【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも。ふぁもにかです。ここ最近は面白いように執筆意欲が湧いてきているので、その影響で更新速度が少々速くなっております。ここ一週間、執筆時のBGMにしてるセイクリッドセブンのOPの効能ですね、わかります。

 それにしても、第二章が始まってからこれで6話目なのに(突発的番外編は除く)、まだ第二章開始から時系列が1日も経っていない件について。この分だと、厨二ジャンヌちゃんとのバトル回はいつになることやら……。



39.熱血キンジと一つの決意

 

 そして。白雪の歓迎の意を込めて普段より少々豪華な夕食を作り終えたキンジが、風呂上がりのアリア&白雪とともに夕食を食べ終えた後。季節外れ感の凄まじいサンタクロースのコスプレ衣装からいつもの白と赤を基調とした巫女装束に戻った白雪がへにゃ~とソファーに寝転がってテレビ番組を眺めている中、アリアは脚立を使って天井にせっせと監視カメラを仕掛け始めていた。キリキリ動くアリアにだらける白雪。非常にわかりやすいアリとキリギリスの構図である。

 

 普段から掃除に励んでいるために、既にキンジの家の部屋の数やら家具の配置やらを網羅しているアリアは、決して監視カメラに映らない死角を作らないよう真剣に考えてから、いくつもの監視カメラを設置している。監視カメラを一つ取りつける度に部屋をグルリと見渡し、それから次の監視カメラの取りつけ場所について時間をかけて熟考している辺り、アリアの今回のユッキー護衛依頼への真剣度が伺えるというものだ。

 

 キンジは三人分の食器を洗いつつ、グイーッと目一杯に背伸びをしてどうにか天井に監視カメラを仕掛けているアリアの姿を緊張感の欠片も感じられない温かい眼差しでただただ眺める。

 

 キンジの心境としては、子供に『はじめてのおつかい』を頼み、よちよちとした足取りながら、しっかりと買い物を済まそうとする子供を見守る母親の気分だったりする。時々、バランスを崩してそのまま脚立から落ちそうになる所が何とも危なっかしいのだ。尤も、強襲科(アサルト)Sランク武偵の一人たるアリアならば、例えバランスを崩して床に盛大に転びそうになったとしても、とっさに体勢を立て直して見事に着地してみせることだろうが。

 

――もちろんです! 絶対に魔剣(デュランダル)をおびき寄せて捕まえて星伽さんの身の安全を確保してみせます!!

 

 と、そこで。キンジはふと、白雪護衛依頼を快諾した時のアリアの言葉を想起する。キンジ自身や綴先生が若干引くほどのアリアの並々ならぬ意気込みを思い出す。

 

 そういえば、綴先生の口にした魔剣(デュランダル)の言葉にピクリと反応を示していたけど、アリアは何かあの都市伝説レベルの存在と化している正体不明の誘拐魔についての情報を独自に持っているのだろうか?

 

「……ところでさ、アリア。お前、魔剣(デュランダル)って言葉に反応してたよな? 何か因縁でもあるのか?」

「はい。大ありですよ、キンジ。魔剣(デュランダル)はお母さんに濡れ衣を着せたイ・ウーの一員です。奴を捕まえればお母さんの刑期を635年まで縮めることができますし、上手くいけば高裁への差戻審も勝ち取れるかもしれません。何せ、魔剣(デュランダル)を逮捕すれば、お母さんを捕まえる際の理由とした罪の内、武偵殺しの件と魔剣(デュランダル)の犯した107年分の罪の件でお母さんを誤認逮捕していることを証明できるわけですし。それだけの冤罪を晴らせれば、やり方次第では『もしかしたら神崎かなえの罪は全て冤罪なのではないか?』との疑いを検察サイドに持たせることさえもできるかもしれません」

 

 手早く食器洗いを終わらせたキンジは、床に無造作に置かれてあった監視カメラを拾って脚立の上に立つアリアに手渡しつつ、ふとした疑問をぶつけてみる。すると。アリアは真紅の瞳をキリッとさせながら、魔剣(デュランダル)と神崎かなえとの関係性を、そして魔剣(デュランダル)逮捕の重要性を明かしてきた。

 

