【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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キンジ「こ、これが機関(エージェント)の罠なのか……!?」

 はい。というわけで……どうも、ふぁもにかです。今回、前々から一度はやってみたいと思っていた『熱血キンジと冷静アリア』での連日投稿、ついにやってのけましたよ! イエーイ! やったね、私! よくやった、私! ……まぁ、更新速度早めのハイペース投稿はおそらく今日で打ち止めでしょうけどね。

 ところで。今回の話はぶっちゃけ外伝レベルの話で、本編とはほとんど関係のない類いの内容なので、見なくてもそれほど影響はありません。なので、時間にあまり余裕のない方々はスルーしてもらっても大丈夫ですよ。

 というか、今回で何気に40話目ですよね。この『熱血キンジと冷静アリア』も結構話数が増えてきましたねぇ……。



40.熱血キンジと夜の一幕

 

 遠山キンジという人間は普段、夜更かしというものを滅多にしない。朝4時きっかりに起床して日々キンジ特製のマル秘特訓メニューをこなすキンジだが、別に寝坊や二度寝と縁遠い、低血圧からかけ離れた人間ではないのだ。そのため、朝4時に確実に起床するために夜10~12時の範囲内に就寝するように努めるのは至極当然のことと言えよう。

 

 さて。そんな強襲科(アサルト)を専攻する武偵の割にはかなり規則正しい早起き生活を実践するキンジ。しかし。今日は少々事情が違っていた。

 

(どうしようか、これ……)

 

 真っ暗な部屋の中。二段ベッドの下段を使用しているキンジは布団に体を投げ出したまま腕を組む。何度か寝返りをしつつ、自身を取り巻く現状にむむむと眉を潜める。

 

 現在時刻は午前1時半。そう。今日のキンジはなぜか眠れないのである。

 なぜだか午前1時に目を覚ましてしまったキンジは、まぁこんな日もあるかと、特に深く考えずに再び目を瞑った。当初はそのままジッとしていればいつの間にか眠りに就くことだろうと高を括っていたキンジだったが、これが一向に眠れない。眠気が襲ってくるどころか、時間が経つにつれてますます意識が覚醒していく。

 

 どうしたものか。キンジは仰向けの体勢のまま、腕を組み直して思考にふける。眠気が全く襲ってこない以上、ベッドに寝転がるだけ時間の無駄だと判断していつものマル秘特訓メニューを前倒しして行うか。それとも、直に寝ることができるだろうとの期待を胸にもう少しだけ寝転がった状態で粘ってみるか。キンジはすっかり覚醒しきった思考回路を使って、どの選択肢を支持したものかと考えを巡らせる。

 

 いきなり今まで長いこと続けてきた生活リズムを崩せば、日中の生活の中のどこかで体の不調が生じるかもしれない。いつ魔剣(デュランダル)が白雪の誘拐を仕掛けてくるかわからない以上、せめて体調だけは整えておきたい。しかし。だからといって、こうして睡眠状態に移行できないにも関わらず、ただただベッドの上で無為に時間を潰すことが良策とも思えない。

 

「ん……」

 

 キンジが思案顔で考えていると、ふとアリアの動く気配を察知した。アリアはハシゴを使って二段ベッドの上段からゆっくりと床に降りると、おぼつかない足取りでトテトテと二段ベッドから離れていく。キンジもアリアも白雪も豆電球がついていないと眠れないという属性を持ち合わせてはいないために部屋は真っ暗なのだが、それでもキンジがアリアの一挙手一投足を正確に把握できる辺り、強襲科Sランク武偵の気配察知能力の高さの一端が伺えるというものだ。

 

 とりあえず、半分夢の中にいるような状態でポテポテと歩くアリアの様子から、トイレにでも行ったのだろうとキンジはテキトーに予測して、ふと上を見やる。 

 

(たまには夜空の下での特訓もいいかもな。この辺って立地の割には星が綺麗だし)

 

 結局。このまま寝転がったまま朝を迎えるくらいなら少しくらいマル秘特訓メニューを前倒しにした方がいいだろうとの結論に至ったキンジは、アリアが布団に戻って再び深い眠りに就いた時を見計らって外へと繰り出すことにして、その時をただジッと待つ。その選択が大きな間違いだったことをキンジが悟るのはちょうど一分後のことである。

