【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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レキ「私の出番が、ない……!?」
神崎千秋「俺の出番が、ある……!?」

 どうも。ふぁもにかです。さて。今回から原作2巻のクライマックスへと本格的に突き進み始めるわけですが、とりあえず……レキさんファンの方々、どうか落ち着いてください。そして。まずは私の話を聞いてください。私がレキさんの出番を作らないでおきながら、もう出番がない予定だった割とどうでもいいオリキャラに出番を与えたのにはちゃんとした理由があるのです。山よりも高く海よりも深い事情というものがあるのです。だから、お願いだから私に弁明の機会をくださ――うわなにをするやめくぁwせdrftgyふじこlp。

P.S.前回の『45.熱血キンジと釣られた者』におまけを一つ追加しておきましたので、良かったら覗いてやってくださいませ。



46.熱血キンジとケースD7

 

 夏を先取りした花火大会も終わり、アドシアード初日。今年は競技に出ないことにしているキンジは、朝からアドシアード開会式場となる講堂のゲートで受付をこなしていた。受付と言っても、講堂は武偵高の奥に位置しているために、セキュリティーとしての役割を果たす必要はあまりない。さらに言えば、開会式前にやってくるマスコミ各社の連中が通り過ぎてしまえば滅多に人が来なくなるため、誰でもいいから人を置けばいいといった感じだ。随分と楽な仕事である。

 

 ちなみに。今現在のユッキーの護衛はアリアが担っている。約1時間前に俺が偶然アリアとユッキーを見かけた時、三度目はないですよ、とでも言いたげにアリアが周囲にキュピーンと目を光らせていた以上、魔剣もそう簡単にユッキーを誘拐することはできないだろう。武藤からの情報によると、裏では『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員たちも、ユッキー保護班と魔剣捜索班とに分かれてこっそりと厳戒態勢を取っているらしいしな。

 

「……まぁ、こんなもんか」

「遠山。飲み物、テキトーに買ってきたぞ」

 

 時刻は正午過ぎ。マスコミ連中に自身が遠山キンジだと悟られないようにするために掛けていた縁なしの伊達メガネを外し、オールバックにしていた髪型を手ぐしで元に戻して、一人パイプ椅子に座ってぼんやりと前を眺めていたキンジに向けて、黒髪黒目の男が横合いからペットボトルを投げ渡してくる。本日、キンジとともに受付業務をこなしてきた彼の名は、神崎千秋である。

 

 一緒に受付業務を始めた当初は、キンジの強襲科(アサルト)Sランク武偵の肩書きや、過去にキンジがマスコミに向けて容赦なく発砲した件を実際に生中継で見たことがあった影響で、キンジに若干怯えを見せつつ『と、遠山くん』などとよそよそしい感じで名前を呼んできていた千秋。しかし、キンジとともに作業をこなす中でキンジの人となりをある程度理解したのか、いつの間にかキンジへの呼称が『遠山』へと変化していた。結果。今ではキンジと千秋は『千秋』『遠山』と気楽に呼び合える仲へと変貌している。

 

 言うまでもないが、キンジが千秋を名前呼びするのは、千秋と同じ神崎姓を持つアリアとを明確に区別するためだったりする。アリアじゃない方の神崎としての扱いを受けている千秋へのキンジなりの配慮である。

 

「おー。悪いな、千秋」

 

 キンジは綺麗な放物線を描いて飛んでくるペットボトルを片手でキャッチしてから、軽く謝罪の言葉を投げかける。千秋がなぜか500mlのペットボトルではなく2リットルのペットボトルを投げ渡してきたことに内心で少々驚きつつ。キンジの謝罪の言葉を受けた千秋は「いや、いいって。賭けに負けた俺が悪いんだし」と苦笑いを返してくる。

 

 千秋の言う賭けとは、マスコミ関係者が何人ここを通過して講堂に入っていくかをそれぞれ予測して、より予測が外れた方が二人分の飲み物を全て自腹で買ってくるといったものだ。よって。その賭けに見事敗れた千秋がキンジによってパシられたというわけだ。運の悪さに定評のある千秋クオリティである。

 

