【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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白雪「ゆっきゆきにしてあげるッ!」

 どうも、ふぁもにかです。アリアとユッキーを初対面時からそれなりに仲良くさせていた(少なくとも、険悪な仲にしなかった)理由が今回の話にあったりします。要はキンジ、ユッキー、アリアの三人で花火の鑑賞を通して思い出作りに励んでもらいたかったのです。私が男女の仲に関係する修羅場をあまり好んでいないってのも理由の一つではありますが。

 ちなみに。今回はアリア視点、キンジ視点、ユッキー視点の3つが用意されています。割合としては『アリア視点:キンジ視点:ユッキー視点=1:1:4』といった感じでしょうか。ユッキーが優遇されているのは仕様ですので、あしからず。

 でもって、やっと今回の話を書けましたよ。この44話のシーンを描写したいがために第二章の執筆を頑張ってきたと言っても過言ではありませんしね。ええ。



44.熱血キンジと花火大会

 

 葛西臨海公園。そこは武偵高駅からモノレールで台場へ、ゆりかもめで有明へ、りんかい線で新木場へ、京葉線で葛西臨海公園駅へと乗り換えを繰り返してようやくたどり着ける場所なのだが、キンジにとって葛西臨海公園までの道のりはいつも以上に果てしなく遠く感じた。

 

 途中。浴衣を着慣れていないアリアが転びそうになったり(※ハンドスプリングを駆使して自力で立て直した)、普段から巫女装束を着ていることで浴衣タイプの服に慣れているはずの白雪が何度も転びそうになったり(※キンジがギリギリで助けた)、アリアが質の悪いチンピラ集団(※計7人ぐらい)に絡まれたり、白雪が間違った方面に向かうモノに乗ろうとしたりと、キンジの予期せぬ事態が相次いだのだ。

 

 結果。三人が葛西臨海公園へと着く頃には当初の予定よりもすっかり遅れた時刻となっていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

(……な、何ですか!? この状況は!?)

 

 ちょっとした森のような葛西臨海公園を歩く中、アリアは表向きは平然とした表情を浮かべているものの、内心では焦りに満ちた声を上げていた。

 

 今現在。私たち三人はいかにも夜の公園といった風情を醸しだしている葛西臨海公園を歩いている。目的地はこのまままっすぐ歩いた先にある人工なぎさだ。キンジ曰く、人工なぎさが東京ウォルトランド主催の花火大会を鑑賞するいい穴場なのだそうだ。それはいい。それは別に問題じゃない。でも……と、アリアはこっそりとキンジと白雪を見やる。

 

 右サイドにはいつもの武偵高の制服姿をしたキンジがいて。左サイドには白を基調とした花柄の浴衣を着たユッキーさんがいて。そして、中央には藍色を基調とした花柄の浴衣を身に纏った私がいる。葛西臨海公園へと入ってからはずっとこの配置で私たちは歩いている。

 

(こ、この配置はマズいです。……これでは、まるで私がキンジとユッキーさんの子供みたいじゃないですか!? もしくは三人兄妹の次女! それかキンジかユッキーさんの親戚の子!)

 

 アリアがそのことに思い至った時にはとっくに手遅れだった。アリアたち三人の周囲を歩く人たちは既にアリアたちの存在をそういった風に認識しているらしく、時折、すれ違いざまに微笑ましいものを見つめるような優しげな眼差しをアリアへと向けてくる。

 

(こ、この扱いには納得がいきません!)

 

 アリアは自身の小学生レベルの小柄な体型に割とコンプレックスを抱いている。ゆえに。等身大の人として見なされているキンジと白雪はともかく、子供として見なされているアリアにとって、現状はたまったものではなかった。どうしてこうなった。どこで道を踏み間違えた。どこで判断を誤った。アリアは心の中で何度も問いかけるも答えは一向にわからない。いつもの冷静さをなくしたアリアが必死に思考するも答えに繋がる糸口すら見つけられない。

 

 そのため。全くもってわからないことをいつまでも考えても仕方がないということで、今度はいかにして現状を脱するかについて、アリアはひたすら脳を駆使して考えを巡らせる。今の自分が白雪を護衛する立場で、今回の花火鑑賞に魔剣(デュランダル)をおびき寄せるという重要性の高い目的があることなどとっくの昔に忘却の彼方だ。

 

「ん? どうした、アリア? 何か様子が変だぞ?」

 