 

「ん、ぅ……」

 

 トイレを済ませたらしいアリアは何とも可愛らしい仕草で目をゴシゴシとこすりながら二段ベッド内の布団に顔から飛び込み、そして潜り込む。そして。スゥと小さく息を吸うと、そのままものの数秒で深い眠りに落ちていった。――なぜか、キンジの右隣で。

 

「……へ?」

 

 キンジは硬直した。全く予想だにしない展開に思わず困惑に満ちた声が漏れた。キンジの眠るベッドにアリアがいる。キンジの右隣から小柄な女の子の確かな体温を感じる。男と女が一つのベッドを共有している。まさかの現実を少しずつ噛み砕くようにしてようやく理解したキンジはピシリと石像のごとく固まった。

 

(待て待て待てェ!? 何この状況!? 何なんだこの状況!? 何がどうしてこうなった!?)

 

 キンジは心の中で疑問を声高に叫ぶ。その場で頭を抱えたい衝動を抑えて、内心で動揺の気持ちを存分に顕わにする。

 

 大方、アリアは寝ぼけてキンジの布団の中に潜り込んだのだろう。それだけならまだしも、今のアリアはキンジを自身の愛用している抱き枕(1.5メートルサイズのレオぽん)と間違えているのか、思いっきりキンジを抱きしめている。キンジの背中に両手を回してガッチリとホールドしている。さらには時折頬ずりまでしてくる始末である。キンジの体温がアリアにとって心地いいのか、アリアの表情は徐々に安らかなものへと変わっていく。

 

(マズい。これはマズい。俺の命がマッハでヤバい)

 

 一方。キンジは内心で冷や汗タラタラだった。ダラッダラだった。その表情もアリアが浮かべているような安らかなものとはかけ離れたものとなっていた。

 

 幸い、アリアは小学生を彷彿とさせる幼児体型のため、アリアに抱きつかれた影響で、今のキンジがヒステリア・サヴァン・シンドローム(通称HSS)になる心配はない。女性を最大優先事項に据えるヒステリアモードに移行し、普段のキンジの意思に反して、隣に眠るアリアの頭を優しく撫でたり勝手に腕枕を敢行したり決め顔でアリアの寝顔を見守ったりする心配はない。

 

 だが。もしもこのままアリアに身動きを封じられた状態で朝を迎えて、アリアが目覚めればどうなるか。キンジは数時間後に自身がたどるであろう未来を想像して、青ざめる。

 

 俺のベッドに潜り込んできた時、完全に寝ぼけていたであろうアリアはよもや自分から俺のベッドにやって来たとは決して思わないだろう。公然と衆人に向けて言うことこそないものの、内心では今も俺をヘンタイ認定しているアリアのことだ。俺がアリアのベッドに潜り込んだと勘違いして、俺の言い分を聞く前に即刻風穴を開けようと襲ってくるであろうことは目に見えている。火を見るよりも明らかだ。

 

 冷静さを保ったままのアリアとの模擬戦ならまだしも、修羅を纏ったアリアとのデスマッチは、ロボットバトルジャンキーレキ(略してRBR)との異名を持つレキとの対戦(命懸けの逃走劇)を想起してしまうために、キンジにとって怒り狂った修羅アリアとの武力衝突はゴメンなのだ。

 

(考えろ、遠山キンジ! 現状を切り抜ける最良の策を! 明るい未来を迎えるための起死回生の一手を!)

 

 ゆえに。決してアリアが起きないよう、キンジは微動だにしないように心掛けつつ、どうにかして起死回生の策を閃こうと必死に脳をフル回転させる。それと並行して、キンジは視線だけを部屋の至る所に移して、何か現状を打開するために使えそうなモノを捜索する。相変わらず部屋は真っ暗なのだが、ある程度目を開け続けていたために、キンジの目はもはや暗闇特化のネコ目仕様と化している。そのため、モノの捜索くらいは容易にできる。

 

 己の生存のため、明日を掴み取るため、キンジが懸命に視線をさまよわせていると、ふとキンジの視線があるモノを射抜く。そのモノは目一杯手を伸ばせば何とか届きそうな場所に鎮座している。と、その時。普段の行いが良かったのか、スッとキンジの脳裏に天啓が舞い降りた。

 

(――これだッ!)

