【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

21 / 147

キンジ「これが俺の全力全開ッ! 響け、ヒステリア・サヴァン・シンドローム!」

 というわけで、どうも。ふぁもにかです。サブタイトルと上記のキンジくんのネタセリフからもわかる通り、ついにキンジくんが本領を発揮するようです。非オリ主モノ(キンジ主人公モノ)の緋弾のアリア二次創作なのに21話にもなるまでキンジくんが覚醒しなかった作品はきっとこれが初めてでしょうね。でもって、今回は割と地雷回。人によってはキンジくんの印象が下方修正されるかもしれない回ですしね。その辺は心して読んでくれるとありがたいです。

 あと、今回は私が色々と調子に乗った結果、あとがきのおまけがその3まであったりします。というか、本編でまだまだ出てくる予定のないキャラをあとがきのネタするのは正直な所、どうなんでしょうね。

P.S.『熱血キンジと神崎かなえ』のあとがきにふと思いついたおまけを投下しておきました。良かったら覗いてやってくださいませ。



21.熱血キンジとHSS

 

 ANA600便。それは、突如武偵殺しにハイジャックされ、続いてイ・ウーからの贈り物らしいミサイル二発をモロに喰らうこととなり、さらに航空自衛隊員が操縦する戦闘機による撃墜の可能性をチラつかせられた、立て続けに不幸な目に遭っている何とも不憫なセレブ御用達のチャーター便。

 

「……本当に離れていきますね。どうなっているのでしょうか」

「わからない。ただ一つだけ言えるのは、俺たちは今ついているということだ」

 

 そのコックピットにて。キンジは不思議そうに首を傾げるアリアを横目に戦闘機の方を指さす。キンジが指し示す方向には急降下とともにキンジとアリアの視界から消えていく戦闘機の姿があった。どうやら彼ら航空自衛隊員にとっては何とも運の悪いことに、キンジたち武偵にとっては素晴らしく運の良いことに戦闘機に何らかの不具合が発生したようだ。もちろん、戦闘機がおかしな動きを見せる原因は理子の戦闘機ジャックによるものなのだが、その事実をキンジたちが知る由もない。彼らにわかることは、何はともあれこれで戦闘機によるANA600便撃墜の可能性に神経を尖らせる必要がなくなったということぐらいだ。

 

『……でも。羽田空港や成田空港への着陸が、できないことには変わりない……』

『武藤の言う通りだ。あの辺の空港は今もうざってぇ自衛隊どもが封鎖してる。で、実際のとこ、どうすんだ、キンジ? 羽田成田がダメならどこか近場の地方空港にでも着陸するか?』

「あー、それはちょっとできそうにないかもしれない」

『……どういうこと……?』

「言い忘れてたんだけど、この飛行機……さっきミサイル喰らったんだよね。それも二発。どこに当たったかはよくわからなかったんだけどさ。この飛行機、もうあんまり持たない気がする。正直言って勘だけど」

 

 キンジはバツが悪そうに頬をポリポリと掻きつつ、ANA600便が先ほどミサイル攻撃に遭ったことを通信を通して武藤たちに手短に話した。ミサイルを二発も喰らっておいてANA600便に何も不具合がないとはさすがに思えない。ミサイル二発がANA600便のどこかに命中したことが確実である以上、この飛行機が長時間飛行を続けられるなどといった希望的観測を抱くことはあまりにも無理があった。少なくとも、キンジにはこの状況下で楽観的になどなれそうにもない。

 

 もちろん、話の際にイ・ウーのことは伏せておいたが。現状においてわざわざイ・ウーの名前を出す必要はないし、口にすれば色々とややこしくなりかねないからだ。

 

 

『はァ!? そういう大事なことはもっと早く言いやがれ、キンジ!』

「悪い。すっかり忘れてた」

『……キンジ。操縦室で何か警告音が鳴ったり、エラーメッセージが出たりしてる……?』

「いや。特にそういったものは出てないが?」

 

 キンジは寝耳に水極まりない情報に声を荒らげる不知火に軽く謝罪の言葉を告げる。続いて、キンジは武藤からの問いを受けてアリアへと確認の意を込めた目を向ける。基本的に武藤たちとの応対はキンジに一任する形になってはいるが、それは別にアリアに武藤たちの声が届いていないというワケではないのだ。キンジはアリアが首をフルフルと静かに振るのを見てから武藤に返答する。

 

『……じゃあ、キンジ。燃料計は読める……?』

「ええと。前に表示されてる数字で合ってるよな」

『……うん。それ……』

 

 しばしの沈黙の後、武藤は別の角度から質問を投げかけてくる。キンジは武藤に示された通りに燃料計へと視線を向けてみると、燃料計の数値が徐々に減っているのがわかった。秒単位で減っていく数字にキンジはどことなく不安感を抱きつつ「えっと、今240だ。235、233……まだまだ減ってるぞ」とキンジは素直に返事を返す。その内容に武藤が息を呑んだことに、キンジは気づいた。

 