 その時。アリアの様子がおかしいことにいち早く気づいたキンジが、アリアに疑問の眼差しを向ける。表面上では何ら変わった所が見られないというのにアリアの様子が普段と違うことにしっかりと気づく辺り、さすがは一か月もの間アリアと寝食を共にしてきたパートナーといった所か。と、そこで。アリアは一つの打開策を閃いた。

 

「……キンジ。ユッキーさん。少しのどが渇いていませんか?」

「へ? いや、別に――」

「ええ! そうですよね! 渇いてますよね! カラッカラですよね! 何か飲み物が欲しくてたまりませんよね!」

「いや、全然渇いてないって。なぁ、ユッ――」

「では! 私が今からその辺の売店でテキトーに飲み物を買ってきますので、二人は先に人工なぎさの方へ行っておいてください! すぐに戻ってきますので!!」

「――って、おい!? アリア!?」

 

 キンジの否定の言葉を華麗にスルーして売店で飲み物を買うという大義名分を手に入れたアリアは、すぐさまキンジと白雪の元から離脱する。キンジの呼び止める声を無視してアリアは全力疾走する。かくして。周囲からの微笑ましげな眼差しに耐え切れずに思わず戦略的撤退を選択したアリアであった。無論、すぐに戻ってくる気など欠片もない。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 結局。どこかへ走り去っていってしまったアリアを捜すかどうか考えた末に、アリアの奇行を放っておくことにしたキンジは白雪とともに人工なぎさで花火大会が始まるまで待機しておくことにした。ここが東京ウォルトランドの花火大会を鑑賞する穴場だということはそれなりに知られているらしく、人工なぎさにはキンジと白雪以外にもチラホラと人影が見える。

 

「アリアの奴、遅いなぁ。何やってんだよ、あいつ。もう花火始まるってのに……」

 

 キンジは携帯で時間を確認しつつ、眉を潜める。アリアは去り際にキンジと白雪にすぐ戻ってくると言っていた。だが。もう30分は経過しているというのに、一向にアリアがキンジたちと合流してくる気配はない。

 

「大丈夫かな、アーちゃん……」

「まぁ、大丈夫だろ。アリアはSランク武偵なんだし」

 

 アリアのことが心配なのか、若干そわそわしている白雪を安心させようと、キンジは白雪に微笑みかける。その一方で、キンジは一瞬だけアリアが一人で先走る形で魔剣(デュランダル)と接触した可能性を考えたが、即座に否定する。

 

 俺は事前の打ち合わせで、魔剣(デュランダル)を見つけたことを理由に単独行動を取る際にはマバタキ信号でその旨を相手に伝えて許可をもらってから行動するよう、アリアと方針を共有している。よって。例えアリアが魔剣(デュランダル)を捕まえたい一心で独断専行に走ったにしても、その前に俺に最低限のメッセージすら残さないというのはアリアの性格上、あまり考えられない。

 

 加えて、アリアが俺たちから離れる際にとった奇妙な言動は、少なくともアリアが魔剣(デュランダル)の姿を捉えたからといった理由とは明らかに一線を画す何かが原因だ。俺の直感がそのことを高らかに主張している。

 

 また。もし仮に俺たちと別行動をしている最中にアリアが魔剣(デュランダル)と接触していたとして、それならばここからでも十分銃声の一つは聞こえるだろうし、殺気の一つくらいは感じるはずだ。そのような物騒な気配を俺が全く察知しないということは、アリアが魔剣(デュランダル)と邂逅している可能性が皆無に等しいことを意味している。

 

 尤も、アリアが魔剣(デュランダル)と接触したにしろ、していないにしろ、今の俺はユッキーの護衛であるため、何か特別な理由でもない限り、丸腰のユッキーを一人にしてアリアの加勢に向かうわけにはいかないのだが。

 

「しっかし。ユッキーとこうして花火を見に行くのって、青森の時以来だよな? 何年ぶりだったか?」

「あ、やっぱりあの時のこと、覚えていてくれてたんだ。キンちゃん」

「まぁな。あの時の花火の派手さとあとで星伽神社の人に怒られた時の恐怖は早々忘れられるようなもんじゃないからな。何かきっかけがあれば、すぐに思い出せる」

 

 キンジは未だアリアのことを心配そうにしている白雪の気を逸らそうと、話題をガラリと変える。過去のことをキンジがしっかりと覚えているという事実に白雪が嬉しそうに声を上げると、キンジは苦笑いで言葉を返す。

