【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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??「久しぶりの出番ですね」

 というわけで、どうも。ふぁもにかです。原作1巻クライマックスのハイジャックの一件が前回までで終了したので、ここからは事後処理関連の話です。第一章『熱血キンジと武偵殺し』が終わるまであと3,4話はかかることでしょう。ええ。そして。今回はあの子の出番です。ここの所登場する機会のなかったあの子の出番です。この辺で出しとかないと出番ゼロになりかねませんからね、あの子。

P.S.今回、『熱血キンジとパートナー』の方におまけを一つ追加しておきました。よかったら見てやってくださいませ。



23.熱血キンジとエンカウント

 

 その日。雲一つない快晴の空の下。キンジはとある事情により一人、外出していた。目的地は新宿である。ちなみに。今のキンジが着ているのはいつもの武偵高の制服でなく私服であり、黒と白を基調としたモノトーン調のデザインとなっている。あまり派手派手な服を好まないキンジらしい選択と言えよう。尤も、そう遠くない未来にキンジはこの選択を激しく後悔することになるのだが。

 

 昼前に新宿に到着する予定の元、おもむろに歩を進めるキンジ。だが。その行く手を遮る者が路地裏の方から現れた。

 

「おはようございます、キンジさん」

「ゲッ、レキ」

「話は聞きましたよ。例の武偵殺しの模倣犯を撃退したそうですね。さすがは私の永遠のライバルです」

「……まぁ、結局逃げられたけどな。つーかお前、相変わらず俺をライバル認定してるんだな」

「はい。キンジさんは私の越えるべき巨壁ですから」

 

 キンジは緑髪琥珀眼の無表情少女:RBR(ロボットバトルジャンキーレキ)を視界に捉えると思わずげんなりとした表情を浮かべた。レキとのエンカウントの約8割がロクなことにならない以上、レキの登場に対するキンジのこの反応は仕方ないだろう。一方、レキはキンジの反応を気にも留めずに淡々と言葉を紡いでいく。

 

 レキの称賛はあまり抑揚の感じられないものなのだが、それでも素直に嬉しい。同じSランクの少女が俺の実力をかってくれていることは純粋に誇らしい。前にも述べただろうが、キンジはレキが嫌いなわけではない。むしろ。以前のバスジャックの時のように命懸けの戦闘が発生しない限りは割と話しやすい相手だと思っているぐらいなのだから。

 

「そっか。だったら俺もこれから一層精進してレキに簡単に抜かれないようにしないとな。越えるべき巨壁があっさり攻略されるのは俺にとってもレキにとってもよろしくないだろうし。それじゃあな、レキ。俺、今から急用があるから――」

 

 キンジは空を見上げてうんうんと一人うなずくと、話を早々に切り上げてレキからの穏便な退散を試みる。今日のレキはいつものように出会い頭に攻撃するようなバトルジャンキー気質あふれる真似をしていない。心なしか、レキの醸し出す雰囲気も珍しく穏やかに感じられる。もしかしたら今日のレキに戦意はないのではないかとのほのかな期待にすがりつつ、キンジはレキに背を向けてその場を離れようとする。

 

「逃がしませんよ」

「――ッ!?」

 

 しかし。そうは問屋が卸さなかった。世界はいつだってこんなことじゃなかったことばかりとはよく言ったものである。レキはいつの間にやらその手に装備したドラグノフ(銃剣装着済み)でキンジに風を纏った強烈な刺突を放ってきた。閃光のごとくキンジに迫る刺突はとてもレキの細腕から繰り出した攻撃とは思えない。キンジは自身の顔面に向けて放たれた一撃を間一髪、顔を後ろにそらすことで避けることに成功した。あとほんの一瞬でも反応が遅れていれば今頃キンジの右目が容赦なく貫かれていたことだろう。

 

「……(今のは本気で危なかった! 死ぬかと思ったぞ!?)」

「この攻撃も当たりませんか。今のは6割方本気の一撃だったのですが……」

「な、なぁレキ。今日はこの辺で矛を収めてくれないか? 俺、今日は外せない用事があるんだよ。模擬戦ならまたの機会に存分に相手するからさ、な?」

「その提案は拒否します。折角こうして会ったんです。ライバル同士、互いに切磋琢磨するのは当然の流れでしょう、キンジさん? さぁ、始めますよ」

 

