【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回はちょっと早めの更新です。でもって、今回の話が例の無人島一歩手前の島に行く前の最後の更新だったりします。もしかしたら何らかの手段を行使することで島にいる間も更新できるかもしれませんが、その辺のことはあまり期待しないでくださいませ。あと、今回は文字数少ないです。



33.熱血キンジと呼び出し

 

 昼休み。ガヤガヤと賑わいをみせる学食にて、キンジはハンバーグ定食を頂いている。料理スキルのすこぶる高いキンジだが、昼は大概学食のお世話になっている。学食の料理は安くておいしいということもあるが、一番の理由は一日に三食も作ることがさすがに手間だと感じるからだ。キンジにとって学業と料理との完全な両立は容易ではないのである。

 

 一方、キンジの対面に座るアリアは相変わらず松本屋の袋からももまんを取り出しパクパクと頬張っている。現時点で4個目のももまんだ。今の調子だと少なくとも後6個は確実にアリアの胃の中に収まることだろう。アリアとともに過ごす日々の中でももまん関連でアリアにツッコんではいけないということを既に学んでいるキンジは「それだけたくさんももまん食べてるのによく太らないよな」といった感想を胸の内にしまっておくことにした。白雪の星伽巫女補正然り、アリアにも何かしらの補正が掛かっているだろうとテキトーに結論付けつつ。

 

 それはそうと。ここ最近、松本屋側で松本屋・武偵高店のマスコットキャラとして、松本屋の常連の中の常連と化しているアリアをモデルにしたゆるキャラを作る動きがあるらしい。いくつか挙げられた名前の案の中で、現時点では『モモンちゃん』が最有力候補らしく、そのモモンちゃんとやらは桃の胴体に人間の手足に桃髪ツインテールをリボンで結わえた二等身のキャラなのだそうだ。ちなみにこれらの情報源は全てアリアからだったりする。どうやら松本屋側はゆるキャラ作りの進捗状況を逐一アリアに報告しているようだ。

 

 まぁ、アリアの松本屋の売り上げへの貢献度から考えれば、松本屋の一連の動きはある意味で当然の帰結と言えるかもしれない。もしかしなくても神崎・H・アリアという金づるをずっと手元に置いておきたいという魂胆あっての行動だろう。松本屋のゆるキャラ作りの動機に関して納得のいく答えを導き出せたキンジは満足げに一つうなずく。

 

「……」

 

 その後。目の前でこの世の幸せを謳歌するかのようにももまんをはむはむと食べ続けるモモンちゃんもといアリアをしり目に、昼食を終えたキンジはふと思考の海に意識を沈ませる。考える内容は先のハイジャック事件の際の理子の発言だ。

 

 

――遠山くんのお兄さんは死んでなんかいないよ? 今日もちゃんと元気に女装してるよ? だって、そもそもこのボクがアンベリーリュ号沈没事故に見せかけて遠山くんのお兄さんをイ・ウーに引き抜いたんだから。つまり。あの事件はただの豪華客船の沈没事故なんかじゃない。将来有望な武偵:遠山金一をイ・ウーに勧誘するためにボクが起こしたシージャックなんだよ。

 

――だから。表向きには遠山くんのお兄さんはあの時に死んだってことになってるけど、今はイ・ウーの一員として立派に職務を全うして――。

 

 

 理子はあの時、兄さんの生存を確かに俺とアリアの二人に語った。だけど。俺の知っている峰理子という人間は平然とウソをつけるような人間じゃない。異常なまでにあらゆるものに怯えを見せる理子にウソをつくなどという高等技術が備わっていないことは理子とそれなりに親交のあった俺がよく知っている。仮に理子がウソをついた所で、目に見えてしどろもどろになったり目がバタフライ並にバシャバシャと泳いだりするであろうことは火を見るよりも明らかだ。もしも俺が理子相手に手加減をしたらANA600便を墜落させると言い放った時の理子ならともかく、兄さんが生きてることを盾に俺をイ・ウーへ招待することで窮地を切り抜けようとしたあの時の理子がさらっとウソをつけるとはとても思えない。