『……マズい。燃料が漏れてる。ミサイルでエンジンがやられたのかも……』

「えッ!?」

「ッ!? 武藤、あとどれくらいもちそうだ?」

『……もって10分……』

 

 武藤の口から告げられた、ANA600便のタイムリミットのあまりの短さにキンジは「マジかよ……」と思わずため息を吐く。燃料切れまでの残り時間にもう少し余裕があれば先に不知火が言ったように少しばかり遠くの地方空港に着陸することも一つの選択肢となり得た。だが。今現在東京湾上空を飛んでいるANA600便にタイムリミットが10分しか残されていない以上、着陸先の候補となり得る場所は羽田空港しか存在しない。だが。その唯一の着陸場所は自衛隊によってしっかりと封鎖されている。無理に着陸しようとすればそれこそいい的だ。撃墜されるのは目に見えている。

 

(この状況、思ったよりヤッバいな……)

 

 キンジは改めて現状がいかに絶望的なのかを認識する。着陸できる場所は羽田空港のみ。しかし。その羽田空港は使えない。他に何か手はないのかとキンジは必死に考えを巡らせる。と、そこで。ふとキンジの脳裏に一つのアイディアが浮かんだ。

 

「なぁ武藤。この飛行機が着陸するのに必要な距離を教えてくれ」

『……正確な数値は出せない。風向き次第でかなりの誤差が生じるから……』

「大体で構わない。何メートル必要だ?」

『……最低でも2千メートル以上は必要……』

(ギリギリだな……)

 

 キンジは武藤の発言から今しがた閃いた考えが中々に賭けであるという事実を否応なしに突きつけられたことで、表情を厳しいものへと変える。だが。今こうして他の方法を模索しているうちにも、ANA600便のタイムリミットは刻一刻と迫ってきている。もはや悠長に考える猶予など残されてはいなかった。

 

「そうか。わかった。なら話は早い」

「? 何か思いついたのですか?」

「あぁ」

 

 どこか不安そうな眼差しを向けてくるアリアにキンジは力強く頷くとおもむろに目を閉ざす。目的は遠山家の切り札、ヒステリア・サヴァン・シンドロームの発現だ。ヒステリアモードは性的興奮を感じβエンドルフィンが一定以上分泌されることで発生する遠山家の一族が持つ特異体質だ。ほんの些細な操縦ミスも許されないこの現状において、航空機の操縦に関する知識が心もとない上に操縦経験に至っては全くのゼロと言っていいキンジにとって、思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上するヒステリアモードは非常においしい。むしろ利点しかない。

 

 問題はこの危機的状況でいかにしてヒステリアモードになるかということなのだが、その点は既に解決済みだ。ヒステリアモード発動の条件が性的興奮もとい異性に対する興奮ではなくβエンドルフィンの過剰分泌だと気づいたのは、何らかの形で性的興奮を感じさえすればヒステリアモードに切り替わることができると気づいたのは、果たしていつのことだったか。

 

 その事実を悟った俺は女子と能動的あるいはなし崩し的に接触する以外のやり方でいつでもヒステリアモードになれる方法を模索した。ヒステリアモードが必要となる時、つまりノーマルモードの俺で対処できない抜き差しならない事態が迫っている時に場違いにも女子と過剰な接触ができるはずがないからだ。ラブラブの恋人関係を築いている相手が偶然にも傍にいるのならともかく。

 

 ゆえに俺は探した。一瞬でヒステリアモードに切り替わる方法を。やろうと思えばいつでもどこでもヒステリアモードに移行できる手段を。そして。数えきれないほどの試行錯誤の末。俺はついに一つの方法にたどり着いた。その方法とは――

 

『カナ姉カナ姉! 俺、今日学校のテストで100点取ったよ!』

『あら! おめでとうキンジ! 凄いわねぇ』

『えへへ~♪ 凄いでしょ!』

『うんうん。凄い凄い。さっすが私のキンジ』

『わぷッ!? カナ姉!?』

『よしよし。キンジ、貴方は私の誇りよ』

 

 ――兄さんもといカナに褒められ頭を優しく撫でられ抱き止められたあの頃の思い出を掘り起こすこと。何かとスキンシップの多かった兄さんまたはカナとのかつての日々を脳裏に呼び起こすこと。ちなみに。この時、兄さんを想起するよりかはカナモードの兄さんを想起した方が遥かにヒステリアモードになりやすい傾向があるのは、やはりカナモードの兄さんが女装を通り越して一つの美を大成しているように思えてならないからだろう。カナはそこらの女性よりも女性らしいのだから。

 

 さて。思い出せ、遠山キンジ。カナの手の温もりを。慈愛に満ちた眼差しを。天使のようななんて表現が霞むほどの微笑みを。不思議と安心できる匂いを。とても鍛えてるとは思えないほどの体の柔らかさを。温かな体温を。トクントクンと一定のリズムを刻む心音を。思い出せ。兄さんの全てを。カナの全てを。隅々まで。髪の毛一本まで。記憶が曖昧な所は都合のいいように補填しろ。ネオ武偵憲章第百二条、考えるな、感じろ――

 

(……よし。なったな)

 

