【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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Q.『熱血キンジと冷静アリア』執筆のきっかけは何ですか?
A.キンジに「命を燃やせ!!!!」を言わせたかった。それだけ。

 はい。というわけで……どうも。ふぁもにかです。上記の理由で熱血キンジくんをハーメルンに投入してみた所、予想外に皆さんの反応が良かったのでしばらく連載続けてみます。この熱血キンジと冷静アリアは原作の出来事をなるべく踏襲しつつ(オリジナル話とか作れない)細かい会話内容等を大いに変化させたり笑える要素をねじ込んだりするように努めております。更新は不定期ですが何とぞよろしくお願いします。



2.熱血キンジとももまん中毒者

 

 その日、神崎・H・アリアは松本屋のももまんを求めて松本屋東京武偵高校店に足を運んでいた。ももまんとは松本屋の看板商品であり(※あくまでアリア視点の見解である)アリアが愛してやまない食べ物である。依頼の報酬としてももまんギフトセット20個入りを依頼人に求めた時期もあるくらいにアリアはももまんが大好きなのだ。ももまんを食べない日など存在しないアリアはもはやももまん中毒と言っていい。常にももまんを携帯していないと不安で仕方なくなるアリアにとって東京武偵高校転入初日にも関わらず松本屋に向かうのは当然の帰結と言えた。勿論、事前に学校側には到着が遅れることを連絡しているので何の心配もない。

 

 ついこの前、ももまんが好きすぎるあまりいっそ自分でももまんを作ればいいじゃないと鑑識科(レピア)の知り合いにSランク武偵の権力を存分に行使してももまんの成分分析を依頼。思惑通りにももまんのレシピを入手したアリアだったが、実際に調理した結果ももまんとは程遠い未知の物質もとい毒物を生み出してしまってからはきちんと松本屋でももまんを手に入れるようにしている。一応記しておくが決して鑑識科の武偵が手を抜いてテキトーに依頼をこなしたわけではない。単にアリアの調理スキルがゼロどころかマイナスを記録しているだけだ。

 

「~~~♪」

(この甘み、生地とのバランス、最高ですね。95点です)

 さて。そんなわけで午前8時から開業する松本屋でももまんを購入したアリアはももまんにかぶりつき鼻歌を歌いながら武偵高へと歩を進めていた。全世界に数えきれないほど沢山の店舗を持つ松本屋のももまんと出会ってから早3年。アリアは様々な松本屋のももまんを食してきた。そのため同じ松本屋でありながら微妙に異なるももまんの味を判別できるようになっていたアリアにとって武偵高店のももまんは想定を良い意味で凌駕する素晴らしい出来であった。頬がだらしなく緩むのも無理はない。

 

 大好物のももまんを前に今にもスキップしてしまいそうになるが子供じゃあるまいしとアリアは自重する。ただでさえアリアの体は小学生並みの体型なのだ。スキップなどすれば行動まで子供っぽいと舐められてしまう。別に相手が自分を格下だと見下してくれること自体は何も問題ない。むしろその方が色々とやりやすくなるため本来なら大歓迎する所なのだが、アリアにとっては屈辱以外の何物でもない。晴れて高2になったのだからいい加減高2として評価してもらいたいものだ。

 

(っとと。思考が脱線してしまいましたね)

 アリアは中学生に迷子扱いされた過去を振り払うようにして首を振り前方を見据える。アリアの視線の先には全力で自転車を漕ぐ黒髪の武偵の姿。そのあまりの自転車の速度にタイヤが悲鳴をあげているのが傍目でもよく分かる。

 

 自転車を酷使している当の本人は「おい!? 何してんだお前!? 早く避けろッ!!」などと叫んでいるがその警告を聞く気は微塵もなかった。現在進行形で武偵殺しの事件に巻き込まれている哀れな武偵を見捨てるのは主義に反するしいかなる危機的事態が迫っていようとももまんを食するという至福の時を中断したくなかったからだ。尤も、目の前の武偵を助ける際に武偵殺しの真犯人を尻尾を捕まえられたらとの打算がアリアをその場に留めさせる一番の理由となっているのだが。