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ん? 朝ですか……」

 

 チュンチュンといった数匹の小鳥のさえずりが鼓膜を優しく揺すり、朝日がカーテンの隙間から差し込んでくる中。アリアはムクリと起き上がる。所々自己主張の激しい寝癖が見られる辺りがアリアの可愛さを補強している。

 

「6時、ですか。いつもより少し早いですが、そろそろ起きますか」

 

 ボーッとした思考の中。掛時計を見やり、現在時刻を確認したアリアはクッと大きく背伸びをすると、「……そろそろ抱き枕卒業を視野に入れた方がいいかもしれませんね」などと、ベッドをジーッと見やりながら呟き、そしてベッドから離れていく。顔を洗って自身の意識をシャキッとしたものに変えるために洗面所へと向かっていく。

 

(レ、レオぽんのマスクがあって、助かった……)

 

 そんな中。アリアが起きる瞬間まで微動だにしないという苦行を成し遂げたキンジは「ふぅ」と息を吐く形で緊張を解いた。キンジの取った作戦、それは端的に表現するならば、キンジ自身がアリアの愛用するレオぽんの抱き枕に擬態するというものだった。

 

 レオぽんの抱き枕に擬態するといっても、キンジが取った行動は精々手の届く範囲ギリギリに置かれてあったレオぽんのマスクを被るだけといういかにもお粗末なもの。それゆえに。万が一にもアリアがベッドの抱き枕を見やる動作をした時の、寝起きのアリアの判断力の低さに依存した作戦だったのだが、どうやら天はキンジの味方をしてくれたようだ。

 

 ところで、なぜレオぽんにさほど興味を示していないキンジがレオぽんのマスクを持っていたのかというと、それは去年の夏休みの出来事に起因する。

 

 当時、『ラブリーりこりん♡のビビりな性格克服プロジェクトsecond season』という名のふざけ半分の企画が1年A組の有志たちの手によって設立された際に(※キンジは巻き込まれる形で参加した)、現在進行形でキンジが被っているレオぽんのマスクがこれでもかと言わんばかりに活用されたのだ。

 

(……あのプロジェクトの始動中に成り行きで買ったレオぽんのマスクが、まさかこんな所で役に立つとはな。ホント、人生ってわからないなぁ……)

 

 今まで被っていたレオぽんのマスクを取ったキンジは、妙に達観したことを考えつつ、安堵にホッと肩を下ろした。かくして。この日、キンジはどうにか一つの危機を乗り越えたのだった。

 

 ちなみに。その後、何か魔剣(デュランダル)の手がかりが映っていないかと部屋に仕掛けていた監視カメラの映像を確認したことにより、前日の夜に自分が何をしでかしたのかを知ったアリアが顔を真っ赤にさせたのはまた別の話である。

 




キンジ→幼児体型とはいえ女子に抱きつかれて一夜を明かすという滅多にない経験をしたリア充。
アリア→未だに抱き枕がないと安眠できないという、何とも子供っぽい一面を持つ子。

 とりあえず、『ラブリーりこりん♡のビビりな性格克服プロジェクトsecond season』の内容については読者の皆さんのご想像にお任せします。今の所は細かく描写する気はありませんので。ひとまず、ハチャメチャな結果に終わったとだけ言っておきます。


 ~おまけ(その1 ネタ:もしもキンジの布団に無意識に潜り込んだのがアリアじゃなくてユッキーだったら)~

白雪「……ん、ぅ(←モゾモゾとキンジのいるベッドへと体を潜らせる白雪)」
キンジ「(待て待て待てェ!? 何この状況!? 何なんだこの状況!? 何がどうしてこうなった!?)」
キンジ「……(←落ち着きを取り戻した後、主に数時間後に起こり得る未来について思考するキンジ)」
キンジ「(……まぁ、いいか。ユッキーなら朝起きて早速俺の顔が至近距離にあっても取り乱すことはないだろうし、アリアにはユッキーが寝ぼけただけだと正直に説明すればすんなり納得しそうだしな。うん、何も問題ない)」
キンジ「ふ、ぁ……(あ、安心したら何か眠くなってきた。俺も寝るかぁ……)」