 

「キンちゃん、あの時泣いてたもんね」

「泣いてない。あれは涙目だ。ギリギリ耐えてたから、泣いてはいない」

「えー、泣いてたよ」

「泣いてねぇよ。あれはセーフだ」

 

 頑なに泣いていたことを認めようとしないキンジを白雪はおかしそうに見やっていたが、ついに堪えきれなくったのか、フフフッと笑いを零す。過去のことを持ち出された上に笑われたキンジは気恥ずかしい思いから逃れようと、白雪から視線を外す。

 

「「……」」

 

 その後。キンジと白雪との会話が途切れたことで、沈黙の時が訪れる。しかし。その沈黙はキンジにとっても白雪にとっても居心地の悪い類いのものではなく、むしろ心地いいくらいだった。白雪はどこか心に安らぎを与えてくれる沈黙に身を委ねつつ、ふとキンジや自分のことについて、思索にふけることにした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 星伽白雪という人間は、何も物心ついた時からめんどくさがり屋だったわけではない。怠惰な性格をこじらせていたわけではない。幼少期の白雪は、他の子供と比べて少々活発的な、それこそ、その辺にいくらでもいそうなただの女の子だった。そんな明朗闊達を絵にかいたような幼い白雪が星伽神社を十分遊びつくした時、星伽神社の外の世界に憧れたのは当然のことだったのだろう。

 

 外の世界に憧れて。しかし、外へ行くことは星伽神社によって禁じられていて。でも、やっぱり外に行きたくて。だけど、それでも規律を破る勇気がなくて。結局、最初の一歩を踏み出せなくて。外で遊ぶ子供を見つけては、皆は外で遊べていいなぁと羨んで、皆ばっかり外で遊べてズルいと妬んで、なんで私は外で遊べないんだろうと嘆いて、私も外で遊びたいと願って、外で遊べたらどんなに楽しいだろうかと想像して。

 

 やりたいことはたくさんあるのに。それこそ山のようにあるのに。もっともっと自由に生きたいのに。環境がそれを許さない。状況がそれを許さない。出自がそれを許さない。何もかもが白雪を星伽神社に縛りつける枷と化してしまう。

 

 どれだけ望んでも手に入らないのなら。どれだけ願っても掴むことができないのなら。いっそのこと諦めればいい。捨てればいい。叶わない望みはいらない。夢はいらない。だから。こう考えよう。外の世界なんて面倒だと。全然楽しくないと。こっちから願い下げだと。星伽神社に引きこもっていた方が何百倍も楽でいいと。だから私は外に行かないのだと。決して星伽神社によって禁じられてるから外に行けないのではないと。白雪がそう考え始めたのはいつのことだろうか。

 

 そうして白雪は諦めた。外の世界に触れることを諦めた。諦めて。憧れの世界を面倒極まりない世界だと、知識でしか知らないくせに勝手に決めつけて。楽しい要素であふれているであろう世界をくだらない世界だと否定して。

 

 それから。白雪は一瞬でも外の世界に行きたいなどと思わないような性格の構築に取りかかった。かくして。活発的な女の子だった白雪はめんどくさがり屋の仮面を被って生きることとなった。被った当初は薄っぺらくてすぐに外れていた仮面も、時間の経過とともに分厚くなり、容易に外れないようになり、いつしかその仮面自体が白雪の性格となった。

 

 そのような手順を踏むことで、白雪は外の世界に早々に見切りをつけてしまったのだ。手に入らないものを望んでも仕方ないと望みを投げ出してしまったのだ。あたかも『かごのとり』が、自分は空を飛べないのではなく自分から飛ばないことを選択したのだと高らかに主張するために自ら羽をもいだかのように。

 

 そんな折。外の世界をすっかり諦め、その身に怠惰精神を宿し始めた白雪に手を差し伸べたのが遠山キンジその人だった。遠山キンジは白雪を強引に外の世界へと連れ出した。白雪が一度も踏み出すことのなかった世界へと、実にあっさりと連れ出した。

 

 それから。二人は一緒に露店を回った。二人は一緒に花火を見た。花火大会が開催されるということで皆が皆それぞれ浮足立っている世界で過ごす時間は、白雪にとってただただ純粋に楽しかった。何もかもが新鮮で、視界に入ったもの全てがキラキラと思い思いに輝いているように感じて仕方なかった。