 

「なぜ避ける必要があるのですか?」

 剛速球の自転車との激突前にももまんを平らげたアリアはコテンと首を傾げて問いかける。現状は既に大方把握している。アリアはどこかフラフラとしたぎこちない軌道で武偵の乗る自転車に追随するセグウェイ4台のタイヤを二丁拳銃で撃ちぬきパンクさせて瞬く間に無力化すると自転車に跨る運転手に飛び蹴りを放った。「ガハッ!?」との声とともに自転車のハンドルから手を離す武偵に飛びついてその体を抱き寄せる。アリアの飛び蹴りをモロに頭部に喰らった武偵が受身も取れずにアスファルトに頭から激突しないための、折角助けた武偵が打ち所が悪くて脳に障害が残ってしまいましたなんて結末を導かないための処置だ。

 

 とはいえ今回の武偵殺しの被害者――遠山キンジ――は正真正銘のSランク武偵。本来ならアリアがこのようなことをするまでもなくちゃんと受身を取れるだけの実力を持っている。だが。数瞬見ただけでキンジの実力を正確に把握しろなんていうのはいくらアリアが優秀なSランク武偵だといっても無茶な話である。仕方あるまい。

 

「「ッ!?」」

 そして。犯人曰く、臨時収入が入ったのでお金によりをかけて搭載した強力な小型爆弾付きのキンジの自転車(¥23,000(税込み))が盛大に爆発。かくしてその爆風をまともに喰らったアリアと吹っ飛んできた自転車のハンドル部分を頭部に喰らったキンジの体は地面に激突する前に空高く舞い上がる。その後。アリアとキンジは自転車爆発現場から遠く離れた工場跡地まで吹っ飛ばされる形で地面と激突。為す術もなく二人仲良く意識を失う羽目となるのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ッつう……どこだ、ここ……」

 キンジはズキズキする頭を押さえつつ地面に手を当てて体を起こす。どこかの工場跡地だろうか。何とも廃工場らしい殺風景な場所だ。鉄パイプだったり錆びついた機械だったりが無造作に放置されている。辺りを一瞥していると眼下から人の気配を感じる。視線を下へと向けたキンジが見たのは桃髪ツインテールで武偵高のコスプレをしたあどけない顔つきの少女だった。

 

(えっと、この子が俺を助けてくれたんだよな)

 セグウェイ四台を二丁拳銃で無効化し俺に強烈な飛び蹴りを放って俺を自転車から引きはがす。一言で表してみたがこの少女がやったことはもはや超人の域に達していると言っていい。俺もヒステリアモードでなければ再現なんてできないだろう。ノーマルモードじゃ精々セグウェイ無効化で手一杯だ。

 

「私を食い入るように見つめるのは構いませんが、いい加減さっさと手を離してもらえませんか?」

「へ? 手? ――あ」

 この子は一体何者なんだろう。キンジが頭に疑問符を浮かべつつ少女を眺めているとその少女から見た目相応の幼い声が響く。どうやら少女は既に意識を取り戻しており今はただ目を瞑っているだけのようだ。キンジは少女の言葉に視界をさらに下へと向ける。その先にはしっかりと少女の胸を掴んでいるキンジの手があった。地面だと思っていたものが実は少女の胸だった。現状を正しく理解したキンジは思わず少女から飛びのいた。

 

「人が折角助けたというのに早速胸を掴みにかかるとは……人間の風上にもおけませんね。このヘンタイ」

 少女は起き上がって身だしなみを整えると人間のクズを見るような眼差しをキンジに向ける。確かに少女から見れば俺はヘンタイだ。偶然とはいえついさっきまでの俺の体勢はまさしく少女に馬乗りになり胸を鷲掴みにしているものだったのだから。否定の余地はどこにもない。この際、一体どのように爆発の余波を喰らったらあんな体勢になるのかや悲しいことに鷲掴みできるだけの胸を少女が持っていなかったことには目を瞑るとして。