「ってか、ホントにテキトーに買ってきたんだな、千秋……」

 

 キンジは『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』とデカデカと赤文字で書かれたペットボトルのラベルを見て、一人呟く。中身の色がなぜか虹がかった鉛色をしていたり、賞味期限が2192年に設定されていたりする全く謎の飲料水:『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』。キンジにはこの『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』が命に関わる危険極まりない要素を存分に孕んでいるように思えてならなかった。

 

「それ美味いぞ? 見た目がちょっとアレだから結構飲むの勇気いると思うけど……まぁ、騙されたと思って飲んでみろよ? 絶対ハマるから」

「え゛!?」

 

 しかし。『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』を買ってきた当の本人たる千秋には『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』の信者を増やそうという思惑があったらしい。キンジの隣のパイプ椅子に座った千秋は、右手に持っていた『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』を豪快に煽る。一升瓶を一気に飲み干す酒豪のごとく。おそらく、今のキンジの千秋を見る目は得体の知れない化け物を見るような目と同一のものと化していることだろう。

 

 キンジは眼前の『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』をジィーと半眼で見つめる。穴が開くのではないかと思えるぐらいにジト目で睨みつける。どう見ても劇物のそれとしか思えない飲料水。だが。実際に値段をつけて販売され、千秋が愛飲していることから、決して劇物ではないのだろう。これもちゃんと美味しさが追及された飲み物のはずだ。キンジは心の中で何度もこの飲み物は安全なんだと言い聞かせると、千秋と同じく『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』を一気に煽った。

 

 瞬間。キンジはのどをガスバーナーで焼き切られるかのような、おそらく後にも先にも二度と経験することのないであろう、えげつない感覚を味わうこととなった。結果。1時間後にようやくのどの痛みから解放されたキンジは、明らかに飲み物として失格なはずの『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』を平然と飲み干してのどを潤す千秋に心から畏敬の念を抱いた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その後。人が誰一人やってこない受付にて。千秋は突発的に机に突っ伏すという謎の行動を取った後に、そのまま愚痴モードへと移行した。といっても、千秋はただ「武偵止めたい」といった主旨の言葉をポツリポツリと口にしているだけなので、愚痴というより泣き言と言った方がいいかもしれない。

 

 何となく気になったキンジが、武偵を止めたい理由について自然な流れで千秋に聞いてみた所、千秋はあんまりその話題に触れてほしくないと言いたげな苦々しい表情で、ただ「武偵は割に合わなさすぎるんだよ」とだけ返してきた。

 

 以前、兄を亡くした時に同じような考えを抱いていたキンジにとって、千秋の意見は至極もっともで、大いに賛同できるものだ。だが、しかし。仮にSランク武偵たるキンジが千秋の意見に同意しても、千秋はきっと額面通りにキンジの言葉を受け取ってはくれないだろう。ここ数時間で比較的気楽に話せるようになったとはいえ、千秋とはまだそこまで深い仲を築けていないのだから。

 

 何と言葉をかけたものか。キンジが頭を悩ませていると、ちょうどその時。キンジに助け船を出すかのように、千秋の携帯が高らかにメールの着信音を奏で始めた。

 

「――ッ。悪い。マナーモードにし忘れてた」

 

 ガバッと顔を上げた千秋が申し訳なさそうにキンジに謝ると、携帯を取り出す。マナーモードに切り替えるついでにメールの内容を確認しようとした千秋は、その表情を強ばらせた。

 

「? どうした、千秋?」

「……遠山。何かマズいことになってるみたいだぞ。ケースD7が起きたらしい」

 

 険しい顔つきのまま千秋が紡いだ言葉に、キンジは思わず「なッ!?」と立ち上がる。驚愕の声とともに勢いよく立ち上がった影響で、パイプ椅子が後ろに倒れて派手な音を立てた。

 

 ケースD7。それは、アドシアード期間中に武偵高で発生したとされる事件の内、現状では本当に事件なのかどうかが不明瞭なために一部の者にしか連絡が行かず、よって、みだりに騒ぎ立てずに極秘裏に解決することが生徒たちに求められる状況を示す言葉だ。

 

