浮かべる。その傍ら。キリッとしたレオぽんの仮面の裏で驚愕の色を顕わにする魔剣に向けてキンジはさも当然のように言い放つと、自身の傍に転がる一本の銃剣を顎で示す。ちなみに。さっき響いたカランという音はキンジが噛んで止めた銃剣を床に落とした際に床の氷と接触した音だったりする。

 

「なッ!? 歯で食い止めた、だとォ!? そんなバカげたことができるわけ――」

「何言ってんだよ、魔剣。俺は世界最強の武偵を目指してんだぞ? たかが迫りくる銃剣一本、歯で食い止められなくてどうする。銃弾噛み(バイツ)の銃剣バージョン、舐めるなよ」

「おおお! さっすが、キンちゃん! すごーい!」

「ちょっと待てええええええ!? 何だ、そのふざけた理屈はッ!? そんな精神論ごときに我のほとばしる閃光(ピアシング☆スロー)が破られたというのかぁぁぁあああああああ!?」

 

 キンジはひとまず魔剣に精神的な揺さぶりを掛けるためにテキトーなことを言ってみる。得意げに口角をニィと吊り上げることも忘れない。そうしてキンジが口にした言葉に白雪は万歳の体勢とともに純粋に称賛の声を上げ、魔剣は頭を抱えて動揺に満ちた声を上げた。

 

(さて、魔剣の正体は女みたいだな)

 

 キンジは先までのどこか違和感を感じるものとは全く異なる声色で驚愕を顕わにする魔剣を前に眉を潜める。魔剣の狼狽が巧みな演技でないのなら、おそらくこれが魔剣の素の声なのだろう。その声色の高さから、魔剣の正体が女性、それもキンジや白雪と同年代の少女である可能性が濃厚となった。

 

(となると、ヒステリアモードを使うわけにはいかないな……)

「――ハッ!? しまった。銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)たるこの我が危うく冷静さを失ってしまう所だった」

 

 軽く錯乱していた状態からすぐさま我を取り戻した魔剣は「今度こそ死ぬがいい、遠山麓公キンジルバーナード。貫け、ほとばしる三角柱(ピアシング☆デルタ)!」と、元の違和感の感じる声とともにさらに三本もの銃剣を一気に投擲してくる。さすがのキンジでも三本の銃剣を全て噛んで受け止めるなんてことはできない。ましてや一本一本を微妙にタイミングをズラして投げられたら尚更だ。

 

(うッ!? これはマジでヤバいぞ!?)

 

 飛来してくる銃剣を前にキンジが本格的に命の危険を感じた、まさにその時。キンジに向けて放たれた銃剣三本は突如響いた複数の銃声とともに全てあらぬ方向へと弾き飛ばされていった。その内、弾かれた二本の銃剣はさらに響いた銃声とともにまた軌道を変えてキンジの身動きを封じる氷を割るようにして突き刺さり、もう一本の銃剣は直後に轟いた銃声とともに方向を変えて魔剣の顔面目がけて飛んでいった。

 

「なぁッ!?」

 

 自分の想定をはるかに凌駕する光景に驚愕しつつ、それでも魔剣は瞬時に顔を横にズラして自分の投げた銃剣が顔に突き刺さる形で致命傷を負うことをどうにか避ける。

 

「――先手必勝です!」

「ッ!?」

 

 何がどうしてこうなった。キンジも白雪も魔剣も状況を正確に把握できずにただただ硬直していると、スッと魔剣の背後から一つの人影が躍り出る。それは両手にそれぞれ装備した小太刀二本を使って魔剣へと上段からX斬りを放つアリアの姿だった。

 

 魔剣は間一髪といった所で身を翻しアリアの斬撃を避ける。一方。魔剣に斬撃を負わせ損ねたアリアは体操選手を彷彿とさせるアクロバットな動きで即座に魔剣から距離を取り、スタッとキンジの隣に立った。刹那、この時を待っていたと言わんばかりに天井の照明が次々と純白の光を灯していく。

 

「ハァ。今の不意打ちで少しでも手傷を負わせておきたかったのですが……さすがは魔剣。やはり一筋縄ではいきませんか」

「アリア!?」

「アーちゃん!?」

「貴様!?」

「どうやらギリギリ間に合ったみたいですね。良かったです。急いだ甲斐がありました。というか、こんな罠にかかるなんてキンジらしくないと思うのですが……」

「悪かったな、らしくなくて。ちょっと頭に血ぃ上ってたかもしれないな。でも助かったよ。ありがとう、アリア」

「こちらこそ。メールありがとうございました、キンジ。おかげでここにたどり着くことができました」

 

 アリアが魔剣の投げた銃剣を利用してキンジを床に縫い止める氷を砕いてくれたおかげで四肢の自由を取り戻せたキンジは、両手を握っては開いてと繰り返して両手の握力を確認しつつ立ち上がる。

 