 

 そして。そんな楽しい外の世界を経験させてくれた遠山キンジは白雪にとって誰よりも特別な存在と化した。救世主や白馬の王子様、ヒーローといった言葉を当てはめようとするぐらいに、白雪はキンジを特別視した。

 

 しかし。現実を知っている白雪は自身が楽しい外の世界にずっと居続けることができないことを理解していた。ゆえに。遠山キンジが自分とは別次元の世界に生きる存在だとも感じていた。

 

 初めて過ごした外の世界での時間。それは所詮、泡沫の夢。そんなことはわかりきっていた。それでも。嬉しかった。楽しかった。外の世界はこんなにも輝いていて。瞬いていて。白雪が思い描いていた通りの風景が広がっていて。ただでさえ眩しくて輝かしい世界なのに、隣に遠山キンジがいることで外の世界はますます輝かしさを増した。遠山キンジと出会えたこと。それが当時の白雪にとっての、人生の中での一番の収穫だった。

 

 その後。時は流れ、白雪は武偵高に進学することに決めた。遠山キンジがいなくなってからというもの、全然経験してこなかった外の世界を見納め目的に拝んでおこうと、すっかり心に染み渡った怠惰感情の中でほんのちょっとだけ意欲を持ったことが主な理由だった。

 

 星伽神社は反対しなかった。白雪が強大な力を秘めているにも関わらず、怠惰の権化と化している現状に何か手を打たないといい加減マズいとでも考えた結果なのだろう。大方、白雪のだらけきった性格の矯正を目論んでいるものと思われる。

 

 そして。東京武偵高の入学試験の日。白雪は複数の自分の体目当ての男子武偵に行く手を阻まれたことで、外の世界が何一つ汚れていない素晴らしい世界ではないことを知った。多かれ少なかれ、面倒事の存在する世界だと知った。

 

『お前ら、寄ってたかって一人の女の子囲むって、武偵以前に人間としてどうかしてるんじゃねえの? 恥ずかしいとか思わないのか?』

 

 しかし。そこで。白雪に泡沫の夢を与えてくれた救世主は再び現れた。以前よりそれなりに体つきががっしりとして、背も随分と高くなって、声も低くなって、目つきも多少きつくなって、でも、あの時と全く変わらない遠山キンジが現れた。現れて、白雪を助けてくれた。

 

 そして。遠山キンジは今もこうして白雪の傍にいる。白雪の傍で、また泡沫の夢を見せようとしてくれている。白雪は、そんな優しい遠山キンジが異性として大好きだ。そんな遠山キンジに密かに恋をしている。そんな遠山キンジと結ばれたいと心から思っている。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……キンちゃんって凄いよね」

 

 ひとしきりキンジや自身のことについて思い返していた白雪が吐息混じりに自身のキンジへの評価を口にすると、キンジは「ん? どうした、いきなり?」と、不思議なものを見るような眼差しを白雪に向ける。

 

「いや、キンちゃんって凄いなぁーって思って」

「そうかぁ? 俺なんてまだまだだと思うけど?」

「そんなことない。キンちゃんは凄いよ。だってキンちゃん、私の心にスッて入って来れるもん。今日だって、いつもの私なら絶対に外出しようとしないはずなのに、ちゃんと私を外に連れ出してくれてるしね」

「……まぁ、これでも少しはユッキーのこと、わかってるつもりだからな」

「そっか。……でも、またこうして、花火を見ることになるなんて思わなかった。ホント、夢みたい」

 

 白雪は感嘆の息を吐いて、幸せそうに言葉を紡ぐ。

 

 そう、夢なのだ。これも所詮は泡沫の夢。わかっている。わかりきっている。ここで今から見る花火も。キンちゃんと恋人関係になりたいという願いも。だけど。両者には違いがある。前者はキンちゃんが叶えてくれる。泡沫の夢を見せてくれる。でも、後者は不可能だ。いくら私がやる気になったとしても、おそらく私がキンちゃんと結ばれることはない。

 

 いくら結ばれたいと願ったとしても、私が抱えている事情は、星伽神社という名の枷はあまりに重すぎる。それをキンちゃんに背負わせたくはない。だから。『キンちゃん×私』を望む気持ちは妄想の中だけに留めておく。うっかり蓋が開いて、キンちゃんへの好意があふれ出てしまわないように心の奥底に厳重に封印する。叶わない夢に見切りをつけるのは、早々に何かを諦めるのは、昔から慣れているのだ。

