【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも。ふぁもにかです。第二章でのユッキーの活躍を今か今かと期待している方々には申し訳ありませんが、ここで外伝に入ろうと思います。いい区切りですし、第二章とも関係する話もありますしね。で、記念すべき外伝第一話の内容はサブタイトルから丸わかりですが、過去編です。原作の設定とはかけ離れた捏造過去回です。ガチのシリアスでも構わないと胸を張って高らかに言える方は――どうぞ。見てやってください。

 でもって、今回の過去編はキンジくん主観の一人称で構成されています。言うならば『Side:遠山キンジ』って所です。まぁ、外伝ですし、いいですよね? チャレンジ心って大事ですしね?



間章 外伝
29.熱血キンジと過去編 前編


 

 2008年12月24日。その日のことは詳しく覚えていない。ただ凍てつくような寒い日だったことは印象に残っている。その日。俺はいつも通りエプロンを装着して夕飯の調理に取りかかっていた。しかし。その日の俺は素晴らしく気合いが入っていたため、その影響でキッチンを包む緊張感が明らかに違っていた。あたかも一流の硬派な料理人の元に弟子入りした未熟者がどれだけ料理スキルが上達しているのかを師匠監修の元で披露する時並みの張りつめたような緊張感がそこにはあった。

 

 それだけ俺が真剣に夕食作りに専念しているのには理由があった。今日は俺の大好きな兄さんが帰ってくる日なのだ。12月24日のクリスマスイブ。この日だけは毎年必ず兄さんは俺の元に帰って来てくれた。プロの武偵としての仕事はハード極まりないはずなのに、いつもは不定期でしか帰ってこれないのに、それでもこの日だけは兄さんは必ず帰って来てくれた。そして。それは普段は遠山金一(orカナ)として義を貫き敵味方構わず助けてきた正義の味方が俺だけを見てくれることを意味していた。

 

 だから。キンジは腕によりをかけて通常よりもはるかに豪華な料理陣を用意する。今年も去年までと変わらずに兄さんが帰ってくると信じて疑わずに。今まで俺は武偵としての腕を磨く傍ら、料理などの家事にも力を入れてきた。当初、俺が料理を始めたのは武偵として激務をこなしている兄さんになるべく負担をかけるワケにはいかないといった強固な思いからだったのだが、今では兄さんをビックリさせるぐらいに上手い料理を作るため、といった動機にシフトチェンジしている。

 

 俺は様々な料理に手を出した。大抵の料理番組には一通り目を通したし、購入した料理本も数知れない。時には試行錯誤して自力でレシピを考案してみたりもした。今日は兄さんの下す評価によってその努力の結晶が実るか否かの審判が下される日となる。……そのはずだった。

 

 けれど。結局、兄さんは帰ってこなかった。代わりに届いたのは一本の連絡。それはアンベリール号沈没事故に巻き込まれた兄さんが殉職したことのみを淡々と伝えるものだった。

 

 頭が真っ白になる。何も考えられなくなる。時が止まったように感じられる。夢だと思えて仕方なくなる。まるで無重力空間にでも放り投げられたかのような感覚。生まれて初めて感じた未知の感覚。群れをなして一斉に襲い掛かってくる混沌とした感情の波に俺はただ溺れることしかできなかった。その後のことはよく覚えていないが、きっと呆然と立ち尽くしていたことだろう。

 

 

――暗転。

 

 

「今回のアンベリール号沈没事故の件についてどう思いますか!?」

「事件を未然に防げなかったことについてどう思っていますか!?」

「遠山金一さんの弟として何か言いたいことはありますか!?」

「黙ったままでは何もわかりませんよ!?」

「何か謝罪の言葉はないんですか!?」

「貴方のお兄さんのせいで多くの乗客の命が失われたかもしれないんですよ!?」

 

 兄さんの遺影を抱えた俺を待っていたのはやけに新品そうなカメラやマイク、手帳等を持った沢山の人たちだった。彼らは俺の姿を捉えると待ってましたと言わんばかりに詰め寄ってきて俺を囲い込み、大音量で質問をぶつけてくる。爛々と輝いた瞳で俺に質問という名の責任追及を行ってくる。

 

(何なんだ、こいつら)

 

 この時。俺が彼ら報道陣に抱いた第一印象は、ハイエナ。死肉を貪る、醜いハイエナ。いや、ハイエナは生き残るために死肉を喰らう分だけマシだが、目の前のこいつらは仕事、いや娯楽のためにこうして俺の前に立っている。兄さんの死をあくまでネタの一つとしてしか見ていない。