「なるほどな。それでこの入れ込みよう、か」

「はい。この好機をみすみす逃すわけにはいきませんからね。峰さんは逃してしまいましたが、次こそは確実に捕まえてみせます」

 

 アリアは決意の炎を真紅の瞳に宿し、両手でギュッと力強く拳を握る。アリアは魔剣(デュランダル)の魔の手からユッキーを守り抜くと同時に、ユッキーをエサに、どうにかして魔剣(デュランダル)を引きずり出して捕まえたいと考えているのだろう。

 

 アリアの母親が関わっている以上、アリアの気持ちはよくわかる。わかるのだが、実際にいくつか派手な事件を起こした武偵殺し:峰理子リュパン四世と違って、超偵狙いの誘拐魔:魔剣(デュランダル)についての話はあまり聞かない。だからだろうか。俺にとっては、どうにも魔剣(デュランダル)の実在についての実感が湧かないでいる。

 

「……それにしても、ホントに魔剣(デュランダル)っていう、いかにも厨二病をこじらせた奴が自分から名乗り上げたみたいな痛い名前の奴がいるもんなのか?」

「います。というより、いないと私が困ります。それに、火のない所に煙は立たぬと言いますからね。いくら都市伝説レベルの存在だとしても、魔剣(デュランダル)の名前が知れ渡っている以上、実在してるものと考えて行動しておいた方がいざという時のためになると思いますよ?」

 

 魔剣(デュランダル)の実在についての疑問を正直に口にしたキンジは、アリアの意見に「それもそうか」と素直に納得した。

 

 確かに、もしも魔剣(デュランダル)が本当に実在していないデマの犯罪者ならば、そもそも名前すら広まることはないだろう。例え噂レベルであってもその存在がまことしやかに囁かれていて、さらには超能力捜査研究科(SSR)の予言や諜報科(レザド)のレポートにおいて魔剣(デュランダル)の実在が示唆されている以上、ここはアリアの言う通り、魔剣(デュランダル)が現に暗躍していることを前提に行動した方が良さそうだ。

 

「というか、そもそも厨二病をこじらせたような痛い名前なら武偵殺しも似たようなものだと思いますけど?」

「いやいや、武偵殺しはまだマシな方だろ。読み方が『ぶていごろし』のままなんだしさ。それに比べて、魔剣(デュランダル)の方は魔剣と書いてデュランダルと呼ぶって感じのフリガナついてるじゃねぇか。これって、いかにも魔剣(デュランダル)を名乗る張本人が色々と試行錯誤して、あれこれ考え抜いた末に生み出した厨二ネームだと思わないか?」

「……そう考えてみると、確かに痛いですね。憐れにさえ思えてきますよ」

 

 キンジとアリアは魔剣(デュランダル)を名乗っているであろうイ・ウーの一員の姿を想像し、そしてほぼ同じタイミングで「うわッ」と言いたげに顔を手で覆う。

 

 キンジの脳内では、漆黒の大剣を掲げて「我は魔剣(デュランダル)なり!」と高らかに叫んでいる上半身裸の筋骨隆々の身長2メートル強の強面中年男性の姿が想像されていた。一方。アリアの脳内では、「やぁ。僕は魔剣(デュランダル)だよ」と歯をキラーンと輝かせて名乗ってくる、見目は麗しいのだが全身から凄まじいほどのかませ犬臭を醸しだす無駄にメルヘン思考な青年の姿が想像されていた。

 

 もしもキンジとアリアの偏見にまみれた魔剣(デュランダル)像を当の本人が知ったならば、その精神に深刻なダメージを喰らっただろうことは想像に難くない。

 

「……つーかさ。これ、マジで本人が自分から名乗り出した名前なのか? 何か、段々信じられなくなってきたんだけど」

「んー。私はそう思ってますけど、他人に付けられた呼び名の可能性も無きにしも非ずですね。……まぁ、案外嫌がっていたら面白いかもしれませんね。もしもそうだったら、会い次第、事あるごとに魔剣(デュランダル)って連呼してやりましょうか。そして、嫌な名前で呼ばれた影響で注意力が散漫した所を狙って奇襲を仕掛けて、パパッと逮捕する……ん。これ、中々アリですね」