 

 でも。だからといって、兄さんが実は生きていて、しかもイ・ウーの構成員として日々犯罪を犯しているだなんて荒唐無稽な話を信じるワケにはいかない。受け入れるワケにはいかない。あの正義漢の象徴とも言える兄さんがかなえさんに容赦なく罪を着せまくった典型的な悪の権化みたいなイ・ウーで活動しているなど、それこそ天地がひっくり返ってもあり得ない。

 

 だけど。俺は信じてもいいのだろうか。兄さんが実はアンベリール号沈没事故で死んでいないと。今もどこかで己の義を貫いてしっかりと生きていると。いつか、いつか……どこかで兄さんとまた会える日が来ると。俺は兄さんの生存に希望を抱いていいのだろうか。兄さんの生存を願う気持ちはいつまで経っても過去をズルズルと引きずる将来の俺を生み出すことにはならないだろうか。俺の世界最強の武偵を目指す道のりの妨げにはならないだろうか。俺は、俺は――どうすればいい? 何を信じればいい?

 

「――キンジ?」

「うおッ!?」

 

 と、その時。いつの間にか、アリアが互いの鼻先が触れそうなほどに近くから自身の顔を覗き込んでいたことに気づいたキンジは驚きに目を見開き、思わず弾かれたかのようにのけ反った。その動作によりキンジは否応がなく自身の今までの思考を中断させられることとなった。この時、キンジが椅子から転げ落ちて腰や背中を強打する展開にならなかったのは幸運と言えよう。

 

「ちょっ!? おまッ、いきなり何を!?」

「いえ。いくら私が呼びかけても猫だましをしても頬をつねって引っ張り回してもまるで反応がなかったのでちょっと至近距離で顔色を伺おうとしただけですけど? ……それより、どうしたのですか、キンジ? 珍しくボーっとしているようでしたが」

「い、いや。ちょっとした考え事だ。大したことじゃない」

「……そうですか」

 

 キンジがアリアから目を逸らして言葉を濁すと、アリアがムッと眉を潜める。納得がいかないと言わんばかりの表情を浮かべる。おそらくアリアは持ち前の直感で俺の考え事が割と大したことだと的確に察知したのだろう。それゆえに、その考え事についてパートナーたる自分に話してくれないことに不満を抱いているといった所か。それでもアリアがその件について追及してこないことは素直にありがたいとキンジは内心で感謝した。

 

『2年B組の平賀さん。平賀文さーん。ちょーっと教務科(マスターズ)の蘭豹先生の所に至急行ってくれへんかなぁ? 何でも急ぎの用事があるんやって。ほな、頼んだよ~』

 

 と、そこに。キンジとアリアとの間で会話が途切れた瞬間を埋めるようにして武偵高中に生徒呼び出しの放送が響き渡る。その内容は装備科(アムド)の平賀文の教務科への召喚だ。

 

 ところで。このどこか間延びしたエセ関西弁の声は確実に綴先生のものだろう。武偵高の教師にしては珍しくほのぼのとした性格の持ち主である綴先生は、高天原先生と並んで東京武偵高の数少ない平和好きの生徒たちにとっての精神安定剤の役目をしっかりと果たしてくれている存在なのだ。おそらくは綴先生の人妻特有の柔らかな雰囲気や物腰が殺伐とした武偵高生活を営む生徒たちに一定の安らぎを与えているのだろう。

 

「……平賀文って人、大丈夫なのでしょうか? ここの所、やけに蘭豹先生に呼ばれてますよね?」

「そういやあいつ、3日に1回は呼ばれてるよな。何か蘭豹先生に目をつけられるようなことでもしでかしたのか?」

「……ご愁傷さまですね」

「全くだ。強く生きろ、平賀」

 

 キンジとアリアは各々の脳裏に粗暴さと凶悪さに定評のある蘭豹先生のことを浮かべつつ、同時にここにはいない平賀に向けて憐みの念を存分に込めた言葉を口にする。

 

 強襲科(アサルト)を専攻しているキンジとアリアは強襲科の教諭を務めている蘭豹先生の恐ろしさを、そして理不尽さをよく知っている。そんな蘭豹先生に睨まれ何度も呼び出されてしまうなんて、平賀は一体何をやらかしてしまったのだろうか? 先生の地雷をどれだけ踏み抜いてしまったのだろうか?