 何とも平和だった。


 ~おまけ(その2:ジャンヌの独り言ダイジェスト 副題:ジャンヌ・ダルク30世は見た!)~

 東京の某ネットカフェにて。

ジャンヌ「ふむ。これでよし、と(←パソコンで何やら操作しつつ)」
ジャンヌ「クククッ、これで星伽ノ浜白雪奈の姿は公私に関わらず常に我に捕捉され続けるというわけだ。あとは機を見て接触を持てばいい。フッ、よもや、我が既に遠山麓公キンジルバーナードの部屋に超小型監視カメラ&盗聴器を仕掛け終えているとは誰も夢にも思うまい」
ジャンヌ「我を舐めるなよ、遠山麓公キンジルバーナード、神崎ヶ原・H・アリアドゥーネ。たかが強襲科(アサルト)Sランク武偵ごときが、我のイ・ウーへの勧誘対象を守り抜けると思ったら大間違いだ。何せ、貴様らの行動なんぞ、全て我に筒抜けなのだからな! フフフッ、ハァーハッハッハッハッハッハッハッ!(←勝ち誇った笑みで)」
ジャンヌ「……クククッ。まぁ、女神の祝福を受け、さらに聖剣:デュナミス・ライド・アフェンボロス・クライダ・ヴォルテール、略してデュランダルの加護を受けし我の手にかかれば、こんなものか」
ジャンヌ「それにしても、何という締まりのない顔……プッククク、アハッハハハハ――ゴホッ、ゴホッ!? わ、我を笑い殺す気か、星伽ノ浜白雪奈!? 無限を喰らう幻獣(サンクトゥス・アステロイド)とも称される我の標的(ターゲット)の分際で我を逆に殺しにかかるとは……ハッ! ま、まさか! 奴は幼少期より機関(エージェント)の教育を受けてきた精鋭だというのか!? ――って、マズい、笑いが止まらな……」

 ジャンヌさん腹筋崩壊中。しばらくお待ちください。

ジャンヌ「ハァ、ハァ……。ふぅ。ようやく収まったか。こんなに爆笑したのって何年ぶりだ? というか、今の星伽ノ浜白雪奈の寝顔をアップロードすれば100万再生くらい軽く達成できるのではないか?(←目尻の涙を拭いつつ)」
ジャンヌ「まぁいい。……さて。少し喉も渇いたことだし、選ばれし者の知的飲料(ドクターペッパー)でも調達してくるか(←少し席を外すジャンヌ)」

 数分後。

ジャンヌ「よし。監視再開だ。星伽ノ浜白雪奈の寝顔は十分見たからな。次は奴の護衛をやっているSランク武偵(笑)の二人を見るとしよう」
ジャンヌ「――って、な、ちょっ、なぜ神崎ヶ原・H・アリアドゥーネが遠山麓公キンジルバーナードのベッドの中に潜り込んでいる!? しかもあんなに嬉しそうに抱きついているなんて、一体何がどうなっているのだ!?」
ジャンヌ「――ッ!? まさか!? 二人はもうデキているのか!? K点越えを達成しているのか!? 越えてはいけない一線を越えているとでもいうのかァ!?(←著しく動揺しつつ)」
ジャンヌ「な、何ということだ……確か二人は出会ってからまだ1カ月も経っていないはず。だというのにもうそのような関係に発展しているとは……いくら同居しているとはいえ、さすがにこれは早過ぎはしないか!? 二人とも節操がなさ過ぎやしないか!? それでいいのかジャパニーズ高校生!?(←ワナワナと戦慄している模様)」
ジャンヌ「それにしても、星伽ノ浜白雪奈が同じ空間で寝ているというのに、何と大胆なことを……。ふ、布団の中では『自主規制』や『禁則事項』がなされているのだろうか……?(←顔を真っ赤に染めつつ、興味津々な眼差しを画面の向こうのキンジとアリアに注ぎながら)」
ジャンヌ「バカな!? 肝心な所が映っていない、だと……!? クッ、こんな事なら、もっと監視カメラを仕掛ける場所を考えるべきだった! これでは二人の秘め事の詳細を覗けないじゃないか!? せっかく近い将来、31世を孕む時の参考にしようと思っていたというのに……!(←後悔に満ちた声色で)」

 かくして、勘違いは加速していく。

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