 キンジが無意識のうちに自身の目が貫かれ「目がァ! 目がァァアア!!」とのたうち回る姿を想起してしまい、無言のままゾワリと体を震わせていると、レキはひとまずバックステップでキンジと距離を取ってからどうすればキンジを倒せるかといった思索に入る。その姿は無表情ながらどこか思案顔のようにも見える。キンジはレキの攻撃の手が止んだその隙に、先までとは打って変わって殺気ダダ漏れのレキの説得を敢行するもあえなく失敗。レキとの戦闘を回避するどころか、レキの殺気が爆発的に膨れ上がったことから、レキの戦意を無駄に駆り立てる結果になってしまったようだ。

 

「ちょっ、待て、レキ! 待ってくれ! 俺今武器持ってないんだけど――ッ!?」

 

 殺す気満々になっているレキを前に焦ったキンジは必死に声を上げる。その声が裏返っていることに本人が気づいていない辺り、いかにキンジが焦っているかがわかるというものだ。

 

 先に述べたように今のキンジは私服である。もちろん、防弾仕様ではない。敢えて言うならいかなる銃弾も簡単に通す貫通仕様だ。さらにキンジの向かう目的地での用事が用事だったため、今のキンジは武装らしい武装を何一つしていない。つまり。今のキンジは丸腰である。防弾制服も武器もなしにレキと戦うことを何としてでも避けたい一心でキンジは説得の言葉を重ねようとするもレキはキンジの主張を聞き入れることなく一直線に突貫してきた。

 

 ただの細身少女の突貫と侮ってはいけない。レキほどの実力者が全体重を込めて放つドラグノフの刺突はもはや一撃必殺の域に達しているといっても過言ではない。モロに喰らおうものなら防弾制服を着ていない今のキンジなど一たまりもない。この場に一つの地に伏す屍ができることは想像に難くない。キンジは体を回転させて半身になることでドラグノフの刺突をかわし、そのままの勢いで足に力を込めて後方に退きレキから数歩分の距離を取る。

 

(――やるしかないか)

 

 この時、もはや言葉でのレキの説得は不可能だと悟ったキンジは生き残るためにレキの連撃をかわすことに全神経を注ぎ込みつつ反撃の機会をうかがうことにした。その瞳にはメラメラと闘志の炎が宿っている。

 

 武器がないから何だ? 防弾制服がないから何だ? そんなの、俺が負けていい理由にはならない。俺は遠山キンジ。世界最強の武偵を目指す男だ。いずれRランク武偵の称号を手に入れ、武偵の頂点に君臨する人間だ。だったら。いかなる状況であってもレキの一人や二人、軽く倒せなくてどうする!? これは試練だ。俺が一段階先へと成長するための試練。ならば。窮地を切り開いてみせろ! 乗り越えてみせろ! 遠山キンジ――!

 

 キンジは己を奮い立たせるために自身に語りかける。ひたすら己を鼓舞する。ヒステリアモードに移行する時とは全く質の違った血液の沸騰をその身に感じつつ、能面のようなレキの表情を鋭く見据えて――

 

(うん、やっぱ無理)

 

 ――あっけなく心が折れた。バッキバキに戦意が折られた。荒れ狂う殺気を身に纏うレキを前にキンジの血液は瞬時に冷却された。この瞬間、キンジは己の全てを回避&逃亡に注ぎ込むことに決めた。

 

 レキはドラグノフを手に攻撃は最大の防御という言葉を体現するかのように暴風雨のごとき猛攻を繰り出してくる。対するキンジはレキから一瞬たりとも視線を逸らさずにレキの数秒先の行動を先読みすることによりどうにかレキの怒涛の攻撃を一度も喰らわずに済んでいた。

 

 しかし。体力の問題上、いつまでもレキの攻撃を避け続けることはできない。どうしたものか。キンジは一つの判断ミスが死に繋がりかねない現状において起死回生の策を思いつこうと必死に頭を回転させる。その最中。キンジがレキの強烈極まりない突きの一撃を横っ飛びで避けた時、キンジはふと地面に落ちている、キラリと太陽光を反射する何かを視界に捉えた。

 

(――あれはッ!?)