 

 質の悪さの次元が違う。気持ち悪さの次元が違う。一応報道関連の仕事をやっているのだからそれなりにレベルの高い教育を受けてきたそれなりに頭のいい連中のはずなのに、どうしてこうも俺に不快感を与えてくるのか。その辺の気配りもできないのか。

 

 そういったことを考えているうちにもマスコミ各社の質問の雪崩はそのスピードを緩めることはなかった。それどころか、無言の俺に対してさらにまくし立てている。どうやら俺にどうしても何か言わせたいらしい。

 

「……うるせぇよ」

「はい?」

「うるせえって言ったんだよ。何なんだよお前ら。葬儀場に乗り込んできたと思ったらギャーギャーギャーギャー好き勝手騒ぎやがって。人が一人死んだんだぞ。お悔やみの言葉一つも言えねえのかよ。頭おかしいんじゃねえのか」

 

 俺はつい本音を口に出してしまった。眼前のマスコミ各社(野次馬)相手に取り合うつもりなんて欠片もなかったのに、気づけばポロッと言葉を零してしまっていた。俺が何か喋ったのに目ざとく気づいた一人が疑問の声とともに俺にマイクを突きつけてくる中、俺は堰を切ったかのように言葉があふれてきた。

 

 目の前の連中が自身の行いを正しいことだと信じて疑ってないようにみえて。兄さんの死をスクープとして扱えない連中が兄さんと同じように正義の言葉を振りかざしているようにみえて。そんな薄っぺらい偽善を掲げる連中に、酷く苛立ちを感じて仕方なかった。

 

「お前らの顔なんて見たくない。さっさと消えろ。二度と俺の前にやってくんな」

 

 意図的なのか無意識なのか。相変わらず俺の行く手を遮ったままその場を動こうとせずに質問の嵐をぶつけようとする記者連中に俺は言葉を続ける。生中継されていることはわかっていた。俺が強い口調で話せば話すほど、俺や兄さん、そして武偵全体の印象が悪くなってしまうことはよくわかっていた。だけど。もう、限界だった。

 

 お前らが兄さんの何を知っている? ふざけんなよ。兄さんがどんな武偵だったかロクに知らないくせに。兄さんがどれだけの人を救ってきたかも知らないくせに。調べようとすらしないくせに。テキトーなこと言うんじゃねえよ。好き勝手言うんじゃねえよ。兄さんを、俺の兄さんを、否定するな。

 

「質問に答えてください!」

「逃げるんですか!?」

「……あー」

 

 もう一秒だってこの場にいたくない。俺が取り囲むマスコミ関係者どもを掻き分けるようにして帰ろうとした所、背後から俺の行動を責める声が届く。それが契機だった。

 

 気づけば俺は拳銃を取り出し、発砲していた。俺の放った銃弾がマスコミ各社の持ち寄っていた新品のカメラを全て撃ち抜いていた。いくら俺が武偵高の生徒だとはいえ、さすがに俺が葬儀場にまで銃を携帯してさらに発砲してくるとは思っていなかったのか、報道記者たちの動きはあたかも彫像のごとく完全に静止する。その内、二割ほどの記者が思わずといった風に腰を抜かしていたのがいい気味だった。

 

「――聞こえなかったのか? 消えろっつってんだよ。いい加減にしねえと……コロスゾ?」

 

 俺は怒りを始めとした収集のつかない鬱屈とした感情の塊を殺気に乗せてマスコミ連中に容赦なくぶつける。心の奥に押しとどめられなくなった混沌とした感情を殺意に変換して外に吐き出す。我ながら何て酷く底冷えのする声だと思った。それが引き金となったのか、火の粉を散らすようにして退散する記者連中。その逃げ足の速さだけは素直に賞賛したい気持ちに駆られた。

 

 

――暗転。

 

 

 気づいたとき、俺は遺影を優しく抱えたままリビングに突っ立っていた。いつ帰って来ていたのかなんてわからない。気づけばここに立っていた、それだけだ。

 

「……」

 

 俺はふと遺影の中の兄さんを覗き込んでみる。ふと遺影に映る兄さんの彫刻のように整ったとても男とは思えない端整な顔を眺めてみる。

 