 

「夢みたいも何も、花火を見に行くことぐらい、時間があればいつでもできるだろ。こんなの、全然特別なことじゃない」

「ううん。特別だよ。私にとっては、凄く特別」

 

 白雪の言葉に何となく違和感を感じつつ言葉を返すキンジに、白雪はフルフルと軽く首を振る。

 

「星伽の巫女は守護(まも)り巫女。いついかなる時でも、身も心も星伽を離るるべからず。だから。私はホントは星伽神社の許可なく外出しちゃいけない存在なの」

「……何だよ、それ」

 

 白雪がゆっくりと口にした言葉に、キンジは思わず絶句する。次にキンジが感じたのは怒りだった。いくらユッキーの実家だからといっても、やっていいことと悪いことがある。格式を重んじる風潮なのか知らないが、時代錯誤も甚だしいものを重要視して白雪を狭い世界に縛りつける星伽神社のやり方に、キンジは酷く怒りを覚えた。

 

「だから。ありがとう、キンちゃん」

 

 しかし。キンジの怒りがうっかり爆発することはなかった。白雪がキンジの意表を突く形で感謝の意を表したことで、キンジが拍子抜けしたからだ。

 

「……え?」

「昔も今も、こうして私を外の世界に連れだしてくれて。何もかも諦めて、だらけてばっかりの私を見捨てないでいてくれて。私に夢を見させてくれて」

 

 白雪はそこで一度言葉を切ると、トテトテと歩いて、いきなり感謝の言葉を言われて戸惑っているキンジの前面に回る。

 

「――私は今、すっごく幸せだよ」

 

 そして。白雪は満面の笑みでキンジを見上げて自身の正直な気持ちを言葉に表した。瞬間、時が止まったかのようにキンジは静止する。「ん? あれ? キンちゃん?」と白雪がキンジの目の前で手を振るもまるで反応がない。「んー?」と白雪が間延びした疑問の声とともに首をコテンと傾けていると、突如、再起動を果たしたキンジによるチョップが炸裂した。

 

「あう!?」

「……ったく、何を言うかと思えば。変にフラグを立てるのは陽菜だけにしてくれ」

 

 白雪にチョップをお見舞いしたキンジは、そのまま右手でグシャグシャと白雪の頭を乱暴に撫でる。白雪が髪が乱れるとの抗議声明を提示してきても構わずに、キンジは白雪の頭を撫でる。第三者からすれば、その光景は恋人同士がじゃれあっているように映ったことだろう。

 

 ――と、その時。人工なぎさに爆発音が響いた。

 




キンジ→白雪の満面の笑みに数瞬だけ骨抜きにされた熱血キャラ。
アリア→周囲の微笑ましいものを見るような目線に耐え切れず、逃亡した子。護衛の任務放棄とも言える。
白雪→実はキンジのことを異性として好きだと考えている子。諦め癖を持っている。

 ということで、やっと書けましたよ。実はユッキーは単なるめんどくさがり屋じゃなくて、諦め精神が心の奥底まで染みついちゃったがゆえに怠惰化した子だって話。何気に第二章のテーマは『諦め』ですしね。にしても、ユッキー可愛いよユッキー。今回は特に可愛いよユッキー。


 ~おまけ(ネタ:もしも星伽神社が商売に走っていたら)~

白雪「星伽の巫女は守護(まも)り巫女。いついかなる時でも、身も心も星伽を離るるべからず。だから。私は――星伽神社の発売するグッズを最低一つはいつでも所持してないといけないの」
キンジ「……え、グッズ?(←目を丸くしつつ)」
白雪「うん! 見て見て! この『こなちゃん人形』! すっごく可愛いでしょ!? 萌えるでしょ!?(←二等身の星伽粉雪の人形をキンジに見せつけつつ)」
白雪「あ、もちろん『かざちゃんキーホルダー』も『きりちゃんクリアファイル』も『はなちゃんナイフ』も可愛いよ! 他にも色々な種類があるけど、星伽神社でしか販売されてなくて、一日に売られる数も限られてるから、知る人ぞ知るレア商品として結構人気高いんだよ! 今や星伽神社の収入源の一つだしね!」
キンジ「な、何やってんだよ、星伽神社……(←引きつった顔で)」

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