 

 奇跡的に思わぬものを発見したキンジは光を反射する物体:果物ナイフに文字通り飛びつくと弾かれたかのように立ち上がり、今にもキンジの心臓を貫かんと迫るドラグノフの銃剣部分に果物ナイフを宛がうことで軌道をずらす。

 

(やっぱ、武器があるのとないのとじゃ全然違うな)

 

 偶然にも果物ナイフを手に入れたことで少しだけ精神的に余裕を取り戻したキンジは思わず笑みを零す。この果物ナイフがあるだけで、丸腰の時のようにレキの攻撃を屈んだりのけ反ったりといった割と体力をすり減らす回避方法を使う回数を減らすことができるからだ。

 

 武器を拾ったことで幾分か考える余裕ができたキンジがレキに悟られないように目線で逃走ルートを探っていると、眼前のレキの攻撃パターンが突如として変貌した。レキがいきなりドラグノフを上空高くに投げ飛ばしたかと思うと、背中から拳銃二丁を取り出し間髪入れずにキンジへとズガガガガン! と発砲してきたのだ。

 

「――なッ!?」

 

 これにはキンジも驚きの声を隠せなかった。これまでのレキとの戦闘において、レキは何だかんだでドラグノフのみを使用してきた。そのため、レキとの幾度もの戦闘を経るにつれてキンジはそれが近接戦におけるレキのこだわりなのだと思っていた。思い込んでいた。そのレキが今回ドラグノフ以外の新たな武器を戦闘に導入してきたことに、バトルジャンキーが色々と進化を遂げていることに、キンジは驚愕した。

 

 しかし。予想外の事態が起こった程度で動きを止めるキンジではない。キンジは迫りくる銃弾の弾幕をたぐいまれなる反射速度でかわし、避けきれないものは銃弾切り(スプリット)で弾丸を斬ってどうにか無傷のまま弾幕をやり過ごす。

 

 弾幕を張っていた張本人たるレキは弾切れになった拳銃二丁を何ら躊躇なくポイ捨てすると、ちょうどいいタイミングでレキの手元へと落ちてきたドラグノフを再び装備する。そこから再び始まったレキのドラグノフを使った有無を言わせぬ猛撃をキンジは果物ナイフを駆使して寸での所でいなし続けていく。

 

 どこまでも攻撃に比重を置くレキにどこまでも防御に比重を置かざるを得ないキンジ。戦闘における二人の関係性は覆ることなくただ時間だけが過ぎていく。そして。二人の攻防が始まってから数分が経った頃。レキはスッと胸ポケットに手を滑り込ませ、そこから取り出した銃弾をピンと親指で弾いた。それは初めて見る銃弾だったが、キンジは直感的に気づいた。今クルクルと宙を舞う銃弾は以前理子が意図せず使用した閃光拳銃弾(フラッシュ・グレネード)と同質のものだと。

 

 瞬間、周囲一帯を何とも形容しがたい爆音が襲った。

 

「~~~ッ!?」

 

 キンジは鼓膜を容赦なく打ちつける爆音に思わず耳を塞ぐ。あまりの爆音に声にならない悲鳴を上げ、ガンガンと痛む頭を抱えて膝をつく。その際、キンジの手からスルリと果物ナイフが滑り落ちていったのだが、そのことに気づく余裕など今のキンジにはなかった。ちなみに。地面に倒れ伏さなかったのは単にキンジの意地の問題だ。

 

 音響弾(カノン)。それはとてつもなく大きな音で相手の戦意を喪失させる武偵弾だ。その威力は絶大で、音響弾発動前に何らかの形で耳を塞いでいないと相手に致命的な隙を晒してしまうことは確実だ。

 

 イ・ウーという巨大犯罪組織に所属している理子はともかく狙撃科(スナイプ)Sランクとはいえ一武偵高生徒にすぎないレキはどうやって武偵弾を入手したのか。しかもそれを俺との模擬戦のためだけに使うなんて一体どういう神経をしているのか。脳裏にレキに関する疑問が次々と湧き上がるがズキズキと響く頭痛がそれらをことごとく打ち消していく。キンジの思考を妨害してくる。

 