「大丈夫ですか?」

「あぁ、問題なさそうだ。ま、俺の手足が直接凍らされたわけじゃないし、当然か」

 

 魔剣から視線を放さないように留意しながらもキンジをチラリと横目で見やるアリアにキンジはバタフライナイフを構えて返答する。ホッと息を漏らすアリアをよそにキンジは脳裏に先の銃剣三本の変則軌道を思い浮かべつつ、アリアに問いを投げかける。

 

「なぁ、アリア。さっき銃剣の軌道を銃弾で変えてたけど、あれって銃弾撃ち(ビリヤード)だよな? アリアも使えたのか?」

「ん? あの技は銃弾撃ち(ビリヤード)と言うのですか? ……なるほど、確かに言い得て妙ですね」

「え? 知らなかったのか?」

「はい。ついこの前の峰さんとの戦いでキンジが銃弾撃ち(ビリヤード)を使っていたのを思い出して、これなら私でもできるんじゃないかと感じたのでちょっと見よう見まねで試してみただけですし」

「……へ? 見よう見まね?」

「それにしても、実際に使ってみて思ったのですが……銃弾撃ち(ビリヤード)ってかなり便利な技ですね。使い方次第では色々と応用も効きそうですし、これからはしっかりと練習して物にしたいですね」

 

 アリアが何の気なしに口にした言葉にキンジは驚愕に固まる。対するアリアはぶつぶつと呟きつつ思案顔でうんうんとうなずく。おそらく今のアリアの脳内ではあらゆる場面で銃弾撃ち(ビリヤード)を駆使する自分の姿が思い描かれていることだろう。

 

「は!? ちょっ!? じゃあお前、ぶっつけ本番で銃弾撃ち(ビリヤード)やったのかよ!? いくらなんでも無茶が過ぎるだろ!? ここ地下倉庫だぞ、わかってるのか!?」

「そんなの百も承知ですよ。でも、こう見えて私って結構本番に強いタイプですし、だったら出たとこ勝負で大丈夫だろうと思いまして」

「おいおい……」

 

 キンジはアリアの主張に思わず天を仰ぐ。下手したら放った弾丸が火薬&爆薬の誘爆を引き起こして大爆発を起こすかもしれない状況下で一度も使ったことのない技をぶっつけ本番で使って最良の結果を残してみせる辺り、ランクなどでは測れないアリアの凄さ(デタラメさ)がわかるというものだ。

 

(いや、そのアリアの無茶に救われた俺にアリアを責める権利がないことぐらいわかってる。わかってるけどさぁ……)

「まぁ、その辺の話は置いておきましょう。今は魔剣の確保が最優先です。――魔剣! 貴女を未成年者略取未遂の容疑で逮捕します!」

 

 アリアはキンジとの会話を終わらせるとチキと小太刀を握り直して魔剣に向け、高らかに魔剣逮捕を宣言する。その後にアリアが据わった真紅の瞳と低い声色で「尤も、その前に私を散々コケにしてくれたお礼をしなければいけませんがね」と言ったことから、アリアが花火大会の時に魔剣に出し抜かれたという事実に鬱憤を募らせていたことは想像に難くない。

 

「クククッ。全く、末恐ろしいな。神崎ヶ原・H・アリアドゥーネ。ホームズの血を継ぐだけのことは――」

「私は神崎ヶ原何たらではありません。神崎・H・アリアです」

「ククッ、貴様も遠山麓公キンジルバーナードと同類か。全く、どいつもこいつもどうしてこうも頑なに己の真名を隠したがるのだろうな。理解に苦しむよ。なぁ? 神崎ヶ原・H・アリアドゥーネ?」

「――あ?」

「いッ!? ……あ、うむ。すまない。悪かった。だからその目で我を見るのは止めてくれ、神崎・H・アリア……さん。いや、止めてくださいお願いします。冗談抜きで怖いですから。生きた心地しませんから」

「……次はありませんよ」

「はい。以後気をつけます」

 

 キンジの時と同様にアリアの呼び方を一切変えようとしない魔剣へと、まるで地獄の底から響いたようなアリアの声が放たれた。あたかも完全に生気を抜き取りそこに憎悪をたっぷり詰め込んだかのようなアリアの濁りきった真紅の瞳を向けられた魔剣は目に見えてビクつく。傲慢な態度を取っ払ってですます口調でいつものアリアに戻るよう頼みかける魔剣を前に、いくらか気が晴れたのか、アリアの瞳に生気が戻った。尤も、ジト目で魔剣を見つめるのは相変わらずだが。

 

(そういや、理子に『オリュメスさん』って呼ばれるのも凄く嫌がってたしなぁ。……呼び名に関してアリアをいじるのはタブーだな。うん)

 

 この時。キンジはアリアの呼び名に関する地雷原に足を踏み入れないことを固く決意した。白雪と魔剣も同様である。

 