 

(さて。どう説得したものか)

 キンジは僅かに赤面して胸を両手で覆い隠す少女へと向き直る。さて。俺は今からこの子の誤解を解く必要がある。放っておけばこの子は俺を性犯罪者だと吹聴するかもしれない。あどけない少女と高校男児。人々が少女の言葉を信じ俺の言い分に聞く耳を持たない可能性は十分に考えられる。そうなってしまうといよいよマズい。世界最強の武偵を目指している俺が強制わいせつ罪で捕まるなんてことになれば兄さんの雪辱を晴らす機会は下手すれば永遠に訪れなくなってしまう。

 

「待て待て。君の言い分だとまるで俺が君に欲情して婦女暴行に至ったように聞こえるんだけど」

「私はそう言ったつもりですが? 人の服を脱がしておいて何をいっているのやら、理解に苦しみますね……ふぅ。どうやら頭がわいているだけじゃなく耳までどうかしているようですね。警察に突き出す前に耳鼻科に連れていくべきでしょうか? それとも精神科でしょうか?」

「言わせておけば失敬な。さっきのは誤解だ。不慮の事故だ。そもそも俺はC~Dカップの純情お姉さんキャラが好みなんだ。決してロリコンでも紳士でもロリコン紳士でもペドフィリアでもない。君みたいな絶壁小学生に欲情なんてするわけないじゃないか。武藤じゃあるまいし。だから君を襲うなんてあり得ない。安心してくれ」

 

 さらに言うなら俺は武藤が「……読め」と差し出してきた『とある魔術のry)』のオルソラさんのような人が大好きだ。さすがにカナバージョンの兄さんには敵わないが。というか二次元の女子相手に魅力で勝つ兄さんは一体何者なのだろうか? まぁそれはともかく。彼女のあの体つきと純粋さは破壊力抜群だ。彼女の裸をしっかりと視界に収めたツンツン頭の主人公はすぐさま爆発してしまえばいいのに。爆発してしまえばいいのに。鈍感にも程があるだろあの主人公。……今度髪固めてみようかな。

 

 っとと。思考が脱線した。ダメだな。最近どうも武藤の趣味に毒されている気がする。手遅れになる前に一刻も早く武藤の魔の手から逃れる必要がありそうだ。ところでどうしてこの少女はさっきから俯いたままわなわなと肩を震わせているのだろうか。さっきの爆発でどこか怪我でもしているのだろうか。

 

「……よっぽど死にたいみたいですね」

「ッ!?」

 少女がどこか怪我をしていないか。少女を心配そうに見つめるキンジに少女はハイライトの消えた瞳を向けてくる。刹那。第六感で身の危険を感じたキンジは瞬時に後ろへ飛びのく。するとさっきまでキンジの立っていた場所に複数もの銃痕が刻まれる。

 

「気が変わりました。警察に突き出すだけで済ますつもりでしたが予定変更です。まずは貴方を半殺しにすることにします。……いえ。この際ですから9割ほど殺してしまいましょうか」

 どうやら俺は彼女の説得どころか彼女の地雷を踏み抜いてしまったようだ。拳銃を両手に構え常人であれば思わず腰を抜かしてしまうほどの殺気を放つ桃髪少女。俺を逃がす気は毛頭ないらしい。ならば今この場において俺がすべきことはただ一つ。眼前の少女を無力化して誤解を解く。それだけだ。

 

「(この小学生、ただ者じゃないな)」

 キンジは少女の放つ殺気を受け流しつつ拳銃を構える。と、そこで。武偵として積み上げてきた実戦経験が眼前の桃髪少女を舐めるなと警鐘を鳴らしてくる。ともすれば俺よりも格上だぞと警鐘をガンガン鳴らしてくる。見た感じではただのか弱い少女なのだがこの警鐘は概してよく当たる。キンジは気を引き締めて少女を見据える。正直言って勝率は低い。眼前の少女がただ者でない上にキンジはついさっきまで自転車を漕ぎまくっていたのだ。体の、とりわけ足の疲れが半端ではない。この状態ではあとどれだけ戦えたものか分かったものではない。