 

 アリアは両手を腰の部分に当てると、ニタァといかにも凶悪そうな、いじめっ子特有の笑みを浮かべる。その笑みは、とても冤罪で自由を奪われている人を母親に持つ被害者の浮かべる類いのものではない。

 

「……何か、凄く姑息な戦い方だな」

「仕方ないでしょう。何たって、相手はイ・ウー所属の犯罪者です。存在自体が疑われてるぐらいですから私の持つ魔剣(デュランダル)に関する予備知識も全然期待できませんし、それくらいのことをしなければ、返り討ちに遭いかねません。底の知れない相手に正々堂々なんてバカのやることです。より少ない労力で目的を達成できるのなら、それに越したことはないのですよ、キンジ」

「……まぁ、確かにな」

 

 アリアはキンジの率直な感想にやれやれと言わんばかりに肩をすくめると、柔らかな声音かつ上から目線でキンジを諭しにかかる。イメージとしては出来の悪い生徒に手取り足取り勉強を教える女教師といった所か。

 

 少しアリアにバカにされた気がしたキンジは少々ムッとしたが、アリアの発言は全くの正論なのでとりあえず同意することにした。尤も、「うむ。それに越したことはないのだよ、キンちゃん」と大仰な口調でアリアと同じ言葉をぶつけてくる白雪には遠慮なくチョップを放つのだが。

 

 アリアは以前、武偵殺し:峰理子リュパン四世との戦いで首に怪我を負っている。結局はほんの数日大事を取って入院する程度の怪我で済んだが、下手したら首を小太刀で貫かれて殺されていた可能性だって考えられたのだ。それゆえ、実際に殺されかけた側のアリアが魔剣(デュランダル)逮捕に関して少々過剰なまでに慎重になるのも無理はない。

 

(まっ、魔剣(デュランダル)にせよ何にせよ、ユッキーを狙ってる奴が実際にいるってんならこのままただじゃ終わらないのは確実だな。ましてや、イ・ウーが関わってるのなら尚更だ。いざ戦うって展開になったら絶対に一筋縄じゃいかないだろうし……これは気合い入れていかないとな)

 

「……やってやる」

 

 キンジはペチペチと自身の両頬を軽く叩くと、誰にも聞こえない程度の声量で覚悟を口にした。今回の白雪護衛の任務においての自身の気持ちを引き締めるために小さな声で意気込みを顕わにした。

 

 

『キャウントダウンTVをご覧の皆さん、こんばんはぁ~! ヒルちゃんでーす☆』

[え、えと、エルちゃんです]

『二人合わせて【SHINING☆STAR(シャイニング☆スター)】でーす!』

[です]

[え、えと、今回、私たちの新作が2009年4月20日にリリースされました]

『はい、拍手☆ イエーイ!(←パチパチパチと拍手しながら)』

[イ、イエーイ(←同じくパチパチパチと拍手しながら)]

『で、今回あたしたちが歌う新曲のテーマはズバリ、初恋! 年頃の女の子の揺れ動く心を歌っちゃうよ!』

[初恋がテーマですけど、爽やかな曲調なので、皆さん聞きやすいと思います]

『では、聞いてください☆ 【SHINING☆STAR】で【ギフト】!』

 

 そんな中。ふと白雪の見ているテレビから女子特有のきゃぴきゃぴした声が響く。何となくキンジがテレビ画面に視線を移すと、そこには金髪ツインテールのいかにも快活そうな少女とうなじを隠すか隠さないかといった程度の茶褐色の髪の大人しめの少女が煌びやかなステージで明るく歌う姿が放映されていた。

 

 ユッキーが「おおおおお!! ヒルちゃんエルちゃんだぁ! ま、まさかキャウントダウンTVに出てるなんて! 急いで録画しないと!」と、テレビに釘づけになりつつ、興奮した様子でリモコンを操作をしていることから、それなりに有名な歌手なのだろう。属性的にはアイドルユニットといった所か。

 

 終始活発系のヒルちゃんとやらと比較的大人しめのエルちゃんとやらの二人組は中々にバランスが取れているようにキンジには感じられた。と、そこで。キンジはアリアも白雪と同様に、テレビで歌声を披露する【SHINING☆STAR】とやらに目線を固定させていることに気づいた。