 膝をつき果物ナイフを手放したキンジへとレキは駆ける。平然としていることからレキはきちんと音響弾対策を施していたのだろう。レキのヘッドホンは遮音効果をも兼ねていて、先までの会話は読唇術の助けを借りて行っていたといった所か。何せレキも読唇術を極めている一人だったりするのだから。

 

「――ッ」

(あ、俺、死んだかも――)

 

 顔面を貫かんと迫るドラグノフ(銃剣モード)を前にキンジはふと己の死期を悟る。音響弾の影響をモロに受けたばかりでまともに回避行動に移ることすら叶わない今のキンジではレキの攻撃を避ける術がない。あったとしてもその悉くが実行できない。それゆえの死期悟りだ。

 

 最後の望みとしてはレキが寸止めで攻撃を止めてくれることがあるのだが、その可能性は限りなく低いだろう。レキは以前、いざとなったらきちんと寸止めしますので安心してください的なことを言っていたが、同時にレキは俺の実力を高くかっている。もしも俺がこの攻撃も難なく避けられるものとレキが思い込んでいたらもうどうしようもないのだ。

 

(走馬灯って、実際には浮かばないもんなんだな……)

 

 キンジはふとした感想を抱きつつ、目を瞑ることだけはしまいと死刑執行人レキをしっかりと見据える。と、その時。二人の元に何とも心地よい風がフワリと舞った。

 

 

 ――余談だが、同刻。白雪が常日頃から愛用していたガラス製のコップに突如ピキリとヒビが入ったそうだ。

 




キンジ→ただいま絶体絶命な熱血キャラ。心が折られることもある。
レキ→進化するバトルジャンキー。久々の出番のため、色々とはっちゃけている模様。読唇術を極めている。

 はい。というわけで、事後処理話の1話目がこれにて終了です。あれ? おかしいな。今回の話はいわば原作1巻のエピローグ的な話のはずなのに早速キンジくんの死亡フラグが発生してる件について。むしろ原作1巻クライマックス以上にキンジくんがピンチになってる件について。レキさん怖い。マジ怖い。

 ちなみに。熱血化しようとしていたキンジくんがレキさんを前にまともな戦闘を諦めた時の心情は巨人に立ち向かおうとして当の巨人にニッコリと微笑まれたハンネスさんの気持ちを考えたらよくわかると思います。

 ~おまけ(その1 NGシーン:パロネタ)~

キンジ「な、なぁレキ。今日はこの辺で矛を収めてくれないか? 俺、今日は外せない用事があるんだよ。模擬戦ならまたの機会に存分に相手するからさ、な?」
レキ「その提案は拒否します。折角こうして会ったんです。ライバル同士、互いに切磋琢磨するのは当然の流れでしょう、キンジさん? さぁ、始めますよ」
キンジ「……レキ。何だか、今日は風が騒がしいな(←遠い目で)」
レキ「キンジさん?」
キンジ「どうやら風が、街に良くないものを運んできちまったみたいだな……(←ポケットに手を突っ込みつつ)」
レキ「……でも少し、この風……泣いています」
キンジ「急ごう。風が止む前に……(←レキの隣を通り過ぎてその場を離脱しようとするキンジ)」
レキ「逃がしませんよ?(←ドラグノフを突きつけつつ)」
キンジ「クッ……(これでもダメか……)」

 ざんねん! ばとる じゃんきー から は にげられない!


 ~おまけ(その2 NGシーン)~

レキ「――ッ(←銃剣付きドラグノフでキンジの顔面を狙うレキ)」
キンジ「……(あ、俺、死んだかも――)」
レキ「……うむ(←キンジの頬をかすめるようにドラグノフの一撃を放った後、何事もなかったかのように装備を解くレキ)」
キンジ「……あれ? 死んでない?(頬にスッと入った切り傷を指で確認しつつ)」
レキ「キンジさん。右頬に蚊がついていましたよ?(←銃剣の先端に刺さった蚊の死骸(自身が吸った血をまき散らしている)を指で示しつつ)」
キンジ「え、あ、あぁ(……ちょっと待て。レキが襲ってきたのって、まさか俺の頬についてた蚊を殺すため!? え、何それ。何なのそれ。紛らわしいにも程があるんだけど!?)」

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