 キンジも自分の目で武偵高からの周知メールを確認しようと携帯のメール画面を表示させると、確かにそこにはケースD7が起こった旨が記されていた。と、そこで。キンジは周知メールの他にもアリアから一通のメールが受信されていたことに気づく。アリアが送ってきた無題のメールには、『やられました』と、たった一言だけ書かれていた。

 

 その一言で、キンジは理解した。今回のケースD7は、ユッキーが魔剣によって誘拐されたことを表すものだと。同時に、キンジはわけがわからなくなった。レーザービームでも出るんじゃないかと思えるほどに目を光らせて周囲を警戒しまくっていたアリアや『ダメダメユッキーを愛でる会』のメンバーたちがユッキーの傍に控えていた状況下で、魔剣はどのようにしてユッキーを拉致してみせたというのか。

 

(もしかして、魔剣は瞬間移動とか幻影とか、そういう類いの超能力(ステルス)でも持ってるのか!?)

 

 キンジは頭の中であり得そうな予想を立てながらも、現状を一番よく把握しているであろうアリアに電話をかける。しかし、繋がらない。何度電話をかけてもアリアに繋がる気配は一向にない。

 

 ……考えてみれば当然だ。アリアからのメールは5分前に届けられていた。となると、ユッキーが魔剣によって誘拐されたのも5分前だと考えていい。今頃、アリアは連れさらわれたユッキーを何としてでも見つけ出そうと右に左に走り回っているのだろう。そこに俺からの電話がかかってきていることに気づけるだけの余裕があるとはとても思えない。

 

 情報が欲しい。どんな些細なことでもいいから、情報が欲しい。だけど、アリアからの情報確保は見込めない。だったら、誰から情報を集めればいいというのか。白雪が誘拐されたという事実を前に焦燥に駆られるキンジは、今度は武藤に電話をかけ始めた。頼むから繋がってくれと、わらにもすがる思いを抱きつつ。

 

「武藤!」

『……キンジ。ナイスタイミング。俺も今、連絡を入れる所だった……』

 

 果たして。コール音一回ですぐに電話に出た武藤は、キンジが用件を伝える前にキンジの求める情報を提供してくれた。武藤の話によると、『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員たちが手分けして武偵高の各所に仕掛けた監視カメラの映像と盗聴器の音声を武藤が解析した所、アリアとともに歩く白雪が唐突に「さよなら、アーちゃん」と言葉を残した瞬間に白雪の姿がその場から幻のように消え失せ、後にはひらひらと宙を舞う、人型に切り抜かれた白い和紙だけが残っていたのだそうだ。

 

 キンジはふと思い出した。過去に、白雪が鬼道術を使えば思い通りに動かせる自分の分身を作れるんだと自慢げに話していたことを。これはつまり、そういうことなのだろう。魔剣はどこかでユッキーと接触していた。そして。ユッキーの鬼道術についての知識を持つ魔剣に脅しでもかけられたせいで、ユッキーは自発的に分身に本物のフリをさせて俺たちを騙す他なかったのだろう。

 

 そこまで考えて、キンジはゾッとした。ここまでの思考によって、本物の白雪が自分やアリアの元から姿を消したのが何もたった5分、10分前の出来事だとは限らないという可能性が浮上してきたからだ。

 

 もしもユッキーがついさっき魔剣に誘拐されたのなら、まだ急げば間に合うかもしれない。どうにかユッキーを見つけ出して助けることができるかもしれない。だが。もしも昨日の時点で紙人形のユッキーが本人に成り代わっていて、当のユッキーが既に魔剣の手に堕ちていたとしたら。昨日よりももっと前の時点で紙人形が本物のフリをしていて、ユッキーがとっくの昔に魔剣の軍門に下っていたとしたら。

 

 だとしたらもう、どうしようもない。時間が経過していればしているほど、消えたユッキーの元へとたどり着く手がかりを見つけることは非常に困難なものになってしまう。そうなれば、もう、俺は二度とユッキーと会えないかもしれない。

 

(――って、何考えてんだよ、俺は!?)

