【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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??「私のターンッ!」

 ……というわけで、どうも。ふぁもにかです。割と文字数多めな今回はついにあの子が登場します。料理のできる熱血キンジくんがほぼ毎日女子寮に通ってるって時点で勘のいい方々はある程度予想がつくとは思いますが。そこまで勘のよくない方々も本編1行目で大体気づくことでしょう。ええ。そうです。あの子です。あの子のターンです。



5.熱血キンジとダメ人間

 

「おーい、ユッキィー。生きてるかぁー?」

 

 あれから。逃げの一手から反旗をひるがえし、多大な労力を使って(前回使った空薬莢を転がしてアリアを転ばせる方法が通じなかった分、Sランク武偵たるアリアの無力化に苦労したことは言うまでもない)どうにかアリアを宥めたキンジはアリアとともに女子寮の一室の前へとたどり着いていた。別にアリアまでついてくる必要はないのだが、アリア曰く、俺は何をしでかすかわかったものではないヘンタイだからいざという時に他の女子に被害が降りかからないよう俺を撃退するのが俺に同行を申請してきた目的だそうだ。酷い言いがかりである。不慮の事故とはいえアリアの胸を触った俺が考えるのはどうかと思うが、そんなに信用ないだろうか。

 

「……出てくる気配がありませんね。留守でしょうか?」

「おかしいなぁ。あいつ、普段はずっと寮にいるのに」

 

 何度インターホンを押し声をあげて中の住人に来客たる自分たちの存在をアピールしても一向にこの部屋に住む少女が反応をみせないことにキンジとアリアは互いを見合わせて首を傾げる。すると突如としてキンジの携帯電話の着信音が鳴り響く。着信音はJ●M projectだ。キンジが携帯の画面を見やるとそこにはいくらインターホンを押しても応答してこなかった中の住人の名前が表示されてあった。

 

「もしもし、ユッキー。どうした? つーか、いるならドア開けてくれ」

『助けて、キンちゃん。私、もうダメ……』

「ッ!? ユッキー!?」

 

 ユッキーなる少女に何かしらの緊急事態が発生したと判断したキンジは持ち前のアンロック技術(決してアリアが使った方法ではない)で鍵を開けると扉を蹴破って部屋の中へと侵入する。部屋の配置をここの住人以上によく理解しているキンジはすぐさまこの部屋の住人がよく生息しているリビングへと駆ける。事は一刻の猶予も残されていないかもしれない。キンジははやる気持ちのままリビングの扉に手を掛けた。

 

「大丈夫、か……?」

 

 部屋の主たる少女の安否を確かめるためリビングに足を踏み入れたキンジの視線の先には荷物の山があった。洋服やら本やら家具やら刀やらが上へ上へと積まれている。天井にも届く勢いだ。そして。その重量感漂う荷物の山の一角から誰かの右手のみが助けを求めるように突き出ていた。その右手が時折ワキャワキャとうごめくことから、どうやらユッキーなる少女はこの荷物の山に埋まっているらしい。

 

 一体何をどうしたら右手以外の体全体が生き埋めになるのだろうか。一昨日来た時にちゃんと部屋を整理整頓したはずなのに。キンジは疑問符を頭に浮かべつつ荷物の山に生き埋めにされた少女を助けるために少しずつ荷物をどかしていく。ちなみにキンジに追随してきたアリアは荷物の山が放つ異様な重圧を前に言葉を失い呆然と立ち尽くしている。その後。キンジは数分かけてようやく荷物の山から少女を引きずり出すことに成功した。

 

「……大丈夫か? ユッキー」

「あ、ありがとキンちゃん。死ぬかと思ったよ……」

 

 やれやれと言わんばかりの口調でキンジが尋ねると晴れて積み重ねられた荷物の山から救出された黒髪少女がケホケホと咳をしながら弱々しくキンジにお礼を告げる。寮内にも関わらず白と赤を基調とした巫女装束を身に纏った、大和撫子の権化のような見た目をした少女。彼女こそがユッキーこと星伽白雪である。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「おおお~! おいしそう! さっすがキンちゃん! キンちゃん様~!」

「はいはい。崇めなくていいから、冷めないうちに食べろよ」

「あい! いっただっきまーす! んー! おいしい!」

 