 

「この際、探偵科(インケスタ)の人にでも頼んで、調べてもらうか?」

「……そうですね。こうも頻繁に呼び出しされてると、さすがに事情が気になりますし」

 

 一旦、ここにはいない平賀へと二人で黙祷を捧げた後。キンジとアリアは平賀と蘭豹先生との関係性についての調査の依頼を誰かにやってもらうことに決める。報酬を少々高めに用意しておけば、いくら下手したら蘭豹先生の逆鱗に触れかねない依頼でも進んで引き受けてくれる人(猛者)は現れることだろう。そのような考えの元、二人が報酬金額はいくらぐらいにしようかといった話をしようとした所で、二人の言葉を遮るようにしてピーンポーンパーンポーンと呼び出し音が鳴った。何か伝え忘れたことでもあったのだろうか?

 

『せやせや! あと、2年A組の遠山キンジくん、神崎・H・アリアさん。二人はちょっと教務科のうちの元に来てくれへんかなぁ? こっちは別に急ぎの用事やあらへんけど、できるだけ早く来てくれたらすっごく嬉しいなぁ。あったかい紅茶淹れて待っとるよ~』

「「……えッ?」」

 

 なぜか綴先生から呼び出しをくらったキンジとアリアは互いを見合わせて、それぞれ目をパチクリとさせるのであった。

 




キンジ→遠山金一の死に早くも疑問を抱き始めている熱血キャラ。
アリア→松本屋・武偵高店のゆるキャラ:モモンちゃんのモデルとなった子。『ホームズ補正』、『Sランク武偵補正』、『メインヒロイン補正』、『ぅゎょぅι゛ょっょぃ補正』が掛かっている。
綴先生→エセ関西弁の教師。紅茶好き。ほのぼのとしているが、一応社会人のため、白雪よりはしっかりとしている。某八神家のはやてちゃんっぽい性格だと思ってくれたらわかりやすいかも。何気に二児の母(親バカ)で学生結婚経験者。不定期開催で夫と熱い夜を過ごしている。

 ……さて。ようやく原型を留めていない綴先生を登場させられましたよ。この人に関しては随分前にどう性格改変するかを決めてましたから、出したくて出したくて仕方なかったんですよね。まぁ今回は声だけの出演ですけど。

Q.なぜ平賀さんは蘭豹先生に頻繁に呼び出されてるのですか?
A.蘭豹先生と編集者との三人で新連載の漫画の打ち合わせをするためです。彼女たちの打ち合わせ場所は大概武偵高の教務科(マスターズ)ですので。次点でファミレス。


 ~おまけ(ふと思いついたネタ:原作りこりんの「来な。りっこりこにしてやんよ」のノリの言葉を他のキャラに言わせてみるテスト)~

キンジ「来いよ。キッンキンにしてやるよ」
アリア「それでは早速、リッアリアにしましょうか」
武藤「……来い。ゴッウゴウにさせてやる……」
レキ「来てください。レッキレキにしますので」
白雪「んー? ユッキユキにするー?」
陽菜「いざ尋常に。ヒッナヒナにするでござる」
不知火「かかって来いよ。ヌッイヌイにしてやるぜ」
理子「こっちにおいでよ。りっこりこにしてあげる」
中空知「うん。ミッサミサにしてあげる♪」
ジャンヌ「来るがいい。ダッルダルにしてやろう」

 キンジくんたちがそれぞれどのようなことをするつもりなのかは皆さんのご想像にお任せします。きっと○○で××で『見せられないよ!』なことをするんでしょうね。ええ。

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