 

 でも。ヒステリアモードは使わない。使えば負けることはないだろうが勝つこともない。全ての女子に優しくなりキザ極まりない言動を行うヒステリアモードを目の前の少女相手に使った所で少女を上手くあしらい「僕の負けだよ」とか決め顔で口走り勝ちを譲って颯爽と去っていくであろうことは容易に想定できる。

 

 だからこそ。今の状況下でヒステリアモードは使いたくない。どんな形であれ折角戦うのなら勝利を収めたい。勝ちを譲りたくなんてない。世界最強を目指す武偵がそう簡単に勝利を譲ってなるものか。足がパンパンだ? 体が疲れ切っているだ? だからなんだ。その程度、目の前の女の子に負けていい理由にはならない。常に相手と同じ条件で戦えるとは限らない。常に最高のコンディションで戦えるとは限らない。どんな状況であっても勝利する。それが俺の目指す世界最強の武偵だ! だったら。どんなに不利な状況でも勝利をもぎ取って見せろ! 遠山キンジ!

 

「貴方なんて助けるべきではありませんでした。強制わいせつ犯が爆滅するチャンスを逃すとは……不覚ですね」

「だから誤解だと言ってるだろ? ま、今はいいや。ネオ武偵憲章第八十二条、やられたら数十倍にしてやり返せ。……俺を撃ってきたからには覚悟はできてるんだろうな? ハイスペック小学生」

「そんなふざけた武偵憲章、聞いたことありませんが……上等です。風穴の時間です!」

 

 キンジを強制わいせつ犯として逮捕したい桃髪ツインテール少女。己の掲げる目標達成のため少女に捕まるわけにはいかないキンジ。かくして。今ここにおいてSランクとSランクとの激しいなんて言葉が霞むほどの意地のぶつかり合いが幕を開けた。

 

「あと私は高2です!」

「え――」

「隙ありッ!!」

「うおッ!?」

 

 桃髪少女の不意打ちの銃弾を契機として。

 

 

 ……ちなみに。二人の織りなす人外染みた銃撃戦に遅れて乱入してきたセグウェイ群がもれなく全機大破したことをここに記しておく。『あ、あああ!? ぼ、ボクのセグウェイコレクションがああああああああああッ!?』との悲痛の叫びが機械音声を通して工場跡地に響き渡るも戦闘中のSランク武偵二人の耳に届くことはなかった。哀れ武偵殺し。哀れチャリジャック犯。

 




キンジ→年上のお姉さん好き。オタクに片足突っ込んでいる。
アリア→ももまん中毒者。毒舌な面も。本人曰く、「ももまんとは結婚しましたが何か?」。決め台詞は「風穴の時間です」
武藤→ムッツリ。オタク。キンジをオタク仲間に引きずり込もうと様々な策を日々水面下で行使している。
理子→ボクっ娘。イージーモードで楽々操作できるセグウェイにひどく愛着を持っている。

 それにしてもビビり理子の使いやすさに自分でもビックリ。ビビりこりん投入すると途端に物語に笑い要素が生まれるから凄くありがたい。冷静アリア(というより毒舌アリア?)は熱血キンジ(笑)と違ってギャグ生成に向かないからなぁー。シリアス生成には持ってこいなんだけど。

※ネオ武偵憲章→キンジと武藤が深夜のテンションで一夜にして作り上げた武偵裏憲章。全部で第182条まである。前述の通り深夜のテンションで作り上げたためまともな内容がない。ネオ武偵憲章の製作者たるキンジは自身の気に入った何個かしか覚えていない。一方武藤は未だに全部暗記している。暗唱も可能。

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