 つい先ほど荷物の山から生還した白雪は椅子の上に正座で座り、テーブルに並べられたキンジの手作り料理陣に文字通り目を輝かせていた。ちなみにキンジが白雪のために用意した料理はアリアに振舞ったものと同じでかなり簡素なものなのだが、白雪はあたかも高級料理フルコースを目の当たりにしたかのような反応を見せる。あまりどころか全然手間をかけていないお手軽極まりない朝食を食べつつ「おいしいおいしい」を連呼する白雪。白雪を眺めているうちにキンジは不意に昨日一日白雪を放置していたことに対して非常に申し訳ない気持ちに駆られた。ちなみに男子禁制であるはずの女子寮にキンジが平然とやって来れるのはキンジが白雪の世話係としてすっかり女子生徒陣に認知されているからに他ならない。日頃の行いの賜物である。

 

「あー。悪かったな、ユッキー。昨日は来れなくて」

「ううん。キンちゃんが気にすることじゃないよ。謝らないで」

「そうか? ならいいけど……、で。なんで荷物の山に埋もれてたんだ、ユッキー?」

「えっとねキンちゃん。私は一応緋巫女(ひみこ)だし偶には禁制鬼道の練習した方がいいかなーって思ってね、それでここで色金殺女(イロカネアヤメ)を使って素振りしてみたんだけど……ついクローゼットとか本棚とか切り裂いちゃったの。そしたら色々と積み上げてた荷物が雪崩れ込んできて――」

「いやいや、使っちゃダメだろ。ダメだから禁制扱いされてんだろ? 練習とかすんなよ。するならするで部屋の中で使うな。せめて外でやれ」

「だって寮から出たくなかったんだもん! 面倒だし!」

「ったく、お前って奴は……」

 

 さも自分の行いが誇らしいことだと言わんばかりに白雪はエッヘンと胸を反らす。何とも清々しい白雪の姿にキンジは「そこで禁制鬼道を誰かに見られないためって言わない辺りがお前らしいよ」とため息を零す。白雪を前にため息を吐いたのはこれでかれこれ何回目だろうか。少なくともとっくの昔に三ケタは超えていることだろう。下手すれば四ケタにも突入しているかもしれない。

 

 星伽白雪は極度のめんどくさがり屋である。ダメ人間とも言う。巫女装束を標準装備とする白雪は何事も面倒だと、やる気がしないと積極的に行動しようとせず、誰かに強制的に連れ出されなければ寮の外にすら足を運ぼうとしないのだ。キンジがこうして毎日通い詰めていなければ食べるのすらめんどくさいと食事を抜き始めることは必至であろう。キンジが白雪を餓死させまいと毎日のように女子寮に通って手作り料理を提供する理由がここにある。

 

「これが俗に言う引きこもりという奴ですか。初めて見ました」

「いや。引きこもりとは少し違うだろ。ユッキーの場合はただめんどくさがりをこじらせただけと思うぞ?」

「どっちにしろダメ人間の典型には変わりありません。救いようがありませんね」

 

 テーブルを挟んで白雪の対面に座るアリアは呆れ混じりの言葉を漏らす。無論、ももまんを食べながら。アリアの白雪への評価に少々毒が入っているように思えるのは気のせいだろうか。少なくともさっきからアリアが白雪の極めて女性的な魅力を放つ胸に嫉妬混じりの熱烈な視線を送っていることとは無関係ではないだろう。一方白雪はアリアが白雪の胸を凝視していることに全く気づいていない。鼻歌混じりに朝食を頂いている。

 

(絶壁がゆえの嫉妬、か。……醜いものだな)

 キンジがあたかもこんなはずじゃなかった世界を嘆くかのように内心でそんなことを思っているとアリアが真紅の瞳をギョロリと向けてきた。俺をヘンタイ認定して襲いかかってきた時よりもはるかに凄みを利かせて睨みつけてくる。今のアリアなら視線だけで人を殺せそうだ。おそらくアリアは俺が今考えたことを本能で理解したのであろう。アリアは何か直感でも備えているのだろうか。何と厄介極まりない。キンジは内心で冷や汗を流さずにはいられない。