「武藤ッ! ユッキーの居場所について何か手がかりはないかッ!? 何でもいいから教えてくれッ!」

『……今、調査中。少し待て。あと、うるさい。落ち着け、キンジ……』

「だけどッ――!」

『……焦っても何も変わらない。むしろ状況は悪化する。焦って得られるものなどたかが知れている。最善の結果を望むなら頭を冷やせ、キンジ……!』

「ッ!?」

 

 キンジは今しがた浮かんだ自身の考えを振り払うようにして首をブンブンと振ると、電話の向こうの武藤へと声を荒らげる。際限なく心から湧き上がってくる焦燥の念をそのまま声にしてぶつけるキンジに対して、武藤は平坦で、それでいて諌めるような口調で言葉を返す。武藤からのもっともな指摘に、キンジはハッと我に返ると、「悪い……」と気まずそうに謝罪の言葉を告げた。

 

 その後。電話からはスダダダダッとでも形容すべき、武藤がキーボードを叩く音が絶え間なく響いてくる。キンジは一分一秒も無駄にしたくないという思いで今すぐにも辺り一帯を捜索したい気持ちに駆られたが、あてもなく闇雲に探し回っても結局は体力を消費するだけだと自身に言い聞かせて、はやる気持ちをどうにか押さえつける。

 

『……目撃情報検知。12分前、第9排水溝周辺で星伽さんを見た人がいる……』

「わかった! 今すぐそこに行ってみる!」

『……ん。了解……』

 

 そして、1分後。一日千秋の思いで武藤からの情報を待つキンジの元に、白雪の目撃情報が届けられた。それを聞くや否や、キンジは電話を切る。そして。受付のことやその他諸々を全て千秋に任せて、キンジは一直線に駆け出したのだった。

 




キンジ→『撃黙拳派ダグヴァンシェイン』の被害者たる熱血キャラ。焦る時は焦る。
武藤→説教もできる寡黙(?)キャラ。万能性は相変わらず。その万能性ゆえ、レキから出番を奪うことに成功した。
神崎千秋→原作キンジくんのように武偵を止めたがっているオリキャラ。探偵科Dランク武偵。32話でチラッと姿を見せた時が初登場。ゲテモノ飲料を好む傾向がある。味覚が死んでいるとも言う。また、どこか抜けてる所がある。

 ユッキーの紙人形云々は原作4巻のパトラ戦で軽く書かれていますので、気になる方は参照してくださいませ。まぁ、それはさておき。……おかしいな。当初千秋くんは純然たるツッコミキャラのつもりだったのにいつの間にやらボケキャラになってるんですけど。どうしてこうなった。


 ~おまけ(緋弾のアリアのキャラに教師をやらせてみるテスト:東進風)~

キンジ先生(政経)「マスコミの主張は信じるなよ。あいつらの話は大概誇張してるかウソ言ってるかのどっちかだからな」
アリア先生(家庭科)「今日は皆大好き:松本屋のももまんを作ってみましょうか、ね?(←首をコテンと傾けつつ)」
ユッキー先生(日本史)「今日は歴史ある星伽神社に皆で見学に行くことにしたよ。だ・か・ら。はい、男子はこれ着て女装してね。あそこは男子禁制だから(←巫女服をチラつかせながら)」
武藤先生(数学ⅢC)「……ん。数式は言葉。きちんと解読すれば、答えが見えてくる……(←目をキラーンと光らせつつ)」
不知火先生(道徳)「おし! 今から神奈川武偵高校付属中学の窓ガラスを全部粉砕しに行くぞ! 一人ノルマ10枚だから、テメェらどんどん壊していけよ!(←金属バット片手に)」
レキ先生(実技)「……始めましょうか(←意味深)」
陽菜先生(実技)「……始めるでござるよ(←意味深)」
りこりん先生(逃亡学)「に、逃げる時は後ろを振り向かず、全力でダッシュするのが一番だよ!(←拳をギュッと握りつつ)」
ジャンヌ先生(厨二学)「貴様ら。まずは己の中に眠る封印されし力をそれぞれ覚醒させろ。話はそれからだ(←腕を組みつつ)」
中空知先生(尋問学)「言葉責めは基本中の基本だよ♪(←ニコニコと笑いつつ)」
レオぽん先生(犯罪心理学)「……」

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