 キンジは身体の芯に沸騰しきった血液が徐々に集まっていくような感覚から無事に自身がヒステリアモードに切り替わったことを確信する。目を瞑ったままだというのに操縦室の機材の配置や隣に座るアリアの様子が手に取るようにわかるのが良い証拠だ。

 

 キンジはヒステリアモードを必要とする時、毎度のごとく兄(というかカナ)とともに過ごした幼少期に思いをはせる。兄を、そしてカナを崇拝しているといっても過言ではないキンジだからこそのヒステリアモードへの移行方法である。幼少期における兄との思い出に触れるだけでヒステリアモードに移行できるようになったキンジ。ブラコン(シスコン?)もここまで極めればもはや称賛されてしかるべきではないだろうか。

 

「今からANA600便を学園島のメガフロートに着陸させる」

 

 かくして。久しぶりに奥の手:ヒステリアモードを解禁したキンジはクワッと目を開けて漆黒の瞳をキリッと細めると、不敵な笑みとともに自身の策を口にしたのであった。

 




キンジ→兄との思い出を想起するだけでヒスれる熱血キャラ。ブラコン(シスコン?)をこじらせまくっている。
アリア→今回、影が薄い(セリフがほとんどない)子。
武藤→寡黙キャラという初期設定にしてはわりと長文を喋ってるチートスペック男。
不知火→今回のリアクション担当。
カナ→???(まだ秘密)

 今回は割と原作沿いになりましたね。というか、この辺は早々原作ブレイクなんてできませんからね。第三者の手による羽田空港封鎖中の自衛隊を殲滅→羽田空港着陸とかも考えはしたんですけど、それはさすがに無茶が過ぎますしね。後始末も非常に面倒なことになりそうですし。


 ~おまけ(その1 NGシーン)~

幼少キンジ『えへへ~♪ 凄いでしょ!』
カナ『うんうん。凄い凄い。さっすが私のキンジ。……絶対に誰にも渡さないわ(ボソッ←キンジを抱き寄せつつ)』
幼少キンジ『わぷッ!? カナ姉!?』
カナ『(キンジは私だけのキンジだもの。キンジの笑顔も困った顔も寝顔も怒った顔も泣き顔も悲しそうな顔もぜーんぶ私だけのもの。他の泥棒猫(男女問わず)なんかには絶対に渡さないわ。……そうね。今のうちにキンジに悪い虫がつかないようにしっかりと手配しないといけないわね。安心して、私の愛しいキンジ。私が貴方を守るから。フフフフフフフ――)』
幼少キンジ『カ、カナ姉? どうしたの? 何か怖いよ?』
カナ『ッ! 何でもないわ。よしよし。キンジ、貴方は私の誇りよ』


 ~おまけ(その2 NGシーン テイク2)~

幼少キンジ『えへへ~♪ 凄いでしょ!』
カナ『うんうん。凄い凄い。さっすが私のキンジ(←キンジを抱き寄せつつ)』
幼少キンジ『わぷッ!? カナ姉!?』
カナ『(あぁ。可愛い。貴方は何て可愛いの、キンジ。貴方はまるで天使ね。遥か天の彼方から舞い降りてきた天使。だって、貴方は純白の天使の羽と後光を幻視してしまうほどに可愛くて純粋なんだもの。あぁ。ダメ。ダメよキンジ。そんな透き通った小動物のような黒い瞳で私を見ないで。これ以上貴方のクリクリとしたつぶらな瞳で見つめられたら私、私ッ――)』
幼少キンジ『カ、カナ姉? どうしたの? 何か変だよ?』
カナ『ッ! 何でもないわ。よしよし。キンジ、貴方は私の誇りよ(いけないいけない。危うく理性をすっ飛ばしてとんでもないことをやらかしてしまう所だったわ。さすがに近親相姦は色々とマズいものね。よく耐えたわ、私)』


 ~おまけ(その3 次回予告、アニメ風)~

アリア「キンジ! やりました! ついにやりましたよ、私!」
ヒスったキンジ「どうしたんだい、アリア。急にそんなに嬉しそうな声を出して。それより、今飛行機を着陸させようとしているから少しだけ落ち着いてくれるとありがた――」
アリア「今ちょうどメールが来たのですが、どうやら懸賞が当たったみたいなんです! 二泊三日のイタリア旅行です! 応募した覚えは全然ないのですが、やっぱり日頃の行いの賜物ですね! ということでキンジ、今から向かいますよ!」
ヒスったキンジ「アリア。それって迷惑メールじゃ、って、ちょっ、アリア、何を――って、本気で今からこの飛行機で行く気かいッ!? 燃料漏れしてるってさっき武藤が――」
アリア「折角のイタリア旅行ですし、とりあえず世界遺産を巡ってみましょうか! あ、現地に着いたらまずは食事ですね! 本場のイタリア料理、楽しみです!(←ワクテカ)」
ヒスったキンジ「――って、聞いてない!?」
アリア「次回、『熱血キンジと眠り姫』。見ないと風穴開けますよ?」
ヒスったキンジ「やれやれ。アリア。君って子は――」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。