 

「そ、そうかな? えへへ。褒められちゃった」

「ユッキー。アリアは今お前をバカにしたんだぞ。それくらい気づけ」

 

 キンジはアリアの放つプレッシャーから逃れることとツッコミを兼ねて、照れくさそうな笑みを浮かべる白雪に軽くチョップをお見舞いする。「あう」との悲鳴が何とも可愛らしい。こういう所が『ダメダメユッキーを愛でる会』という名の白雪ファンクラブを生んだ要因なんだろうな。きっと。自身のファンクラブが今も暗躍していることを全くもって知らない当の本人はニコニコ笑顔で朝食をパクパク食べていたが、不意に「んー」と人差し指を頬にあてて暫し考えると箸を食器の上に置いた。

 

「? どうしたユッキー? 食欲ないのか?」

「……食べさせて、キンちゃん」

「お前、まさかまた箸を持つのもめんどくさくなったとかいうつもりじゃないだろうな?」

「……てへッ♪」

「図星かい」

 

 可愛らしく舌を出す白雪にキンジは呆れ混じりにチョップをかます。本日二度目だ。相変わらず「あう」との可愛らしい悲鳴をあげる白雪を前にキンジは「全く、お前は……」とため息を零す。白雪は存外頑固な性格をしている。一度俺に食べさしてほしいと思えば決して自分から箸を持とうとはしないだろう。星伽白雪とはそういう人間だ。

 

「んあー」

「はいはい。あーん」

「あーん」

 

 白雪は可愛らしく口を開けるとキンジが食べさせてくれる瞬間を今か今かと待ち続ける。一瞬、まだ熱さの残る味噌汁を注ぎ込んでやろうかとキンジは考えたが悲惨な結果になりかねないとのことでちゃんとご飯を与えることにした。ムグムグとご飯を咀嚼し終えると再び口を開ける白雪。手慣れた手つきで白雪に食べさせるキンジ。すっかり蚊帳の外の気分なアリアは二人の姿から親鳥がヒナにエサを与える光景を幻視した。

 

「何と言いますか、星伽さんって、その……大物ですね」

「ああ。そうだな。ある意味こいつは大物だ。何たってこのダメダメさで生徒会長に選ばれたんだからな」

「え゛!?」

 

 正確には武偵高内で常に机に突っ伏して「あー」とか「うー」とか言いながら夢の国に旅立っているダメ人間白雪をクラスメイトの女子生徒が冗談半分で生徒会長に推薦。そんなこととはつゆ知らない白雪はもちろん選挙活動をロクに行わない。いつもの如くダラダラしているだけだ。そんな中。他の生徒会長に立候補した者同士があの手この手で相手陣営に卑劣な妨害工作を仕掛けまくった事実が明るみになったことで両陣営ともに立候補者のイメージダウンによる同士討ちとなったのだ。

 

 結果、堕落した高校生活を送っていながら生徒会長に推薦された白雪が前述の『ダメダメユッキーを愛でる会』なる謎の秘密結社の組織票により生徒会長に選ばれたのだ。かくして半ば奇跡的に史上初のダメダメ生徒会長:星伽白雪が生まれたのである。漁夫の利とはまさにこのことと言えよう。尤も、当の漁夫たる白雪は生徒会長の座など取るつもりは毛頭なかったのだが。ちなみに。非常にどうでもいいことだが、武藤も『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員に属している。会員ナンバーは003。割と初期のメンバーだったりする。

 

「えと、星伽さんが生徒会長? ……大丈夫なんでしょうか?」

「ま、生徒会メンバーが人一倍頑張ってるそうだからな。ユッキーはただ机に突っ伏していればいいんだそうだ」

「ですが、その体たらくじゃあ、不満を言ってくる人はいないのですか?」

「生徒会じゃユッキーはマスコット扱いにされてるらしいから、その辺の心配はいらないんじゃないか?」

「うんうん。皆優しいからねぇ。私のことよしよしって撫でてくれるし。あっ私のことはユッキーでいいよアリアちゃん。キンちゃんもそう呼んでるし」

「へ? ゆ、ゆゆ、ユッキーですか?」

「そそ。私も今からアリアちゃんのことアーちゃんって呼ぶことにするから」

「アーちゃん!?」

 