「あー、ゴホン。……しかし、こうして貴様と対峙すると、ホームズ家の連中がいかに節穴だったかがわかるというものだ。何が『できそこない』だ。何が『欠陥品』だ。これがそんな可愛げのある存在なわけがなかろうに。ま、生得の才にしか興味を持たぬ者に後天的な才に着目する脳などありはしないか。……だが、あまり調子に乗るなよ。どう足掻こうが、貴様らごときに我を捕まえることなど不可能だ」

「んなもん、やってみないとわからないだろうが」

「わかるさ。何せ貴様ら二人は武偵だ。武偵は我のような犯罪者相手に常にハンデを背負っている。武偵法9条という重いハンデだ。そのような武偵の分際で、あらゆる手を行使して本気で殺しにかかってくる我を、超能力者(ステルス)を、そう簡単に無力化できると思うなよ?」

 

 魔剣は咳払い一つでどこかゆるゆるとし始めた場の空気を引き締めると、仮面の裏からキンジとアリアをギロリと睨みつける。負けじと二人も魔剣を睨み返したことで周囲をピリピリとした雰囲気が漂い始める。まさに一触即発。三人の衝突は時間の問題だった。

 




キンジ→銃弾噛み(バイツ)で見事に飛来してくる銃剣から身を守った熱血キャラ。今回は銃弾ではなく銃剣に対して銃弾噛み(バイツ)を使ったので気絶はしていない。
アリア→ぶっつけ本番で銃弾撃ち(ビリヤード)・銃剣バージョンをやってのけた子。何気に49話の時に地下倉庫でカタンと音を鳴らしてしまった張本人でもある。
白雪→今回はまるっきり傍観者かつ空気だった怠惰巫女。まぁこればっかりはねぇ……。
ジャンヌ→ついうっかりアリアさんの地雷を踏んじゃった厨二病患者。やろうと思えばですます口調もできる。

 ……うん。話が中々進みませんね。まさに『物語は踊る、されど進まず』状態ですね。この調子だと原作2巻終了までにあと8話は使いそうですね。ええ。


 ~おまけ(その1:ジャンヌの使った技説明)~

・ほとばしる三角柱(ピアシング☆デルタ)
ほとばしる閃光(ピアシング☆スロー)の上位交換及びほとばしる包囲網(ピアシング☆ウェブ)の下位交換技。自身の放った三本の銃剣が三角形を形成することからこの名がつけられた。割と使い勝手がいいため、普段からジャンヌが多用している技の一つである。


 ~おまけ(その2 没展開:もしもここのキンジくんがよりハイスペックだったら)~

ジャンヌ「バカな!? あの状況下で、どうやって……!?」
キンジ「歯で噛んで止めた。それだけだ」
ジャンヌ「なッ!? 歯で食い止めた、だとォ!? そんなバカげたことができるわけ――」
キンジ「何言ってんだよ、魔剣。俺は世界最強の武偵を目指してんだぞ? たかが迫りくる銃剣一本、歯で食い止められなくてどうする(←噛んで止めていたナイフを首を使って真下に勢いよく落としつつ)」
キンジ「フッ!(ズガンッ! ←キンジが氷の上に軽く突き刺さったナイフの柄に向けて強烈なヘッドバットを放って氷を割った音)」
キンジ「さぁ。バトル再開といこうぜ!(←氷からの自力脱出に成功したキンジがゆらりと立ち上がりつつ)」
ジャンヌ「ク、ククッ。あまり図に乗るなよ、遠山麓公キンジルバーナード(……何この男、超怖い)」
白雪「キ、キンちゃん……(頭思いっきりぶつけてたけど、痛くないのかなぁ?)」


 ~おまけ(その3 没展開)~

ジャンヌ「クククッ。全く、末恐ろしいな。神崎ヶ原・H・アリアドゥーネ」
アリア「神崎ヶ原・H・アリアドゥーネではありません、神崎・H・アリアです」
ジャンヌ「む? おかしなことを言うものだな。神崎ヶ原・H・アリアドゥーネが貴様の真名だろう?」
アリア「違います! 私の真名は神崎・H・アリアです! それ以上でもそれ以下でもありません!」
ジャンヌ「クククッ。隠さずともよい。真名がバレて焦る気持ちはわかるが、頑なに偽名を真名だと言い張るのは呆れを通り越していっそ哀れだぞ。なぁ? 神崎ヶ原・H・アリアドゥーネ?」
アリア「……なん……(←体をプルプルと震わせつつ)」
ジャンヌ「?(←首を傾げつつ)」
アリア「……なんで、なんでッ、イ・ウーの連中は私の名前をちゃんと呼んでくれないのですかぁぁああああああああああああああああ!? うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああん!!(←アリアは泣きだした!)」

 ……ビビりこりんから『オリュメスさん』と呼ばれ、ジャンヌちゃんから『神崎ヶ原・H・アリアドゥーネ』と呼ばれたアリアの末路である。

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