 いつか。いつかこんな日が来るんじゃないか。俺は何となくそう思っていた。少なくとも兄さんにまともな死は訪れないだろうとは思っていた。敵味方構わずに助ける。手を差し伸べる。誰一人死なせずに事を終わらせる。それは簡単にできることじゃない。むしろ不可能に近い。だから人は自分の身の安全を守るためにどこかで妥協するのだ。線引きをするのだ。適当に言い訳を考えて。あるいは眼前の光景から目を逸らして。

 

 けれど。兄さんは決して線引きをしなかった。誰であろうと助ける正義のヒーローであり続けた。現場に向かう数だけ無茶を続けてきた。だから。己の義を一心に貫き続ける兄さんはいつ死んだって何らおかしくはなかったのだ。

 

「……」

 

 でも。同時に、そんな日が来るのはもっと先だとも思っていた。俺が武偵高を卒業して、現役として前線で活躍して、経験と実績を積んで強くなって、憧れの兄さんと肩を並べて共闘して、いい人を見つけた兄さんをからかってみたりして。そんな遥か遠くの未来の果てであっさりと殉職する。そういうものだと思っていた。何の確証もないのに。武偵なんて危険過ぎて命がいくつあっても足りないのに。いつ死んだって何ら不思議じゃないはずなのに。ただ漠然とそう思っていた。思い込んでいた。信じて疑わなかった。

 

「……兄さん」

 

 俺は掠れきった声とともに遺影を頭上に掲げる。今度は両手でしっかりと持ってみる。そのまま兄さんの澄んだ翠色の瞳をじっと見つめてみる。

 

『キンジ』

 

 すると。写真の中の兄さんが俺を優しく呼んでくれたような気がした。果たして、その声は兄さんのものか、それともカナのものか。ともかく俺が幻聴を耳にした時、脳内に兄さんとの様々な思い出がフラッシュバックされた。笑ってる兄さん。怒ってる兄さん。悩んでる兄さん。顔立ちが人間のものとは思えないほどに実に整っているのでどの兄さんも凄く絵になっていた。けれど。俺はもう、どの兄さんにも二度と会えないのか。

 

「兄さん……ッ!」

 

 俺の頬を一筋の涙が伝う。一度涙が零れたことで俺の目からボロボロと涙があふれ出てくる。この時。初めて。俺は号泣した。兄さんの死をしかと認識したからであろう。とにかく俺は、泣いて泣いて、涙で顔がグチャグチャになるのも構わずに無様に泣き続けた。

 




キンジ→過去に少々やらかしてしまっている熱血キャラ。

 はい。というわけで、シリアスチックな過去編前編はこれにて終了。次話はシリアス(?)な過去編後半へとTO BE CONTINUEDとなります。このままじゃ終わりませんよ。


 ~おまけ(その1 NGシーン)~

記者A「今回のアンベリール号沈没事故の件についてどう思いますか!?」
記者A「事件を未然に防げなかったことについてどう思っていますか!?」
記者A「遠山金一さんの弟として何か言いたいことはありますか!?」
記者A「黙ったままでは何もわかりませんよ!?」
記者A「何か謝罪の言葉はないんですか!?」
記者A「貴方のお兄さんのせいで多くの乗客の命が失われたかもしれないんですよ!?」
キンジ「……(記者が一人しか来てないんだが。つーかこいつ一人だけなのによくやってるよなぁ。←しみじみといった眼差し)」
記者A「そ、そんな生暖かい眼差しで僕を見るなぁぁぁぁああああああああああああ!! うわああああああああああああああああん!!(←退散)」


 ~おまけ(その2 NGシーン テイク2)~

記者A「j;aptjamp;asgj;aptw03t;bm;ge:tka:p?」
記者B「◇◎◆▼%#@*=<▲☆+¥■×&%?」
記者C「شكتشلشخثلخكىلكخلاحسشلاةسييسبةوثكنقشكثلكثلكئحثيثذ?」
記者D「(✧≖‿ゝ≖)(  ・ิω・ิ) |ω・`)チラ(☆Д☆) (;゚Д゚)(゚Д゚ლ(◉◞⊖◟◉`ლ)?」
記者E「くぁwせdrftgyふじこlp?」
記者F「\\\\\\$\\\\\\\\\\\\\\\?」
記者G「→←Ⓐ↑↑←Ⓑ↓→Ⓐ→↑?」
記者H「室召坪是胥泅昶炭峙汁汞;址寸仍泅伋永昌?」
記者I「3920174053098320740790305702470397402492742?」
キンジ「……(日本人記者が一人もいないッ!? つーか何語!? 何語喋ってるの、この人たち!?)」

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