 

「アリア、どうした? そんな眉寄せて」

「いえ。大したことじゃないんですけど……あの子、確かエルちゃん、で合ってますよね? ……何だか、あの子を見た瞬間にこう、ビビッときたのですが、今のは一体――」

「ッ! アーちゃんはエルちゃん派なの!? エルちゃん可愛いよね! あ、でも私はヒルちゃんもエルちゃんも大好きだよ! 両方いけるよ! 二刀流だよ!」

 

 エルちゃんとやらを凝視して違和感に首を捻るアリアに、大好きな歌手が歌っているためにやたら興奮している白雪が喰いつくも、【SHINING☆STAR】の晴れ舞台を目に焼きつけようと、すぐに視線をテレビ画面へと戻す。

 

 結局。【SHINING☆STAR】が歌っている間、終始エルちゃんを見つめつつ、どうにかして違和感の正体を掴もうと唸り続けるアリアであった。

 




キンジ→今回の白雪護衛依頼に関して気合いを入れた熱血キャラ。
アリア→魔剣(デュランダル)確保のため、キンジの家に監視カメラを仕掛けるアリポジションの少女。直感により、エルちゃんに対して何らかの違和感を感じている。また、以前のりこりんとの戦闘で負傷した影響で、『いのちだいじに』思考に陥っている。
白雪→アイドルユニット【SHINING☆STAR】の熱狂的なファンたるキリギリスポジションの怠惰少女。
ヒルちゃん→突如、アイドルに目覚めた例のあの子。芸能界向きな性格をしている。パパには内緒で活動している。
エルちゃん→突如、アイドルに目覚めた例のあの子。大人しめの性格をしている。本業との両立にちょっと苦労している。

 とりあえず、キンジとアリアの中では魔剣(デュランダル)は痛い奴確定です。まぁ、実際にここのジャンヌちゃんは重度の厨二病患者で手に負えない痛い娘なんですけどね(笑)


 ~おまけ(ネタ:もしもアリアがSEKOMUしまくっていたら)~

キンジ「で、結局どの辺に監視カメラ仕掛けたんだ?」
アリア「えーと、まずリビングに3つ。台所に1つ。脱衣所に1つ。バスルームに1つ。玄関に2つ。廊下に1つ。各小部屋ごとに2つ、といった所でしょうか」
キンジ「全部で17個か。結構仕掛けたな。お金とか大丈夫なのか?」
アリア「はい。金銭面ではまだまだ余裕ありますしね。あ、あと、玄関とリビング前にそれぞれ2、3個ずつ地雷を仕掛けました」
キンジ「……え?(←目をパチクリ)」
アリア「他には、正確な手順を踏まずに電気をつけようとした人が致死量レベルの電撃を喰らって感電するよう電極をちょいといじりましたし、怪しげな動きで廊下を通る者を感知したら上から1.5トン相当の墓石が落ちてくるよう設計しましたし、ついでに床のスイッチを踏んだら前後左右から銃弾とナイフが放たれるよう部屋を改造しましたし、あとは……(←指折り数えつつ)」
キンジ「ちょっ、アリア!? どんだけ罠仕掛けてんだよ!? それはさすがにSEKOMUし過ぎじゃないか!? 要塞化し過ぎじゃないか!? あれか!? 俺の部屋をからくり屋敷にでもするつもりなのか!? つーか、それ下手したら俺や白雪がアリアの罠に引っかかるかもしれないじゃねぇか!? 洒落にならねぇぞ!?」
アリア「おかしなことを言いますね、キンジ。そんなことあるわけが――」
??「みぎゃああああああああああああああ!?(←轟く悲鳴)」
キンジ&アリア「「ッ!?(←悲鳴の元に駆け寄る二人)」」

 廊下に倒れる白雪を発見する二人。肝心の白雪の体からはプスプスと煙が上がっており、巫女装束もボロボロとなっている。返事がない、ただの屍のようだ。

キンジ&アリア「「……」」
キンジ「……アリア。罠を撤去しろ。今すぐに」
アリア「……了解です」

 かくして。SEKOMUは一人の犠牲を契機として解除された。

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