 白雪からいきなりあだ名をつけられたアリアは思わずといった様相で驚愕の声をあげる。白雪作の愛称がよほど恥ずかしかったのだろう。アリアは顔を赤く染めて「アーちゃんはちょっと……」と白雪命名のあだ名の変更を求めるも根が頑固な白雪は一切妥協しない。アーちゃん一択で他の愛称を考えようとすらしない。結局折れたのはまたしてもアリアの方だった。

 

「こ、これがあだ名というモノですか。……何だか物凄くこそばゆいですね」

「ん? 今まであだ名とかつけられたことなかったのか、アーちゃん?」

「……私には仕事仲間はいてもプライベートを共にするような人はいませんでしたから。Sランクの私は敬遠されていたんですよ。この国の言葉で言うなら出る杭は打たれるといった所でしょうか。あとアーちゃん言うの止めてください、キンジ」

「えー。アーちゃんでいいじゃねえか。結構似合ってるぞ。なぁユッキー?」

「ねーキンちゃん」

 

 ふとアリアを弄ってみたい願望に駆られたキンジはダメっ子ユッキーを味方につけ言葉を駆使してアリアを追い詰めにかかる。白雪は重度のめんどくさがり屋だが、こういうことに関しては快く協力してくれるのでこの場合においてはありがたい。

 

「――な、なら! 私もキンジのことキ、キキキ、キンちゃんって呼びますよ! 公衆の面前で高らかにキンちゃんと叫びますよ! いいんですかッ!?」

「いいよ別に。じゃんじゃん呼んでくれアーちゃん。キンちゃん呼ばわりはもうユッキーで慣れてるし。なぁユッキー?」

「ねーキンちゃん」

「うううううぅぅぅぅ――」

 

 窮地に追いやられたアリアは何とかして一矢報いようとするもキンジには全然通じない。結果、二対一の舌戦に敗れたアリアは顔を真っ赤にさせてテーブルへと勢いよく突っ伏しピクリとも動かなくなった。返事がない。ただの屍のようなアリアの頭からボフッと大量の湯気が出ているように感じて仕方がないキンジと白雪なのであった。

 

「……ちょっとからかい過ぎたか?」

「みたいだね。アーちゃん可愛い」

 

 キンジは少々バツが悪そうに悶死したアリアをただ見つめる。一方白雪はアリアの反応がないことを良いことにアリアの頬をツンツンとつついてその感触を楽しんでいる。かくして、キンジたち3人の朝の一時は過ぎていくのであった。

 




キンジ→ダメ人間ユッキーを放置できず何かと手を焼いている熱血キャラ。キンジ曰く、白雪は「相当手のかかる妹みたいなもの」。学校では白雪、プライベートではユッキーと呼び分けている。言葉の駆け引きをそつなくこなせる。
アリア→友達といえる存在がいなかったためにあだ名に対する耐性皆無。そもそもいじられるのが苦手。言葉の駆け引きは不得意分野。
白雪→ダメ人間。退廃的。めんどくさがり屋Sランク。ヒッキー(引きこもり)一歩手前。キンジがいなければ完全にヒッキー。かごのとり(笑)。まるで堕落した乙女略してマダオ。最近は息をするのも面倒だと感じている模様。キンジに恋慕の念は抱いていない。白雪曰く、キンジは「私の自慢の大好きなカッコいいお兄ちゃん!」。いい人だと判断した人には誰彼構わずユッキーと呼ばせようとする(※キンジの連れてくる人=いい人)。ヤンデレの要素は欠片も存在しない。

 原作じゃあキンジくんの元に足しげく通っていた白雪さんですが、ここでは白雪さんを餓死させないよう熱血キンジくんが足しげく白雪さんの元に通っています。何という逆転現象。こんなダメダメユッキーで原作2巻のイベントは果たして発生するのか。……どうなんでしょうね?

 というか、当初は白雪さんからヤンデレ要素等を抜いてアリアと最初から仲良くさせる心算でいただけだというのに……いつの間にやら白雪さんがダメ人間になってました。うん。声を大にして言いたい。どうしてこうなった!?

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